深夜のコンビニバイト中に入店してきた非行少女に餌付けをしたら、俺のシフトを狙ってイートインスペースに入り浸るようになってしまった。

ななよ廻る

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第3章

第7話 非行少女と悪いことをする

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 地元の駅周辺はあまり開発が進んでおらず、娯楽施設は少ない。
 飲食店だって少なく、外食をしようとしても選択肢は限られてしまう。

 カーンカーン、と。
 警告音が鳴り響き、電車が通り過ぎるのを待つ。
 踏切を超えて、向かうのは駅の反対側。昼間でも目に優しくない人工的な電光がうるさい施設の前で目を細める。

 借りてきた猫のように淑やかに後ろを付いてきた制服少女も、建物を目にすればなにをするかなんてのはわかるようで。
 ボッと顔を赤らめて小さくなってしまう。
 それを見て、つい口元が嗤う。

「どうかした?」
「な、んでも……ありません」
 肩を窄める制服少女をニヤニヤと見守る。
 追求してもないのに、無言の圧力でなにかを言われているとでも思ったのか、「知りませんっ」と語気を強めて言い訳を重ねる。
 その否定は、どちらかといえば肯定なのだけれど。

 まぁ、これ以上追求するほど悪趣味ではない……と自分のことを評価していたが、今の制服少女を見るとどうにも加虐心が煽られる。
 ぷるぷる震える制服少女に、「あ」と正に今気が付いたかのように、わざとらしく声を出す。
「なにかえっちなことと勘違いしてたのか?」
「……ッ」
「そりゃぁまた、想像……いや、妄想力豊かというか。
 いやうん。仕方ないよな、思春期だもんなー。
 興味あるもんなー」
「~~……っ!?」
 すっとぼけながら、うんうんと大仰に頷く。すると、耐えきれなくなったのか、行き場のない衝動を元凶である俺に拳で押し付けてくる。
 ははは。わざとなのでこれは甘んじて受けよう……ごふっ。

 鳩尾に入って息が止まりかけたが、必要出費だ。
 Mなのか、Sなのか。自分がわからなくなるデメリットはあったが、相応に面白いモノが見れたので良しとする。

 俺が『悪いこと』と言って案内したのは、パチンコ屋――の隣にあるゲームセンターだった。
 昼間でもビカビカ目に悪い光を放っている自己主張激しい建物。中に入ると隙間なく音で満たされているようで、鼓膜がわんわんと揺れている。

 学生なら本来授業のある平日。
 太陽すら登り切る前だというのに、女子校生を誑かしてゲームセンターで遊ぶ。
 うん。とっても悪いことだ。不良待ったなしの行動である。
 これでコンビニ前でたむろしてシガレットでも咥えていれば完璧だなと思いつつ、深夜にイートインスペースを占拠している時点で今更かとも思う。

 敢えてそういう風に勘違いするよう言葉を選んだが、見事に嵌ってくれて小さな満足感を覚える。
 俺が言えたぎりではないが、悪い大人に騙されないか心配な素直さだ。

「でも、そんな勘違いしたままよく付いてきたよなぁ。
 途中で説明要求されるかと思ったし」
「……っ、別に。
 警察呼んでブタ箱に掴めてもらう予定だったので。
 年下好きの変態さん?」
「さっきの警官の疑いが現実になっちまうなぁ」
「……?
 あぁ……――パパ?」
「止めろ捕まる」
 睨むが、さっきのからかいの仕返しか、「まぁ、ある意味援助はしていただいてますしね、パーパ」なんてニヤニヤ返しされてしまう。

 援助弁当して、交際胸を触るしてもいるので、完全に否定できないのがなんとも辛いところ。
 俺にそういった情欲はなかったし、する気もないけれど。
 残念ながら世というのは事実ばかりが目に惹き、心情は黙殺される。
 ……よくよく考えると、俺の生殺与奪を目の前の少女に握られているような気がする。

「どうかしましたか、パパ?」
「……なんでもない」
 小首を傾げて不思議そうにする制服少女に、俺は緩く首を左右に振る。
 敢えて指摘する必要もなく、そういった弱点を握られるのも嫌なので気付かなかったことにして忘れる。
 まぁ、そういった恩を仇で返す行為をするような少女じゃないのはわかっているつもりだが……どうにも、な。

 とりあえず、これ以上のパパ呼びは、周囲の人に誤解を与えて本当に通報されかねないので止めさせる。
 制服少女も俺の困った顔を見れて満足したのか、からかわれたのも忘れて満ち足りた笑顔を浮かべていた。
 結局、割りを食ったのは俺のほうかと辟易しつつ、ゲームセンター内を適当に歩く。

「……うるさいですね」
「だろうな」
 古書店すら初体験だった制服少女だ。
 当然のようにゲームセンターも初めてだったようで、俺の背中に隠れながら険しく細められた目で周囲を伺っている。
 タバコの匂いが鼻につくのか、鼻先を隠すように手で覆う。

 ただ、音や匂いが不快なだけではなく、興味もあるようだ。
 クレーンゲームの景品に釣られて筐体のガラスに張り付く姿は幼い子供のそれで。
 俺の立場と言えば、娘を連れてきたお父さん……ここに来てパパが『ただいまー』と手を振って帰ってきたので、しっしと追い払う。来るな来るな。

 いーっ、と口の両端を横に伸ばし、未だにクレーンゲームの筐体に張り付いている制服少女に声をかける。
「で、それやりたいの?」
「あ、いえ。そういうわけじゃぁ……」
 お金、ないですし、ともごもごと口の中で言葉を咀嚼している。

 ふぅ、と肩を落とす。
 そんなことは来る前からわかっている。悪いと思って遠慮しているのか、察しが悪いのか。
 とはいえ、説明したところで恐縮ばかりな気もするし、それじゃあ連れてきた意味もなくなる。

「なにかやりたいゲームとかないの?」
「やりたい……?」
 困惑しつつも、制服少女が店内を見渡す。
 けれど、そもそもどれがなんなのか分かっていないのか、眉間の皺が深くなるばかりで決められそうになかった。

 なにも知らんと。
 じゃあ、どうしようかなとクレーンゲームのコーナーから離れて練り歩く。その後ろを、あせあせっと付いてくる制服少女。

 いやまぁ。別にクレーンゲームでもいいんだけど。
 1回ならともかく、取れるまでとなると……と考えてうげーっとゲロを吐きそうになる。貯金箱とはよく言ったものだ。

 他に手頃な物はないかと思っていると、あぁ、丁度良いかもと目を止めたのはガンゲームだった。
 2人プレイできるし、1コインでもそこそこ時間を使えるし。なにより、ストレス解消にはなるだろうと。
 小銭を投入して、筐体に刺さっている銃を取る。
 それを『なんだろう?』と惹かれるように見てくる制服少女に、隣の銃を指差す。

「見てないで、取って」
「え、え?
 あ、な……」
「始まるけど?」
「わ、わ……!?」
 わけはわからないけど、とりあえず急がないといけないというのは理解できたのか、制服少女が慎重に銃を抜き取る。

「ど、どうやっ!?」
「あー……敵が出たら撃つ?」
 銃を両手で力強く握ってわたわたする制服少女に、俺は大雑把に説明する。
 正直、俺もそれ以外はよくわらかない。

 ゲームセンターなんて、子供の時に親に連れてきてもらった覚えがあるぐらいで、自分から来たことなんてないし。
 ガンゲームなんて、カラオケのミニゲームコーナーに設置されていたのをプレイしたのが最後だ。
 つまり、ほとんど初見。このゲームに関して言えばガチ初心者で、慌てふためく少女と経験はそう変わらない。

 あるのは、ちょっとした知識と、ゲーム経験が多少というぐらい。
 画面の中ではチュートリアルのデモが流れていたが、適当にバンバン撃って飛ばす。なんで飛ばしたのかと批難の目を向けられる。けど、こういうのは長くて意味も薄いので飛ばすに限るのだ。

 敵の兵士が画面に出てきたので、とりあえず銃を構えて撃ってみる。すると、敵がやられたので、どうやら始まったらしい。
 銃を構えて撃つ俺を呆然と見つめる制服少女に、目も向けず告げる。
「撃たないとやられるぞー」
「へ、あ……ぐ、せめてなにかこう……!
 もうっ!」

 雑な扱いに憤りつつも、自棄になったのか見様見真似で銃を構えて撃ち始める。ちらりと見たその姿勢はへっぴり腰で、膝も閉じていて弱々しい。
 けれど、姿勢とか気構えとか。そういうのはゲームに関係なくって、彼女の撃った弾はちゃんと敵の兵士を『ぐわぁっ!?』という断末魔と共に倒していた。

「……あ、やった?」
「うまいうまいー」
 適当に褒めているが、制服少女の耳には届いていないのだろう。
 興奮冷めやらぬという顔で浅く呼吸を繰り返している。そして、意を決したように目に力を込めると、さっきよりはマシな構えで画面の中の敵を撃ち始めた。

 彼女の撃つ弾丸は、当たったり、当たらなかったり。
 初めてなのもあるだろうが、まぁ下手だ。最初のステージの雑魚に翻弄されて、歯を食いしばっている。
「どうして!
 こんなことを!
 させるんですかっ!?」
 ゲーム音がうるさいせいか、やたら声が大きくなっている。

 うるせーと顔を顰めつつ、その苛立ちをゲームの兵士に向けて発散させる。ヘッショ。
「別にー」
 ガンガンッと気力なく適当に撃ちながら、彼女の疑問に答える。
 実際、意味なんてない。
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