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第21話 魔界の女二人
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魔界のスラムと化した街も不良にとっては居心地のいい場所だった。
「おだー、おでにさけをもっどのまぜろー」
「ねえ、あんた店に寄ってきなよ。サービスするからさ。ね?」
「げへ、げへ、あー、また喧嘩やってるぞ? 今度はどこの街の奴らだ? 賭けるか? ミノタウロスと、あん? チビ女? でへへへへ、賭けになんねー」
「バカ、よく見ろ! あれは、カララちゃんだ。機嫌損ねると殺されっぞ」
朝まで酒を飲んだ酔っぱらいのゲロの匂いから、チンピラたちの喧嘩で溢れる血の匂いも、不良たちの居場所。
そして変わらぬ喧噪が今日も街に響いていた。
「ニトロクルセイダーズ共、調子こいてんじゃねえ! 俺は、サラズキ市二強の一人、ミノタウロス族のザッコーダ! 俺はマジで魔拳闘のプロ目指してたんだ。テメエらドシロウト集団なんざ目じゃねーんだよ!」
大柄のミノタウロスがファイティングポーズのままステップイン。相手を粉々に砕かんと強烈なアッパーを繰り出す。
対する相手は非常に小柄な少女。ミノタウロスの膝ぐらいの身長しかない。
だが、少女は一切ひるむことなく、それどころか正面から攻撃を受け止めた。
「うるさい。気の合わない奴らは皆殺しだ」
すると、
「ぎゃあああああああ、いってええええええええ!」
大柄なミノタウロスが拳を押さえてのたうち回った。手首が折れ、拳が砕けたのだ。
涼しい顔で立ちつくす少女。その肉体は光り輝くダイヤで身を包んでいた。
「ダイヤモンドシェル」
「体を硬質な宝石化させ、うぐっ、て、テメエ、まさかその能力は、滅亡したはずの!」
「物理攻撃も属性魔法も私には通用しない。そして」
「ひい!」
「ダイヤモンドナックル」
小柄な少女とは思えぬ破壊力。硬質化した右ストレートで、何倍もの体格のザッコーダをぶっとばした。
街中を二転三転して転がるザッコーダ。傷だらけの体をふらつかせながら、己を倒した相手を見上げる。
「つ、ツエー、これがニトロクルセイダーズ副総長にて、チーム幹部『五凶(ごきょう)』の一人、殲滅のカララか」
「次は、切り落とす。ダイヤの手刀。ダイヤモンドソードでな」
「ままま、待て! お、お、俺の負けだ、勘弁してくれ」
「ちっ、つまらん」
素直に敗北を認めて頭(こうべ)を垂れるザッコーダ。酔っぱらいや街のチンピラヤ水商売の魔族たちも歓声を上げる。
そんな中で、カララは静かに歩き、圧倒するようなプレッシャーを放ちながら告げる。
「約束通り、この街から出ていけ。二度とこの街でフライパンをするな」
「っ、だが、俺の負けは認めたが、『百獣爆走団(ひゃくじゅうばくそうだん)』は負けてねえ。まだ、俺たちのボス、獅子族のライガーさんが居る。ライガーさんが負けを認めねえ限り、俺たちのチームは動かせねえよ」
「ライガー? それなら大丈夫だ。私のチームの闇ギャルエルフが終わらせる」
丁度その時だった。巨大な影が差した。
何事かと上空を見え上げると、空から巨大な獅子顔の魔族が落ちてきたのだった。
「ラララ、ライガーさん!」
勢いよく地面に叩きつけられた魔族こそ、ザッコーダたちのチームのボス。
しかし、その彼は既に傷だらけで息も絶え絶えだった。
「ぐっ、ぐう、つ、お、俺様が」
「ライガーさん、どうしたんですか!」
「お、オル、ガだ」
「なんですか?」
「ニトロクルセイダーズ幹部、五凶のひと、ひとり」
何が起こったのか分からず、混乱するザッコーダ。
すると、時間差で何者かがもう一人空から舞い降りた。
音もなく着地をした女は、褐色肌で片目が隠れた黒いロングヘヤーに長い耳。エメラルドに輝く宝石を先端につけた、自分の身長よりも長い杖を携え、ミニスカートと白いシャツにカーディガンという少し不釣り合いな格好をした女だった。
「観念せよ。余の前ではあらゆる力が平伏せる」
「うぐっ」
「暴力は好むが殺生は好まぬのでな」
威風堂々とした佇まい。掃き溜めの街に舞い降りた神々しい雰囲気を醸し出す女に、ライガーは叫ぶ
「黙れ、オルガ! いくらダークエルフの元王族とはいえ、俺様がメスごときにやられるか! メスは黙って腰でも振ってオスの子種を孕んどきゃいいんだよ!」
その女は、ダークエルフのオルガ。
彼女はライガーの乱暴な発言に、顔を赤らめてくねり出した。
「そうであろう? うぬもそう思うか? そうであろう。おなごの役目は惚れた男の子を孕むこと。やはり、そうであろう! なのに、ハルトとくればいつまで余を放置しておく気か! いかに男の帰りを待つのも女の勤めといえども、余にも限界というものがある」
「あっ?」
「いや、怒っているわけではないのだ。余にとってハルトは待つに値する男。国を追われてハンター共に襲われたところに颯爽と現れたハルトと出会った時点で、余の操も心も既に決まっているのだから」
「おい」
急に関係ないことを喋りだし、怒ったり照れたりと既に喧嘩が頭に入っていないオルガ。
そんな状況にプライドを傷つけられた手負いの獅子が吼える。
「なにのろけてやがるんだ! だったら、俺がテメエを喰ってやるよ!」
「うるさいの。うぬらは、さっさと尻尾巻いて立ち去らぬか。恐喝、窃盗、麻薬の売買。この街はうぬらを決して受け入れぬ」
「黙れ! 同じ不良のくせに自警団気取りか? 今の世の中、どんな手を使おうと成り上がった奴が勝つんだよ!」
「同じ不良? 確かにニトロクルセイダーズも不良だが、うぬらとは違う。うぬらは……」
「死ねええええええええ!」
「クズなりの誇りがないからの」
鋭い爪と牙を光らせてライガーが駆ける。力づくでオルガを引き裂く気だ。
対してオルガは杖を突き出すように構えて、迎え撃つ。
「闇の螺旋雨(ダークボルテックスレイン)」
闇に染まった捻れた雨が降り注ぎ、ライガーの肉体に突き刺さって抉る。
手負いの獣の最後の牙も届かず、ライガーは意識を失って倒れた。
「不良なら、成り上がるのではなく、男を上げよ」
誰の目から見ても完全なる決着に、再び街中から歓声が上がり、ボスの敗北を見た百獣爆走団は尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
「おだー、おでにさけをもっどのまぜろー」
「ねえ、あんた店に寄ってきなよ。サービスするからさ。ね?」
「げへ、げへ、あー、また喧嘩やってるぞ? 今度はどこの街の奴らだ? 賭けるか? ミノタウロスと、あん? チビ女? でへへへへ、賭けになんねー」
「バカ、よく見ろ! あれは、カララちゃんだ。機嫌損ねると殺されっぞ」
朝まで酒を飲んだ酔っぱらいのゲロの匂いから、チンピラたちの喧嘩で溢れる血の匂いも、不良たちの居場所。
そして変わらぬ喧噪が今日も街に響いていた。
「ニトロクルセイダーズ共、調子こいてんじゃねえ! 俺は、サラズキ市二強の一人、ミノタウロス族のザッコーダ! 俺はマジで魔拳闘のプロ目指してたんだ。テメエらドシロウト集団なんざ目じゃねーんだよ!」
大柄のミノタウロスがファイティングポーズのままステップイン。相手を粉々に砕かんと強烈なアッパーを繰り出す。
対する相手は非常に小柄な少女。ミノタウロスの膝ぐらいの身長しかない。
だが、少女は一切ひるむことなく、それどころか正面から攻撃を受け止めた。
「うるさい。気の合わない奴らは皆殺しだ」
すると、
「ぎゃあああああああ、いってええええええええ!」
大柄なミノタウロスが拳を押さえてのたうち回った。手首が折れ、拳が砕けたのだ。
涼しい顔で立ちつくす少女。その肉体は光り輝くダイヤで身を包んでいた。
「ダイヤモンドシェル」
「体を硬質な宝石化させ、うぐっ、て、テメエ、まさかその能力は、滅亡したはずの!」
「物理攻撃も属性魔法も私には通用しない。そして」
「ひい!」
「ダイヤモンドナックル」
小柄な少女とは思えぬ破壊力。硬質化した右ストレートで、何倍もの体格のザッコーダをぶっとばした。
街中を二転三転して転がるザッコーダ。傷だらけの体をふらつかせながら、己を倒した相手を見上げる。
「つ、ツエー、これがニトロクルセイダーズ副総長にて、チーム幹部『五凶(ごきょう)』の一人、殲滅のカララか」
「次は、切り落とす。ダイヤの手刀。ダイヤモンドソードでな」
「ままま、待て! お、お、俺の負けだ、勘弁してくれ」
「ちっ、つまらん」
素直に敗北を認めて頭(こうべ)を垂れるザッコーダ。酔っぱらいや街のチンピラヤ水商売の魔族たちも歓声を上げる。
そんな中で、カララは静かに歩き、圧倒するようなプレッシャーを放ちながら告げる。
「約束通り、この街から出ていけ。二度とこの街でフライパンをするな」
「っ、だが、俺の負けは認めたが、『百獣爆走団(ひゃくじゅうばくそうだん)』は負けてねえ。まだ、俺たちのボス、獅子族のライガーさんが居る。ライガーさんが負けを認めねえ限り、俺たちのチームは動かせねえよ」
「ライガー? それなら大丈夫だ。私のチームの闇ギャルエルフが終わらせる」
丁度その時だった。巨大な影が差した。
何事かと上空を見え上げると、空から巨大な獅子顔の魔族が落ちてきたのだった。
「ラララ、ライガーさん!」
勢いよく地面に叩きつけられた魔族こそ、ザッコーダたちのチームのボス。
しかし、その彼は既に傷だらけで息も絶え絶えだった。
「ぐっ、ぐう、つ、お、俺様が」
「ライガーさん、どうしたんですか!」
「お、オル、ガだ」
「なんですか?」
「ニトロクルセイダーズ幹部、五凶のひと、ひとり」
何が起こったのか分からず、混乱するザッコーダ。
すると、時間差で何者かがもう一人空から舞い降りた。
音もなく着地をした女は、褐色肌で片目が隠れた黒いロングヘヤーに長い耳。エメラルドに輝く宝石を先端につけた、自分の身長よりも長い杖を携え、ミニスカートと白いシャツにカーディガンという少し不釣り合いな格好をした女だった。
「観念せよ。余の前ではあらゆる力が平伏せる」
「うぐっ」
「暴力は好むが殺生は好まぬのでな」
威風堂々とした佇まい。掃き溜めの街に舞い降りた神々しい雰囲気を醸し出す女に、ライガーは叫ぶ
「黙れ、オルガ! いくらダークエルフの元王族とはいえ、俺様がメスごときにやられるか! メスは黙って腰でも振ってオスの子種を孕んどきゃいいんだよ!」
その女は、ダークエルフのオルガ。
彼女はライガーの乱暴な発言に、顔を赤らめてくねり出した。
「そうであろう? うぬもそう思うか? そうであろう。おなごの役目は惚れた男の子を孕むこと。やはり、そうであろう! なのに、ハルトとくればいつまで余を放置しておく気か! いかに男の帰りを待つのも女の勤めといえども、余にも限界というものがある」
「あっ?」
「いや、怒っているわけではないのだ。余にとってハルトは待つに値する男。国を追われてハンター共に襲われたところに颯爽と現れたハルトと出会った時点で、余の操も心も既に決まっているのだから」
「おい」
急に関係ないことを喋りだし、怒ったり照れたりと既に喧嘩が頭に入っていないオルガ。
そんな状況にプライドを傷つけられた手負いの獅子が吼える。
「なにのろけてやがるんだ! だったら、俺がテメエを喰ってやるよ!」
「うるさいの。うぬらは、さっさと尻尾巻いて立ち去らぬか。恐喝、窃盗、麻薬の売買。この街はうぬらを決して受け入れぬ」
「黙れ! 同じ不良のくせに自警団気取りか? 今の世の中、どんな手を使おうと成り上がった奴が勝つんだよ!」
「同じ不良? 確かにニトロクルセイダーズも不良だが、うぬらとは違う。うぬらは……」
「死ねええええええええ!」
「クズなりの誇りがないからの」
鋭い爪と牙を光らせてライガーが駆ける。力づくでオルガを引き裂く気だ。
対してオルガは杖を突き出すように構えて、迎え撃つ。
「闇の螺旋雨(ダークボルテックスレイン)」
闇に染まった捻れた雨が降り注ぎ、ライガーの肉体に突き刺さって抉る。
手負いの獣の最後の牙も届かず、ライガーは意識を失って倒れた。
「不良なら、成り上がるのではなく、男を上げよ」
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