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第八章
第261話 元嫁と元奥様
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「我こそは、正当なる王族にて最強の怪力無双! マーカイ魔王国第二王子の『ステロイ』だ!」
うおっ! び、ビックリした!
「つ、な、なんだ!」
「耳が!」
「うっさ。マジパナイ声」
突如響いた声が、海を、風を荒ぶらせ、島が若干揺れた気がした。
この馬鹿でかい声は誰だ? キーンと耳鳴りする耳を押さえながら見ると、島とほんの数百メートルの距離にある船の船首に、人型ではあるが、物凄い横幅のでかいサイクロプスが仁王立ちしていた。
「我がマーカイ魔王国を存亡の危機に追いやった面汚し、我が弟のラガイアよ、そこに居るのは分かっている! 大人しく投降せよ! この包囲網、お前ごときが突破できるものではない!」
まるで相撲取りが何人も合体したかのような横幅。
ウニのようなツンツン頭に、赤黒い肌、そして一つ目。
身に纏うのは鎧じゃなく、トーガ。
「つかさ、ゼツキの時といい、魔族ってのは大勢の前で名乗りを上げたり演説するのが好きなのか?」
「ひははは、ヴェルト君、あれが武人の矜持ってやつっしょ」
「ん? へい、ヴェルト。あのマッスルボーイの隣に居る、メガネボーイを見ろ。あれも、プリンスだ」
「ええ、私も知ってるわ。確か、第四王子の『ガリガ王子』ね」
キシンが指差すステロイとかいう関取サイクロプスの隣には、一つ目メガネをつけた細身の若いサイクロプス。
落ち着いた物腰だが、なんかスゲーニタニタ笑ってやがる。
「ふふ、ステロイ兄様。ワザワザ、投降を進める必要もありますまい。父上より、奴は始末して構わないことを伝えられているはずですよ?」
「はっはっは、馬鹿を言え、ガリガよ。我らが仕留めるのは簡単だ。しかし、それでは名が全土に広がらぬ。ラブ・アンド・ピース立会い下にあのクズを捕らえ、そして全国民の面前で公開処刑してこそ、意味があるのだ」
「なるほど。さすがですね、ステロイ兄様」
あの二人が親玉か。
まあ、確かに他にチラホラ見えるサイクロプスとは一味違いそうだ。
だが、ぶっちゃけた話、俺にはそこまでの脅威には見えなかった。
同じ魔族なら、それこそキシン、ゼツキの圧倒的力と威圧感に比べれば、どこか許容範囲内に見えた。
「おい、ラガイア。あんなこと言ってるけど、どうするんだ?」
「………立ち上がるのも面倒だ……」
おかしなもんだ。
腹違いかもしれねえが、仮にも弟に対するあいつらの態度もそうだが、兄を前にして弟のこの反応。
いろんな家族がこの世には居るもんだな。
少なくとも、ヴェルト・ジーハの人生にはない家族関係だと感じた。
「ふっ、相変わらず根暗なクズは反応なしか。構わん、上陸するぞ!」
「まったく、誇り高き我ら王族が、こんなゴミ溜めの島に足を踏み入れなければならないとは、本当に迷惑ばかりかけるクズですね」
船が構わず島へと寄せられ、次々と人型のサイクロプスたちが上陸してくる。
確か、通常サイクロプスってのは巨人の単細胞ってのが主流だが、こいつらのように人間大の大きさで知能を持った奴らは、ハイサイクロプスって呼ばれ、サイクロプスの中でも選ばれた存在とか聞いたことがある。
百人、二百人と、次々上陸してくる。
だが、正直な話、俺は目の前までサイクロプスが近づいてこようとも、まだ大丈夫だった。
問題なのは、こいつらと共に行動しているといわれる……
「何をしている、ステロイ王子、ガリガ王子、勝手にどんどん先に行かれると困るぞ。この作戦は、天空族と共同作戦というのをお忘れか?」
ああ、そうだよ。こいつだよ。
「ウラ……」
その姿を見ただけで、頬が緩んだ。心が温かくなった。
あれから、二年。十七歳か。もう立派な一人の女だな。
なんだろうな。やっぱあいつの娘だし、それにずっとガキの頃から妹でもあり、娘のようにも見てきたからな。
やっぱ、感慨深いものがある。
会いたかった………
「おお、これはこれは、両姫様。申し訳ない、居ても経っても居られずに、先走ってしまいましたよ」
………ん?
「その通りです。みんなで一緒に力を合わせて行ってこそ、意味があるのだと思います」
あれ?
いや、あのさ、サイクロプスの船が島に寄せられ、遅れてもう一隻船が寄せられたんだよ。
それは、ラブ・アンド・ピースの船だ。そう、そして、ウラがここに居るのは、既に聞いてたから大丈夫だ。
でも、なんでこいつまで居るの?
空を囲む戦乙女たちと同種の天使。その女は、俺のウラと並ぶようにこの島に降り立った。
「うお、なになに、なんなのあれ! 本物? 本物のパイパイ! パナイパイ!」
「なんや、あの姉ちゃん! で、デカ!」
「……おい、ゴミ……あれ……偽者だよな? 偽者だよな?」
皆がビックリするのも無理はねえ。
それとユズリハ、ツルペタなお前じゃ理解できないかもしれねーが、あれは本物だ。
あの二つのスイカップは本物だ! つか、相変わらず、デケー……
「おい、お前まで来るな。里帰り中に協力を仰いだのはこちらだが、ワザワザお前が前へ出る必要はない、船であの子と待っていろ。お前に何かあったら、コスモスが悲しむ」
「もちろん、無理はしません。ですが、私、今……コスモスにイジケられていまして……」
「ん? イジケられてるって……何かあったのか?」
「ハイ。この間、エルファーシア王国の公園で遊んでいたとき、近所の子達に父親が居ないことをからかわれてしまいまして、それ以来、ずっとふてくされているのです」
「そうか……それは何とも……あの子には、沢山の兄や姉は居るが……父親だけはな」
「はい。天空族としてそれは致し方ないことですが、あの子にはまだそれが理解できないようで、ことあるごとに、『コスモスにはパッパいるもん!』と泣き叫ぶのです。本当に、どうしたものでしょうかね」
あのさ、お前らさ、近所のママ友と近所のゴミ捨て場で雑談してるわけじゃねーんだぞ?
とツッコミを入れたくなった相手は、正に俺の元奥さんだった。
「はっはっは。ここは我らに任せてくれと言いたい所ですが、ウラ姫も、エルジェラ皇女も、もう少し気を張った方がよろしいと思いますよ?」
そう、ウラ……そして……エルジェラ。
俺の元嫁と元奥さんが同時に現れちゃったよ。
「ウラ姫様! 姫様こそあまり前に出られないで欲しいであります!」
「その通りなり。今、魔族においてウラ姫様の代わりはいないなり」
「まあ、それをお守りするのが我らの勤めでしょうが!」
あ、あいつら! えーっと、名前忘れた! 確か、二年前に会った、ウラの仲間じゃねえか。
ロイヤルなんとか!
「おお、これはこれは、壮観ではないか。『魔法銃士ルンバ』、『召喚術師バルド』、『カラーテ拳闘士ジョンガ』。我が愚弟討伐のために、豪華すぎる顔ぶれですな、ウラ姫」
「ステロイ王子。それもそうだろう。我らの目的は、ラガイアのみではない。二年もずっと行方不明になっていた『あの魔王』が、この島に居るのだ。感知能力を持った魔法使いがようやく、『奴』を見つけたのだ。それは警戒もするだろう」
「おお、『あの魔王』がこの島に潜伏しているという話は聞いてはいるが、それでもこの俺が居れば、あんな単細胞の魔王など一ひねりよ。天空族にまで協力を仰ぐ必要もなかったのでは?」
ん? ウラ、今何を言った? 『あの魔王』?
「そう言わないでもらいたい。あの異形の怪物には、我らにも因縁がある。わざわざ地上まで来たのだ。奴らは我らに任せてもらいたい」
「へへ、あの死にぞこないは、俺らに任せな! な? エルジェラ。それに、イジケてるコスモスに、叔母さんもスゲーって教えてやらねえとな! って、しっかし、キタねーところだな、ここって。地上ってみんな、こんなんなのか?」
あの二人は! 確かエルジェラの姉ちゃん! 名前忘れたけど、チンチンチンチン言ってたのは覚えてるぞ!
わ~お、なんとも豪華なメンツじゃねえか。つか、『あの魔王』って何だ? キシンじゃねえよな?
いやいやいや、っていうか、まったく予想もしていなかった奴を見ると、やっぱテンパるな。
「くくくく、おい、そこでうずくまっている出来損ないよ! 顔を上げ……ん? なんだ? 貴様ら」
正面から世界の名だたるVIPたちを先頭にしてここまで行進してくるお客様方。
奴らはようやく、うずくまるラガイアの前で突っ立ってる、俺たちの存在に気づいた。
うおっ! び、ビックリした!
「つ、な、なんだ!」
「耳が!」
「うっさ。マジパナイ声」
突如響いた声が、海を、風を荒ぶらせ、島が若干揺れた気がした。
この馬鹿でかい声は誰だ? キーンと耳鳴りする耳を押さえながら見ると、島とほんの数百メートルの距離にある船の船首に、人型ではあるが、物凄い横幅のでかいサイクロプスが仁王立ちしていた。
「我がマーカイ魔王国を存亡の危機に追いやった面汚し、我が弟のラガイアよ、そこに居るのは分かっている! 大人しく投降せよ! この包囲網、お前ごときが突破できるものではない!」
まるで相撲取りが何人も合体したかのような横幅。
ウニのようなツンツン頭に、赤黒い肌、そして一つ目。
身に纏うのは鎧じゃなく、トーガ。
「つかさ、ゼツキの時といい、魔族ってのは大勢の前で名乗りを上げたり演説するのが好きなのか?」
「ひははは、ヴェルト君、あれが武人の矜持ってやつっしょ」
「ん? へい、ヴェルト。あのマッスルボーイの隣に居る、メガネボーイを見ろ。あれも、プリンスだ」
「ええ、私も知ってるわ。確か、第四王子の『ガリガ王子』ね」
キシンが指差すステロイとかいう関取サイクロプスの隣には、一つ目メガネをつけた細身の若いサイクロプス。
落ち着いた物腰だが、なんかスゲーニタニタ笑ってやがる。
「ふふ、ステロイ兄様。ワザワザ、投降を進める必要もありますまい。父上より、奴は始末して構わないことを伝えられているはずですよ?」
「はっはっは、馬鹿を言え、ガリガよ。我らが仕留めるのは簡単だ。しかし、それでは名が全土に広がらぬ。ラブ・アンド・ピース立会い下にあのクズを捕らえ、そして全国民の面前で公開処刑してこそ、意味があるのだ」
「なるほど。さすがですね、ステロイ兄様」
あの二人が親玉か。
まあ、確かに他にチラホラ見えるサイクロプスとは一味違いそうだ。
だが、ぶっちゃけた話、俺にはそこまでの脅威には見えなかった。
同じ魔族なら、それこそキシン、ゼツキの圧倒的力と威圧感に比べれば、どこか許容範囲内に見えた。
「おい、ラガイア。あんなこと言ってるけど、どうするんだ?」
「………立ち上がるのも面倒だ……」
おかしなもんだ。
腹違いかもしれねえが、仮にも弟に対するあいつらの態度もそうだが、兄を前にして弟のこの反応。
いろんな家族がこの世には居るもんだな。
少なくとも、ヴェルト・ジーハの人生にはない家族関係だと感じた。
「ふっ、相変わらず根暗なクズは反応なしか。構わん、上陸するぞ!」
「まったく、誇り高き我ら王族が、こんなゴミ溜めの島に足を踏み入れなければならないとは、本当に迷惑ばかりかけるクズですね」
船が構わず島へと寄せられ、次々と人型のサイクロプスたちが上陸してくる。
確か、通常サイクロプスってのは巨人の単細胞ってのが主流だが、こいつらのように人間大の大きさで知能を持った奴らは、ハイサイクロプスって呼ばれ、サイクロプスの中でも選ばれた存在とか聞いたことがある。
百人、二百人と、次々上陸してくる。
だが、正直な話、俺は目の前までサイクロプスが近づいてこようとも、まだ大丈夫だった。
問題なのは、こいつらと共に行動しているといわれる……
「何をしている、ステロイ王子、ガリガ王子、勝手にどんどん先に行かれると困るぞ。この作戦は、天空族と共同作戦というのをお忘れか?」
ああ、そうだよ。こいつだよ。
「ウラ……」
その姿を見ただけで、頬が緩んだ。心が温かくなった。
あれから、二年。十七歳か。もう立派な一人の女だな。
なんだろうな。やっぱあいつの娘だし、それにずっとガキの頃から妹でもあり、娘のようにも見てきたからな。
やっぱ、感慨深いものがある。
会いたかった………
「おお、これはこれは、両姫様。申し訳ない、居ても経っても居られずに、先走ってしまいましたよ」
………ん?
「その通りです。みんなで一緒に力を合わせて行ってこそ、意味があるのだと思います」
あれ?
いや、あのさ、サイクロプスの船が島に寄せられ、遅れてもう一隻船が寄せられたんだよ。
それは、ラブ・アンド・ピースの船だ。そう、そして、ウラがここに居るのは、既に聞いてたから大丈夫だ。
でも、なんでこいつまで居るの?
空を囲む戦乙女たちと同種の天使。その女は、俺のウラと並ぶようにこの島に降り立った。
「うお、なになに、なんなのあれ! 本物? 本物のパイパイ! パナイパイ!」
「なんや、あの姉ちゃん! で、デカ!」
「……おい、ゴミ……あれ……偽者だよな? 偽者だよな?」
皆がビックリするのも無理はねえ。
それとユズリハ、ツルペタなお前じゃ理解できないかもしれねーが、あれは本物だ。
あの二つのスイカップは本物だ! つか、相変わらず、デケー……
「おい、お前まで来るな。里帰り中に協力を仰いだのはこちらだが、ワザワザお前が前へ出る必要はない、船であの子と待っていろ。お前に何かあったら、コスモスが悲しむ」
「もちろん、無理はしません。ですが、私、今……コスモスにイジケられていまして……」
「ん? イジケられてるって……何かあったのか?」
「ハイ。この間、エルファーシア王国の公園で遊んでいたとき、近所の子達に父親が居ないことをからかわれてしまいまして、それ以来、ずっとふてくされているのです」
「そうか……それは何とも……あの子には、沢山の兄や姉は居るが……父親だけはな」
「はい。天空族としてそれは致し方ないことですが、あの子にはまだそれが理解できないようで、ことあるごとに、『コスモスにはパッパいるもん!』と泣き叫ぶのです。本当に、どうしたものでしょうかね」
あのさ、お前らさ、近所のママ友と近所のゴミ捨て場で雑談してるわけじゃねーんだぞ?
とツッコミを入れたくなった相手は、正に俺の元奥さんだった。
「はっはっは。ここは我らに任せてくれと言いたい所ですが、ウラ姫も、エルジェラ皇女も、もう少し気を張った方がよろしいと思いますよ?」
そう、ウラ……そして……エルジェラ。
俺の元嫁と元奥さんが同時に現れちゃったよ。
「ウラ姫様! 姫様こそあまり前に出られないで欲しいであります!」
「その通りなり。今、魔族においてウラ姫様の代わりはいないなり」
「まあ、それをお守りするのが我らの勤めでしょうが!」
あ、あいつら! えーっと、名前忘れた! 確か、二年前に会った、ウラの仲間じゃねえか。
ロイヤルなんとか!
「おお、これはこれは、壮観ではないか。『魔法銃士ルンバ』、『召喚術師バルド』、『カラーテ拳闘士ジョンガ』。我が愚弟討伐のために、豪華すぎる顔ぶれですな、ウラ姫」
「ステロイ王子。それもそうだろう。我らの目的は、ラガイアのみではない。二年もずっと行方不明になっていた『あの魔王』が、この島に居るのだ。感知能力を持った魔法使いがようやく、『奴』を見つけたのだ。それは警戒もするだろう」
「おお、『あの魔王』がこの島に潜伏しているという話は聞いてはいるが、それでもこの俺が居れば、あんな単細胞の魔王など一ひねりよ。天空族にまで協力を仰ぐ必要もなかったのでは?」
ん? ウラ、今何を言った? 『あの魔王』?
「そう言わないでもらいたい。あの異形の怪物には、我らにも因縁がある。わざわざ地上まで来たのだ。奴らは我らに任せてもらいたい」
「へへ、あの死にぞこないは、俺らに任せな! な? エルジェラ。それに、イジケてるコスモスに、叔母さんもスゲーって教えてやらねえとな! って、しっかし、キタねーところだな、ここって。地上ってみんな、こんなんなのか?」
あの二人は! 確かエルジェラの姉ちゃん! 名前忘れたけど、チンチンチンチン言ってたのは覚えてるぞ!
わ~お、なんとも豪華なメンツじゃねえか。つか、『あの魔王』って何だ? キシンじゃねえよな?
いやいやいや、っていうか、まったく予想もしていなかった奴を見ると、やっぱテンパるな。
「くくくく、おい、そこでうずくまっている出来損ないよ! 顔を上げ……ん? なんだ? 貴様ら」
正面から世界の名だたるVIPたちを先頭にしてここまで行進してくるお客様方。
奴らはようやく、うずくまるラガイアの前で突っ立ってる、俺たちの存在に気づいた。
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