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第一章
第26話 抗議
しおりを挟むセカイくんが校長先生を脅したことで、そのすぐあとにソレは私たちへと通達された……
「「「「ええええええ!? 合成魔法発表会で平均点最下位のクラスは期末試験後の休みを返上で補習!!??」」」」
やりやがったよ……セカイくん……
「その通りです、皆さん。期末試験後は本来なら三十日ほどの長期の休みがありますが、それを返上しての補習となります。ゆえに、最下位にならぬよう、クラス全員が気を引き締めねばなりません! これまでは先輩方から教えて戴いた合成魔法……仮に全員が同じ内容でも問題なかったですが、今年からは最下位の場合にペナルティが課せられます! 他のクラスも最下位にならないためにも修練と工夫をしてくるでしょう。私たちも今のままでは全員の休みが無くなりますよ?」
そう言って教壇で熱弁するアネストちゃん。
悲鳴を上げる皆。
いや、私も協力するとは言いつつ、これに関しては悲鳴を上げちゃうよ……
「横暴だぁ、そんなの!」
「そうだそうだ! 学校側は一体何を考えているんだ! 不公平だ! 何で僕らの代からそんなことに!?」
「わたし、家族で旅行に行く予定なのに!」
「こんなの、保護者会も黙ってないんじゃないの?」
「っていうか……最下位の班とかならまだしも、クラス連帯ってどう考えてもおかしいでしょ!?」
当然、不満と抗議のブーイングが響き渡る。
というか、他のクラスも丁度同じタイミングで通達を聞いたんだろう。
学校中から不満の声が聞こえてきた。
でも……
「まっ、編入したばかりの俺には分からねえが、この学校で一番偉い校長先生が決定したんだから、もう覆せねえ。つまり全員死ぬ気で取り掛からねえと、休みが無くなるってことだ!」
ニタニタと笑みを浮かべるセカイくんの言葉にクラス中が「うっ」となった。っていうか、君の所為だからね?
一体、どんな交渉を校長先生と? しかも、校長先生は何で受け入れたの?
分かんない。
でも、セカイくんの所為だってのは分かるから、やっぱりムムムとなる。
「さらに校長の話では、例年使いまわしていたテスト問題も、今年から新しく作り変えるって言ってたな~……校長のポケットマ……コホン、とにかく教職員の基本給やボーナスもアップ、更に補習でもちゃんと特別手当を支給するということで、先生たちもやる気出すみてーだ……あ~、死ぬ気でやらね~と大変だなぁ」
「「「「テスト問題もッ!!??」」」」
「落第……しないようガチで勉強しねぇとな~」
あのね、セカイくん。私は正直後悔してるよ。
だって、それってつまりアホ娘って呼ばれている私まで必死に勉強しなきゃダメってことじゃん。一夜漬けでテスト問題と答えを暗記するだけじゃなくて……
「みなさん、今年からは色々と変わってくることになって大変かもしれませんが、これは己を高めるチャンスと考えましょう! まずは合成魔法発表会に向け、各々の班は真面目に取り組むしかありません。そして定期的にクラスのみんなで集まって中間発表をしたり、アドバイスを出しあったりなどをして、質を向上させましょう!」
セカイくんが裏でコソコソと何かをやって、表ではアネストちゃんが皆を引っ張る。
強制的に皆が「やらないとダメ」と思うようになっているのも幸いして、アネストちゃんも色々とトラウマがあったけど、堂々と皆を鼓舞して仕切っている。
「めんどくさいけど、皆でやるしかないわよね。私も休みなしは嫌よ」
「はぁ~だよねぇ~……」
ディーちゃんはもう諦めたみたいだけど……ディーちゃんはちゃんと頭いいし……う~、私にとっては死活問題だよぉ……。
でも、そのときだった。
「待ってよ、どう考えてもおかしいと思うんだけど。こんなの受け入れて必死にやるよりも、今まで通りに戻してもらうよう、先生たちに抗議した方がいいんじゃないか? もちろん、保護者会にも動いてもらってさ」
そのとき、クラスの男の子が手を挙げて、まさに私も是非そうしてもらいたいということを言ってくれた。
いや、私だけじゃない。
「そうだよ、どう考えてもおかしいよ!」
「そうだ! これじゃぁ、遊べねーじゃねえか!」
「魔法騎士養成学校は、人生最後の長期休暇パラダイスって話でしょ? こんな真面目にガッツリやるなんて聞いてないわよ!」
「私も~、魔法サークルの先輩たちと海合宿とか山でキャンプとか花火とかに行く予定なのに~」
「今年こそ彼氏作るために色々と忙しいのに~」
強制的に「やらなくちゃいけない」と思い始めていた皆が、「抵抗すべきだ」という声が上がった。
どうしよう……私もそっち派……
「あ、あなたたち……」
でも、私がそっちに行っちゃうと、アネストちゃんの敵になっちゃう。そんなのダメ。
何か言わないと――――
「別にいいじゃねぇか、ガッツリやればよ。それが嫌な奴は退学でもして、今以上に生温い楽な環境にでも行ってろよ。所詮そんな奴は、戦場に行ってもすぐ魔族にやられて、犯され、喰われ、大事なものを全部失って破滅して後悔する……だったら迷惑かけないうちにやめりゃいいんだよ」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
「魔王軍を倒す倒さない以前に、自分がいざ『そういう場面』に遭遇しても何もできなくていいって言うならな……」
そのとき、私やディーちゃんが何かを言い出す前に、セカイくんが挑発的な言葉を皆にぶつけた。
うん、戦争に対する意識高い系のセカイくんらしい挑発。
でも、戦争に対してイマイチピンと来ない私たちの世代からすれば……
「そういうのは、選ばれた勇者たちや、その一族とか他の天才とかがどうにかするんじゃねぇの?」
「あ゛?」
だよね……痛いことを言われちゃったな……
「セカイくんは編入試験ですごかったらしいね。天才ってやつ? でも、俺らは違うしな」
「そうそう、俺らは才能ない一般人だからさ」
「うん、別に私たちは普通の家系だし、魔力が多いわけでもないしね」
「ここに居るのも将来の就職に便利だって話だし、卒業の肩書持ってりゃ、色々いいことあるし……」
「聖勇者の血を引く選ばれた存在とか天才の人たちとは違うんだからさ~」
ダメだこりゃ……
「こ、こいつら……少しはアネストを見習えよ……」
「……セカイ……」
そんな感じで、セカイくんも流石に呆れた顔で頭を抱えちゃったよ……
「っていうか~、セカイくんさ~、出会って一日でアネストちゃんとやけに親密じゃな~い?」
「それある! それ思った! アネストちゃんはセカイくんを呼び捨てで、セカイくんもビッチ呼びから名前呼びしてるし!」
「昨日はビッチビッチって喧嘩してたのにさ~、うわ……あれ? あれあれあれ~?」
「え? まさか、セカイくんから? それともアネストちゃんから?」
「えぇ~、もうカップル成立?」
「それじゃあさ……二人がこんな真剣にやろうとしてるの、休みにデートとか旅行に行けなくなるからだったりして~」
「うわ~、冷める~それで私たちにもやらせようとしてんの~?」
そして、話は全然関係ない方向へ。
「ちょ、皆さん! 今はそんなこと関係ないでしょう! 私とセカイが親密とかカップルとか……お似合いとか……お似合い……あぅ……」
「そうよ、あんたたち、関係ないこと言ってんじゃないわよ!」
「ねぇ、みんな! あのさ――――」
アネストちゃんとセカイくんを冷やかすかのような……アネストちゃん自身もちょっち暴走してるし……ってか、お似合いとは誰も言ってなくない?
「ふぅ……お前ら……はぁ~……ったく」
そのとき、ゆっくりと立ち上がったセカイくんは、アネストちゃんのいる教壇まで行き、そして私たちに向かって……
「しゃーねぇ……今からお前ら全員、外へ出ろ。俺とケン……ゲームをしようぜ?」
突然何を? っていうか、今……ケンカって言いそうにならなかった?
でも、あまりにもいきなりすぎて、皆キョトン顔だし、何ならメンドクサイ?
だけど、セカイくんは……
「まっ、新入りの俺が突然こんなことを言っても、ゆるくて温くてめんどくさがりなお前らはやる気にならねえだろうから、こういうのはどうだ? ここだけの話……俺は校長の弱みを握っている」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
「もし、このゲームにお前らが勝ったら……今回の通達とか新しい取り組みはなしにして、元の形に戻すよう、俺が必ず何とかしてやる……ってのはどうだ?」
それは、流石にやる気にならざるを得ない言葉だった。
でも、この時点では私たちはまだ知らなかった……
「セカイ、大丈夫なのですか? それにゲームっていったい……」
「俺とお前ら全員で対決し……先に完全無力化し、そして……寸止めまでした方が勝ちってゲームだ」
「無力化? それは一体……それに寸止めとは?」
私たち男子も女子もこのゲームで……
「ま、いいじゃねえか。ほら、来いよ。そしてかかって来いよ、未来の魔法騎士たちよ」
抗うことのできない、力、そしてクラスの脱衣大会、そして―――
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