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第25話 Fランクの魔法

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「そういえば、シィーさんの魔法はワタクシたちも見ていませんわね……」
「ええ……果たして……シィー殿……見せていただこう」

 フォルトとクルセイナも期待に満ちた眼差しである。
 そして……

「むぅ……分かりました。いずれはぶつかる壁! なればこそ、今僕自身も僕のことを知るためにも、いざ!」

 シィーリアスは覚悟を決めて木人へ向けて真っすぐ構え、詠唱を口にする。
 本来の自分であれば、詠唱をしなくても使える魔法なのだが……


「風の精霊王の加護を宿し、刃となりて斬り裂かれん―――――ウィンドカッターッ!!」

――そよっ

「……ッ!?」

「「「「「……………え?」」」」」 


 そのとき、シィーリアスの掌から出たのは、ほんの微風であった。

「え、あ、あの、シィーさん?」
「シー殿……ご、ご冗談を……」

 フォルトとクルセイナも固まってしまっている。

「お、おいおい、どうなってんだ? あいつ凄いんじゃ……」
「で、でも、今の魔法……私よりもひどくない?」
「失敗か?」
「ど、どうなんだ?」
 
 シィーリアスの魔法はほぼ不発。
 その状況にクラスメートたちも騒然。
 そして、女講師も……

(ど、どういうこと? 決してふざけてはいなかった……詠唱も問題なかった……でも、彼自身が練った魔力がとてつもなく微量……成績下位のEクラスですらもっと……まさか、本当に……)

 予想外の事態に真剣な表情。
 だが、この状況にシィーリアスは慌てるでもなく、どこか納得したように……

「むぅ……申し訳ありません、ティーチャー!」
「……え……あの……」
「特に手順を間違えたわけでもなくこの結果……どうやらこれが僕の実力のようです!」
「……」

 言い訳するでもなく、実に堂々と「自分の実力」と認めたのだった。
 
「ちょ、どういうことだ、シィー殿! あなたはアレほどの強さを持ちながら……」
「うむ……僕としても実に情けないが、これが今の僕の魔法の限界なんだ、クルセイナ」
「なっ……!?」

 その言葉に口を開けて固まるクルセイナ。
 フォルトも同じである。

「な、なんということだ……私はてっきりあなたは何かの書類の間違いかそういう類でFなのかと……」
「あらあら……まぁ……」

 そのとき、フォルトとクルセイナが二人とも何とも言えない微妙な表情を浮かべた。
 二人のその反応にシィーリアスは少し焦った。

「え、あ、ま、その、フォルト! クルセイナ! ひょっとして、ぼ、僕の魔法がFだと……やはり君たちは友達をやめると思っていたり……」
「ッ、あ、いや、すまん! 驚いただけでそんなつもりはないので、安心してほしい! あなたと儀式をした中ではないか……」
「え、ええ、そうですわ~、シィーさん! ワタクシたちを侮辱しないでほしいですわ~」

 二人の反応から「友達をやめる」と言われるかと思ったシィーリアスはホッとした。 
 だが、それでもシィーリアスは戦闘能力はあってもFランクということであれば、二人の考えも少し変わりそうになったのも事実である。


(これは……シィー殿が本当はSなのではという疑いもあったが……これならば大きな問題には……いや、しかしそもそもこれで進級できるのだろうか?)

(う~~ん、ちょっと困りましたわねぇ……ヴァージンを捧げて、このワタクシを虜にした以上、シィーさんにはSランク級の強さを持っているというだけでなく、『Sランク資格』を持っていてくださらないと……)


 そう、『Sランク級の力を持っている』というのと『Sランクの資格を持っている』のとでは世間一般、世界的な評価が大きく変わってくるのである。
 特にクルセイナもフォルトはこれからも「個人的」にも確かに友人のままでありたいし、女としての気持ちを目覚めさせてくれたシィーリアスに惹かれているのも事実だが、二人の身分や立場上ではこれからも付き合い続けるにはシィーリアスには『資格』は持っていて欲しかったからだ。
 そうでなければ、自分たちが対等の友人であるとか、場合によっては「それ以上の関係」になったとして、周囲を黙らせるにはその資格があれば問題なかったのだが、ないとなれば話が変わってくる。
 すると……


「ふざけるな……」

「え……」


 シィーリアスを睨みつけながら、カイが前へ出た。


「あら、カイくん。次はあなたが――――」

「ウィンドカッター」

「ッ!?」


 次はカイが自らやる気なのか? と、講師が尋ねようとした瞬間、カイは掌を前に出して風の刃を出した。
 講師と違い、詠唱もせずに。
 だが……

「うわ、な、なんだあれ!?」
「すごい魔力が……」
「ちょ、うそ……」

 轟音を響かせて飛び出した風の刃は、目標物である木人に命中し、容易く二つに切り裂いた。
 しかも……

「あらあら、お見事ですわ~」
「し、しかも……キレイに真っ二つに……詠唱を破棄してあの威力に加え、あの精度!?」

 その見せた結果は、もはや詠唱した講師よりも上と言っても過言でもないものだった。

「なんと……素晴らしい結果ですね」
「ふん……」

 顔を引きつらせた講師の賛辞にも一切興味を示さずに背を向けるカイ。
 その様子に講師の女は戦慄した。

(なるほど……あれが既にAランク級の力を持っている、歴代史上最高の新入生……なんと恐ろしい……)

 驚異の新入生。その評価に違わぬと認めざるを得ないものであった。
 そして、カイの見せた力にクラスの者たちは皆が驚愕している中で……

「う~む……僕はどうやってクリアすべきか……」

 と、シィーリアスは大して驚くわけでもなく、淡々と自分の課題に向き合っていた。
 その様子を見てカイは……


「おい……」

「ん?」


 シィーリアスへと歩み寄り……


「先ほどのアレはどういうことだ? それとも……お前に負けた自分をバカにしようとしているのか?」

「ぬ? な、そんなたわけたことをするわけがなかろう! アレが今の僕の全力の魔法だ!」

「ふざけているのはお前の方だ……だが、ふざけていないというのなら……もう一度自分と立ち合え」

「え……?」

「お前の体術は既に見切った。自分も学園生活で特に目立つつもりはなかったが、先ほどのザマのお前に負けたままというのは、自分を抑えきれそうにない」


 プライドからか、もう一度戦えとシィーリアスに告げた。
 その言葉に皆が更に驚いた反応を見せる。
 本来止める立場である講師も思わず言葉を失ってしまっている。
 しかし、シィーリアスは……


「え? いやいや……もう十分ではないか。ティーチャーたちにもまた怒られるし……君が僕にとっての悪でないのだから、別にまた喧嘩しなくてもいいではないか」

「ふざけるな。それで収まるはずが……」


 それを受けることなく受け流し……


「納めてくれたまえ。今は授業中だ。それに……僕も君の力はもう十分に分かったつもりだ。今の君では僕に勝てないのでやめたまえ」

「ッッ!? き、貴様ぁ!」


 ただ受け流せばいいものを、天然で油を注いでしまっていた。
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