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第41話 友達に
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将来有望な貴族の子息として幼いころからチヤホヤされ、すり寄ってくる者たちは大勢いた。
自分は選ばれた特別な存在であり、そんな自分が誇らしく、だからこそ高貴な血統とは違う者たちを侮蔑した。
そして、狭き門でもある優秀な生徒のみにしか許されない魔法学園に入学したことで、より一層に「自分が選ばれた特別な存在」という思いが高まった。
王族や大貴族すらも通うこの学園は、もはや聖域。
だからこそ、本来いるべきではない下等な血筋をセブンライトは嫌悪して許さなかった。
特別な聖域が穢れると。
そして、その認識や自分の考えが全て思い上がりであり、自分がいかに弱く小さい存在であるかということを、その身をもって入学初日に思い知らされた。
Aランクという桁外れの天才に完膚なきまでに叩きのめされた。
そして、そのAランクの生徒すらも、さらに強く謎の男に返り討ちにあった。
まさに、怪物の巣窟に自分は足を踏み入れてしまったと知ったセブンライトは怯えた。
「き、きみは、ボクに何か……お、一昨日のことであれば……」
「一昨日? なんの……ああ、君がカイと起こしたトラブルのことか! そうだ、君はあの時の女生徒に謝罪はしたか?」
「い……いや……」
「ぬぅ、それはいかん! いかに罰を与えられたとはいえ、それはあくまでルールにのっとったものでの処罰であり、謝罪とはまた別! ちゃんと謝らないとダメだと僕は思う!」
「あ、お、う、……」
「と、それで話は戻るのだが、セブンライト。僕と友達になって、よければ勉強を教えてもらえないだろうか? 無論、僕も君の友達になれたら、君に困ったことがあればいくらでも力を貸そう!」
シィーリアスのセブンライトへの言葉にクラスメートの大半が「いや、なんで?」という様子である。
当然……
「ま、待て、シィー殿! なぜそこで彼に……?」
「ん?」
自分では誘惑に負けてシィーリアスに勉強を教えられないと悟ったクルセイナではあるが、今のシィーリアスの行動には納得しなかった。
そして、少し怪訝な目でセブンライトを見る。それは、クルセイナは同じ貴族とはいえ、セブンライトのことを良く思っていなかったからだ。
セブンライトが優性思想的で、貴族以外の平民を見下して差別するものだということは、既に他の者たちも知っている。
そして……
「そうですわ~。そ・れ・に、シィーさんも白い目で見られますわよ~?」
「ぬっ、どういうことだ? フォルト」
「ふふふ……ねえ、ミスター・セブンライト……あなた、昨日もそうでしたが、取り巻きの人たちはどうしまして?」
意地の悪い笑みを浮かべるフォルトに、セブンライトは気まずそうに視線を逸らす。
そう、セブンライトは入学式の時にはその周りを人で固めていた。
しかし、今はそれも居なくなっている。
それはなぜか?
「貴族でありながらあれほどの恥知らずな振る舞いをし、その上であれほどみっともなく叩きのめされて……あなたの取り巻きになることを彼らもメリットではなくデメリットと思ったようですわね~」
フォルトの嫌味ったらしい言葉にセブンライトは唇を噛みしめて視線を逸らした。
そう、全て自業自得と言えばそれまで。
あれだけの振る舞いをしたうえで、貴族でもないカイに完膚なきまでに叩きのめされたセブンライトとは、もう関わらない方がいいとそれまで取り巻きだった男たちは離れたのだ。
「ですので、シィーさんもお友達は流石に選びませんと駄目ですわぁ~。ワタクシのシィーさんが学園中から白い目で見られるのは、大親友であるワタクシも看過できませんわ~」
何も分かっていないシィーリアスにそう忠告するフォルトであり、セブンライトも何も言い返さない。
さらに……
「そうね。それに、平民の君ではそもそも友達になれないと思うわよ? 平民はお嫌いのようだしね」
ここに関してはジャンヌもフォルトに同意のようで、厳しい口調でそう告げた。
だが……
「何を言っている! 今は魔法で治癒されているが、彼は一昨日に容赦ないカイの攻撃で鼻で骨折して報いは十分すぎるほど受けた! それに先生に怒られたのは僕もカイも同じ! ならばもうそれでよいではないか!」
「……へ?」
「罵倒された女生徒が怒るのならまだしも、その場面で干渉しなかった周囲がゴチャゴチャと言うものではない! それに、みっともないことの何が悪い! それなら僕だって0点を取ったのに、君たちは友達のままでいてくれるではないか!」
シィーリアスからすれば、「もう終わったことだ」という認識で、むしろ何でセブンライトと友達にならない方がいいのか、その理由を分かっていなかった。
「僕も悪は許さないという認識を以前まで持っていたが、骨折以上の怪我をした者を許さないというのは、やりすぎである! ゆえに、僕は彼をもう悪とは思わない!」
「シィー……さん……」
「僕が僕の意思で友達になりたいと思ったのだ。そこに周囲が白でも黒でも青でもどんな目で見ようとも、僕は構わない! 僕は堂々とするぞ!」
あれだけのことをした男に……と言うフォルトとは逆に、シィーリアスからすればセブンライトの先日の行いは看過できないものだったとして、もう報いは受けたのだからよいだろうと判断した。
何よりも……
「10の指令の(8)!」
「へ?」
「『ケンカするなとは言わないが、相手に骨折以上の怪我をさせてはならない。度を越えた正義は暴力になり、弱い者イジメという悪になる』だ!」
「……シィーさん……」
「もう、度は過ぎていると僕は思っているぞ、フォルト」
それが、シィーリアスにとってのルールでもあり、法律でもあった。
「あ、え、あ……きみは……」
そんなシィーリアスの発言を、セブンライト自身も理解できず呆然としながらも、ただ胸が締め付けられた。
自分は選ばれた特別な存在であり、そんな自分が誇らしく、だからこそ高貴な血統とは違う者たちを侮蔑した。
そして、狭き門でもある優秀な生徒のみにしか許されない魔法学園に入学したことで、より一層に「自分が選ばれた特別な存在」という思いが高まった。
王族や大貴族すらも通うこの学園は、もはや聖域。
だからこそ、本来いるべきではない下等な血筋をセブンライトは嫌悪して許さなかった。
特別な聖域が穢れると。
そして、その認識や自分の考えが全て思い上がりであり、自分がいかに弱く小さい存在であるかということを、その身をもって入学初日に思い知らされた。
Aランクという桁外れの天才に完膚なきまでに叩きのめされた。
そして、そのAランクの生徒すらも、さらに強く謎の男に返り討ちにあった。
まさに、怪物の巣窟に自分は足を踏み入れてしまったと知ったセブンライトは怯えた。
「き、きみは、ボクに何か……お、一昨日のことであれば……」
「一昨日? なんの……ああ、君がカイと起こしたトラブルのことか! そうだ、君はあの時の女生徒に謝罪はしたか?」
「い……いや……」
「ぬぅ、それはいかん! いかに罰を与えられたとはいえ、それはあくまでルールにのっとったものでの処罰であり、謝罪とはまた別! ちゃんと謝らないとダメだと僕は思う!」
「あ、お、う、……」
「と、それで話は戻るのだが、セブンライト。僕と友達になって、よければ勉強を教えてもらえないだろうか? 無論、僕も君の友達になれたら、君に困ったことがあればいくらでも力を貸そう!」
シィーリアスのセブンライトへの言葉にクラスメートの大半が「いや、なんで?」という様子である。
当然……
「ま、待て、シィー殿! なぜそこで彼に……?」
「ん?」
自分では誘惑に負けてシィーリアスに勉強を教えられないと悟ったクルセイナではあるが、今のシィーリアスの行動には納得しなかった。
そして、少し怪訝な目でセブンライトを見る。それは、クルセイナは同じ貴族とはいえ、セブンライトのことを良く思っていなかったからだ。
セブンライトが優性思想的で、貴族以外の平民を見下して差別するものだということは、既に他の者たちも知っている。
そして……
「そうですわ~。そ・れ・に、シィーさんも白い目で見られますわよ~?」
「ぬっ、どういうことだ? フォルト」
「ふふふ……ねえ、ミスター・セブンライト……あなた、昨日もそうでしたが、取り巻きの人たちはどうしまして?」
意地の悪い笑みを浮かべるフォルトに、セブンライトは気まずそうに視線を逸らす。
そう、セブンライトは入学式の時にはその周りを人で固めていた。
しかし、今はそれも居なくなっている。
それはなぜか?
「貴族でありながらあれほどの恥知らずな振る舞いをし、その上であれほどみっともなく叩きのめされて……あなたの取り巻きになることを彼らもメリットではなくデメリットと思ったようですわね~」
フォルトの嫌味ったらしい言葉にセブンライトは唇を噛みしめて視線を逸らした。
そう、全て自業自得と言えばそれまで。
あれだけの振る舞いをしたうえで、貴族でもないカイに完膚なきまでに叩きのめされたセブンライトとは、もう関わらない方がいいとそれまで取り巻きだった男たちは離れたのだ。
「ですので、シィーさんもお友達は流石に選びませんと駄目ですわぁ~。ワタクシのシィーさんが学園中から白い目で見られるのは、大親友であるワタクシも看過できませんわ~」
何も分かっていないシィーリアスにそう忠告するフォルトであり、セブンライトも何も言い返さない。
さらに……
「そうね。それに、平民の君ではそもそも友達になれないと思うわよ? 平民はお嫌いのようだしね」
ここに関してはジャンヌもフォルトに同意のようで、厳しい口調でそう告げた。
だが……
「何を言っている! 今は魔法で治癒されているが、彼は一昨日に容赦ないカイの攻撃で鼻で骨折して報いは十分すぎるほど受けた! それに先生に怒られたのは僕もカイも同じ! ならばもうそれでよいではないか!」
「……へ?」
「罵倒された女生徒が怒るのならまだしも、その場面で干渉しなかった周囲がゴチャゴチャと言うものではない! それに、みっともないことの何が悪い! それなら僕だって0点を取ったのに、君たちは友達のままでいてくれるではないか!」
シィーリアスからすれば、「もう終わったことだ」という認識で、むしろ何でセブンライトと友達にならない方がいいのか、その理由を分かっていなかった。
「僕も悪は許さないという認識を以前まで持っていたが、骨折以上の怪我をした者を許さないというのは、やりすぎである! ゆえに、僕は彼をもう悪とは思わない!」
「シィー……さん……」
「僕が僕の意思で友達になりたいと思ったのだ。そこに周囲が白でも黒でも青でもどんな目で見ようとも、僕は構わない! 僕は堂々とするぞ!」
あれだけのことをした男に……と言うフォルトとは逆に、シィーリアスからすればセブンライトの先日の行いは看過できないものだったとして、もう報いは受けたのだからよいだろうと判断した。
何よりも……
「10の指令の(8)!」
「へ?」
「『ケンカするなとは言わないが、相手に骨折以上の怪我をさせてはならない。度を越えた正義は暴力になり、弱い者イジメという悪になる』だ!」
「……シィーさん……」
「もう、度は過ぎていると僕は思っているぞ、フォルト」
それが、シィーリアスにとってのルールでもあり、法律でもあった。
「あ、え、あ……きみは……」
そんなシィーリアスの発言を、セブンライト自身も理解できず呆然としながらも、ただ胸が締め付けられた。
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