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第3章
第8話 美人なお姉ちゃんは好きですか?
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ゲームで遊んだからって、現実が変わるわけじゃない。
一時的に忘れたからといって、いずれ現実に直面する。
ただの現実逃避。それだけ。
それでも、
「現実逃避だったとしても、一旦忘れられるならそれでいいだろ。
自分の人生なんだから、誰が上も下もないし。
好きにすれば」
ロケットランチャーを構えた敵を撃ち抜く。うーん、びくとりー。
「好きにって……」
画面から俺に視線を移して、銃を下ろす。
「やってる、から……今、ここにいるんです」
「ならいいだろ。俺には関係ないし」
突き放すような物言いだったからか、横目に見えた少女の顔が一瞬、傷付いたようにくしゃりと歪んだ。
まるで迷子の子供。
道に迷って、助けを求めているように見える。
けど、俺には関係なくって。手を伸ばして、一緒に親を探してやるほど優しくもない。
ただもし、それでも言えることがあるとすれば――
「俺には縛られてるように見えたけどな」
それと、と銃の先で制服少女側の画面を示す。
「やられてるけど、いいのか?」
「え、あ……」
画面にはゲームオーバーの文字。カウントダウンと共に、追加のコインが求められている。
どうしようとおろおろする制服少女。
やれやれとため息を零しつつ、小銭を投入する。
「お金を入れればやり直せるなんて。
ゲームは楽でいいよなぁ」
■■
「どうして、私のためにお金を使ってくれたんですか?」
ガンゲームの他にも、レースゲームやらコインゲームやら。最終的にその場のテンションでクレーンゲームまでやる羽目になって、大分財布の中が軽くなってしまった。
戦利品と言えば、制服少女の薄い胸に抱えられた、目の下に隈のある可愛げの欠片もない犬のぬいぐるみだ。
これに数千円が――とかかった金額を計算しようとして止める。あまりにも不毛すぎる。時給換算したら多分泣く。
しょぼくれている俺に、制服少女がそんなことを尋ねてくる。
その目は真剣で、やや重さを伴っているように見えた。目を細める。
「……いや、使いたくはなかったんだけど」
「そ、そうでしょうけども」
微妙に回答がズレているとでも言いたいのか、唇がもにょって複雑な表情をしている。
まぁ、言いたいことはわかる。
将来のためにお金を貯めてるのにどうしてって、訊きたいんだろう。
素直に与えられたモノを享受すればいいのに。
相手の事情を鑑みるなんて、生きづらそうな性格をしている。
でも、そっか。
俺もさして変わんないかと苦笑しつつ、やたら今日は滑りの良い口を開く。
「なんにもしなくって死なれると、自分のせいじゃなくっても引きずるからな」
「それって……」
制服少女が小さく口を開けて、直ぐに噤む。
出てこなかった言葉の代わりに、制服少女は白い歯を見せるようにニッと笑った。
「まぁ、そうですね。
現役女子高生とデートができるなら、安すぎるぐらいでしたか」
「……女子校生免罪符すぎるだろう」
ふふんっとない胸を張る制服少女を見て、俺はげっそりと項垂れる。
■■
昼夜逆転していながら夜に眠れたのは、昼間に制服少女と遊び倒したせいだろうか。
財布の軽さ的にやや納得し難くもあったが、久方ぶりによく眠れた健康的な登校だった。
これなら授業中、睡魔と戦うこともないだろうと思いながら校門を抜けようとしたのだが、思いがけない相手に声をかけられてしまう。
「夜行君、だよね?
ちょっといいかな? ……って、あんまりよくはない?」
「いや別にぃ」
と、言ってはみるが、彼女の言う通りとてもとてもよろしくはなかった。
初対面でそう言われる辺り、俺は相当嫌な顔をしていたのだろう。
でも、それも仕方ないだろう。
なにせ話しかけてきたのは、ミスコンの優勝者(多分)であるソウカだ。
魅惑の黒い瞳に、長く艷やかな黒髪が美しい。やたら発育の素晴らしい胸部が、男女共に惹きつけてやまない大学の絶対支配者である。(適当)
俺からすると、食堂の窓際美人でしかないのだが、周囲からすると印象は大分変わるようで、にわかに騒ぎ始めている。
登校時間が統一されていない大学とはいえ、校門近くにはそれなりの生徒がいた。
「あれって、ソウカさん?」
「男性に話しかけてるけど、どうしたのかしら?」
「まさか、告白?」
「えー、ないでしょー。
相手はなんかパッとしないっていうか、暗いし」
暗くって悪かったな。目元の消えない隈メイクが憎い。
こんな場所で話していては目立つのは当然で、窓際美人も困ったように眉をハの字にしている。
それならこんなところで声をかけるなよと思う。
明らかに待ち伏せだし。もっと場所を選んでほしかった。
そもそも、俺になんの用事なのやら。
窓際美人をちゃんと認識したのはこの前の食堂が初めてだった。その前も教室やら食堂で噂話ぐらいは聞いたかもしれないが、興味がなかったので記憶にすら残っていない。
当たり前だが、窓際美人側からも認識される覚えてなんてない。つまり、理由は不明。
嫌な流れだなぁ。
周囲のざわめきに、古傷が痛むように胸の内側がズキズキする。
俺1人ではどうしようもない大衆の空気や流れというのが嫌いだった。
「うーん。
騒ぎにするつもりはないんだけど、場所……変えてもいい?」
窓際美人の提案。
ここから離れられるのは魅力的だが、そもそもの話しとして、
「俺が行く必要ある?」
確認すると、ニッコリ笑顔で黙殺される。
「ちょっとで終わるから」
強引に手を取られて、引っ張られてしまう。
その行動ににわかに周りの生徒が騒ぎ出すが、俺の意識は窓際美人に向けられていた。
握られた手を見る。そして、窓際美人を。
やっぱり、似てるのかな、と。
制服少女の面影が重なる。
そして、これは男女が手を繋いで歩く素敵なキャンパスライフではなく、連行そのものだなとも感じていた。
その直感が確信に変わるのは、この直ぐ後のことである。
■■
連れて行かれたのは食堂の窓際の席だった。
以前、窓際美人が憂鬱そうな顔で座っていた場所だ。
朝だからか食堂の利用者は少ない。朝食を食べに来た生徒が数名いる程度。それでも、ちらちらと見られている辺り、相当な知名度なんだなと対面に座る窓際美人を伺う。
「ごめんね?
こんなところまで足を運んでもらって」
「足を運んだつもりはないんだけどな」
皮肉を込めて言ってみるが、やっぱり笑顔は崩さない。
この前見た時とは打って変わった明るい表情。ただし、機嫌が良いかと言えば、そんな感情は伝わってこず、むしろその変わらない笑顔に圧力すら感じてしまう。
なんなんだろうなぁ、ほんと。
妹を探しているという話。そして、イートインスペースのように女の子と対面で座っているという既視感にも似た感覚に落ち着かなさを覚える。
テーブルの下で太ももを指で叩く。
「で、用件は?
講義もあるし、早く終わらせてほしいんだが」
「それは君次第かな」
どういうことだ?
眉を潜めて訝しむと、スッとテーブルの真ん中にスマホが置かれる。
これがなんだと窓際美人を見ると、いいから見ろと、くいくいっと曲がった人差し指でスマホを示される。
他人のスマホを見たからなんなんだと思いつつ、改めてスマホを見て――
「おぅふ」
――目の前が真っ白になった。
窓際美人のスマホ画面。そこには、目の前の女性と一緒に写る、制服少女が笑っていた。
これまで抱いていた憶測が確信に変わる。
衝動のままに顔を上げると、にっこりと窓際美人の笑顔が深くなり、濃い影を差す。
「妹についてなにか知ってたら教えてほしいなぁ――お兄ちゃん?」
くらっ、と世界が流転し、霞む。
どんな確率だとか、運命と偶然の区別はどうやってつけるのか、神様のバカ野郎と色々と、色々と言いたいことはあるが、なによりも。
ほらやっぱり、と。
他人と関わるようになった途端、面倒事に巻き込まれたじゃないかよと悪態をつく。
◆第3章_fin◆
__To be continued.
一時的に忘れたからといって、いずれ現実に直面する。
ただの現実逃避。それだけ。
それでも、
「現実逃避だったとしても、一旦忘れられるならそれでいいだろ。
自分の人生なんだから、誰が上も下もないし。
好きにすれば」
ロケットランチャーを構えた敵を撃ち抜く。うーん、びくとりー。
「好きにって……」
画面から俺に視線を移して、銃を下ろす。
「やってる、から……今、ここにいるんです」
「ならいいだろ。俺には関係ないし」
突き放すような物言いだったからか、横目に見えた少女の顔が一瞬、傷付いたようにくしゃりと歪んだ。
まるで迷子の子供。
道に迷って、助けを求めているように見える。
けど、俺には関係なくって。手を伸ばして、一緒に親を探してやるほど優しくもない。
ただもし、それでも言えることがあるとすれば――
「俺には縛られてるように見えたけどな」
それと、と銃の先で制服少女側の画面を示す。
「やられてるけど、いいのか?」
「え、あ……」
画面にはゲームオーバーの文字。カウントダウンと共に、追加のコインが求められている。
どうしようとおろおろする制服少女。
やれやれとため息を零しつつ、小銭を投入する。
「お金を入れればやり直せるなんて。
ゲームは楽でいいよなぁ」
■■
「どうして、私のためにお金を使ってくれたんですか?」
ガンゲームの他にも、レースゲームやらコインゲームやら。最終的にその場のテンションでクレーンゲームまでやる羽目になって、大分財布の中が軽くなってしまった。
戦利品と言えば、制服少女の薄い胸に抱えられた、目の下に隈のある可愛げの欠片もない犬のぬいぐるみだ。
これに数千円が――とかかった金額を計算しようとして止める。あまりにも不毛すぎる。時給換算したら多分泣く。
しょぼくれている俺に、制服少女がそんなことを尋ねてくる。
その目は真剣で、やや重さを伴っているように見えた。目を細める。
「……いや、使いたくはなかったんだけど」
「そ、そうでしょうけども」
微妙に回答がズレているとでも言いたいのか、唇がもにょって複雑な表情をしている。
まぁ、言いたいことはわかる。
将来のためにお金を貯めてるのにどうしてって、訊きたいんだろう。
素直に与えられたモノを享受すればいいのに。
相手の事情を鑑みるなんて、生きづらそうな性格をしている。
でも、そっか。
俺もさして変わんないかと苦笑しつつ、やたら今日は滑りの良い口を開く。
「なんにもしなくって死なれると、自分のせいじゃなくっても引きずるからな」
「それって……」
制服少女が小さく口を開けて、直ぐに噤む。
出てこなかった言葉の代わりに、制服少女は白い歯を見せるようにニッと笑った。
「まぁ、そうですね。
現役女子高生とデートができるなら、安すぎるぐらいでしたか」
「……女子校生免罪符すぎるだろう」
ふふんっとない胸を張る制服少女を見て、俺はげっそりと項垂れる。
■■
昼夜逆転していながら夜に眠れたのは、昼間に制服少女と遊び倒したせいだろうか。
財布の軽さ的にやや納得し難くもあったが、久方ぶりによく眠れた健康的な登校だった。
これなら授業中、睡魔と戦うこともないだろうと思いながら校門を抜けようとしたのだが、思いがけない相手に声をかけられてしまう。
「夜行君、だよね?
ちょっといいかな? ……って、あんまりよくはない?」
「いや別にぃ」
と、言ってはみるが、彼女の言う通りとてもとてもよろしくはなかった。
初対面でそう言われる辺り、俺は相当嫌な顔をしていたのだろう。
でも、それも仕方ないだろう。
なにせ話しかけてきたのは、ミスコンの優勝者(多分)であるソウカだ。
魅惑の黒い瞳に、長く艷やかな黒髪が美しい。やたら発育の素晴らしい胸部が、男女共に惹きつけてやまない大学の絶対支配者である。(適当)
俺からすると、食堂の窓際美人でしかないのだが、周囲からすると印象は大分変わるようで、にわかに騒ぎ始めている。
登校時間が統一されていない大学とはいえ、校門近くにはそれなりの生徒がいた。
「あれって、ソウカさん?」
「男性に話しかけてるけど、どうしたのかしら?」
「まさか、告白?」
「えー、ないでしょー。
相手はなんかパッとしないっていうか、暗いし」
暗くって悪かったな。目元の消えない隈メイクが憎い。
こんな場所で話していては目立つのは当然で、窓際美人も困ったように眉をハの字にしている。
それならこんなところで声をかけるなよと思う。
明らかに待ち伏せだし。もっと場所を選んでほしかった。
そもそも、俺になんの用事なのやら。
窓際美人をちゃんと認識したのはこの前の食堂が初めてだった。その前も教室やら食堂で噂話ぐらいは聞いたかもしれないが、興味がなかったので記憶にすら残っていない。
当たり前だが、窓際美人側からも認識される覚えてなんてない。つまり、理由は不明。
嫌な流れだなぁ。
周囲のざわめきに、古傷が痛むように胸の内側がズキズキする。
俺1人ではどうしようもない大衆の空気や流れというのが嫌いだった。
「うーん。
騒ぎにするつもりはないんだけど、場所……変えてもいい?」
窓際美人の提案。
ここから離れられるのは魅力的だが、そもそもの話しとして、
「俺が行く必要ある?」
確認すると、ニッコリ笑顔で黙殺される。
「ちょっとで終わるから」
強引に手を取られて、引っ張られてしまう。
その行動ににわかに周りの生徒が騒ぎ出すが、俺の意識は窓際美人に向けられていた。
握られた手を見る。そして、窓際美人を。
やっぱり、似てるのかな、と。
制服少女の面影が重なる。
そして、これは男女が手を繋いで歩く素敵なキャンパスライフではなく、連行そのものだなとも感じていた。
その直感が確信に変わるのは、この直ぐ後のことである。
■■
連れて行かれたのは食堂の窓際の席だった。
以前、窓際美人が憂鬱そうな顔で座っていた場所だ。
朝だからか食堂の利用者は少ない。朝食を食べに来た生徒が数名いる程度。それでも、ちらちらと見られている辺り、相当な知名度なんだなと対面に座る窓際美人を伺う。
「ごめんね?
こんなところまで足を運んでもらって」
「足を運んだつもりはないんだけどな」
皮肉を込めて言ってみるが、やっぱり笑顔は崩さない。
この前見た時とは打って変わった明るい表情。ただし、機嫌が良いかと言えば、そんな感情は伝わってこず、むしろその変わらない笑顔に圧力すら感じてしまう。
なんなんだろうなぁ、ほんと。
妹を探しているという話。そして、イートインスペースのように女の子と対面で座っているという既視感にも似た感覚に落ち着かなさを覚える。
テーブルの下で太ももを指で叩く。
「で、用件は?
講義もあるし、早く終わらせてほしいんだが」
「それは君次第かな」
どういうことだ?
眉を潜めて訝しむと、スッとテーブルの真ん中にスマホが置かれる。
これがなんだと窓際美人を見ると、いいから見ろと、くいくいっと曲がった人差し指でスマホを示される。
他人のスマホを見たからなんなんだと思いつつ、改めてスマホを見て――
「おぅふ」
――目の前が真っ白になった。
窓際美人のスマホ画面。そこには、目の前の女性と一緒に写る、制服少女が笑っていた。
これまで抱いていた憶測が確信に変わる。
衝動のままに顔を上げると、にっこりと窓際美人の笑顔が深くなり、濃い影を差す。
「妹についてなにか知ってたら教えてほしいなぁ――お兄ちゃん?」
くらっ、と世界が流転し、霞む。
どんな確率だとか、運命と偶然の区別はどうやってつけるのか、神様のバカ野郎と色々と、色々と言いたいことはあるが、なによりも。
ほらやっぱり、と。
他人と関わるようになった途端、面倒事に巻き込まれたじゃないかよと悪態をつく。
◆第3章_fin◆
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