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第八章
第256話 助けて
しおりを挟む「ラガイアみたいに、生まれてきたことを呪うやつもいれば、生まれてきたことを嬉しいと思うやつもいる……加賀美みたいに、転生したことを呪うやつもいる。まあ、そういうもんなんだろうな」
そして、俺はこの時、昔のことを思い出した。
それは『あの時』も、そうだった……親父とおふくろが死んだ日……もう、答えなんて最初から……
「はあ~~~、もういいや」
「朝倉くん?」
「俺は少なくとも、もう大丈夫だ。備山もそうだが、俺もあんまり複雑に考える奴じゃねーしな」
だから、これはこれで、ここで決着をつける必要がある。
俺は立ち上がって、足を前へと進めた。
「あ、あと、綾瀬」
「なに?」
「多分、前世じゃ仲良くなってなかったんじゃねーの? お前ととか、全然想像できねーし」
「えええええええええええええええええっ! こ、この状況で、つつつ、つ、つん倉くんなんて、あんまりよ!」
「くはははははははははははは」
後ろから、綾瀬が叫びながらついてくるのを、俺は笑っていた。
「ちょっとどこ行くのよ、朝倉くん!」
「少し話しがしたくなった。あのガラスの兄さんとな」
俺自身はどうするかはもう決めた。
そして、他の奴らが復讐とかそうしたいのであれば、もうそれは勝手にすりゃいい。
何故なら、この世界はそういう世界なんだから、被害を受けた張本人がそれを背負うならそうすりゃいい。
間違ってないし、そもそもこの場合の正しいことなんて、誰にも分からねえからだ。
だから俺は、誰かがあの人に手を出す前に、話を一度だけしておきたいと、そう思った。
「ん……?」
すると、俺がアウリーガの元へ向かおうと思ったら、その先に見知った背中が見えた。
加賀美……
「よう、どうしたんだよ、そんな怖い顔して……」
「……朝倉くん……」
振り返った加賀美の顔は、普段のおちゃらけた笑みなんてまるでなかった。
「ふん、少しずつ頭が働くようになったから、さっさと復讐果たすためにアウリーガを殺そうってのか?」
「…………朝倉くん………俺………」
「だったら、もうちょい待てよ。せっかくこうして会えたんだ。アウリーガから、前世での懺悔や、あの日のこと、それとこれまでのこと、まあ、何でもいいけど少しぐらいは話を聞いときてーからな」
加賀美の横を通り過ぎようとしたとき、加賀美から強く唇を噛み締める音が聞こえた。
「朝倉くん、俺、やっぱり、許せないよ……あいつさえ……あいつさえいなければ」
横目で見ると、食いしばった唇から血がにじみ出ていた。
「ああ、お前がそうなんだったら、そうなんだろうな。実際、あの事故で死んだ奴らの家族とかも、あの運転手の存在を知れば、八つ裂きにしようとしてもおかしくねえ……たとえ事故でも……簡単に割り切れるものじゃねーからな……」
「…………止めないのかい?」
「止めて欲しいのか? でも、ここはもう日本じゃねえ。復讐を認めない法律なんて存在しねえ」
「………………ッ………………」
「だけどお前は、どのツラ下げて人に復讐するんだって気もするけどな。宮本に対しても、綾瀬に対してもそうさ。お前は、前世の因縁で復讐を叫ぶには………この世界では、同情できないぐらいに罪を重ねすぎたからな」
「ッ……」
「だから……お前も悩んでんだろうな……」
修学旅行生を乗せたバスを運転し、事故で谷底へ転落。何人死んだかは知らねーが、最高で四十人近くだ。
何の罪もない生徒たちが担任も含めて死に、そしてその家族にすら行き場のない怒りと悲しみを作らせた。
その事故に対し、自分が原因であると主張する奴を目の前にして、事故が原因で死んだ俺や加賀美が運転手を責めることは間違ってねえ。
だが、今の加賀美は、この世界に転生したことを呪い、暴走し、そしてこの世界ではそれ以上の悲しみや死を、悪意で行ってきた。
「加賀美。お前にもまだ常識があったんだな。この世界を呪い、悪意を持って世界を壊そうと好き勝手してきた奴が、その負い目から復讐を躊躇っちまうとはな。まあ、そりゃそうだ。あまりにも身勝手でムシが良すぎるからな」
自分では手を下してなくとも、こいつの作った組織が宮本の家族を殺した。
戦争とはいえ、こいつがけしかけた帝国での戦いは、何百人もの人間を死なせた。
「でも………俺は………あの事故さえなければ、こんなに壊れることはなかった! こんな自分になることはなかった!」
「ああ、前にも言ったとおり………ほんと、運が悪かったな」
「ぐっ、あ、さくら、………て、テメェ………」
「この世の誰もテメエには同情しねえが………でも、俺はそれでも同情だけはしてやるよ」
通り過ぎた後ろから、瓦礫を蹴飛ばした音が聞こえた。
「それで………それで君も納得できるのか! 運が悪かったって! 事故だったって! そうやって、割り切れんのかよ、朝倉ッ! あいつを許すとでも言うのかよ、コラァ! ひははははは、それともなんだ? この世界じゃモテモテで色んなお姫様から求愛されてリア充だから、むしろ死んでラッキーとか思ってんじゃねえの? ひははは、だよな、前世のテメエは街でも学校でもクズ扱い! どーせまともな将来なんかなかった、ゴミ野郎だからな!」
何度も何度も瓦礫を蹴り飛ばし、踏み、呪いのように怒りの言葉を吐き捨てている。
「ッ、か、加賀美くん! 訂正しなさい、言っていいことと悪いことがあるわよ!」
「綾瀬ちゃんだってそうでしょ! あんだけ好きだった朝倉くんと、今では堂々とイチャつけるんだから、あの運転手に、あの時に事故ってくれてありがとうとでも言ってくればいいんじゃねえの? ひははははははははははは!」
「かが、み、く、………………ッ、加賀美くん!」
「んだよ、その目は、やんのか? あ゛?」
俺たちの言い争いが聞こえたのか、ミルコや宮本もひょっこり心配そうに顔を出してきた。
ジャックポットやカー君、ユズリハなんて意味不明すぎて右往左往して目がグルグルしてる。
まあ、三人には気の毒な話だよな。ぶっちゃけ、関係ねーし。
「あ~、なあ、加賀美~、まぢ、なんか落ち着けっての」
「ミスター加賀美………」
「………………加賀美くん………」
備山たちが興奮する加賀美を窘めようとするが、加賀美の興奮は収まらない。
「くく、ひはははは、みやもっちゃん……なんで俺のこと殺さないの?」
「なんじゃと?」
「ひはははははは、君だってさ、君だって俺をぶっ殺したいはずでしょ! ねえ? 家族が殺されてどんな気持ち? 俺がラブ・アンド・マニーを聖騎士たちにそそのかされて作らなきゃ、死なずにすんだかもしれないのにね!」
宮本の表情が変わった。怒り、悲しみ、そして哀れみが混ざった瞳で、加賀美を見ている。
「村田君なんて、マジ悲惨じゃん! あの運転手に殺されて、今度は聖騎士たちの魔法で存在そのものが無かったことになってるし!」
「OH~、へい、ミスター加賀美。クールダウンしたほうがいい」
「備山ちゃんはどう? ああ、まあ、君は正直なんも考えてないだろうね!」
「いや、なんであんたも朝倉も、そうやって人をバカにすんだし!」
「ジャックポット王子……いや、木村くん……君が羨ましいよ……何も思い出せてないから……こんな苦しまなくていいんだし」
「あ~、もうなんなんや、さっきから、あんさんたち! 喧嘩はえーけど、口喧嘩はやめよーや! なんや、陰湿な空気しかせーへんぞ?」
一人一人を罵倒し、蔑み、そしてより自分が惨めに感じたのか、加賀美はもうそのままその場に崩れ落ちた。
加賀美自身が誰よりも理解している。
この中で誰よりも自分が惨めで哀れで、愚かなのだと。
「朝倉くん……」
「ああ」
「俺だって……やだよ……せっかく……みんなとまた……楽しいと思えたんだから……俺だって、こんなのやだよ……」
「加賀美……」
「分かってるよ、俺がどれだけ身勝手で、心の底からクズのゴミ野郎だって分かってるよ……でも……どうしようもないんだよ……」
その時、初めて加賀美の震える弱々しい言葉を聞いた。
「……苦しいよ……お願いだ……助けてよ……教えてよ……俺、どうすればいいんだ?」
誰かに救いを求める加賀美を、俺はこの世界で初めて見た。
まさか、こいつが弱音を吐いて、みっともなくも、それでも助けを求めるとはよ。
そして……
「い、まの、はなしは……」
そりゃ、小さい島だ。大声で叫べば聞こえるぐらいだ。
当然、聞こえていただろう。
「ど、どういう、ミヤモトくん、君は……君たちは、ま、まさか……」
更なる深い深い絶望に満ちた表情で、アウリーガが俺たちの後ろに立っていた。
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