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第七章

第227話 ツッコミ

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「そだね、金は後で回収するけど、俺も気になってしょうがないっしょ。村田くんもそうだよね?」
「オフコース」
「なんだ? ゴミども、兄のことを何か知ってるのか?」
「小生もジャックポット王子に会うのは久しぶりだが、ヴェルトくんたちはどういう繋がりで?」

 繋がりか。まあ、あるというよりは、それをあるかどうか確かめるってのが正直なところ。

「んで、カー君。いまさらだから聞くが、そのジャックポットってやつはどういう奴なんだ?」
「ん? どういう奴と言われても、まあ、イーサムの数多くいる子の中でも特に強い種族だゾウ。ユズリハ姫もそうだが、亜人の中でも優秀な戦闘種族である竜人族と、誇り高き王者の種族である獅子人族の混血だゾウ。二人共、戦争に興味ないゆえに世界的な知名度は無いものの、生まれ持った素質は異常なものだゾウ」

 竜と獅子の混血。そりゃー、存在だけで犯則だな。
 さらに、種馬となってるのは、あのイーサムだ。競馬でいうなら、G1馬とG1馬……いや、国際G1を制した馬同士から生まれたようなサラブレッドだ。
 そりゃー、ユズリハがこんなクソ生意気に育つのも無理はねえか。

「なんだ? ゴミ、なぜ私を見る?」
 
 だが、俺や加賀美、ミルコが知りたいのは、そんな出生の話じゃねえ。

「そうじゃねえよ、どういう男なんだってことだよ」

 ジャックポットというのはどういう人物か? 俺たちが知りたいのはそれだけだ。

「う~ん、どういうか……まあ、噂では……遊ぶのがとにかく好きだと。政治や大義を建前に殺し合う戦争には興味を示せず、ただなんの理由もなく単純な勝負や賭け事にしか生きがいを見いだせないと。しがらみなどなく、思うがままに生きていきたいと、いつも親と言い争っていたとは聞いているゾウ」

 直訳すれば、何も考えないどつき合いが好きってことだ。
 そん中で、何かを賭けて自分を追い込み、それを乗り越えた達成感的な瞬間を味わうのが好きってことか?

「なあ、ミルコ。そういや、『あいつ』は………別に金が欲しくてギャンブルやってたわけじゃねえ。ただ、スリルと勝つのが楽しくてやってたな」
「イエース。ギャンブルも、そして喧嘩も、相手と全力でぶつかって勝つのが楽しい。そういうシンプルな奴だった」
「まあ、おかげで痛い目みる時はとことん痛い目みるやつだったがな」
「ハハハハハ。しかし、最後はそれを帳消しにするビクトリーもゲットする……」
「あいつのそういうところに関しては……『ヤマトさん』も呆れるしかなかったもんな……」

 居たな。そんな奴。昔昔、それは、この世界を超えた、前世の世界での話。
 学校にも居場所のない、社会からゴミのような目で見られていた不良として街でうろついてばかりいた一人。
 お前なのか?
 ジーエルの案内についていきながら、俺たちは一歩一歩の足取りが徐々に早くなっていた。

「さっ、ここから先が控え室になっています」

 観客席から少し歩いた場所にある何の変哲もない扉の前。
 その扉にジーエルが手をかけて開いた瞬間、広いロッカールームのような部屋で、屈強な容貌をした男たちがテーブルの前に集まって、ひとりの男を取り囲んでいた。

「ほな、こういうのはどうや? ポーカーで、ワイが出すカードに対し、おどれらは全員で勝負する。もしおどれらの内、一人でもワイに勝つことができたら、ワイのこれまでのファイトマネー全部くれたる。せやけど、もしおどれらが負けたら、ワイの総取りや。どや?」

 一人だけ醸し出す空気が明らかに違う。
 サラッと自分に不利な勝負を持ち出して、自分以外の全てを敵に回しても何一つ動じない余裕な態度。
 しかも、その男一人に対し、屈強な男たちの表情は弱々しい表情をしていた。

「いや、それは……無理だ」
「さすがに、俺たちの全財産なんて……今日勝った報酬がゼロはな……」
「いくらお前一人が相手でも……それは飲めないよ」

 萎縮している。殴り合いでも殺し合いでもない。
 完全に運否天賦なカード勝負。しかも人数的には明らかに有利。
 なのに、男の提案に誰一人乗ることもなく、顔を俯かせていた。
 その様子に、男はガッカリした表情でふてくされた。

「ったく、つまらん。ビビりおって。男なら全部投げ出して勝負せんかい。おどれらも自分の明日を賭けるぐらいの気概でやらんと、全然おもろないやないか」

 金が欲しいわけじゃない。ただ、勝負して勝つのが好きな男。
 まさに、こうして近くまで見ると、余計に懐かしさを俺たちは感じずにはいられなかった。

「失礼します」
「おい、兄!」

 控え室に入った俺たちに視線が向けられ、ジャックポットはギョッとした顔になった。

「おお、主任はん。それに、ユズリハやないか! おま、ここまで来んでもええやん!」
「ふざけるな! もう、逃がさんぞ、バカ兄!」
「待て待て、ほれ、ペロペロキャンディーや。ほったらかしにしたんは謝るわ。アメちゃんやるから堪忍してや」
「こいつめこいつめこいつめ!」

 最強の種族が、妹の前にアタフタした表情でうろたえてる。
 まあ、どこの世界でも家族では女が一番強いのかもしれねーな。
 ユズリハの存在を知らなかったのか、闘技場の戦士たちは、初めて見せるジャックポットの表情にかなり驚いている様子だった。
 一方で、俺たちは。

「…………なあ」
「へい、ユー」
「ん? なんや、兄ちゃんたち」

 バクバク高鳴る心臓の鼓動を抑えきれぬまま、目の前にいるジャックポットに、聞いちまった。



「お前…………十郎丸か?」

「は? なんやねん。ジューローマルって」



 あれ?
 俺とミルコの目が、一瞬で点になった。
 聞き間違いか?
 いや、そんなはずは…………


「いや、だからさ、お前、十郎丸じゃねえの? 木村十郎丸?」

「は? だから、なんやねんて。人の名前か? ワイはそないな名前ちゃうで?」


 え……………………?

「へ、へい! ユーは十郎丸ではないのか? ミーが分からないか? ミーは、ミルコだ。村田ミルコだ」
「俺だよ、俺、リューマだ。朝倉リューマ!」
「ちょっ、あれ? えっ、違うの? 木村くんじゃないの?」

 加賀美も含め、俺たち三人は慌てまくって身を乗り出したが、ジャックポットは首を捻るばかり。
 
「んなはずあるか! じゃあ、その喋り方はなんなんだよ! なんで関西弁なんだよ!」
「カンサイベン? なんやそれ、弁当の種類かなんかか? ワイはなんや知らんが、生まれつきこういう喋り方や」

 そんな馬鹿な……

「それは本当だ。兄は昔から変な喋り方が直らない。父も母も直そうとしたが、諦めた」

 いや、でもさ、そんなはずはねえ。
 少なくとも俺とミルコには分かる。

「いや、ユーから感じるオーラ、その生き方は、ミーがよく知る十郎丸だ」
「ああ、俺もそう思うぜ。だが、何でだ? なんで、こいつは…………」

 一体、何がどうなってるんだ? そう思ったとき、俺はあることに気づいた。

「あああああああああああああああああああああああああっ!」
「ど、どうした、リューマ」
「お、おい! おい、ミルコ、加賀美! お前らさ、前世の記憶っていつぐらいに思い出した?」
「えっ? ミーは……戴冠して、数年後で……えっと……」
「俺は結構若い時だったっしょ」

 ちなみに、俺は八歳だ。
 そう、バラバラなんだ。
 死んで生まれ変わった俺たちが、この世界で前世の記憶を取り戻した時期は、バラバラなんだ。


「ひょっとしてさ………十郎丸のやつ……前世の記憶が戻ってねーんじゃねえのか?」

「「………………………………あッッ!」」
 

 こういう時に言う言葉なのかもしれねえな………あの言葉……


「おい、なんなんや、兄ちゃんたち。記憶とか前世とか………」

「「「なんでやねん!」」」

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