上 下
263 / 290
第八章

第259話 放っておけない

しおりを挟む
「………ねえ……気配を傍に感じるのも嫌なんだけど」
「ああ、ワリーな」

 俺も自分の行動が良くわかんねーが、ただ何となくそこに座っていた。

「……………………………………………………」
「……………………………………………………」

 沈黙が流れて気まずい雰囲気が流れているように思えるが、ぶっちゃけ俺はこの時はそれほど特に思うことはなかった。
 別に居心地が悪いと思うことはなかったし、ただ何となくこいつの隣に座っていた。

「行かないのかい?」
「…………………………ん~………」

 俺は動かなかった。仲間の様子を見に行ったアルーシャたちを追いかけず、ただこいつの隣から動かなかった。
 うん、確かに何でだろうな?


「ウザったい……消えてくれ……本当に」


 イラッとしたラガイアの声が聞こえる。
 だが、そのイラッとした感情がこもっている事で、俺は気づいたら笑みを浮かべていた。

「なんだよ、イラつくぐらいなら、まだ生きてるんだな?」

 それは生きている証拠。ラガイアはこの世の全てに無関心を決め込んでいるようでも、まだ生きていることを証明していた。

「生きているか……消えてなくなりたいさ……死にたいさ……でも、死にきれない……」

 俺に揚げ足取られたことには、不貞腐れたような態度で再び顔を隠すように俯き、突き放した。
 それを見て、「ああ、そうか……」と、なんかようやく分かった気がした。
 なんでこいつが気になっちまったのか。

「さあ、パナイ目覚めのいい朝がきたー! ラジオ体操を始めよう! チャーンチャチャチャーン!」
「うっわ、やっば、誰か鏡を持ってね? あたし、昨日メイク落とすの忘れてたわ! うっわ、最悪!」
「モ~ニングロック! How are you?」
「お~い、ユズリハ、ワレいつまで寝とんじゃ、はよ起きて支度しいや!」
「ZZZZ~~~ZZZ~」
「ふう、さすがにこの環境で一晩は体が疲れたゾウ」

 何やら騒がしい声が聞こえてきた。
 どうやらみんな起きたようだ。元々狭い島の上に、元々島にいる奴らはみんな無言だからな。
 誰が何を話しているのかは見なくても丸聞こえだった。

「くはははは、うるせーな、あいつら。マッキーなんて、昨日は半べそだったくせによ」
「……」
「なあ、ラガイア……」
「………………」
「テメエはマッキーに唆されて、帝国を襲ったみたいだが、何かあいつをぶん殴りてえとか思わねえのか?」
「……思わないよ……僕が自分で決めたことだ……」

 おっ、僅かに反応したか。


「全く、覇気のねえやろうだ。昔の誰かみてえだよ………どうして生まれ変わったのかも分からず、ただ生きていただけで、周りを受け入れずにイジけてた、あのクソガキをな」

「………………………………」

「まあ、それでもお前ほど重くもなかったし、お前ほど努力したわけでもねえし、不幸だったわけでもねえ。でも、なんだろうな……そうやってイジけてる姿……なんか気になっちまったんだよ。ただ、それだけだ」


 俺はもう立ち上がった。

「じゃあな、俺たちは今日中にこっから出てくよ」

 なんだか、ずっと昔の小さかった頃、記憶を取り戻したばかりで荒んでた頃の俺に、ちょっとだけ似ていたような気がした。
 まあ、こいつの味わった地獄は、俺の想像を遥かに絶するだろうから、比べることもワリーだろうけどな。
 すると………

「君は人間なのに……」
「ん?」
「どうして、周りに異なる種族がこんなに集まるんだい?」

 俯いたまま、しかし立ち去ろうとする俺を呼び止めるように、ラガイアが俺に話をしてきた。
 俺はそれに引っ張られるように立ち止まり、振り返った。

「俺は、運が良かっただけだ。出会いに恵まれた。ただ、それだけだ」
「……真面目に答える気はないようだね……」
「いーや、事実さ。俺には勇者のように、大陸中から信望されるようなカリスマ性もねーし、気の利いた言葉が出てくるわけでもねえ。だから、俺はただ単純に運が良かっただけだ」

 その俺の答えに、ラガイアはまたイラッとしたように言葉を発した。


「ふん。どれだけ努力をしても、……たった一つの失敗で全てを失った。瞳が一つ多く、流れる血が半分違うというだけで忌み嫌われ、同族や家族からも拒絶された僕に対して、君はただ運が良かっただけで済ますのかい? ……それはまた、随分と不公平だね」

「当たり前さ。人生は後悔の連続で、不公平であることが当然なのさ」

「……聞いた僕が間違いだった……」

「でも、言い換えれば……たとえ今はドン底でも、運次第で明日どうなるかは分からねえとも言えるぜ? 考えてみろよ。俺と一緒に来た連中が、計算とか努力云々で集まるような種族に見えるか? こんなもん、奇跡的な運以外他ならねえだろうが」


 そう、俺は事あるごとにこう言っていた。
 俺は運が良かったと。
 はは、二年ぶりに言った気がするな。

「……そうか……僕は……努力が足りない上に、運もなかったか……」

 どこか肩から力が抜けたように、弱々しくラガイアがそう呟いた。

「でも、もう無理だ……運が傾く日を待つのも……努力するのも……もう、僕にはできないよ……」

 そう言って殻に縮こまるラガイアは、再び身を小さく屈した。
 俺はその姿に、やるせない気持ちを感じた。
 同情かもしれないけど、何だか放っておけない気がした。
 だが、その時、消え失せそうな声で、ラガイアが言った。


「早くここから立ち去った方がいい……」


 あ? 何だ? 聞き返そうとする前に、ラガイアは言った。


「近海に……サイクロプスの……マーカイ魔王国軍の魔力を感じる……僕を探している……」


 なに? 思わず海へと目を向けた。どこかに、居るのか?


「僕は、国外追放されたんじゃない。……逃亡したんだ……牢獄から。でも、父や兄たちが……僕の魔力を追って探しに来たんだ。僕の存在を将来的に危惧して……始末するために」


 その時、目を凝らしてようやく見えた。
 つか、それならもうちょい早く言えよ。
 水平線の向こうから、一隻? 二隻? いや、十隻以上の軍艦がまっすぐここを目指して近づいてる。
 おいおいおいおい、マジかよ。

「か~、こりゃまいったな。正直、関係ねーから見逃して……って言い逃れするには、俺が連れてる仲間たちの素性がヤバすぎるからな」

 急いで逃げたいところだが、逃げきれるか?
 それとも……戦っちまうか?

「おい、ラガイア。魔力で感知できてるのは、誰だ? 強いのが混ざってるのか?」

 サイクロプス族で有名なのって誰だっけ? 
 あんま、魔王とかのレベルも知らないし、その程度にもよるんだがな。


「……感じるのは……二番目の兄と三番目の兄の魔力だ。大方、ここで手柄でも立てたいんだろう? 次期魔王候補の一番上の兄より上へ行くために」


 ったく、なんつー世界だよ。
 兄弟をぶっ殺して、手柄? 手柄のために兄弟を殺す?
 それが、この世界のありふれた現実って奴か? なんとも、胸糞悪いものだ。
 だが、俺が胸糞悪くなる前に、ラガイアの口から、衝撃的な名前を聞くことになった。


「サイクロプスじゃない魔族の魔力も感じる………」

「ん?」

「これは………ああ、あの人だ………何故居るかは分からないけどね………元七大魔王シャークリュウの娘………」


 えっ………えっ? え?


「ウラ・ヴェスパーダの魔力も感じるよ」


 俺は思わず、遠くから近づいてくる船を、目に穴が空くほど凝視しちまった。
 そこには、ハートとピースマーク、ラブ・アンド・ピースの帆を掲げた船まであった。


「どうして……ウラが……」

「ふん………ラブ・アンド・ピース立会のもと作業をすることで、種族間同士の協調をアピールするためだろう? 僕は、それにはうってつけだったんだろうね」


 ウラが………やべ~……先生……なんか、あいつが来ちゃったんだけど……
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

世界を越えたら貞操逆転

トモ治太郎
ファンタジー
愛車に乗ってトンネルを抜けた先は別世界だった。 その世界は女性だらけの世界だ。俺の愛車は骨董品レベル? とは言え近未来的な話はありません。 よくある多数の女性とイチャイチャするお話です。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...