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第八章

第260話 さて、どうするか?

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 向かってくる軍艦十隻。
 重厚な装備と装飾が施された堂々とした姿は、船に興味がなくても目を奪われる。
 一隻に何百の兵が乗っているかは分からないが、蟻の隙間もなく配置された陣形は、徐々に包囲網を縮めて島を完全に取り囲もうとしている。
 通常の船であれば困難であるヘドロや海獣の海を苦もなく奴らは突き進んでいる。

「あーあ、まいったな、こりゃ」

 砲撃が鳴り響く。人間大の大きさの兵士たちが船を飛び出し、群がる海獣たちを撃破していく。
 これは、ここへ来るのも時間の問題だな。

「ヴェルトくん、大変よ!」
「ああ、見えてるよ」

 血相抱えて呼びに来たアルーシャ。その後ろには大して慌てた様子のないキシンたち。

「ふ~む、マーカイ魔王国か」
「どーすんのや、あんさん」
「ヒューっ! 突然のサプライズだな、ヴェルト。奴らはミーたちをチェイスしにきたのか?」
「ひははははははは、うっわ、やっば! 俺って二年前のことで、多分マーカイ魔王国にパナイ睨まれてるかもだからね~」
「ふははははは、ええやんええやん、なんや、ゾクゾクしてきたで」

 さて、どうしたもんか。ユズリハの背中に乗せてもらって逃げるという方法もある。
 つか、ぶっちゃけ包囲されたけど、それほど俺もビビッてなかった。
 そりゃー、今この場に居るメンツを見たら、なんか軍艦十隻ぐらい? みたいな感覚だ。

「でも、ウラも居るんだったら、一目ぐらい見たい気もするけどな。まっ、船で囲まれても、飛んで逃げりゃいいわけだし」
「えっ、ウラ姫が? なぜ、そんなことが分かるのかしら?」
「ふむ、だが、空から逃げるという手も難しそうだゾウ」
「ん?」
「お、おお~……これは!」

 空から雲を掻き分けて、小さい影が点々と散らばって見える。
 あれは?

「ふ、船が飛んでる!」
「うっそ、マジじゃん!」
「お、お~」
「ひはははは、なにあれ、パナイ! あんなの俺だって作れないっしょ! 何者?」

 俺たちは目を疑った。それは、飛行船じゃねえ。船だ。
 魔族たちの軍艦に負けず劣らずの装備を兼ねた巨大な船が上空から現れ、島に巨大な影を落とした。
 するとその時、その空飛ぶ船から続々と小さい何かが飛び出した。

「あれは……天使?」

 思わずつぶやいたそれは、真っ白い大きな翼を羽ばたかせ、次々とこの島の上空を取り囲むように現れた。
 数は、百? 二百? おいおい、どうなってんだよ!


「天空族!」


 間違いなかった。エルジェラと同じ、空を翔る戦乙女たちだ。
 なぜ、奴らがここに?

「はっ? え? マジマジ! パナイっしょ! 天空族って、あの伝説の? え、マジで?」
「バ、バカな! 天空族? 小生が世界に出ていない間に何があったのだゾウ! 伝説の天空族が、なぜ地上に! 信じられないゾウ!」 

 まいったな。しかし、どういうことだ? 

「ラガイアを捕まえるために、マーカイ魔王国が来るのは分かる。ここは人類大陸と近い海域にあるから、ラブ・アンド・ピースが任務に立ち会うってのも分かる。でも、何で天空族まで来てるんだ?」

 ラガイアは、確かに大物だろう。二年前の帝国襲撃の首謀者であり、更にあのフォルナと互角の戦いを繰り広げた。人間で言えば十勇者クラスの力を持っている。
 でも、だからって、何で天空族が?

「ヴェルト君、今、サラッとラガイア王子って言葉が聞こえたんだけど?」
「……うおおおお、ひははははは! あれ? アレレ! そこに居るの、ラガイア王子? え、そこの白髪の汚いガキ、ラガイア王子? パナイパナイ! 何やってんの?」
「OH~、魔王ノッペラとヒューマンの血を引く、噂のスペシャルボーイか」

 アルーシャたちが、ようやくラガイアの存在に気づき、卒倒しそうになる。
 マッキーなんか、二年前の帝国襲撃を共同で行った同志でもあったんだ。
 そりゃー、驚くだろう。

「なんと、そこの少年が、魔王国の王子とは驚きだゾウ。しかし、そんな人物がどうして、ここに?」
「ミスターカイザー、ミーは聞いたことがある。マーカイ魔王国のラガイア。サイクロプスでありながら、ダブルの瞳を持つ、呪われたボーイだとね。そのおかげで、随分と嫌われているともね」
「ひはははは、ひょっとして、二年前の帝国襲撃で失敗し、国家に大きな損失出したってことで、失脚したかい? んで、責任取らされて処刑になりそうだったところを逃走? んじゃ、あれはその追手ってことかい? 悪いことはするもんじゃないね~」

 いや、マッキー。悪いことはするなとか言って、お前が唆したんだろうが。
 やっぱ冷静に考えると、こいつはメチャクチャエグイことしてきるな~。

「でも、それなら確かにヴェルトくんの言うとおり、天空族まで来ている理由が分からないわね。ラガイア王子一人を捕まえるには、随分と大掛かりね。ひょっとして、他にも目的があるのかしら?

 そうだ。ラガイアだけが目的じゃないかもしれない。

「ああ、俺もそう思う。こんだけ大掛かりだと、七大魔王とか四獅天亜人クラスの誰かを捕まえに……って、二人居るじゃねーかよ、ここに」

 カー君とキシンが居たよ。カー君はバリバリの四獅天亜人で、キシンは世界から記憶を消されたとはいえ、七大魔王最強候補だったんだ。
 もし、二人の存在が世界に知られているんだったら、これだけ大掛かりでも、なんら不思議じゃねえな。

「OH~、では、ミーやミスターカイザーも捕まえに来たと言うことか?」
「それはすまんゾウ」
「あくまで可能性だけどな。まあ、この島に居るのはラガイア以外にはボロボロの素性の知れないガキやおっさんや、アウリーガぐらいか。今更、アウリーガどうこうなんて、連中も考えてないだろうしな」

 中には、随分と珍しい種族や混血も混じってるみたいだが、それでもこの軍勢を動かして来るには割りに合わなすぎるから、カー君とキシンが本命なんだろうけどな。

「おおい、どーすんだよ、ヴェルト。私まで巻き添えじゃん。つかさマジ勘弁なんだけど!」
「アルテアさん落ち着くんじゃ。しかし、キシンくんたちまで捕まるような事態は避けたいものじゃのう」
「ねえ、ヴェルト君、ラブ・アンド・ピースも居るのなら、私が交渉してみようと思うのだけれど」
「よせよせ、アルーシャ。お前の立場がヤバくなるだけだろ」

 まあ、相手の出方次第なんだがな。
 結局俺たちは、強行突破することもせず、ただその場で待機していた。
 つか、これだけの大事だってのに、どいつもこいつも静かなもんだ。
 ラガイアに関しては、既に運命を受け入れたかのように、微動だにしてねえ。

「逃げないのか? 君たちは」

 その時、ラガイアと同じように全ての運命を受け入れようとしている、アウリーガが俺たちに声をかけてきた。
 だが、その目は、昨日までの陰鬱とした瞳に比べて、少しだけスッキリした顔をしていた。

「あんたは逃げねえのか?」
「ああ。俺はもう、十分だ。君たちに会うことが出来ただけで。この島と共に運命に殉ずる。まあ、逮捕される理由もないけどな」

 確かに。こいつ自身は特に犯罪を犯したわけでもないし、世界にその名が轟いてるわけでもねえ。魔族や天空族からすれば無名に近い。
 連中が、無差別に何かをしない限りは………

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