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第八章

第272話 借りを返す

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 サイクロプスの連中からしたら、たまったもんじゃないだろう。
 正直、軍人人生至上最大級の無駄足だっただろう。

「ふざけるな! ラガイアを引き渡さんとはどういうことだ!」

 顔面をジャックポットにボコボコにされながらも、ハッキリとした意識で怒号を上げる、ステロイ王子。
 だが、その前に俺たちが立ちはだかった。

「なんや、ステロイはん、ワイに負けたんやから諦めや」
「ま……まけてはおらん! 負けてはおらん! うやむやになっただけであって、まだ私は負けてはいない! それに、それとこれとは話が別であろう!」

 まあ、ヤンキーの喧嘩じゃねーんだから、死刑囚を連れていく連れていかないをド突き合いに委ねるのも確かにおかしな話。
 だが、自分も兄であることから、サイクロプスたちの態度に我慢ならなかったジャックポット同様、俺もまたその隣に立っていた。

「俺もこいつには、借りがある」
「ぬっ!」
「身内のゴタゴタに力を貸してくれたしな」

 死んだように俯き続けたこいつが、さっき俺の道を開けてくれるために立ち上がり、そして力を貸してくれた。

「そもそもだ! そもそも貴様はなんなんだ! 竜人族どころか……SS級賞金首のキシンに、死んだはずの四獅天亜人のカイザーまで居るではないか! なんなんだ、この組み合わせは! おまけに、エルジェラ皇女にプロポーズしたあげくに、コスモス姫のパッパとか、しかも何か喧嘩してこの惨状はどうだ!」

 色々とあった挙句、結局スモーキーアイランドはゴミが全部ダンガムとなったために、ただの更地と小さな山があるだけの島となった。
 そして、ヘドロの海には激しい戦闘でぶっ壊れている軍艦の数々。
 怒るよな。そりゃ。

「パッパとマッマ~! パッパとマッマ~! パッパとマッマとコスモスッ~♪」
「あらあら、この子ったら……見てください、ヴェルト様~」
「お、おお……」

 俺とエルジェラに挟まれて、何だか意味不明な歌を歌いながらハシャぐコスモス。
 畜生、かわいい……

「かわいっ……ではなかったッ、は、話にならん! ウラ姫、この男はそなたの知り合いなのであろう! 何とか言ってもらえないか」

 急に話を振られたウラだが、正直ウラ自身も困っている。

「う……む……おい、そこの男」
「なんだよ」
「もし、ラガイアを力ずくで連れて行くと言ったらどうする?」
「ん? そんときは、俺の後ろに居る、こわ~いお兄さんたちが黙ってねえ。まっ、俺も黙ってねえけどな」

 コスモス取り押え隊として共に戦った、ジャックポット、キシン、カー君、そしてチーちゃんまで不敵な笑みで、体育座りしているラガイアの回りを固めていた。
 おお、これだけで世界獲れそう。

「それが、ラブ・アンド・ピースならびに、マーカイ魔王国全土を敵に回すと理解しての行動か?」
「さーな。もう、色んな奴に喧嘩売りすぎて、いちいち誰が敵かなんてどうでもいいよ」

 ウラはもう俺に怒るというよりも呆れたようにため息ついていた。
 正直、ウラ自身これ以上どうにもならないことが分かっているからだ。
 いや、そもそもウラだからこそ、分かることもある。


「混血がどうとか、種族がどうとか、友好だ条約だ、そういうディベートや争いは、政治家と軍人共で共有してりゃいい。俺には興味ねえ。でもな……ウラ……そういうもん、お互い良く知り合っちまえば、意外とどうでもよくなることぐらい、お前が一番分かってるんじゃねえのか? ハナビもカミさんも先生も、お前が魔族かどうだなんて、一度も気にしたこともねえだろ?」

「ッ! お、お前……そこまで……私を知っているのか?」

「ウラ。そんなお前なんだ。重要で責任ある役職に座ってるんだろうが、あんまつまんねーことを聞くんじゃねえよ」


 知っているさ。なんなら、お前が十歳から十五歳までの間にも持っていたパンツとブラの柄を全部言えるぐらい知り尽くしているさ。
 だが、俺の言葉には何かしら思うところがあったのか、ウラも少しだけ俯きながら考え、そして顔を上げた。

「ステロイ王子。どちらにせよ、我らの現存戦力ではどうしようもない」
「ぬっ、ぐぐ、ぬ、ぬう……」
「ある意味で、見逃してもらっているのは我々だとも理解するべきなのだろうな」

 まっ、現実的にそうなるよな。さすがにそれはステロイも承知したのか、文句を言いたそうにしながらも、歯噛みしている。


「ステロイって言ったな。いいじゃねえか。どーせこいつは処刑される運命……焼却処分される運命だったのに、それをリサイクルして使おうって奴が現れたんだ。捨てたり処分したりするよりも、実に環境に優しいエコロジーだ」

「言ってる意味が全く分からん! 大体、その愚か者は存在するだけで害を与える! 呪われし忌み子など、百害あって一利なしだ! 大体、そいつが恨みを持ち、将来マーカイ魔王国に害を与えたらどうするつもりだ! どうやって責任取るつもりだ!」

「くははははは、ラガイアのやったことに、誰が責任を取るか? そんなもん決まってんだろうが」


 俺はハシャいでるコスモスを持ち上げて、笑ってやった。

「子供をちゃんと育てなかった、親が責任を取るんだよ」
「な……ん……だと……?」
「魔族同士だろうが、人間との子供だろうと、……天空族との子供だろうと、責任は親が持つんだよ。特に成熟していないガキなら尚更な。覚えとけ」

 だから、そこ! マッキーとかアルテアとか、「二年も放置してたくせに……」、「その責任放棄しようとしたくせに」、「男の責任取らないくせに」とかニヤニヤしながら言うんじゃねえよ。

「ふ、ざ、ふざけるな、な、なぜ父上がそんな奴の責任を持たねばならん」
「けっ、見境なくガキを作るからだ。責任も持てねえくせによ。……俺も、気を付けねーとな……見境なく作るのはな……」

 その瞬間、なんかキラリと眼が光、なんかすごいあせった感じでアルーシャがコスモスを俺の手から奪い取った。
 なんか、周りに聞かれちゃいけない会話でもしてるのか、ボソボソ何やら小声でコスモスに吹き込もうとしている。

「こ、コスモスちゃん」
「ん~?」
「その、あ、あなたは、その、は、……腹違いの姉妹や兄弟は欲しくないかしら? 欲しいでしょ?」
「コスモス……ねーねいるよ?」
「そうじゃなくて、その、妹と弟よ!」
「いもーと? おとーと?」
「ええ、いるとすっごい、楽しいわよ! そう、絶対に楽しいの。家族が増えるってね、それだけ素晴らしいことなのよ」
「お~~~」
「ね? だから、パッパにお願いしたほうがいいわよ。あっ、腹違いの……言ってみて? は・ら・ち・が・い」

 何言ってるが分からないが、とにかく俺の防衛本能が騒いだ。
 うん、本当に気をつけよう。

「とにかくだ、息子が家に帰ってきもらいてーなら、テメェらのパッパ自ら迎えに来て頭を下げろって言っておけ」

 親だって間違えることぐらいある。そんときは、精一杯子供に謝罪するしかない。だが、それもできねーなら、もうそれまでだ。


「それすらできねえって言うなら……かかって来やがれ! 全員まとめて相手してやる!」


 こいつは渡さねえと、俺たちはそう断言した。
 後はもう早かった。

「ガリガ…………全員に知らせろ…………撤退だ…………」
「うっ、……し、しかし…………」
「父上たちには私から報告する。どちらにしろ、全滅するわけにもいかん…………これで、打ち止めだ…………」

 渋りながらも、既に半壊しかけたマーカイ魔王国軍も、このメンツを今から相手にするのは不可能だと判断した。
 兄貴としてはDQNでも、軍人としてのそこら辺の判断はそこまで愚かでもないようで、傷ついた軍艦引き連れてサイクロプスたちは早々に引き返していった。
 まあ、次の会ったら、かなり睨まれるだろうし、多分今回の件で俺たちのことは世界に知られちまっただろうがな。

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