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第35話 リーダー

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「では、今日の授業はこれにて終わりなのだが、皆に少し残っていただいたのは……このクラスの委員長を決めたい」

 放課後のホームルームということで教室に残った生徒たちを前に、クラス担任の男がそう皆に告げた。
 3学年あり、1学年4クラス。
 シィーリアスたち「1-1」のクラスの委員長を決めるというのだ
 それは、これまで魔法学校入学前から、学校生活というものを知っている生徒たちからすれば特に珍しくないものである。
 しかし……

「ぬぬぬ? ティーチャー! クラスイインチョー……それは、なんだろうか?」
「……え?」

 シィーリアスにとっては初めて聞く単語であった。

「あらぁ、まぁ、シィーさんは学校には通ったことが無かったみたいですしね……」
「シィー殿。クラス委員長とは、なんというか……クラスのリーダー的な役職であり、クラスや学校の連絡事項、行事の企画、開催、司会進行といった仕事をしたりするのだ。あと、定期的に生徒会主催の会議に出席したりなどな」
「なんと……クラスのリーダーだと!?」

 クルセイナの説明に目を輝かせるシィーリアス。それは、シィーリアスにとって「リーダー」という言葉の響きにはとても重い意味があったからだ。
 SSSランクの勇者パーティーのリーダーであるフリード。それがシィーリアスにとっての目標であり、憧れでもあるのだ。
 だからこそ、クラスのリーダーという言葉の響きに心が震えた。

「ま~、そういうことだから、委員長と副委員長を男子1人、女子1人から決めようと思う。やりたい奴は立候補してくれ。手を―――」
「え……ちょ、ティーチャー!」
「え?」

 シィーリアスの反応に苦笑しながら、担任の男が立候補を尋ねようとしたところ、シィーリアスは驚いた顔をして立ち上がった。


「クラスのリーダーという重役にして重責ある仕事……それは、クラスの仲間たちと話し合い、皆が選んだ相応しいものがなるのではなく、立候補で決めて良いのですか!?」

「え……い、いや、そこまで大袈裟でも……ちなみに、誰かやりたい奴はいるか?」


 シィーリアスからすれば「リーダー」をそんな風に決めるのかと驚く中で、更に驚くことが。

「はい、先生。私やります」
「おっ、ミス・ジャンヌが立候補してくれたか。では、女子が他に居なければ男子は誰か――――」
「ちょ、ちょおおお、え、ティーチャー! そ、それに皆もどういことだ!?」

 クラスで手を唯一上げたのは、ジャンヌ・トレイターただ一人であった。そして、それがそのまま決まりそうな流れにシィーリアスは慌てた。

「リーダーを決めるのに、こんなアッサリで良いのか!?」
「あら、シィーリアスくん。私では不満かしら?」
「そんなことはない! しかし、もう少し議論すべきではないのかと思ったのだ! クルセイナもフォルトもリーダーにならなくて良いのか? 女子は決まってしまいそうだぞ? リーダーだぞ!? リーダーになりたくないのか!?」

 なぜ、リーダーになろうとしないのか? リーダーは憧れの役職ではないのか? 
 これまで学校に通ったことのないシィーリアスには不思議で仕方なかった。
 だが……

「い、いぇ~シィーさん。ワタクシそのような……雑務に興味ありませんわ。まぁ、生徒会執行部ならまだしも……」
「わ、私も別にそこまで……」

 シィーリアスの反応にフォルトもクルセイナも苦笑。

「な、なんと……」

 そう、シィーリアスが思っているほど、生徒たちは「クラス委員長」という役職にそれほど魅力もないのである。
 ただのクラスの役職であり、言い換えれば面倒な役職という認識ですらあったりする。
 真面目な優等生タイプと思われるジャンヌは別にしても、そこまで鼻息荒くしてなりたいと思うものではなかったのだ。

「あ~、ミスター・シィーリアス……そろそろよいか?」
「ティーチャー……」
「で、男子は誰かなりたいものは――――」

 そして、担任ももう十分だろうと話を続け、男子の立候補者を尋ねると―――


「はいはいはーい! 僕はリーダーをやりたい!」

「「「「「う、うわ………」」」」」


 ビシッと手を伸ばしてシィーリアスが宣言したのだった。


「ちょ、シィーさん、クラス委員長ってそんなオイシイ仕事ではありませんわよ? 内申点ならむしろ生徒会執行部の方が……」

「何を言う、フォルト! せーとかいしっこう? 何か分からぬが、目の前でリーダーというポジションに自ら立候補でき、しかも誰もなろうとしないなど……これは、神様が僕にリーダーをやれと言っている天啓ではないか!」

「シィーさん!? 何か色々と勘違いされてませんの!?」

「皆も、僕がリーダーになるのは良いだろうか!?」


 目を輝かせて嬉しそうなシィーリアスに対して、反応に困るクラス一同。
 実際、「クラス委員長とかメンドクサイ」と思っている彼らからすれば、立候補者もいないままダラダラとホームルームが伸びることの方が嫌だ……と最初は思っていたのだが、ここに来て本当に心配になってきたのだ。


――こいつがクラス委員長で大丈夫なのか?


 と。
 そして、先に立候補していたジャンヌもシィーリアスを眺めながら……

(強いけど真っすぐなバカ……だけど、そのバカは何も学力だけのことを言うのではなく……良いバカなのか、それともダメな方なバカなのか……どちらのバカにせよ、彼が私にとって『使える』方のバカであるならば……それに、ある意味でこういう形であれば普段はベッタリなフォルトやクルセイナとは違うところで観察もできそうだし……)

 彼女には彼女なりの思惑があり、そして自分の中で結論を出した。


「ふふふ、そんなにリーダーになりたいのであれば、委員長はシィーリアスくんに譲るわ。私は副委員長として君をサポート(観察)するわ」

「ジャンヌ!? 良いのか? しかし、君もリーダーになりたいのでは……」

「ええ、そんな私を差し置いてクラス委員長という大役に就くからには……頑張ってもらうわよ♪」

「うおおおおおお、ジャンヌぅ! 分かった! そして、ティーチャー! 皆も!」

 
 ジャンヌのウインクに感動して立ち上がったシィーリアスは憧れに輝かせていた瞳から、やる気に満ちた燃える瞳に代わり……


「みんな、僕がリーダーになる! そして、このクラスを最高にして最強のクラスにしてみせよう! みんな、是非ついてきてくれ! うおおおお、僕はやるぞォおおおお!!!」


 と、吠え、やはりどこかズレているシィーリアスに一同は唖然としていた。
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