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第1章 Sランクパーティ『胡蝶の夢』からの追放
第3話 初めての派遣
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■■
『幻想の森』と呼ばれる、植物系のモンスターが蔓延る森で、ゲーベンはBランク冒険者パーティ『勇気の剣』に雇われ討伐依頼に向かっていた。
歩くのもままならない密林。道を塞ぐように生い茂る草木を押し退けながら歩く『勇気の剣』のリーダーであるクラージュの後ろをゲーベンは付いていく。
「いやぁ、まさかあのSランクパーティ『胡蝶の夢』の方と一緒に冒険できるなんて、夢のようだ!」
「俺も夢のようだよ。あんた達みたいなまともなパーティと組めて」
アホ丸出しの勧誘方法で本当に声を掛けてきたのがクラージュであった。正気を疑ったが、爽やかな笑顔でまともな交渉内容であったため、断る理由もなく臨時パーティとして加入することになったのだ。
ゲーベンは裏があるかもしれないと、以前の反省を生かして調査もしたが、全くの白。良い人過ぎて逆に疑いたくなるほどに、人として真っ当であった。
――こういう奴が勇者とか英雄になるのかもな。
そんなことをゲーベンが思っていると、クラージュは気まずそうに頭の後ろに手を置いた。
「あはは。最初は裏のある勧誘なのか疑っちゃいましたよ」
「……看板首から下げて勧誘してるヤバい奴だもんな、そりゃそうだ」
「いや、えっと、あはは」
「君、愛想笑い上手いって言われない?」
誰が見ても愛想笑いと分かる笑いに、ゲーベンは生きづらそうな性格をしているなとしみじみ思った。
ただ、怪しいとは思っていたんだなと、危機感があることに安堵もする。
「Sランクだがなんだか知らないけど、喋ってないで仕事して」
「ユキ」
二人の会話に割って入ったのは、ユキという『勇気の剣』のメンバーである女軽戦士だ。
ゲーベンのことを初対面の時から警戒しており、不機嫌そうに眉間の皺が寄っている。切れ長の鋭い瞳が私は不機嫌ですと物語っている。
クラージュが咎めるが、鼻を鳴らして顔を背けてしまう。
見た目は十六かそこらの少女だ。その年でBランクに上り詰める程に実力があるのだから天狗にもなるだろう。
――ここは先達として、大らかに対応するべきだろうな。
「構わねぇよ。実際、今のところ雑談してただけだしな。その程度の暴言ぐらい、冒険者らしくて」
「早く仕事しろっつってんの石像野郎」
「誰から聞いたそれ? なぁ? 殺すぞ?」
「やってみなさいよ」
「上級冒険者の懐の深さはどこへ!?」
「死んだ」
早死にであった。ただ、ゲーベンに後悔はない。生意気な女を泣かせてやろうとガンを飛ばす。
ユキもユキで一歩も退かず睨み返すものだから、二人の間で火花が散ってしまう。
どうしたものかとクラージュが頭を抱えていると、『勇者の剣』最後のメンバーである女魔法使いのシュティルが緊張した面持ちながらも声を上げた。
「あ、あの!」
「どうかした?」
「と、討伐目標が居たんだけど……」
「働かない男共のせいで取り逃がした?」
「お前毒使いだよな? 軽戦士じゃないよな?」
ユキの毒によってゲーベンのストレス値は限界ギリギリである。毒使い、もしくは挑発が得意なタンクに違いない。今戦闘になれば、ゲーベンはモンスターなど放置して真っ先にユキを攻撃し出すだろう。
「その、数が多くって」
「……? ワイルドボアだろ? 群れで行動することもあるし別に」
「百ぐらい、いるの」
「帰るか」
「待ちなさい石像」
それじゃ達者でと軽く手を上げ帰ろうとしたゲーベンの首根っこを、ユキがガシリと掴んで離さない。
「つってもな、ワイルドボア百匹は異常だろう。どうにかなるのか?」
「あんた、Sランク冒険者でしょ? 一人でなんとかなんないの?」
「あっはっは。それは餌になれってのと同義だな」
「わかったわ。ミンチにしてそこら辺に捨てていく」
「食べやすくしろとは言ってねぇ」
モンスターに美食はなかろうが、さぞ食べやすかろう。ただ、噛み応えはなく食いではないだろうが。
「無茶する気はなかったんだがな。クラージュ、パーティ組む際に言ったが、俺の魔法は強化魔法のみだ。しかも、動けなくなる」
「使えない石像ね。ガーゴイルのほうがまだマシ」
「後で覚えとけよ針娘。だから、主戦力はお前らだ。俺も守ってもらわなきゃならん。どうするかはお前らで決めろ」
あくまでゲーベンが行うのは戦闘の補助だ。敵を倒せるのは『勇者の剣』のメンバーのみ。
そのため、ゲーベンは決定権を投げた。
立ち向かうか、逃げるか。どうあれ悩むだろうとゲーベンは思っていたが、どうやらそれは彼らを甘くみていたようだ。
僅かな沈黙の後、クラージュは迷わず頷いた。
「――うん、やるよ。ここで放っておくわけにはいかないからね」
「あいっかわらず貧乏くじ」
「そ、それがクラージュさんのいいところだと、お、思うの」
分かっていたとばかりに、女性陣もクラージュに追随する。
彼女等の反応から、こういったことが珍しくもないことが伺えた。貧乏くじなどと口にしているが、それに付き合うユキとて人が良い。
最後に、臨時メンバーであるゲーベンに、クラージュが確認を取る。
「ゲーベンさん。お願いできるかな?」
「はっ、良い度胸だ」
なんとも気持ちの良いパーティだと、ゲーベンは獰猛に笑い牙を剥く。
「猪退治だ」
『幻想の森』と呼ばれる、植物系のモンスターが蔓延る森で、ゲーベンはBランク冒険者パーティ『勇気の剣』に雇われ討伐依頼に向かっていた。
歩くのもままならない密林。道を塞ぐように生い茂る草木を押し退けながら歩く『勇気の剣』のリーダーであるクラージュの後ろをゲーベンは付いていく。
「いやぁ、まさかあのSランクパーティ『胡蝶の夢』の方と一緒に冒険できるなんて、夢のようだ!」
「俺も夢のようだよ。あんた達みたいなまともなパーティと組めて」
アホ丸出しの勧誘方法で本当に声を掛けてきたのがクラージュであった。正気を疑ったが、爽やかな笑顔でまともな交渉内容であったため、断る理由もなく臨時パーティとして加入することになったのだ。
ゲーベンは裏があるかもしれないと、以前の反省を生かして調査もしたが、全くの白。良い人過ぎて逆に疑いたくなるほどに、人として真っ当であった。
――こういう奴が勇者とか英雄になるのかもな。
そんなことをゲーベンが思っていると、クラージュは気まずそうに頭の後ろに手を置いた。
「あはは。最初は裏のある勧誘なのか疑っちゃいましたよ」
「……看板首から下げて勧誘してるヤバい奴だもんな、そりゃそうだ」
「いや、えっと、あはは」
「君、愛想笑い上手いって言われない?」
誰が見ても愛想笑いと分かる笑いに、ゲーベンは生きづらそうな性格をしているなとしみじみ思った。
ただ、怪しいとは思っていたんだなと、危機感があることに安堵もする。
「Sランクだがなんだか知らないけど、喋ってないで仕事して」
「ユキ」
二人の会話に割って入ったのは、ユキという『勇気の剣』のメンバーである女軽戦士だ。
ゲーベンのことを初対面の時から警戒しており、不機嫌そうに眉間の皺が寄っている。切れ長の鋭い瞳が私は不機嫌ですと物語っている。
クラージュが咎めるが、鼻を鳴らして顔を背けてしまう。
見た目は十六かそこらの少女だ。その年でBランクに上り詰める程に実力があるのだから天狗にもなるだろう。
――ここは先達として、大らかに対応するべきだろうな。
「構わねぇよ。実際、今のところ雑談してただけだしな。その程度の暴言ぐらい、冒険者らしくて」
「早く仕事しろっつってんの石像野郎」
「誰から聞いたそれ? なぁ? 殺すぞ?」
「やってみなさいよ」
「上級冒険者の懐の深さはどこへ!?」
「死んだ」
早死にであった。ただ、ゲーベンに後悔はない。生意気な女を泣かせてやろうとガンを飛ばす。
ユキもユキで一歩も退かず睨み返すものだから、二人の間で火花が散ってしまう。
どうしたものかとクラージュが頭を抱えていると、『勇者の剣』最後のメンバーである女魔法使いのシュティルが緊張した面持ちながらも声を上げた。
「あ、あの!」
「どうかした?」
「と、討伐目標が居たんだけど……」
「働かない男共のせいで取り逃がした?」
「お前毒使いだよな? 軽戦士じゃないよな?」
ユキの毒によってゲーベンのストレス値は限界ギリギリである。毒使い、もしくは挑発が得意なタンクに違いない。今戦闘になれば、ゲーベンはモンスターなど放置して真っ先にユキを攻撃し出すだろう。
「その、数が多くって」
「……? ワイルドボアだろ? 群れで行動することもあるし別に」
「百ぐらい、いるの」
「帰るか」
「待ちなさい石像」
それじゃ達者でと軽く手を上げ帰ろうとしたゲーベンの首根っこを、ユキがガシリと掴んで離さない。
「つってもな、ワイルドボア百匹は異常だろう。どうにかなるのか?」
「あんた、Sランク冒険者でしょ? 一人でなんとかなんないの?」
「あっはっは。それは餌になれってのと同義だな」
「わかったわ。ミンチにしてそこら辺に捨てていく」
「食べやすくしろとは言ってねぇ」
モンスターに美食はなかろうが、さぞ食べやすかろう。ただ、噛み応えはなく食いではないだろうが。
「無茶する気はなかったんだがな。クラージュ、パーティ組む際に言ったが、俺の魔法は強化魔法のみだ。しかも、動けなくなる」
「使えない石像ね。ガーゴイルのほうがまだマシ」
「後で覚えとけよ針娘。だから、主戦力はお前らだ。俺も守ってもらわなきゃならん。どうするかはお前らで決めろ」
あくまでゲーベンが行うのは戦闘の補助だ。敵を倒せるのは『勇者の剣』のメンバーのみ。
そのため、ゲーベンは決定権を投げた。
立ち向かうか、逃げるか。どうあれ悩むだろうとゲーベンは思っていたが、どうやらそれは彼らを甘くみていたようだ。
僅かな沈黙の後、クラージュは迷わず頷いた。
「――うん、やるよ。ここで放っておくわけにはいかないからね」
「あいっかわらず貧乏くじ」
「そ、それがクラージュさんのいいところだと、お、思うの」
分かっていたとばかりに、女性陣もクラージュに追随する。
彼女等の反応から、こういったことが珍しくもないことが伺えた。貧乏くじなどと口にしているが、それに付き合うユキとて人が良い。
最後に、臨時メンバーであるゲーベンに、クラージュが確認を取る。
「ゲーベンさん。お願いできるかな?」
「はっ、良い度胸だ」
なんとも気持ちの良いパーティだと、ゲーベンは獰猛に笑い牙を剥く。
「猪退治だ」
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