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第七章

第216話 久々にハメを外す

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 ヴェル君です。
 キー君です。
 カー君です。
 マー君です。
 名前だけならスゲー可愛いけど、実際並ぶとこいつ等メンツ濃すぎ。
 つか、さっそく四人組ができたわけなんだが、俺たちのチームの名前はどうするか?
 思考に余裕が出てきてくだらないことが頭に思い浮かぶ。
 だが、結構大事なことだと思うし、後でマジメに考えてみるか?
 とりあえず今は再会と決起集会の意味も込めて………

「や~きゅ~う~う、す~るなら~、こういう具合にしやしゃんせ~、アウト!」
「セーフ!」
「よよいのよい!」
「よい!」
「しゃーっ、勝ったっしょ! やべ、なんとか勝ったっしょ!」

 今は、ハメを外すか!

「さあさあ、おね~さん、そろそろブラを外しましょうね~」
「もう、シャチョーさんのエッチ~」
「おっほっほ~、パナイではないか~パナイではないか~、そ~れ~!」
「あ~~~~れ~~~~!」

 とある村の、ナイトクラブのような酒場で、ナンパした若い女たちを相手にお座敷遊びをしている加賀美。
 風呂にも浸かり、ヒゲも髪も昔のようにさっぱりさせて、チャラ男に戻ったこいつは、久しぶりの酒と女に囲まれて、酒池肉林と大ハシャギ。
 まるで、乾きを潤すかのように、遊んでいた。

「ファファンファ、ファンファンファン! ファファンファ、ファンファンファン! ぐ~っどな・湯っだっな~♪」
「あ~ん、鬼ぃさん、とっても歌上手~。もっと歌って~!」
「ねえねえ、ゾウさんも食べてばかりいないで踊ろうよ~」
「ん、気遣い無用だゾウ。小生はこれからの旅に備えてひたすら食い、鋭気を養うゾウ!」

 得意のギターでBGMのように、さっきから何曲も流すミルコは、バーカウンターの上に腰掛けて、ミラーボールのようにカラフルに光り輝く店内を実に盛り上げた。
 さらに、久しぶりのまともな食事にガツガツと食いまくるカー君。テーブルに盛られた山のような果物をかきこんで行く。……一応、草食なんだ……
 つか、夜で暗いのも幸いしたのか、モロ犯罪者や指名手配が混じってるけど、誰も気づいてねえ!
 いや、まあ、いいんだけどさ……

「しっかし、あの寂れた村が、よくもまあ、こんな観光スポットになったもんだぜ」

 二年ぶりに訪れた、人類大陸に存在する旧シロム国の近隣の山脈地帯の麓にある小さな村……があった場所。
 しかし、そこは、今では活気にあふれた地となっており、村も広くなり、人の出入りが非常に多く見られるまでに成長していた。
 かつては店も人も、どこか質素過ぎて、のどかというか寂れた貧しい村というイメージしかなかった。
 だが、温泉を掘り当てて二年。宿泊施設や飲食店や雑貨屋などの商業も一通り揃い、村には酒場に似たナイトクラブのようなものまで存在し、温泉目的に訪れた観光客や村の若者たちが、眠らない夜を盛り上げていた。

「ね~、お兄さん、どこの宿に泊まってるの?」
「ちょっと可愛いね~、ねえ~、どうかな?」

 ミルコの音楽に合わせて、なんかテーブルをお立ち台替わりにして、さっきから露出が多い服を来た姉ちゃん達が、腰をくねらせて踊っては、目の合った男達にウインクしたりしている。
 一方で、ちょっと一人で座って黙ってると、逆ナンというより娼婦のような匂いをプンプンさせた姉ちゃん達が体を摺り寄せてくる。

「ん…………ん~………」

 やばい、童貞には少し早い空間だった。
 つか、加賀美とミルコはすげーな。完全に溶け込んで、夜の遊びに興じてやがる。

「お~い、朝倉くんもこっちこっちっしょ! それじゃ~、全員この棒を引いてね~、さんはい、王様だ~れだ!」
「OH~、それなら、ミーは元キングだ」
「あはははは、何それ~、キー君ってばおもしろ~い」

 いや、つーか、あいつらは俺と違って一応それなりに歳食ってるわけだし、転生後の人生経験は常人よりも遥かに濃いわけだし………

「僕が王様なんだな! 四番は王様におっぱい揉ませるんだな!」
「え~、キモくんったらやだ~、あん、触り方やらし、ちょ、やだ、ん! や、コリコリしないで……こら~、これ以上は、ドンアウト!」
「ぷぎゃあ! いいんだな、最高なんだな! もう、今晩はまず君を戴いちゃうんだな!」

 あれ? 何で俺たち四人組なのに、この豚がいるんだ?
 ああ、そーいや、一緒に逃げ回ってたら付いてきちまったんだっけ?

「ヴェルトくん、ヴェルトくん、この村は最高なんだな! もう、僕は元の職場なんかに戻らないで、ここに住むんだな! 王様ゲーム最高なんだな!」
「あ~、好きにしろ。つか、俺はお前をこれ以上連れて行く気もねーし」

 どいつもこいつもハシャギやがって。まあ、別にいいんだけどさ。
 ソレ目的で来たんだし、別に構わねえ。だが、どうにも女が絡む遊びは前向きに出来ねーな。

「やった、また僕が王様なんだな! それじゃあ、五番が王様にパフパフするんだな!」
「………………………むっ…………小生が五番だゾウ」
「…………………ぶひ?」

 キモーメンの断末魔のような悲鳴と爆笑の声を聞きながら、俺は気付かれないように席ををソッと立ち上がり、酒場から出ていた。
 ちょっと疲れた体と、温泉に浸かって火照った体を背伸びして伸ばしながら、俺は落ち着いて辺りを見渡した。
 昔は自然の空気が美味しい感じがしたんだが、今では立派な繁華街のような煌びやかな光がある。

「ねえ、お兄さん、ショートでこれだけ、ロングでこれだけでどう?」
「おー、お兄さん、若い子いるよ」

 にしても、改めて何なんだ? もはや、ここは温泉地の繁華街と言うより、もはや歓楽街じゃねえか?
 店の前や柱の下に立っている女たちが、怪しい目をして誘ってきやがる。
 合法なのか? 非合法なのか? まあ、そこら辺は分からねえが、あまり厳しくない、少しだけアウトローな空気が漂う分、ミルコたちの存在に気付いてないのか、それとも金を払う以上は客として持て成しているのか、正直なところ分からねえ。
 間違いなく発展してるんだが、これで良かったのかどうか、まあ、俺には関係ねえけどな。
 すると、そんな時だった。

「きみ~、こんなところで~、女の子も連れないで~、歩いて~、ひょっとして緊張して買えないのかな~?」
「勇気出して~、がんばりなよ」

 また、随分と色っぽい声の女たちに声かけられた。
 振り返ると、そこに居たのは確かに色気と言うより、セクシーという言葉がしっくりくる。
 なんか、アメリカのポルノ関係に出てきそうなブロンドの巨乳、むっちりとした尻、目を奪われる二人組だった。
 服装はハーフパンツにマイクロビキニという、エロス。
 ハッキリ言って、童貞には刺激が強すぎるわけだが、俺は二人の顔を見て、思わず「あっ」と言ってしまった。

「どうしたのお兄ちゃん~?」
「お姉さんたちの~、どこを見てるの~?」

 二人は俺を見ても特に変わった反応はない。
 だが、俺はこの二人を知っている。見たことも話したことがある。

「あ~、組合長~、この時間はあんまり外を出歩かないで下さいよ~」
「クリ姉さんとリス姉さんが歩いてると、男どもが引っかからないんだからさ~」

 女たちが笑顔で挨拶し、通り過ぎる男たちは皆がやらしい目で振り返る。
 この二人、かつて俺がこの村に来た時に居た、ハンターコンビ。確か、『クリとリス』だったかな?

「組合長?」
「ん~? きみ~、ひょっとして初めて? お姉さんたちを知らない~?」
「お姉さんたちは、この温泉地を取り仕切る労働組合長よ。よろしくね♪」

 少しだけ懐かしい再会に、俺は少し笑みが零れた。

「へ~、随分とエライんだ」
「そうだよ~、エロイんだよ~ん。な~んてね」
「お姉さんたちは元ハンターでね~、二年前にこの温泉を掘り当てたの~。まっ、実際の功労者は人類最強ハンター・ファルガとか、モンスターマスター・クレランとかなんだけどね~。あとは、現在ラブ・アンド・ピース最高幹部、魔族代表友好大使のウラちゃんと~、二代目剣聖のムサシちゃん」
「今にして思うとすごいメンバーだよね~」

 懐かしい名前たちに、自然と笑みがこぼれる一方で、胸を襲う切ない感覚。
 やっぱり、俺の名前は出て来ないわけか。

「そいつらは…………たまに、ここに来りするのか?」

 気持ちを察しられないように、俺が言葉を続けると、クリとリスは「残念ながら」と首を横に振った。

「それが~、ぜーんぜん。なんか~、すごい忙しいみたいだしね~」
「チェッ、ファルガを喰っとけば、今頃王女になってたかもしれないのにね~、残念~」
「まっ、今はお金には全然困ってないんだけどね~。寝ててもお金入るし~」
「たまに、こんなに可愛い子が夜道を歩いてるし~」

 いや、しなだれかかるな、息を吹きかけるな、耳を噛むな、足をからませるな、腕を谷間におしつけるな、俺の胸を服の上から弄るな!

「ちょ、おいおうおうおう!」
「ひゃ~ん、新鮮~、ジュルジュルだね~」
「パコっちゃう~?」

 なんだ? 本能的に俺は察した。
 搾り取られる!

「っ、やめろやめろ、ちょっと今、色々と複雑な気分なんで、女に絡むとつらくなる」
「あら~、どうしたの~? 失恋でもしたの~?」

 俺が恥ずかしさを振り払うかのように身を捩って言った言葉に、クリとリスは、また別の反応を見せた。
 失恋? いや、そういうわけじゃねえけど……

「いや……失恋……じゃないけど………」

 それでも、フォルナとウラ、それにエルジェラが頭を過った。綾瀬は……どうでもいいや。
 だが、何でだろうな。
 別に酔ってるわけじゃねえ。だが、この二年間で抱えたある種の孤独。
 そして、「こっち方面」の弱みは、絶対に加賀美とかには知られたくねえし、女々しく思われるから言わねえ。

「う~ん、ぜんぜんわかんな~い!」
「もう、そんな難しい話しないの~。ほらほら、せっかくここに来たんだから楽しんじゃおうよ。ウチの組合で飲みなおそ?」

 俺もこれ以上言わなかった。つか、言ったところでどうにかなるわけでもないしな。
 ただ、飲むぐらいならいいかと、俺はクリとリスの間に挟まれて肩を組まれながら、二人に連れられた。

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