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第七章

第211話 反逆開始

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 気付いたら喚いていた。
 お忍びで、時間や手間をかけてここまでバレずにたどり着いたのに、俺は何も気にせずただ地の奥深くから叫んだ。
 もう、ただ苦しくて、ただ楽になりたいと思ってしまうほどに。

「誰だ、そこに居るのは!」
「お前、所属と名前を言え!」
「ッ、ちょっと待て! あれは……あれは、ヴェルト・ジーハ! なぜこの階に! しかも、なぜ制服を着ている!」

 大声で騒ぎすぎた。異変を察知した看守たちが武器と杖を携えてゾロゾロと現れて、俺を取り囲んでいた。
 その目は戸惑いと、若干殺気立っているように見えたが、俺にはどうでもよかった。

「ヴェルト・ジーハ! お前のことは将軍からしっかりと見張るように言われている。なぜ、お前がここに居る! どうやって、ここまでたどり着いた! 一体何の目的があってここに居る! 答えろ!」

 タイラーのことがあるから、殺されはしないんだろうけど、今まで以上にこれからの生活は厳しくなるか……でも、何だかそれもどうでもよくなった。
 結局俺は何もできなかった。唯一できるかと思った加賀美への復讐すらできなかった。
 もう、消えてなくなりたいぐらいだ。

「朝倉君、一つだけあるよ」

 その時、どこか悪だくみを思いついたような加賀美が、ニヤついた笑みを俺に向けていた。

「人類が滅ぶことを防ぐことも、魔族や亜人を存続させることも、………手段は一つだけ残されている」

 その悪魔のような言葉は、俺の意識を思わず覚醒させた。

「無駄口を叩くな、マッキーラビット! ヴェルト・ジーハも、その場を離れろ!」

 何を言ってんだ? こいつは。
 手段がある? 一体、何があっていうんだ?

「朝倉君。要するにだ、人類だ魔族だ亜人だ神族だ、そんなくだらない種族争いなんてさ、取っ払っちまえばいいのさ」
「どういうことだ?」
「朝倉君、世界はどうして戦争を続けている? 世界が戦争をする大義名分は何だい?」

 今更何だ?
 戦争をする理由?
 自分の種族を守るため? 恨み? 正義?
 挙げればキリがねえ。

「パナい簡単さ。要するに、神族大陸を手に入れるためさ。言うなれば、あの広大で資源も豊富な大陸の陣取り合戦をしているから……そして、あの大陸の支配者が誰も居ないからさ」

 そう、それは根本的な戦争の原因。
 神族大陸の派遣を争う戦い。そのために世界は何年も戦争を繰り広げて来た。

「なら、支配者になればいい」
「あっ? 加賀美………お前、何を言ってんだ?」

 俺は思わず震えあがった。
 こいつは、どうしてこんなことを、さも「今からカラオケに行こう」みたいなノリで言っちまうんだと。

「人も、魔族も亜人も、ラブ・アンド・マニーも、ましてや神すら関係ない。ヴェルト・ジーハ自身が、神族大陸の支配者になればいいのさ。誰にも手を出させない、唯一無二の存在にね」

 そんなこと、出来るはずがねえ。

「神族大陸で争いが続くなら、神族大陸から全員追い出せばいい。それでもそれぞれの種族の大陸に乗りこんでまで戦争続けるなら勝手にやらせればいい。どう? パナくない?」

 相手を滅ぼしたり負かして戦争を無くすのではなく、相手を追い払って戦争を無くす?
 無理に決まってんだろうが。世界の勇者だ魔王だ獣どもを、全員まとめて俺が追い払えって言うのか?

「バカか、テメエは。俺に、世界征服しろってのか?」
「そうさ、パナい分かりやすくっていいっしょ?」

 本当にバカげてる。こいつは………

「加賀美、テメエは帝国で俺のダチや昔馴染みの奴らに手を出し、殺した」
「やったのはサイクロプスじゃん?」
「その上、俺をこんな状況に落とし、その上で俺に更にメンドクせーことさせて、テメエは楽しもうってハラか?」
「正解♪」

 本当に、バカみたいな話だ。

「簡単に言ってくれるぜ。俺には嘘でみんなを騙すことができねえ。だから、いっそのこと敵に回しちまえってことかよ」
「そうそう、開き直っちゃえば?」

 タイラーの話に従えば、ウラたち魔族、ムサシたち亜人の世界が壊れる。
 神族復活をちらつかせての、大きな戦争が沈静化しているこの状況下もいつまでも続かない。
 世界規模での人間、亜人、魔族の和睦は絶対にいつまでも続かない。
 神族大陸が存在する限り、生物はその世界を食い荒らす。

「朝倉君、俺たちの世界もそうだったっしょ。人間同士で世界全部が分かり合えたかい? 俺たちが知らなかっただけで、世界は常に戦争で溢れていた」
「うるせえ! 黙れ!」
「そして、君も俺もこの世界のこの人生では知っている側に、関わらずにはいられない側になってしまった。もうね、傍観者じゃいられないっしょ」
 
 だから、何でそれをどうにかするのが俺なんだよ?

「どうして俺なんだ?」
「さあ? 君だからじゃない?」

 俺だから?


「悪になりきれねえ、ワルだから。その上、情にもろくて、小物臭丸出し。知ってた? 人ってのは、完全無欠のチート野郎より、どうしようもないやつの方が気になって、手助けしたくなるんだよ。昔から言うだろ? バカな子ほど可愛いってな」

「おま、何をサラっと俺をディスってるんだよ」

「そうじゃない? バカでワルで、でも一生懸命やる時はやるから、綾瀬ちゃんとか備山ちゃんとか、母性本能くすぐられたんじゃね?」


 まったく意味不明な理由すぎて何とも言いようがねえ。
 俺が世界の支配者だ? なんつー話だよ。

「でもさ、結局全部を守りたい君に出来ることはこれしかない。そして、君ごときが出来て思いつく方法はこんなバカな方法しかない。君は、冷たいフリして中途半端だ。人間も、そして魔族の友も亜人の友も見捨てることはできない」

 ああ、その通りかもしれない。
 世界の裏側でやってる戦争で誰が死んでも興味はなかった。
 フォルナたちが死ななければ、俺はそれで良かった。
 でも、俺はもう、口ではどう言おうとも、誰が死んでもどうでもいいとは思えなくなっちまった。
 俺は、出会いすぎたから。繋がりを持ちすぎたから。
 例え今、それが全部断たれていたとしてもだ。

「だああああああああああああああああああ、クソ! 死んで欲しくねーな、どいつもこいつも!」

 本当に、知らなければよかった。
 こんなことになるなら、出会わなければよかった。
 魔族や亜人とも仲良くならなければ、こんな苦しく思う必要もなかったのにな。

「やるしかねえか」

 もう、何もかも手遅れだった。
 なら、それしかないなら、開き直るしかないのかもしれねえ。
 このクソ野郎の口車に乗るのは非常に癪だ。
 かつて、こいつと一緒に働いてた奴や、サイクロプスの奴らも、同じ気持ちだったのかもしれねえな。
 そして、俺もそれに乗っちまう。本当に、バカな小物だ。

「小物で上等。なってやろうじゃねえか、小悪党にな」

 気づけば、俺は自分の能力を使って、加賀美を拘束していた鎖や、牢の檻を魔法で捩じ切ってぶち破っていた。

「なっ!」
「ヴェ、ヴェルト・ジーハ、お前は、な、な、何をしている!」

 ここは日本じゃねえ。地球でもねえ。
 何が正義で、何が悪か、何が正しくて、何がダメなことなのか、俺は結局分からないままこの世界で十七年過ぎた。


「ノッてやるよ、その話。そして、テメエは馬車馬のように働け。今度は俺がテメエを巻き込んでやる。それが俺の復讐だ」

「おやおや~?」

「難しいこと考えるのはもうやめだ。どいつもこいつもムカつく奴らも邪魔する奴らもぶっ飛ばす。神族大陸は、俺が征服する。一人残らず出てってもらい、二度と手出しできねえようにしてやるよ」


 ああ、そうだ。全員騙したままヘラヘラ生きるぐらいなら、全員敵に回して自由に生きてやる。

「ひははは、マジ? マジマジマジ? なにそれ、パナい最高なんですけど! つか、朝倉君、俺を仲間にするつもり?」
「俺に仲間なんて居ねえよ。居るのは使える舎弟だけだ」
「ヒドス! ヤバス! なんだってば、それは! つか、俺のこと全然信用もしてないのに、裏切りとか怖くないの?」
「あ? くだらね。所詮、テメエは加賀美なんだよ。俺がテメエごときに、ビビるわけがねえだろ?」

 そう、俺はもう一度生きよう。この世界で。
 そう思った瞬間、何だか俺も加賀美も高校生の頃に戻った気がした。


「さて、もう十分寝たから、二年ぶりに外へ出るとするか」

「ひはははは、もう別にどうでもよかった世界だけど……何だか、もう少し見てみたくなったよ。君が何をどうして、何を変えるのかをね!」


 気づけば俺たちは、少しだけハシャいでいた。
 ガキがガキみたいにガキらしく、ハシャイだ。


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