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第七章
第228話 今の俺たちにできること
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ファルガやクレランに覚えられてなかったってのは、まあ覚悟してたこと。
分かってたことだし、予想もしていた。
しかし、こういう形で忘れられているパターンは想定外だった。
そもそも、前世のことを覚えてねーとはな。
「んで、ユズリハ。この兄ちゃんたちは誰や?」
「ゴミ、粗大ゴミ、クズ、鬼クズ」
「こら、おどれはホンマに失礼なやっちゃな~。あ~、堪忍な、兄ちゃん達。大方ここまで妹を案内してくれたんやろ? 迷惑かけたな~、こいつ人類大陸の地理には疎いからな」
「貴様に言われたくはない! 貴様だって人類大陸初めてだっただろうが」
言い争うジャックポットとユズリハの二人の横で、俺とミルコと加賀美は頭抱えていた。
どないせーっちゅうねん。
「う~む、ヴェルトくん、一体何をそんなに考え込んでいるゾウ?」
唯一状況が分からないカー君にも、どう説明していいか分からねえ。
なんせ、いつかは会えるだろうと思っていた旧友にようやく会えたかと思ったら、そいつは本当の自分のことを分かっていなかったからだ。
これはこれで、俺もミルコも地味にショックが大きかった。
「なあ、テメェ。本当に覚えてねえのか? つか、どうやったら元から関西弁とかになるんだよ?」
「ん? いやいや、ワイの喋り方て言われても困るわ。まあ、ワイも最初は標準語を喋らされとったが、どうも口がムズムズするゆうか、かなわんかったんや。ほんで、ある日、思うがままに喋ろ思たら、こうなってもうたんや」
「………なんだ? 関西人って、記憶よりも喋り方から思い出していくもんなのか? それこそまさに、なんでやねんだ」
「はは、自分何言うとるか全然分からへん。せやけど、なんでやねんっ! おお、ええな~、なんかしっくりくるわ~」
見れば見るほど、十郎丸にしか見えねえ。
芸人みたいに「なんでやねん!」とビシッとツッコミ動作しているこいつは、姿形は変わっても、やっぱ間違いなく俺たちのダチだった男だ。
「あの~、立て込んでいるところ申し訳ないのですが、ジャックポット氏、これからもうひと試合あるのですが……」
「おー、そやったな、主任はん! いや~、一日一試合じゃ、全然体あったまらんから、増やしてもろてたんや! あ~、ユズリハ、あとでワイ特性のタコボール焼き作ったるから、ちょっと待っとけや」
「待て、ゴミ兄! タコは作ってもらうが、その程度で私が許すと思うな! 貴様は焼却処分すると決めているのだからな!」
もう、ジャックポットには俺やミルコはどうでもいいみたいだ。
ジーエルとユズリハとやり取りしながら、椅子から立ち上がり、最後に笑みを浮かべて部屋から出てく。
「ほなな! 試合はちゃっちゃと終わらせてくるさかい、みんな応援よろしゅうな!」
衝撃的な再会かと思えば、実にあっさりと、なんのドラマもなく駆け出していく、ジャックポット。
あいつの出て行ったドアを眺めながら、俺もミルコも加賀美も、少し言葉を失っていた。
「ふう……まさかな。俺らのことは、知らないってよ。なあ、ミルコ」
「……ふっ、これは二年前と同じぐらいのショッキングだ」
「だね~、いやさ、俺はあんまり木村くんとは話したことなかったけどさ、やっぱこういうのは傷ついちゃうよね。これまで、綾瀬ちゃんや宮もっちゃんたちとは、敵同士とはいえ、お互いを認識して再会できたんだからさ」
歯がゆい。まさか、こんなことになるとは思わなかった。
あいつは、十郎丸。俺たちのクラスメートであり、俺とミルコとは中坊の頃からつるんでいた悪友だ。
「さっきまでは、あいつがイキがってるの見て、それをネタに笑ってやろうと思ったけどな」
「奇遇だな。そしてミーは多分、泣きながら、それでもミーたちは抱き合って笑っていただろうな」
ほんの数分前まで、嬉しい再会になると思っていた。
あいつと出会えりゃ、俺たちなら何でもできるようになると思っていた。
だが、今のジャックポッドの態度は、木村十郎丸という男は、まだこの世に居ないと言っているようなものだった。
「まあ、そもそも転生云々が奇跡というか、夢みたいなパナい話でしょ」
「加賀美……」
「あのクラスには四十名近くのクラスメートが居た。正直、何人あの中で死んだか分からない。全員転生しているとも限らないし、同じ時代に生まれているとも限らない。宮もっちゃんなんかジジイになってるしね」
加賀美自身も思うところがあったみたいで、何だかこいつの真剣な顔つきも珍しく見た気がした。
「そうさ、朝倉くん、村田くん。自分たちの仲が良い奴らと、そう何度も都合よく再会とかってのも、いつまでも続かないっしょ。むしろ、木村くんっぽい奴に会うことが出来たってだけでも、本当なら奇跡でしょ」
そうだ。そもそも、死んだ後にこんな世界で生まれ変わって第二の生を歩むという時点で、どこかがおかしいことになってるんだ。
それでいて、前世の記憶を思いだし、更には前世で同じ時に死んだクラスメートとこの広い世界の同じ時代に再会する?
夢みたいな話だ。
色んなやつと再会してきて、そんな根本的なことも今更気づくとはな。
「加賀美の言うとおりさ。俺だってもし、先生と偶然再会してなければ、エルファーシア王国でずっと燻ったままだったからな」
言いようのない虚無感が俺たちの胸を襲い、しばらく天井を見上げたまま、俺たちはボーッとつっ立ったままだった。
「結局……あいつは十郎丸……なのかも知れねえけど、どうすりゃいいんだろうな?」
そうだ。あいつが十郎丸だったら色々と話すこと、話したいこと、共有したいことが腐る程あった。
でも、今は違う。今はまだ違うだけなのかどうかということもあるが、少なくとも今は何が出来るんだ?
「なんもできないんじゃん?」
その時、何か諦めて投げ出したかのような加賀美が呟いた。
「加賀美!」
「いや、だってそうでしょ? 今の俺たちが何を言っても、結局今の彼は、亜人の王族・ジャックポット王子にすぎないんだからさ。今の俺たちが何をどう言っても、ただ単に混乱するだけっしょ?」
言われなくても分かってるよ。
もし俺が逆の立場だったら? 俺はお前の前世からの友達だ? そんなことを言われても、ただの頭のイカれてる電波やろうとしか思えねえからな。
加賀美の言葉は冷たいようで、だけど間違っていないだけに、俺は何も言うことは出来なかった。
「へい、リューマ。そういえば、聞いたことはなかったが……」
「ん? どした、ミルコ」
「ユーは、どんな時に前世の記憶を思い出したんだい?」
前世の記憶を思い出したとき?
「八歳の誕生日会だったかな? 俺の家で誕生日会したとき……そうだ、あの時、フォルナが俺にプレゼントとして、王国大聖堂の結婚式場を予約したとか言ってたっけな? ワタクシとヴェルトはお互い好き合ってるからとかなんとか、暴走した馬鹿なこと言ってたから、イタズラで俺には他に好きな奴がいるからとか言って、からかってやろうと思ったとき………本当に好きだったやつを思い出したんだ。そして、自分が誰なのかもな」
あの時感じた懐かしく、切なく、そしてどうしようもない悲しみと孤独。
目の前にいる奴らが一瞬で何者なのか、ここはどこなのか、自分はどうなってしまったのか、その全てが分からなくなって、ただ泣いたのを覚えている。
あの時から、どうしよもなくひねくれて、そして家族すら他人のように感じてしまった。
古い話だ。
「お前は?」
「ミーは、宮殿での催しで音楽団が演奏していた時かな? 気づけばミーは即興で歌を歌いだし、体が勝手に動き、そしてふとした瞬間に全てを理解した」
「へ~、そうなん。なんかアレだね~。俺はナンパしてる時に思い出したけどさ。新記録~っていう感じでさ」
そうか、みんな色々なんだな……まあ、加賀美のことは聞かなかったことにしよう。
だが、それはそれとして、それでも共通していることがある。いや、共通して、感じたものがある。
「ミーは、この世の誰にもリアルの自分を理解されない……永遠の孤独だと思った」
「俺は、全てをメチャクチャにしたいと思ったね。前世への未練が君たちよりも強かったから……どうしてもこの世界を受け入れたくなかった」
そう、孤独だ。
例え、それまで積み重ねてきたこの世界での自分は本当だったとしても、前世での自分の意識が強くなるにつれて、どうしようもない孤独に襲われた。
俺だってそうだ。
昔の俺は、親父とおふくろ、ずっと一緒に居たフォルナにすら、真に心を開くことができなかった。
本当は、孤独じゃないのに、それでも孤独だと思っちまう矛盾。
「あいつが、もし俺たちみたいに記憶を取り戻したら、どうなるんだろうな?」
その時、俺たちがソコに居なければ、ひょっとしたらあいつも苦しむんじゃないだろうか?
そんな思いを考えてしまうと、やはりどうしてもこのままでいいとも思えねえ。
なら、どうするか?
「なあ、ミルコ。今の俺たちがあいつにできることといえば……一つしかねーと思うんだけどな」
すると、ミルコも加賀美も、俺と同じことを考えたのか、口元に笑みを浮かべて頷いた。
「まっ、君たちはそうなんだろうね。今の渇きと飢えに包まれた王子様の………」
「ハングリーな彼を、満たしてやることぐらいだ」
ああ、それしかない。俺たちは、精神科医でもなければ、女のように愛で寄り添ってやることもできねえ。
馬鹿な不良がやることは一つしかねえ。
「おい、カー君、ユズリハ、観客席に行くぞ」
「ん? んん? んん?」
「ヴェルトくん、一体なんの話をしているゾウ?」
俺は未だに何が何だか分からないといった表情の二人をつれて、控え室から出る。
あとは頼んだぜと、ミルコに心でエールを送りながら。
分かってたことだし、予想もしていた。
しかし、こういう形で忘れられているパターンは想定外だった。
そもそも、前世のことを覚えてねーとはな。
「んで、ユズリハ。この兄ちゃんたちは誰や?」
「ゴミ、粗大ゴミ、クズ、鬼クズ」
「こら、おどれはホンマに失礼なやっちゃな~。あ~、堪忍な、兄ちゃん達。大方ここまで妹を案内してくれたんやろ? 迷惑かけたな~、こいつ人類大陸の地理には疎いからな」
「貴様に言われたくはない! 貴様だって人類大陸初めてだっただろうが」
言い争うジャックポットとユズリハの二人の横で、俺とミルコと加賀美は頭抱えていた。
どないせーっちゅうねん。
「う~む、ヴェルトくん、一体何をそんなに考え込んでいるゾウ?」
唯一状況が分からないカー君にも、どう説明していいか分からねえ。
なんせ、いつかは会えるだろうと思っていた旧友にようやく会えたかと思ったら、そいつは本当の自分のことを分かっていなかったからだ。
これはこれで、俺もミルコも地味にショックが大きかった。
「なあ、テメェ。本当に覚えてねえのか? つか、どうやったら元から関西弁とかになるんだよ?」
「ん? いやいや、ワイの喋り方て言われても困るわ。まあ、ワイも最初は標準語を喋らされとったが、どうも口がムズムズするゆうか、かなわんかったんや。ほんで、ある日、思うがままに喋ろ思たら、こうなってもうたんや」
「………なんだ? 関西人って、記憶よりも喋り方から思い出していくもんなのか? それこそまさに、なんでやねんだ」
「はは、自分何言うとるか全然分からへん。せやけど、なんでやねんっ! おお、ええな~、なんかしっくりくるわ~」
見れば見るほど、十郎丸にしか見えねえ。
芸人みたいに「なんでやねん!」とビシッとツッコミ動作しているこいつは、姿形は変わっても、やっぱ間違いなく俺たちのダチだった男だ。
「あの~、立て込んでいるところ申し訳ないのですが、ジャックポット氏、これからもうひと試合あるのですが……」
「おー、そやったな、主任はん! いや~、一日一試合じゃ、全然体あったまらんから、増やしてもろてたんや! あ~、ユズリハ、あとでワイ特性のタコボール焼き作ったるから、ちょっと待っとけや」
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もう、ジャックポットには俺やミルコはどうでもいいみたいだ。
ジーエルとユズリハとやり取りしながら、椅子から立ち上がり、最後に笑みを浮かべて部屋から出てく。
「ほなな! 試合はちゃっちゃと終わらせてくるさかい、みんな応援よろしゅうな!」
衝撃的な再会かと思えば、実にあっさりと、なんのドラマもなく駆け出していく、ジャックポット。
あいつの出て行ったドアを眺めながら、俺もミルコも加賀美も、少し言葉を失っていた。
「ふう……まさかな。俺らのことは、知らないってよ。なあ、ミルコ」
「……ふっ、これは二年前と同じぐらいのショッキングだ」
「だね~、いやさ、俺はあんまり木村くんとは話したことなかったけどさ、やっぱこういうのは傷ついちゃうよね。これまで、綾瀬ちゃんや宮もっちゃんたちとは、敵同士とはいえ、お互いを認識して再会できたんだからさ」
歯がゆい。まさか、こんなことになるとは思わなかった。
あいつは、十郎丸。俺たちのクラスメートであり、俺とミルコとは中坊の頃からつるんでいた悪友だ。
「さっきまでは、あいつがイキがってるの見て、それをネタに笑ってやろうと思ったけどな」
「奇遇だな。そしてミーは多分、泣きながら、それでもミーたちは抱き合って笑っていただろうな」
ほんの数分前まで、嬉しい再会になると思っていた。
あいつと出会えりゃ、俺たちなら何でもできるようになると思っていた。
だが、今のジャックポッドの態度は、木村十郎丸という男は、まだこの世に居ないと言っているようなものだった。
「まあ、そもそも転生云々が奇跡というか、夢みたいなパナい話でしょ」
「加賀美……」
「あのクラスには四十名近くのクラスメートが居た。正直、何人あの中で死んだか分からない。全員転生しているとも限らないし、同じ時代に生まれているとも限らない。宮もっちゃんなんかジジイになってるしね」
加賀美自身も思うところがあったみたいで、何だかこいつの真剣な顔つきも珍しく見た気がした。
「そうさ、朝倉くん、村田くん。自分たちの仲が良い奴らと、そう何度も都合よく再会とかってのも、いつまでも続かないっしょ。むしろ、木村くんっぽい奴に会うことが出来たってだけでも、本当なら奇跡でしょ」
そうだ。そもそも、死んだ後にこんな世界で生まれ変わって第二の生を歩むという時点で、どこかがおかしいことになってるんだ。
それでいて、前世の記憶を思いだし、更には前世で同じ時に死んだクラスメートとこの広い世界の同じ時代に再会する?
夢みたいな話だ。
色んなやつと再会してきて、そんな根本的なことも今更気づくとはな。
「加賀美の言うとおりさ。俺だってもし、先生と偶然再会してなければ、エルファーシア王国でずっと燻ったままだったからな」
言いようのない虚無感が俺たちの胸を襲い、しばらく天井を見上げたまま、俺たちはボーッとつっ立ったままだった。
「結局……あいつは十郎丸……なのかも知れねえけど、どうすりゃいいんだろうな?」
そうだ。あいつが十郎丸だったら色々と話すこと、話したいこと、共有したいことが腐る程あった。
でも、今は違う。今はまだ違うだけなのかどうかということもあるが、少なくとも今は何が出来るんだ?
「なんもできないんじゃん?」
その時、何か諦めて投げ出したかのような加賀美が呟いた。
「加賀美!」
「いや、だってそうでしょ? 今の俺たちが何を言っても、結局今の彼は、亜人の王族・ジャックポット王子にすぎないんだからさ。今の俺たちが何をどう言っても、ただ単に混乱するだけっしょ?」
言われなくても分かってるよ。
もし俺が逆の立場だったら? 俺はお前の前世からの友達だ? そんなことを言われても、ただの頭のイカれてる電波やろうとしか思えねえからな。
加賀美の言葉は冷たいようで、だけど間違っていないだけに、俺は何も言うことは出来なかった。
「へい、リューマ。そういえば、聞いたことはなかったが……」
「ん? どした、ミルコ」
「ユーは、どんな時に前世の記憶を思い出したんだい?」
前世の記憶を思い出したとき?
「八歳の誕生日会だったかな? 俺の家で誕生日会したとき……そうだ、あの時、フォルナが俺にプレゼントとして、王国大聖堂の結婚式場を予約したとか言ってたっけな? ワタクシとヴェルトはお互い好き合ってるからとかなんとか、暴走した馬鹿なこと言ってたから、イタズラで俺には他に好きな奴がいるからとか言って、からかってやろうと思ったとき………本当に好きだったやつを思い出したんだ。そして、自分が誰なのかもな」
あの時感じた懐かしく、切なく、そしてどうしようもない悲しみと孤独。
目の前にいる奴らが一瞬で何者なのか、ここはどこなのか、自分はどうなってしまったのか、その全てが分からなくなって、ただ泣いたのを覚えている。
あの時から、どうしよもなくひねくれて、そして家族すら他人のように感じてしまった。
古い話だ。
「お前は?」
「ミーは、宮殿での催しで音楽団が演奏していた時かな? 気づけばミーは即興で歌を歌いだし、体が勝手に動き、そしてふとした瞬間に全てを理解した」
「へ~、そうなん。なんかアレだね~。俺はナンパしてる時に思い出したけどさ。新記録~っていう感じでさ」
そうか、みんな色々なんだな……まあ、加賀美のことは聞かなかったことにしよう。
だが、それはそれとして、それでも共通していることがある。いや、共通して、感じたものがある。
「ミーは、この世の誰にもリアルの自分を理解されない……永遠の孤独だと思った」
「俺は、全てをメチャクチャにしたいと思ったね。前世への未練が君たちよりも強かったから……どうしてもこの世界を受け入れたくなかった」
そう、孤独だ。
例え、それまで積み重ねてきたこの世界での自分は本当だったとしても、前世での自分の意識が強くなるにつれて、どうしようもない孤独に襲われた。
俺だってそうだ。
昔の俺は、親父とおふくろ、ずっと一緒に居たフォルナにすら、真に心を開くことができなかった。
本当は、孤独じゃないのに、それでも孤独だと思っちまう矛盾。
「あいつが、もし俺たちみたいに記憶を取り戻したら、どうなるんだろうな?」
その時、俺たちがソコに居なければ、ひょっとしたらあいつも苦しむんじゃないだろうか?
そんな思いを考えてしまうと、やはりどうしてもこのままでいいとも思えねえ。
なら、どうするか?
「なあ、ミルコ。今の俺たちがあいつにできることといえば……一つしかねーと思うんだけどな」
すると、ミルコも加賀美も、俺と同じことを考えたのか、口元に笑みを浮かべて頷いた。
「まっ、君たちはそうなんだろうね。今の渇きと飢えに包まれた王子様の………」
「ハングリーな彼を、満たしてやることぐらいだ」
ああ、それしかない。俺たちは、精神科医でもなければ、女のように愛で寄り添ってやることもできねえ。
馬鹿な不良がやることは一つしかねえ。
「おい、カー君、ユズリハ、観客席に行くぞ」
「ん? んん? んん?」
「ヴェルトくん、一体なんの話をしているゾウ?」
俺は未だに何が何だか分からないといった表情の二人をつれて、控え室から出る。
あとは頼んだぜと、ミルコに心でエールを送りながら。
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