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第八章
第259話 放っておけない
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「………ねえ……気配を傍に感じるのも嫌なんだけど」
「ああ、ワリーな」
俺も自分の行動が良くわかんねーが、ただ何となくそこに座っていた。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
沈黙が流れて気まずい雰囲気が流れているように思えるが、ぶっちゃけ俺はこの時はそれほど特に思うことはなかった。
別に居心地が悪いと思うことはなかったし、ただ何となくこいつの隣に座っていた。
「行かないのかい?」
「…………………………ん~………」
俺は動かなかった。仲間の様子を見に行ったアルーシャたちを追いかけず、ただこいつの隣から動かなかった。
うん、確かに何でだろうな?
「ウザったい……消えてくれ……本当に」
イラッとしたラガイアの声が聞こえる。
だが、そのイラッとした感情がこもっている事で、俺は気づいたら笑みを浮かべていた。
「なんだよ、イラつくぐらいなら、まだ生きてるんだな?」
それは生きている証拠。ラガイアはこの世の全てに無関心を決め込んでいるようでも、まだ生きていることを証明していた。
「生きているか……消えてなくなりたいさ……死にたいさ……でも、死にきれない……」
俺に揚げ足取られたことには、不貞腐れたような態度で再び顔を隠すように俯き、突き放した。
それを見て、「ああ、そうか……」と、なんかようやく分かった気がした。
なんでこいつが気になっちまったのか。
「さあ、パナイ目覚めのいい朝がきたー! ラジオ体操を始めよう! チャーンチャチャチャーン!」
「うっわ、やっば、誰か鏡を持ってね? あたし、昨日メイク落とすの忘れてたわ! うっわ、最悪!」
「モ~ニングロック! How are you?」
「お~い、ユズリハ、ワレいつまで寝とんじゃ、はよ起きて支度しいや!」
「ZZZZ~~~ZZZ~」
「ふう、さすがにこの環境で一晩は体が疲れたゾウ」
何やら騒がしい声が聞こえてきた。
どうやらみんな起きたようだ。元々狭い島の上に、元々島にいる奴らはみんな無言だからな。
誰が何を話しているのかは見なくても丸聞こえだった。
「くはははは、うるせーな、あいつら。マッキーなんて、昨日は半べそだったくせによ」
「……」
「なあ、ラガイア……」
「………………」
「テメエはマッキーに唆されて、帝国を襲ったみたいだが、何かあいつをぶん殴りてえとか思わねえのか?」
「……思わないよ……僕が自分で決めたことだ……」
おっ、僅かに反応したか。
「全く、覇気のねえやろうだ。昔の誰かみてえだよ………どうして生まれ変わったのかも分からず、ただ生きていただけで、周りを受け入れずにイジけてた、あのクソガキをな」
「………………………………」
「まあ、それでもお前ほど重くもなかったし、お前ほど努力したわけでもねえし、不幸だったわけでもねえ。でも、なんだろうな……そうやってイジけてる姿……なんか気になっちまったんだよ。ただ、それだけだ」
俺はもう立ち上がった。
「じゃあな、俺たちは今日中にこっから出てくよ」
なんだか、ずっと昔の小さかった頃、記憶を取り戻したばかりで荒んでた頃の俺に、ちょっとだけ似ていたような気がした。
まあ、こいつの味わった地獄は、俺の想像を遥かに絶するだろうから、比べることもワリーだろうけどな。
すると………
「君は人間なのに……」
「ん?」
「どうして、周りに異なる種族がこんなに集まるんだい?」
俯いたまま、しかし立ち去ろうとする俺を呼び止めるように、ラガイアが俺に話をしてきた。
俺はそれに引っ張られるように立ち止まり、振り返った。
「俺は、運が良かっただけだ。出会いに恵まれた。ただ、それだけだ」
「……真面目に答える気はないようだね……」
「いーや、事実さ。俺には勇者のように、大陸中から信望されるようなカリスマ性もねーし、気の利いた言葉が出てくるわけでもねえ。だから、俺はただ単純に運が良かっただけだ」
その俺の答えに、ラガイアはまたイラッとしたように言葉を発した。
「ふん。どれだけ努力をしても、……たった一つの失敗で全てを失った。瞳が一つ多く、流れる血が半分違うというだけで忌み嫌われ、同族や家族からも拒絶された僕に対して、君はただ運が良かっただけで済ますのかい? ……それはまた、随分と不公平だね」
「当たり前さ。人生は後悔の連続で、不公平であることが当然なのさ」
「……聞いた僕が間違いだった……」
「でも、言い換えれば……たとえ今はドン底でも、運次第で明日どうなるかは分からねえとも言えるぜ? 考えてみろよ。俺と一緒に来た連中が、計算とか努力云々で集まるような種族に見えるか? こんなもん、奇跡的な運以外他ならねえだろうが」
そう、俺は事あるごとにこう言っていた。
俺は運が良かったと。
はは、二年ぶりに言った気がするな。
「……そうか……僕は……努力が足りない上に、運もなかったか……」
どこか肩から力が抜けたように、弱々しくラガイアがそう呟いた。
「でも、もう無理だ……運が傾く日を待つのも……努力するのも……もう、僕にはできないよ……」
そう言って殻に縮こまるラガイアは、再び身を小さく屈した。
俺はその姿に、やるせない気持ちを感じた。
同情かもしれないけど、何だか放っておけない気がした。
だが、その時、消え失せそうな声で、ラガイアが言った。
「早くここから立ち去った方がいい……」
あ? 何だ? 聞き返そうとする前に、ラガイアは言った。
「近海に……サイクロプスの……マーカイ魔王国軍の魔力を感じる……僕を探している……」
なに? 思わず海へと目を向けた。どこかに、居るのか?
「僕は、国外追放されたんじゃない。……逃亡したんだ……牢獄から。でも、父や兄たちが……僕の魔力を追って探しに来たんだ。僕の存在を将来的に危惧して……始末するために」
その時、目を凝らしてようやく見えた。
つか、それならもうちょい早く言えよ。
水平線の向こうから、一隻? 二隻? いや、十隻以上の軍艦がまっすぐここを目指して近づいてる。
おいおいおいおい、マジかよ。
「か~、こりゃまいったな。正直、関係ねーから見逃して……って言い逃れするには、俺が連れてる仲間たちの素性がヤバすぎるからな」
急いで逃げたいところだが、逃げきれるか?
それとも……戦っちまうか?
「おい、ラガイア。魔力で感知できてるのは、誰だ? 強いのが混ざってるのか?」
サイクロプス族で有名なのって誰だっけ?
あんま、魔王とかのレベルも知らないし、その程度にもよるんだがな。
「……感じるのは……二番目の兄と三番目の兄の魔力だ。大方、ここで手柄でも立てたいんだろう? 次期魔王候補の一番上の兄より上へ行くために」
ったく、なんつー世界だよ。
兄弟をぶっ殺して、手柄? 手柄のために兄弟を殺す?
それが、この世界のありふれた現実って奴か? なんとも、胸糞悪いものだ。
だが、俺が胸糞悪くなる前に、ラガイアの口から、衝撃的な名前を聞くことになった。
「サイクロプスじゃない魔族の魔力も感じる………」
「ん?」
「これは………ああ、あの人だ………何故居るかは分からないけどね………元七大魔王シャークリュウの娘………」
えっ………えっ? え?
「ウラ・ヴェスパーダの魔力も感じるよ」
俺は思わず、遠くから近づいてくる船を、目に穴が空くほど凝視しちまった。
そこには、ハートとピースマーク、ラブ・アンド・ピースの帆を掲げた船まであった。
「どうして……ウラが……」
「ふん………ラブ・アンド・ピース立会のもと作業をすることで、種族間同士の協調をアピールするためだろう? 僕は、それにはうってつけだったんだろうね」
ウラが………やべ~……先生……なんか、あいつが来ちゃったんだけど……
「ああ、ワリーな」
俺も自分の行動が良くわかんねーが、ただ何となくそこに座っていた。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
沈黙が流れて気まずい雰囲気が流れているように思えるが、ぶっちゃけ俺はこの時はそれほど特に思うことはなかった。
別に居心地が悪いと思うことはなかったし、ただ何となくこいつの隣に座っていた。
「行かないのかい?」
「…………………………ん~………」
俺は動かなかった。仲間の様子を見に行ったアルーシャたちを追いかけず、ただこいつの隣から動かなかった。
うん、確かに何でだろうな?
「ウザったい……消えてくれ……本当に」
イラッとしたラガイアの声が聞こえる。
だが、そのイラッとした感情がこもっている事で、俺は気づいたら笑みを浮かべていた。
「なんだよ、イラつくぐらいなら、まだ生きてるんだな?」
それは生きている証拠。ラガイアはこの世の全てに無関心を決め込んでいるようでも、まだ生きていることを証明していた。
「生きているか……消えてなくなりたいさ……死にたいさ……でも、死にきれない……」
俺に揚げ足取られたことには、不貞腐れたような態度で再び顔を隠すように俯き、突き放した。
それを見て、「ああ、そうか……」と、なんかようやく分かった気がした。
なんでこいつが気になっちまったのか。
「さあ、パナイ目覚めのいい朝がきたー! ラジオ体操を始めよう! チャーンチャチャチャーン!」
「うっわ、やっば、誰か鏡を持ってね? あたし、昨日メイク落とすの忘れてたわ! うっわ、最悪!」
「モ~ニングロック! How are you?」
「お~い、ユズリハ、ワレいつまで寝とんじゃ、はよ起きて支度しいや!」
「ZZZZ~~~ZZZ~」
「ふう、さすがにこの環境で一晩は体が疲れたゾウ」
何やら騒がしい声が聞こえてきた。
どうやらみんな起きたようだ。元々狭い島の上に、元々島にいる奴らはみんな無言だからな。
誰が何を話しているのかは見なくても丸聞こえだった。
「くはははは、うるせーな、あいつら。マッキーなんて、昨日は半べそだったくせによ」
「……」
「なあ、ラガイア……」
「………………」
「テメエはマッキーに唆されて、帝国を襲ったみたいだが、何かあいつをぶん殴りてえとか思わねえのか?」
「……思わないよ……僕が自分で決めたことだ……」
おっ、僅かに反応したか。
「全く、覇気のねえやろうだ。昔の誰かみてえだよ………どうして生まれ変わったのかも分からず、ただ生きていただけで、周りを受け入れずにイジけてた、あのクソガキをな」
「………………………………」
「まあ、それでもお前ほど重くもなかったし、お前ほど努力したわけでもねえし、不幸だったわけでもねえ。でも、なんだろうな……そうやってイジけてる姿……なんか気になっちまったんだよ。ただ、それだけだ」
俺はもう立ち上がった。
「じゃあな、俺たちは今日中にこっから出てくよ」
なんだか、ずっと昔の小さかった頃、記憶を取り戻したばかりで荒んでた頃の俺に、ちょっとだけ似ていたような気がした。
まあ、こいつの味わった地獄は、俺の想像を遥かに絶するだろうから、比べることもワリーだろうけどな。
すると………
「君は人間なのに……」
「ん?」
「どうして、周りに異なる種族がこんなに集まるんだい?」
俯いたまま、しかし立ち去ろうとする俺を呼び止めるように、ラガイアが俺に話をしてきた。
俺はそれに引っ張られるように立ち止まり、振り返った。
「俺は、運が良かっただけだ。出会いに恵まれた。ただ、それだけだ」
「……真面目に答える気はないようだね……」
「いーや、事実さ。俺には勇者のように、大陸中から信望されるようなカリスマ性もねーし、気の利いた言葉が出てくるわけでもねえ。だから、俺はただ単純に運が良かっただけだ」
その俺の答えに、ラガイアはまたイラッとしたように言葉を発した。
「ふん。どれだけ努力をしても、……たった一つの失敗で全てを失った。瞳が一つ多く、流れる血が半分違うというだけで忌み嫌われ、同族や家族からも拒絶された僕に対して、君はただ運が良かっただけで済ますのかい? ……それはまた、随分と不公平だね」
「当たり前さ。人生は後悔の連続で、不公平であることが当然なのさ」
「……聞いた僕が間違いだった……」
「でも、言い換えれば……たとえ今はドン底でも、運次第で明日どうなるかは分からねえとも言えるぜ? 考えてみろよ。俺と一緒に来た連中が、計算とか努力云々で集まるような種族に見えるか? こんなもん、奇跡的な運以外他ならねえだろうが」
そう、俺は事あるごとにこう言っていた。
俺は運が良かったと。
はは、二年ぶりに言った気がするな。
「……そうか……僕は……努力が足りない上に、運もなかったか……」
どこか肩から力が抜けたように、弱々しくラガイアがそう呟いた。
「でも、もう無理だ……運が傾く日を待つのも……努力するのも……もう、僕にはできないよ……」
そう言って殻に縮こまるラガイアは、再び身を小さく屈した。
俺はその姿に、やるせない気持ちを感じた。
同情かもしれないけど、何だか放っておけない気がした。
だが、その時、消え失せそうな声で、ラガイアが言った。
「早くここから立ち去った方がいい……」
あ? 何だ? 聞き返そうとする前に、ラガイアは言った。
「近海に……サイクロプスの……マーカイ魔王国軍の魔力を感じる……僕を探している……」
なに? 思わず海へと目を向けた。どこかに、居るのか?
「僕は、国外追放されたんじゃない。……逃亡したんだ……牢獄から。でも、父や兄たちが……僕の魔力を追って探しに来たんだ。僕の存在を将来的に危惧して……始末するために」
その時、目を凝らしてようやく見えた。
つか、それならもうちょい早く言えよ。
水平線の向こうから、一隻? 二隻? いや、十隻以上の軍艦がまっすぐここを目指して近づいてる。
おいおいおいおい、マジかよ。
「か~、こりゃまいったな。正直、関係ねーから見逃して……って言い逃れするには、俺が連れてる仲間たちの素性がヤバすぎるからな」
急いで逃げたいところだが、逃げきれるか?
それとも……戦っちまうか?
「おい、ラガイア。魔力で感知できてるのは、誰だ? 強いのが混ざってるのか?」
サイクロプス族で有名なのって誰だっけ?
あんま、魔王とかのレベルも知らないし、その程度にもよるんだがな。
「……感じるのは……二番目の兄と三番目の兄の魔力だ。大方、ここで手柄でも立てたいんだろう? 次期魔王候補の一番上の兄より上へ行くために」
ったく、なんつー世界だよ。
兄弟をぶっ殺して、手柄? 手柄のために兄弟を殺す?
それが、この世界のありふれた現実って奴か? なんとも、胸糞悪いものだ。
だが、俺が胸糞悪くなる前に、ラガイアの口から、衝撃的な名前を聞くことになった。
「サイクロプスじゃない魔族の魔力も感じる………」
「ん?」
「これは………ああ、あの人だ………何故居るかは分からないけどね………元七大魔王シャークリュウの娘………」
えっ………えっ? え?
「ウラ・ヴェスパーダの魔力も感じるよ」
俺は思わず、遠くから近づいてくる船を、目に穴が空くほど凝視しちまった。
そこには、ハートとピースマーク、ラブ・アンド・ピースの帆を掲げた船まであった。
「どうして……ウラが……」
「ふん………ラブ・アンド・ピース立会のもと作業をすることで、種族間同士の協調をアピールするためだろう? 僕は、それにはうってつけだったんだろうね」
ウラが………やべ~……先生……なんか、あいつが来ちゃったんだけど……
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