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第6話 学園前にて時代遅れのベタな展開

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「ほ~ん、シィーリアスさんはずっと田舎で育ての先生と暮らしていたので都会に来るのは初めてと……」
「ああ。見るもの全てが大きく綺麗で新鮮で、これからの生活がとても楽しみだ! 友達もたくさん作らなければならないと、家族に言われている。だから、早速友達ができて嬉しいんだ!」
「あら、そうですの。ならば、今度ワタクシの国に連れて行ってあげますわ。もっと華麗で美しく優雅ですわ!」
「それは本当かい? うむ、早速先生への報告が増えた!」

 王都の街中を並んで歩くシィーリアスとフォルト。
 そのすぐ後ろにクルセイナが付き、擦れ違う民たちは遠目で眺めるしかなかった。
 先ほどの一触即発の空気から一転して親しそうに話し合う二人。
 その素性は大国の姫とFランクの平民という異質の組み合わせ。本来なら不自然である。
 しかし一方で、クルセイナは……

(この男……私の気迫に一切揺らぐことも無かった……それに、歩き方……頭のてっぺんから見事な軸……たたずまいや身に纏う雰囲気は明らかにFランクとは思えない……何者だ?)

 ちゃんと彼女は分かっていた。シィーリアスは普通でないということを直感で。

(フォルト姫も一目で気づかれたのだろう……だから『Fランクなど冗談』と言われたのだろう……その上で……まだ素性も何も分からぬ男をこの国にではなく自国に迎え入れるスカウトをしようとされた……素性どころか信頼に足るかどうかも何も分からぬ男に、一目で?)
 
 そして、クルセイナはシィーリアスにだけではなく、その眼差しをフォルトにも向けた。

(いずれにせよ、この男だけでなく、フォルト姫もまた噂通りではなさそうだ。噂では王族であることを鼻にかけた、我がままで贅沢三昧の頭が少々残念な御方……と聞いていたが……なかなかの蛇かもしれん。この国に留学された理由も見分を広めるためとのことだったが……それだけではないかもしれん)

 それは「これから同じ学び舎で共に過ごす学友」に向ける目ではなかった。
 二人がどれほどのものか? その上でこの国にとってどういう存在になるのか?
 それを図ろうとする目であった。

「君も友達になってくれるかい? クルセイナ……だったか……」
「ふぇ!?」

 考え事をしていたクルセイナに、フォルトとの話が弾んでいたシィーリアスが突如振り返ってそう問うてきた。

「あら、当然ですわ~。クルセイナさんはもうワタクシのお友達ですので、友達の友達は友達なのですから、シィーリアスさんとクルセイナさんはお友達ですわ~」
「っ、あ、えっと、あの……」
「そうか、これからよろしく! クルセイナ!」
「あ、あの……わ、私は……」

 正直、クルセイナは一瞬答えに戸惑った。
 仮にも自分はこの国の侯爵家の娘。たとえ同じ学校に通おうと、身分は平民と大きな開きがあり、親しくなるものの身分は最低でも貴族である。
 学園生活上で平民と関りを持つことは避けられなくとも、それでも彼女自身もこれまでの生活からも、平民と友達になるということはまるで考えていなかったし、平民側も遠慮して近づかないだろうと思っていたからだ。
 しかしこのように平民の、ましてや男から直接言われ、さらには他国とはいえ一国の姫にこう言われては、了承も拒否もすぐに出てこなかったのだ。

「では、『男女の友情の儀式』は……今は時間もないし……入学式の後、帰宅したらよろしく頼む! 二人同時でも問題ない! 僕は毎日先輩二人と儀式していたのだ! 二人そろって満足してもらえるよう、猛烈に励むぞ!」
「「……え?」」

 しかもクルセイナの意志とは関係なく話はどんどん進み、更には意味不明な言葉まで真顔で瞳をキラキラさせたシィーリアスの口から飛び出た。

「あら、シィーリアスさん。先ほどから、儀式とは……」
「え、何って……あれ? 違うのかな? 先輩に教えてもらったんだけど、親しくなる友達の男女には行う儀式を……」
「ほ~ん……シィーリアスさんの田舎の文化ですの? とはいえ……まぁ、構いませんわ!」
「ちょっ、姫様!? 今日は宮殿で私たちと懇親会が……」
「あ~、そうでしたわね……ふむふむ、ほ~~~~~ん」
「あっ、都合が悪いのであれば日を改めてでも―――」

 このとき、フォルトは深く考えなかった。どうせ『食事会』など、そういう類のものだと思っていたからだ。
 すると……


「ごめんなさい、許してください!」

 
 そのとき、近づいた学園の方から騒がしい声が聞こえてきた。

「何を言っている! 子爵家であるこの僕、セブンライト様にぶつかり、僕の制服を穢した平民の失態を、タダで済ますと思っているのかい?」
「言葉だけで済むか! 跪いて額を地に擦りつけろ!」
「まったく、これだから平民は……分かっているのかなぁ?」

 三人が目を向けると、三人の男が一人の少女の前に立ち、恫喝するかのような声を上げていた。

「うぅ、ご、ごめんなさい……その……」

 男たちに怒鳴られている少女。男たちも含めて全員がシィーリアスとフォルトと同じ制服を身に纏っている。
 それだけで、自分たちと同じ学園の者だと分かる。

「まったく、非常識にもほどがある。まさか試験に合格しただけで君たち平民は僕たち選ばれし貴族たちと対等だと思っているのかなぁ? まったく、学園の品位を落すような平民はこれだから嫌いなんだよ。さっさと退学することをお勧めするね!」

 細い体とキッチリと整えた茶系の髪のセブンライトと名乗る貴族の男がそう捲し立てる。
 その脇に居る二人の男も少女を嘲笑する。
 対して少女はその発言に対してはキッと睨み返す。

「いやです……」
「はぁ?」
「い、嫌だって言ってるんです! 私は……学園に入れてくれるために頑張って働いてくれたお父さんに報いるためにも、この学園で頑張って、立派な魔法騎士になるって誓ったんだから! その言葉には従えません!」

 赤みのある長い髪を両脇で結んだ少女は、少し涙目になりながらもそう言い返した。
 だが、次の瞬間男たちは明らかに不快に満ちた表情を浮かべた。

「なんだと? 君は、平民の分際で僕に口答えするのか!」
「ッ、きゃっ、や、やめ!」

 そして、乱暴に少女の手首を掴んだ。
 その状況に次第に集まりだした制服姿の他の生徒たちもざわつき出す。

「おっと、君たちも騒がないことだ! ちゃんと学園を卒業したいのであればね」
「ふっ、だがこれだけ人が集まっているんだ……公の場で平民が貴族に逆らうとどうなるか教えてあげるのもいいかもしれないな」

 衆人環視の中だというのに、一切悪びれるどころか、余計に開き直る男たち。
 少し離れた場所で繰り広げられるその騒動に……

「あらあら、ず~いぶんと時代遅れなベタベタな展開ですわね。今更小説にしたって盗作だと言われるぐらい流行りませんわね」

 フォルトは呆れたように笑った。
 一方で……

「ちっ、貴族の恥さらしめ……姫様、ここは私に―――」
「何という思い上がった悪党! 見過ごすわけにはいかない!」
「ま、待て、貴様。ここはこの国の侯爵家の者として私が……」
「ぬっ、関係ない! これは貴族や平民や国の問題ではなく、人としての問題だ!」

 クルセイナは明らかに不機嫌になり、腰に携えた剣に手を置いた瞬間、シィーリアスは顔を真っ赤にして怒った。

「あら? シィーリアスさん、行きますの?」
「当然だ! 僕の嫌いな部類をこれでもかと現わしている! 見過ごすわけにはいかない!」
「あらあら♪ では、お手並み拝見ですわね」

 黙っていられるはずのないシィーリアスがプンスカして少女を助けに行こうとする。
 クルセイナも「自分が」と引こうとしない。
 その様子にフォルトはニヤニヤ。
 だが、その時だった。


「道のど真ん中で耳障りな声で騒がないでくれ。あと邪魔だ」

「……え?」

「「「!!??」」」


 それは、シィーリアスとクルセイナが割って入る前だった。
 一人の生徒がその争いの場に割って入った。

「ほ~ん?」
「む?」
「………?」

 出遅れたシィーリアスとクルセイナはポカンとし、フォルトは興味深そうに眺めている。
 
「なんだ? 僕に逆らうなんて、どこの常識知らずだ! お前も平民か!」
「あんたと自分の常識に齟齬があるのか分からないが、入学を認められた者を取り消しさせる権限をあんたたちにあるとは思えないが」

 現れたのは制服の上に黒のロングコートを羽織った端正な顔立ちをした黒髪の生徒。
 特別背が高いわけでも体格が良いわけでもない一人の生徒が、貴族の三人の男相手に無表情でそう告げた。
 突如現れたその生徒に、周囲の生徒はハラハラ。
 貴族の男たちは怒り心頭の表情。
 一方でシィーリアスは……

「へぇ……あの人……見ただけで分るほど強いではないか。うん、僕がこの国に来て擦れ違った人たち全員の中でも飛びぬけている! おまけに悪を見過ごせない正義の心も持っている!」

 一目でその生徒の力を見抜き……

「ほ~ん」

 フォルトも興味深そうにジッと見て……

「ぬっ、何を……ん? まて、ひょっとしてあの生徒……ッ! 推薦組ではなく、試験組で大きな噂になっていた―――」

 最初はシィーリアスの言葉にムッとしたクルセイナだったが、急にハッとした表情を浮かべた。

「……え? ここって……入学に試験あったのかい?」
「……は?」

 ちなみにシィーリアスは裏口入学なので何も知らなかった。

「やれやれ、常識も知らないどころか、頭の悪い下賤な平民はこれだから……仕方ない、ただ合格しただけの君と、選ばれた僕との力の差……今すぐ教えてやろう! そして、さっさと退学届けを出して立ち去ることだな!」

 そんな中で、話は勝手に進んでいく。
 貴族のセブンライトは一人でペラペラと話を進めて声を荒げる。

「へへへ、やっちまってください、セブンライトさん!」
「まったく、身の程知らずの馬鹿め!」

 取り巻きの男たちもヘラヘラと笑い……


「さあ、覚悟しろ! 僕のこの力を―――」

「やれやれ……自分は目立ちたくないんだが……」


 セブンライトはそのまま黒髪生徒に襲い掛かった。
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