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第2章 不穏なる『幻想の森』と悪徳貴族なチョビ髭男爵
第6話 Aランク冒険者パーティ『勇気の剣』の危機
しおりを挟むモンスターが生まれるのには二通りの方法がある。
一つは、雌雄により子を残す方法。これは通常の生き物と変わらない。
もう一つは魔物特有の物で、何処からともなく唐突に発生するのだ。
魔物発生の原因は有史以来解明されていないが、最も有力な説として空気中の魔力濃度が関係していると言われている。
魔力濃度が濃ければ濃いほど、強力なモンスターが発生するのではないかと。
そして、アリストクラットが砕いたモンスターの魔石の魔力は、空気中に溶け込み、魔力濃度を引き上げる一助になった。
つまり、アリストクラットは人工的に『幻想の森』の魔力濃度を引き上げたのだ。
「『幻想の森』に砕いた魔石をばら撒きぃ、発生した強力なモンスターを『悪魔の宝珠《デーモン・オーブ》』で従え駒とする! イヒヒ! この流れが確立されたら、魔族は最強のモンスター軍団を抱えられますよねぇ? 人族が勝てる道理はなし。負けが確定した国に、我輩のような高貴な者が使え続ける意味がありませんねぇ」
面白くてたまらないと狂ったように笑い続けるアリストクラットは、腕輪の宝珠を撫でながらクラージュ達を淀んだ瞳に捕らえて口角を上げる。
「だからですねぇ? 魔石を使ってもなかなか発生しないSランクのモンスターを討伐してしまうような、優秀で目障りな冒険者は我が領には必要ないのですよねぇ?」
「最初から、僕達を殺すともりだったのか!」
「当然ですねぇ」
『幻想の森』のモンスターの狂暴化も。
その調査のために『勇気の剣』を指名したことも。
全ては目の前の男が仕組んだことだと知ったクラージュは柔和な顔を歪ませ、人を殺せそうなほど圧力で睨み付ける。
「イヒヒ! 直接出向いたのは『勇者の剣』のパーティメンバーが見目麗しい美女だと聞いていたので、品定めだったのですけどねぇ?」
ねっちょりとした色欲に満ちたいやらしい笑みを浮かべ、ユキとシュティルの肢体を視線で嘗め回す。
「ひっ!?」
「この、変態がっ!」
「イヒヒヒヒ! 高貴なる我輩にその身を捧げられるのですから、むしろ感謝してほしいですねぇ」
「はっ! ごめんよ、チョビ髭男爵」
「貴様はっ、また! この髭は! 高貴なる我輩の一族に伝わる髭だと何度言えば分かるのですかぁ!?」
「一生分かりたくないわよ、そんなダっサい髭」
唾でも吐くように、おぞましいと吐き捨てる。
誇りを侮辱され、アリストクラットは目を血走らせる。
「そう言っていられるのも今のうちですねぇ。貴様は、私が楽しんだ後も簡単には殺しません。女に生まれたことを後悔する程、醜悪な男共に犯させ、モンスター共に苗床にしてあげますねぇ! イヒヒヒ! どんな子が生まれるのか楽しみですねぇ」
「あんたが一番醜悪だわ」
頭の中で想像しているのか、蕩けるような下卑た顔付きのアリストクラットを、ユキはただ一言そう断じた。
男の語る怖気のするような妄想に身の毛がよだつよりも、アリストクラットへの嫌悪が上回り、侮蔑の視線は雪山の吹雪にすら匹敵する冷たさだ。
「今だけ吠えているといいですねぇ!」
問答は終わりと、高らかに叫んだアリストクラットが右腕を持ち上げると、宝珠が赤黒い光を放ち始めた。
「バジリスク! 男は要りません、殺しなさい!」
『ギシァアアアアアアアアアアアア!!』
黄金の瞳にクラージュ達を捕え続けて、ただじっと動かずにいたバジリスクが大きな口を天に向けて開き、耳障りな鳴き声を上げた。
長い顔を下ろせば、爬虫類特有のギョロリとした目玉が『勇気の剣』の面々を捕え、彼らはぞっと背筋を凍らせる。
「クラージュ! 逃げられないの!?」
「ごめん、動けそうにない!」
「シュティルは!?」
「む、り……!」
「ああもうほんと! 助けに来なさいよ! 役立たず!!」
「――誰が役立たずだ!?」
迫り来る怪物の恐怖からユキの叫び。
まさか返答があるとは思わず目を見開くと、草木を掻き分け、ユキ達の前に躍り出たのはゲーベンであった。
ここまで無茶な走りをしてきたのだろう。体中は汚れ、尖った枝にでも引っ掛けたのか服の肩の部分が裂けている。葉や枝を頭にくっつけ、額から滝のように汗が流れ落ちている。
荒い息を整えながら、膝に手を付いたゲーベンは鬱憤を吐き出すように悪態を付く。
「あぁ、くっそ。護衛置いて来ちまったじゃねぇか」
「ゲーベン……」
「あん? 何? 泣きそうなの? 嬉しくって? 号泣すれば?」
「おっそいのよ遅漏野郎! もっと早く来なさいよ!」
「遅くねぇよ! どっちもな!」
どっちもとはナニを指すのか。
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