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第14話 希望(2)

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 熱気溢れ、同時にその口元には無邪気な子供のような笑みを浮かべている。


「貫けぇぇ!! 螺旋ロードッッ!!」


 アークスがドリルをキカイの胴体に叩きつける。
 激しい衝撃音と共に火花が飛び散る。
 世界連合軍が知るこれまでの戦いであれば、キカイがこのままふっとばされ、そのままノーダメージで立ち上がるか、もしくは武器が破損するかのどちらかである。
 しかし、今から見るのはまたしても彼らにとっては世界初のこと。

「うおおおおおおおお!!!!」

 アークスのドリルがキカイの胴体に突き刺さり、貫いて激しい回転とともにその胴体に風穴を開けた。
 やがてその風穴からキカイの全身に亀裂が走り、更にドリルの激しい回転とと共に発生した渦巻きがキカイを粉々に粉砕しながら吹き飛ばしたのだ。

「な、なんだ……と?」
「うそ……」
「キカイが……」

 世界で初めて、キカイがいつも自分たちに向けて放っていたのとは違う言葉を発した。
 世界で初めて、キカイを傷つける攻撃を見た。
 そして世界で初めて……

「キカイが……死んだ……」

 たかが、キカイ一人の死である。
 しかしそれでも、その一人の死は、人類にとっては大きすぎる衝撃。
 本来歓声を上げるべき事態でありながら、誰もが驚きのあまりに言葉を失っていたのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……まだだ! 俺の生み出す超金属ッ!!」

 アークスの猛りは終わらない。
 再びその右腕を変形させ、筒型になる。その先端をキカイに向け……

「穿てッ!!」
「危険。回避不能――――」

 高速で強烈な何かを放ち、次の瞬間にはまた一人のキカイが頭部をふっ飛ばして倒れた。

「な、す、すごい!」
「なんという……一人で、キカイを二人も殺した?! 何者じゃ!?」

 何が起こっているか、この場に居る誰もが分からない。
 今、自分たちは何を見ているのか?
 一方で……

「はあ、はあ……あっ……は……」

 アークスもまた無我夢中で熱気のままに動いていた心が徐々に落ち着いてきた。
 まるで自分の中のあらゆる力を総動員して放出したような虚脱感に包まれる。
 が、

「俺……あれ? 俺……なんで……」

 そして、再び訪れる疑問。
 今、自分は何をやったのか? 
 自分は何でこんなことができるのか?
 何も分からない。
 やがて、左腕は元の形状に戻り、アークスは自分の全身の力が一気に抜ける感覚に襲われた。瞼も重い。

「あ、俺……」

 気になることが山ほどあるというのに、自分の意思とは無関係に身体が強制的にその場に倒れ込んだ。
 起きようとしても、起き上がれず、目を開けようとしても瞼が落ちる。
 やがて、意識までもが遠のき、アークスはそのまま気を失った。

「こ、小僧……」
「す……すごい……ドキドキが……抑えられない……!」

 倒れ込んだアークスを眺めながら、未だに呆然とするトワイライトとクローナはじめとする、世界連合軍たち。
 しかし、事態の危機はまだ去っていない。

「捕獲」
「捕獲」
「捕獲」

 残ったキカイたちが一斉に倒れているアークスに向かったのだ。
 トワイライトたちすら初めて聞く「捕獲」という言葉。
 それを聞き、トワイライトはハッとして慌てて叫んだ。


「ぜ、全軍に告ぐ! その小僧を連れて行かせるな! 絶対に死んでも死なせるな! 死んでも守るのだッ!!」

 
 トワイライトにはアークスのことが何も分からない。
 そもそもまともな自己紹介もされていないので、この時点では名前すらも分からないのだ。
 しかし、アークスが自分たちの誰一人としてできなかったキカイを殺すということを成し遂げた。
 その事実。
 そして、残りのキカイたちがそれを脅威と感じてアークスを連れ去ろうとする目の前の事態。
 絶対にさせてはならないと理解した。


「そやつが何者なのか、儂にすら分からぬ……が、これだけは言える! 間違いなくそやつは……希望じゃぁッ!!!!」

「「ッッ!!??」」

「人類の……世界の希望だ!! 誰でもよい! 誰が死んだとしても、その小僧だけは死なせるな! その小僧を連れて安全な場所へ行くのだ!!」


 トワイライトが叫ぶ希望という言葉。それは決して誇張ではない。
 何故ならば、新人類・キカイが誕生して今日にいたるまで、世界連合軍は一度たりともキカイに勝ったことはない。
 しかし今、キカイを倒した存在が目の前に現れた。

 何者なのかは分からない。

 それでも、希望だ。


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 
 呆然としていた世界連合軍の兵たちの瞳に炎が宿った。
 一斉に激しく咆哮。
 
「守れぇええ!」
「うおおおおおお!!」
「俺たちの命、くれてやらぁぁぁあ!」
「だが、希望は絶対に守り抜くうぅ!!」

 死んでも守るという一つの意志と共に、兵たちは決死隊となって立ち向かった。
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