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第九章

第280話 本気の答え

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 反省の意味もこめて正座させられていた。
 二人の女の色香に負けたことに後悔はねえ。あそこまでされて手を出さないのは不能だけだ。だからそこの反省はしない。
 俺が反省すべきは、ウラの複雑な心境を察知できなかったことだ。
 まさか家出するとは思わなかった。

「うわあああああん、ウラ姫様―っ!」
「くそ、本当に誰が見ていないなりか?」
「せめて方角さえ分かれば!」

 サミット二日前になり、行方をくらませたウラ。
 パニック状態のラブ・アンド・ピースの魔族たちは、泣いたりテンぱったり、朝からずっと慌しい。
 一方で……

「ひははははははははははははは!」
「あははははははははははははは!」

 朝日が眩しく照らされる中、正座させられている俺を指差しながら、マッキーとアルテアは大爆笑していた。


「しゅ~っ・ら・ばっ、フウ! しゅ~っ・ら・ばっ、ヒュー! ひはははは、修羅場パナイ! これが本当のシュラブル!」

「つか、まぢウケるし! いや~、あたしもいつかこんな日が来ると思ってたんだよね~。つか、エルっちとアルーシャの胸揉んで、キスしてた場面をウラウラに見られたとか、二股芸能人も真っ青な修羅場じゃん!」


 正座する俺の肩を二人して叩いてからかってくるこのコンビ。だが、反論することも出来ない。
 正にぐうの音も出ないと言ったところだ。


「だーっくそ、そうだよ、悪かったな! 揉んだよ、チューしたよ、悪かったな!」

「ひははははは、開き直り! いや~、でも、ヴェルトくんはやるね~。そりゃーさ、パッパになったんだからエルジェラちゃんとパコるのは分かるけどさ、なーんでドサクサに紛れてアルーシャちゃんも乱入してんの?」

「それ、あれじゃね? 昨日、あたしらが唆したからじゃね? ヴェルトは童貞だし、筆下ろしの相手、しかもバージンだったりしたら、ぜってー責任取るから、襲って来いって言ったの、まぢにしたんじゃね?」


 犯人はお前らかよ! 

「……最後まではしなかったのに……まさか、こんなことになるなんて……」

 二日酔いで相当体調が悪そうだが、俺の隣で顔を赤くして俯きながら同じく正座するアルーシャ。しかも、さっきから昨日の痴態を思い出したりしては、頭を抱えて悶え苦しんでいるなど、かなりの重症だ。

「ああ? んなことよりだ、クソガキ。ちゃんとブス二人を孕ませたのか?」
「チロタンよ、話がややこしくなるから、静かにした方がよいと思うのじゃが」
「お兄ちゃんも男の子なんだから、仕方がないと思うけど」
「しっかし、あの魔族の姉さんも繊細やのう」
「白濁交じりのゴミめ。死滅しろ」

 ラガイアのフォローが泣けてくる。弟よ、哀れな兄を許してくれ。

「まさか、ウラさんが、それほどまで追い詰められていたとは、私も浮かれて気づきませんでした。昨晩の肌を重ねる儀式に、ウラさんもお誘いするべきでした」
「へい、エンジェル。それは、ファイヤーにオイル……いや、ニトログリセリンをミックスするような行為だ」

 相変わらずズレているエルジェラを余所に、マッキーとアルテアの悪ふざけは止まらない。

「ゲスの極み世界征服野郎~♪」
「浮気は文明~♪」
 
 俺とアルーシャの周りをスキップする二人。
 こいつら、意外に息ぴったりだな! 

「で、どうするゾウ? ヴェルト君」

 そんな中、少しため息を吐きながら、一人冷静なカー君が言葉を発した。

「カー君。どうするって……」
「ウラ姫が家出したというのは、ウラ姫自身の意思であろう? サミットやラブ・アンド・ピースにとっては痛手であろうが、小生らには関係あるまい」

 冷静で現実的な一言だった。
 その通り。
 ウラが家出しようがどうしようが、カー君たちにはぶっちゃけ関係ないのである。

「カイザー、待ってくれないかしら。ウラ姫は私たちにとっては無関係ではないわ。彼女は、私たちの友達の娘でもあり……そして、ヴェルト君にとっては……その……家族みたいなものなのよ」

 そう、アルーシャたちにとって、魔王シャークリュウであった鮫島の娘にあたる存在だ。
 そして俺にとっては、家族。そこに間違いは無い。

「うむ。魔王シャークリュウの墓参りをしていたことで、それも理解しているゾウ。聖騎士の魔法で記憶を操作されているようだが、ヴェルト君とは知らない関係ではないというのも察したゾウ。しかし、それでもだゾウ。小生らの目的を忘れたわけではないゾウ?」

 そう、俺たちの目的は、この世界の行く末を左右させる問題に立ち向かうこと。聖騎士や聖王が全てをゼロにする行動を起こす前に、なんとかしなくちゃならねえ。
 ガチな顔して俺たちに問いただすカー君の言葉は何も間違っちゃいねえ。

「ヴェルト君よ。別に恋愛にうつつを抜かすのは悪いことではないゾウ。君のような若者は特に。だが、小生らの本分も疎かにはして欲しくないゾウ。特に小生は、君の掲げた野望に同調したのだから」

 世界征服を掲げながら、やってることは寄り道ばかりで惚れたハレたの青春ゴッコ。カー君が呆れるのも無理はねえ。

「ひははははは、無骨なカー君ならではだね」
「ほんまやな。親父とはえらい違いや。ワイらの親父なんか、一日経てば十人新たな女房を連れてくることもあるしな」

 カー君が言ってるのは、厳しいことでもなく当たり前のこと。
 言葉の端々から「いつまでもふわふわしてないで、ちゃんとしろ」と言っているように聞こえた。
 だが、俺が俯くと、カー君は言葉を続けた。


「ヴェルト君。小生は怒っているのではないゾウ。ただ、ハッキリと先導して欲しいのだゾウ。ノリでも構わないが、君の本気でな」

「カー君………それって……」

「簡単だゾウ。君が恋愛対象としてウラ姫をフッたのであれば、何もする必要はないゾウ。立ち直るのはウラ姫自身の問題だゾウ。しかし、君が妻と子を持ちながらも、それでもウラ姫が自分の女であると宣言するのであれば、小生らにとっても無関係にはならぬ。小生らにもちゃんとした目的が出来る。仲間である君の女を何とかして立ち直らせようとな」


 その時、ようやく俺はカー君の言ってることの意味がわかった。
 俺に、サイテーな考えでもいいから、ハッキリしろと言ってるのだ。
 このままウラが自分で立ち直るまで放っておくのか。
 それとも……

「カー君……俺はな……」

 どっちなのかと……

「前世も現世も含めて……俺にはこの世で最も親しく、そして長く一緒に居た存在が居る……それが、先生と、そしてフォルナとウラだ」

 結論からではなく、過去を振り返りながら、俺は言葉を続けた。

「ウラと出会ったのは十歳の頃。魔王シャークリュウの死に際に立ち会った俺に、シャークリュウは男の頼みとして俺に、自分の宝でもあるウラを託した。ウラが魔族だろうと関係なかった。俺はあいつとの誓いを……ウラを守るためなら何だってやった。頭だって下げたし、家族にだってなった。あいつは、親友の娘であることから、俺にとっては同い歳の娘か妹のような存在だった」

 妹でもあり、家族でもあり……まあ、あいつは親愛の先の家族よりも、恋愛の先の家族を望んでいたけどな。

「俺には、気になっていた女が他にも居たし、フォルナの気持ちも分かっていたから、正直恋愛的な感情であいつを見ていたかと聞かれれば微妙なところ。あいつが心から惚れた男でも連れてくりゃ、親父や兄貴みたいな感覚で喜んだり反対したりしたかもしれねえ」

 そして、二年の空白と記憶の消去という現実の中で、俺たちはようやく再会した。
 案の定、ウラは俺のことを覚えてなかったが、それならそれで仕方がないと思っていた。
 

「やっぱり、あいつを泣かせたままなんてできねえ。だから、俺が原因で泣かせたってことなら、俺はあいつをどうにかしないとならねえ」

「だが、追いかけてどうするゾウ? 追いかけて、君はウラ姫に何をするゾウ?」


 泣かせたままにはできねーから、追いかける。
 だが、問題はその後。追いかけてどうする?


「君へのほのかな想いと失った記憶との板ばさみに苦しむウラ姫に、エルジェラ殿とコスモスちゃんという妻と子……アルーシャ姫という愛人を得た君がどうるすゾウ?」

 
 その時、アルーシャが、「えっ、私は愛人? 本妻じゃなくて?」と戸惑ってるが、それは無視。


「ひはははは、なるほど。重要なのは言葉より、どう行動を示すか。エルジェラちゃんのオッパイモミモミ、アルーシャちゃんっとぶっちゅっちゅのヴェルト君が何をするか!」

「ぎゃははははは、昼ドラ昼ドラ。どーせなら、朝チュンしてれば、もっと決定的な修羅場だったじゃん」


 悪ノリ二人組みのからかいを耳に入れながら、俺がウラにどうするか……


「ウ……ウラが誰か他の男に心から惚れ、そして幸せにしてもらえるならばとも思ったけど……今、ウラを泣かせたのは俺だから……」


 俺だから? と、仲間全員で聞き返してきたので、俺は半ばヤケクソ気味に意味不明な言葉を思うがままに発した。


「ウラを泣かせた責任を込めて、お、……俺がウラを幸せにしてやることにした………」


 ―――――――――――――――――――?


「そ、そもそも、ウラがずっと好きだったのは俺なんだから、俺が一番幸せにできるに決まってんだから、それしかねーんだよ!」


 言っていてかなり頬が熱くなって恥ずかしい。
 だが、まだ皆は俺の言葉の意味が分かっていないようだ。
 俺がウラに何をするのか……それは――――
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