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第42話 変える
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純粋で不器用な不良たちの思いに、ずっと黙っていたハジャがようやく口を開く。
「ああ、まただ」
「?」
「レオン・ハルトくん。やっぱり君は、何も負けていないよ。そのことに気づいていない分、正直嫉妬してしまうし、憧れてしまうよ」
「……は~?」
「仲が良すぎるよ。本当に、人間も、魔族も、不良には関係ないんだね」
意味不明なハジャの言葉に、不良たちは首を傾げた。
だが、ハジャ本人は真剣そのもの。そして、そんなハジャの気持ちをアスラたちもよく理解していた。
ハジャが視線を逸らす。その先には、ハルトではなく、人間の不良代表の海堂が居た。
「えっと、海堂……さん……でしたね? あなたは、あなたたちは、魔族が怖くないのですか?」
「怖いだと?」
「ええ。異形の者。未知の者。人は誰でも敬遠したがるものでは?」
ハジャの試すような問いかけに、海堂の眉が動いた。
「怖いというのはよく分からんな。まあ、色々あったが、愉快な奴らだとは思うがな」
「へえ」
「そもそも、俺ら不良は人から遠ざけられる存在。初めは血みどろの闘争に明け暮れはしたが、これ以上は互をいがみ合う必要はないと判断した」
「いがみ合う必要が……ないと……」
「それに、こいつらの元トップは俺にとっての兄弟分。つまりこいつらは俺にとって、弟分と妹分……あいつが死んだからこそ……俺が気にかけてやらねーとな」
「なるほど。やはり、僕はあなたたち不良という種族を見くびっていたようだ」
海堂の言葉を聞いて、ハジャは複雑な気持ちで頷いた。
「よし……決めた! 今回の件は全て学園内で処理する。あなたたちに処分はない。いや、僕が必ずそうさせてみせる。ハルトくん、君だけを裁くようなこともしない」
意外な言葉にハルトは笑ってしまった。
「くはは、政治か。人間の領土内で暴れた魔族を罰したら、両界の友好にヒビが入るってのがそんなにイヤか? ざけんじゃねえ! 俺は、そんな情けを期待して暴れたわけじゃねーんだよ」
肩すかしも良いところだ。この展開は考えてなかった。
最初は捕まる気満々だったハルトだが、政治が絡んでるようだ……最初はそう思っていた。
「いや、君たちには罰を与えない変わりに、別の事をやってもらいたいのさ」
だが、さわやかなハジャがこの時、何かを企んでそうな表情で笑った。
嫌な予感がする。そして、ハジャは予想もしていなかったことを発した。
「レオン・ハルトくん、君にはこの白皇高校に通って貰いたい。センフィと一緒に留学生としてね」
「「はあ?」」
それはハルトたちだけではなく、その場に居たアスラたちも同じ反応だった。
「何言ってんのよ! こんな野蛮で喧嘩早いのを人間界の高校に通わせてどーすんのよ!」
「ほ、ほんとなの? ねえ、ハジャ!」
「ハジャ殿……それはあまりにも……」
「無理だな。少なくともハルトの学力では高校には入れねーだろ」
「兄さん……」
「なぜ?」
「ま、まことか!」
当然荒れた。ハジャのとんでもない発言に猛反発の声しか上がらない。
だが、いつものハルトもそうだったが、この時だけは少し冷静になった。
(この勇者は……ふざけてこんなことを言う奴じゃねえ)
力の限りぶつかったからこそ、ハルトは少しだけハジャという人物が分かっていた。
「お前は俺に何をやらせようとしている?」
「ほう。君に何かをやってもらいたいというのは分かったのかい?」
ハルトの問いかけに、ハジャは笑った。
「さっきの喧嘩で僕は見惚れてしまった」
「はあ?」
「人間たちの声援を受けて立ち上がる君に。荒々しい声を上げて一つになった君たちに」
「別にありゃあ……同じ不良同士なだけだ。俺だって人間そのものは好きでもねーし、同じ魔族でも嫌いな奴は居る。そんで……少なくともテメエは大嫌いだ」
不良同士の馴れ合いを、そんな風に捉えられても困るとハルトは訂正しようとしたが、ハジャは首を横に振る。
「いいんだよ。それで。だからいいんだ」
「いや、よくねえだろ!」
「誰も彼も仲良くしろというわけじゃない。同じ種族同士ですら未だに不可能なんだから。ただ、人間だから嫌い。魔族だから嫌い。そういう固定観念を破壊したいんだ」
その言葉は、ハルトだけに向けられているわけではない。
この場にいる勇者一味に不良、そしてハジャが自分自身に言っているように見えた。
「あの戦争で何千万もの生命が命を落とした。世界が戦争という大義名分でお互いを殺し合った。互いの種族が自身の親を、家族を、師を、友を失った。止まらぬ憎しみが更なる憎しみを生みだし、血と命が流れた。それを僕たちは終わらせた。だが、終わった戦争もこのままでは意味が無くなってしまう。ハルトくん、君に人間を好きになれとは言わない。ただ、接して欲しい。そして、不良以外の人間にも魔族である君と接する機会を与えて欲しい」
いつものハルトなら吐き気がするほど薄ら寒い言葉だ。
だが、ハルトはこの時は黙って聞いていた。
それは、ハジャの言葉は綺麗事でも、言葉は全て本気だったからだ。
「そうすれば、いつか皆が互いに歩み寄り、人間も魔族も無くなる」
それは、壮大な夢想であり、不良にはピンとこなかったが、一つだけ分かった。
ハジャは世界を変えたいと思い、変えようとしているということを。
「僕たちは戦争を終わらせた。だが、ここから先は僕たちだけでは出来ない。だから、君が必要なんだ」
「なんで、俺が……」
「君と出会い、僕は君こそがそれを可能にしてくれると確信したからだ。己の信念や美学を曲げず、自分を偽らずに生き、そして人間と魔族という壁に囚われずにヒトと繋がる君にね」
そして、次の瞬間、世界の英雄が不良に向かって頭を下げた。
「レオン・ハルトくん……いや、ハルト! 君に世界を変えて欲しい!」
「ッ!」
世界を変える。ハルトはその言葉に衝撃を覚えた。
「世界を変える? 俺が? 不良の俺が世界を変える?」
「君が世界を変えることが、僕たちの夢の達成を意味し、そして君が僕たちにできないことをした証になる」
その言葉は、あの男が言っていた言葉だ。
その男は、ハルトにもカララたちにも、そして人間である海堂たちの心に刻み込まれている。
案の定、カララたちも衝撃を受けている。
「レオン・ハルトが……」
「世界を変える?」
「勇者に出来ないことを……ハルトが?」
正直何をするかは分からないし、どうなったらいいのかも分からない。
「ハジャ、何を勝手なこと言ってんのよ! それならセンフィが居るじゃない!」
無論、人間達はハジャの発言に待ったをかけている。当然だろう。
だが、それなのにハルトは不敵に笑みが零れた。
(世界を変える。おっさんがそう言ったときは、何も考えずにこの世で一番強い奴がやると思っていた。最強にこだわる俺はその言葉に惹かれた。でも、変える方法は他にもあったてのか?)
これ以上の事はない。
不良が世界を変えるという、マグダの野望。それが道となってハルトの前に現れたのだ。
(おっさん、喜べ)
迷うことは無かった。
「上等だ! 俺が世界を変えることが、不良が世界を変えた証明だ!」
熱いものが腹の底からこみ上げてきた。握った拳に力が入る。
(勇者を力で倒す以外に、俺がおっさんの墓に添えられる花があったのか)
皮肉にも、ハルトは勇者から、マグダと一緒に居た時に劣らないほどの興奮を得た。
このあと周りからハジャとハルトに向けて放たれる数々の意見など、何も耳に入らない。
ただ、ハルトは不良として世界の何かを変えてやろうと、腹の底から思った。
「ああ、まただ」
「?」
「レオン・ハルトくん。やっぱり君は、何も負けていないよ。そのことに気づいていない分、正直嫉妬してしまうし、憧れてしまうよ」
「……は~?」
「仲が良すぎるよ。本当に、人間も、魔族も、不良には関係ないんだね」
意味不明なハジャの言葉に、不良たちは首を傾げた。
だが、ハジャ本人は真剣そのもの。そして、そんなハジャの気持ちをアスラたちもよく理解していた。
ハジャが視線を逸らす。その先には、ハルトではなく、人間の不良代表の海堂が居た。
「えっと、海堂……さん……でしたね? あなたは、あなたたちは、魔族が怖くないのですか?」
「怖いだと?」
「ええ。異形の者。未知の者。人は誰でも敬遠したがるものでは?」
ハジャの試すような問いかけに、海堂の眉が動いた。
「怖いというのはよく分からんな。まあ、色々あったが、愉快な奴らだとは思うがな」
「へえ」
「そもそも、俺ら不良は人から遠ざけられる存在。初めは血みどろの闘争に明け暮れはしたが、これ以上は互をいがみ合う必要はないと判断した」
「いがみ合う必要が……ないと……」
「それに、こいつらの元トップは俺にとっての兄弟分。つまりこいつらは俺にとって、弟分と妹分……あいつが死んだからこそ……俺が気にかけてやらねーとな」
「なるほど。やはり、僕はあなたたち不良という種族を見くびっていたようだ」
海堂の言葉を聞いて、ハジャは複雑な気持ちで頷いた。
「よし……決めた! 今回の件は全て学園内で処理する。あなたたちに処分はない。いや、僕が必ずそうさせてみせる。ハルトくん、君だけを裁くようなこともしない」
意外な言葉にハルトは笑ってしまった。
「くはは、政治か。人間の領土内で暴れた魔族を罰したら、両界の友好にヒビが入るってのがそんなにイヤか? ざけんじゃねえ! 俺は、そんな情けを期待して暴れたわけじゃねーんだよ」
肩すかしも良いところだ。この展開は考えてなかった。
最初は捕まる気満々だったハルトだが、政治が絡んでるようだ……最初はそう思っていた。
「いや、君たちには罰を与えない変わりに、別の事をやってもらいたいのさ」
だが、さわやかなハジャがこの時、何かを企んでそうな表情で笑った。
嫌な予感がする。そして、ハジャは予想もしていなかったことを発した。
「レオン・ハルトくん、君にはこの白皇高校に通って貰いたい。センフィと一緒に留学生としてね」
「「はあ?」」
それはハルトたちだけではなく、その場に居たアスラたちも同じ反応だった。
「何言ってんのよ! こんな野蛮で喧嘩早いのを人間界の高校に通わせてどーすんのよ!」
「ほ、ほんとなの? ねえ、ハジャ!」
「ハジャ殿……それはあまりにも……」
「無理だな。少なくともハルトの学力では高校には入れねーだろ」
「兄さん……」
「なぜ?」
「ま、まことか!」
当然荒れた。ハジャのとんでもない発言に猛反発の声しか上がらない。
だが、いつものハルトもそうだったが、この時だけは少し冷静になった。
(この勇者は……ふざけてこんなことを言う奴じゃねえ)
力の限りぶつかったからこそ、ハルトは少しだけハジャという人物が分かっていた。
「お前は俺に何をやらせようとしている?」
「ほう。君に何かをやってもらいたいというのは分かったのかい?」
ハルトの問いかけに、ハジャは笑った。
「さっきの喧嘩で僕は見惚れてしまった」
「はあ?」
「人間たちの声援を受けて立ち上がる君に。荒々しい声を上げて一つになった君たちに」
「別にありゃあ……同じ不良同士なだけだ。俺だって人間そのものは好きでもねーし、同じ魔族でも嫌いな奴は居る。そんで……少なくともテメエは大嫌いだ」
不良同士の馴れ合いを、そんな風に捉えられても困るとハルトは訂正しようとしたが、ハジャは首を横に振る。
「いいんだよ。それで。だからいいんだ」
「いや、よくねえだろ!」
「誰も彼も仲良くしろというわけじゃない。同じ種族同士ですら未だに不可能なんだから。ただ、人間だから嫌い。魔族だから嫌い。そういう固定観念を破壊したいんだ」
その言葉は、ハルトだけに向けられているわけではない。
この場にいる勇者一味に不良、そしてハジャが自分自身に言っているように見えた。
「あの戦争で何千万もの生命が命を落とした。世界が戦争という大義名分でお互いを殺し合った。互いの種族が自身の親を、家族を、師を、友を失った。止まらぬ憎しみが更なる憎しみを生みだし、血と命が流れた。それを僕たちは終わらせた。だが、終わった戦争もこのままでは意味が無くなってしまう。ハルトくん、君に人間を好きになれとは言わない。ただ、接して欲しい。そして、不良以外の人間にも魔族である君と接する機会を与えて欲しい」
いつものハルトなら吐き気がするほど薄ら寒い言葉だ。
だが、ハルトはこの時は黙って聞いていた。
それは、ハジャの言葉は綺麗事でも、言葉は全て本気だったからだ。
「そうすれば、いつか皆が互いに歩み寄り、人間も魔族も無くなる」
それは、壮大な夢想であり、不良にはピンとこなかったが、一つだけ分かった。
ハジャは世界を変えたいと思い、変えようとしているということを。
「僕たちは戦争を終わらせた。だが、ここから先は僕たちだけでは出来ない。だから、君が必要なんだ」
「なんで、俺が……」
「君と出会い、僕は君こそがそれを可能にしてくれると確信したからだ。己の信念や美学を曲げず、自分を偽らずに生き、そして人間と魔族という壁に囚われずにヒトと繋がる君にね」
そして、次の瞬間、世界の英雄が不良に向かって頭を下げた。
「レオン・ハルトくん……いや、ハルト! 君に世界を変えて欲しい!」
「ッ!」
世界を変える。ハルトはその言葉に衝撃を覚えた。
「世界を変える? 俺が? 不良の俺が世界を変える?」
「君が世界を変えることが、僕たちの夢の達成を意味し、そして君が僕たちにできないことをした証になる」
その言葉は、あの男が言っていた言葉だ。
その男は、ハルトにもカララたちにも、そして人間である海堂たちの心に刻み込まれている。
案の定、カララたちも衝撃を受けている。
「レオン・ハルトが……」
「世界を変える?」
「勇者に出来ないことを……ハルトが?」
正直何をするかは分からないし、どうなったらいいのかも分からない。
「ハジャ、何を勝手なこと言ってんのよ! それならセンフィが居るじゃない!」
無論、人間達はハジャの発言に待ったをかけている。当然だろう。
だが、それなのにハルトは不敵に笑みが零れた。
(世界を変える。おっさんがそう言ったときは、何も考えずにこの世で一番強い奴がやると思っていた。最強にこだわる俺はその言葉に惹かれた。でも、変える方法は他にもあったてのか?)
これ以上の事はない。
不良が世界を変えるという、マグダの野望。それが道となってハルトの前に現れたのだ。
(おっさん、喜べ)
迷うことは無かった。
「上等だ! 俺が世界を変えることが、不良が世界を変えた証明だ!」
熱いものが腹の底からこみ上げてきた。握った拳に力が入る。
(勇者を力で倒す以外に、俺がおっさんの墓に添えられる花があったのか)
皮肉にも、ハルトは勇者から、マグダと一緒に居た時に劣らないほどの興奮を得た。
このあと周りからハジャとハルトに向けて放たれる数々の意見など、何も耳に入らない。
ただ、ハルトは不良として世界の何かを変えてやろうと、腹の底から思った。
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