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第六章

第202話 幸せだった夜

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「朝倉………あ、あんた、マジで死んだほうがいいんじゃない?」
「輪廻の恋すら冷める事実ね……」
「エルジェラ! おま、お前、その言い方が! ヴェ、ヴェルトの、チ、あの、あれの、ぬ、ぬく、ぬくもりとかだな……」
 
 俺は、備山と綾瀬の絶対零度を突破した冷えきたった瞳や言葉を聞く前に脱出しようとした。
 だが………

「ふわふわ――――」
「雷破壊掌打!」

 全身の力を一瞬で奪うような雷撃と衝撃。その電撃はフラッシュバックのように、俺のこれまでの人生を走馬灯のように一瞬で頭の中に流した気がした。

「ヴェルト様! そんな、どうして、フォルナ様が!」
「お、おま、お前の所為だ」
「いや、朝倉がワリーだろ」
「フォルナ……かわいそうに……惚れた方の負けというのは本当なのね……私も人のこと言えないけども……」

 天幕を突き抜けて地面を激しく転がり、気づけば俺の視界には美しい魔法世界の星空が広がっていた。
 ああ、今までここまでの展開にならなかったから思わなかったけど……俺は意外にラブコメ野郎だったんだな……


「ヴェルト……………しばらく、反省なさい。封雷世界!!!!」

「って、うおおおおおお、アブね!」


 下段突き。俺の顔面を瓦割りのように拳を振り下ろしてきた、
 フォルナ。迷いが一切ねえ! 殺す気か!

「くっ、もう少しでしたのに!」
「うるせえ! つか、何だよ、今の技は!」
「封雷世界のことですか? ヴェルト、あなたは人体が脳から電気信号を出して肉体に命令をして体を動かすということを知っていますか? この技は、その信号を強制的に遮断させる技。つまり何も考えられず、肉体を動かすことすらできず、相手を封じる技ですわ」
「いや、お前、そんな凶悪な技を、何をサラッと俺にぶち込もうとしてんだよ!」
「正確には……ヴェルトの性剣にですわ。将来的な子孫繁栄のためには切り落とすわけにはいきませんので、とりあえず封印することにしますわ。もう、一滴たりともワタクシ以外には無駄撃ちさせませんわ」

 殺す気じゃなかった。封印する気だったみたい。
 おい、惚れた相手を殺すとか殴るとかわかるけど、封印するって斬新だな。

「つか、その技を魔王にやれば勝てたんじゃねえのか?」
「いえ、この技はまだ未完成でしたの。しかし、今後ヴェルトを放置せずにワタクシの元で監禁……ではなく、監視下に置いてでも繋ぎとめて調教……ではなく、お説教しなければならないと思った瞬間、完成しましたわ!」
「怖い。コエーよマジで。つか、本当そういうの勘弁しろって。エルジェラが俺のアレを触ったのは偶然で……そう、凍死寸前の俺の蘇生を行うためにだな!」
「でしたら、どうしてヴェルトの性剣が関係ありますの?」
「それは、俺がわけあって全裸で、さらにエルジェラも裸だったから……」
「どうして二人して裸なのですの!」
「ちょまっ!」
「あと、先ほどの『ベッド出迎えた朝』というのはなんですの?!」
「そ、それは、女の子しかいない天空世界のお姫様のエルジェラが男の体に興味津々でぇ!」

 全身のツボを突かれたかのように、力が抜けた。頭で考えていることが全然体に伝わらねえ。
 ふわふわ技をしようにも、魔力の流れが全然分からねえ。
 おいおいおいおい、この技、無敵じゃねえのか? 完成させた原因がコレっていうのも変な話だが。

「なにやってんだ? 愚弟」
「あらあら、おとーとくんは、さっそく夫婦喧嘩?」
「つまり、ルンバ殿! 拙者が殿の右腕として~。ひっぐ、生涯支えるでござる~」
「素晴らしいであります、ムサシ殿。共にウラ姫様、そしてヴェルト様を支えるであります。ささ、御一献」
「お姉、お酒飲んだらダメだよ~」

 あっ、周りの声だけが聞こえる。俺の感覚が色々と封じられて、頭の中がスッとしてる。
 ファルガやムサシたちが、何やら気の合った連中と酒飲んだり飯食ったりしてるけど、俺を助ける気はまるでなし。

「ヴェルト、随分とイタズラが過ぎましたわね。昨日のワタクシとのやり取りも、行きずりの女を抱くような流れだったのではありませんの?」
「ま、待て、それはちげえ! 昨日は俺もマジで相手がお前ならと思って」
「そういえば、アルーシャに性剣を握られても感じていましたわね!」

 それは仕方ねえ! 臨戦態勢のアレを女に素手で握られたら、むしろ反応しねえ方がおかしいっていうか……

「はっ? 綾瀬、あんた、えっと、マジで? 朝倉の………こう、しごいたの?」
「ちょっ! や、やめなさい! 昨日のは色々とあって……その卑猥な動作やめなさい! フォルナも、お、落ち着きなさい! 私にまで変な噂が立つじゃない!」

 備山が引きつった顔で握った拳を上下させる。おま、いくらギャルビッチとはいえ、こんな公衆の面前で……

「うわ~、ヴェルトのやつ、すげえな」
「僕たちの知らない間に何が……」
「ああ、昨日ね。あいつとフォルナ姫とアルーシャ姫が、温泉でマッパになってまぐわってたよ」
「まぐ……ええええええええええ! ハウ! ちょ、なんだよそりゃ! あ、あの野郎、フォルナ姫がいながら、ど、同時にアルーシャ姫とも!」
「さ、さい、さいてーだよ、ヴェルトくん!」

 かつての同期の幼馴染たちも俺をゴミ虫のような目で見る。
 なんでだ? さっきまで、俺の活躍に熱くなってたじゃねえかよ!

「ああ、ヴェルトヴェルトヴェルトヴェルトヴェルトヴェルトヴェルト! 信じていましたのに信じていましたのに信じていましたのに信じていましたのに信じていましたのに信じていましたのに信じていましたのに!」

 な、なんだ? 美しい星空に暗雲が漂って……

「あ゛あ゛あ゛~やはり、無理やりにでも帝国で再会した時に契るべきでしたわ。もっと早く封雷世界を完成させるべきでしたわ。十歳の別れの時に、ワタクシの二次成長が完了しているべきでしたわ。出会った瞬間に婚姻の儀を結ぶべきでしたわ。モットハヤクニ! モットハヤクニ! モットハヤクニ!」

 く、黒い雷?
 な、なんだ? フォルナが、なんかすげえ、禍々しい雷に包まれて……

「フォルナ、おま、どうしたんだよ!」
「ん? これは……愚妹の属性は、雷と光と無属性のはず……」
「空気が痛いわ……フォルナ、どうしたのよ!」

 これは、地獄の雷? 夜叉のような角と牙のようなものが目の錯覚で見えてしまう。
 なんか、フォルナが変身してんだけど……

「ヴェルト……………………」
「はい」
「…………………服を脱ぎなさい…………」
「………………………………………はっ?」
「アナタガホカノオンナニナニカシテイナイカドウカ、カクニンシマスワ。カミノケイッポンカラサイボウノヒトツニイタルマデアナタニカカワッタジョセイヲヒトリノコラズワタクシガアナタノノウヲシラベサセテイタダキマスワ」

 ………俺は思った………聞く耳もってねえ、選択肢を誤ったら殺される。
 今のフォルナはグラス一杯に注がれた表面張力状態。これ以上の刺激や追加は危うい。
 いや、堂々としろ、俺。チェックも何も俺は調べられてやましいことはねえはず……ウラとかエルジェラにチュッとかペロってのはセーフ……かなと……

「いや、待て。それよりもだ、ヴェルトの奴、フォルナだけならまだしも、私というものがありながら、アルーシャ姫にまで卑猥なことをしたのか!」
「落ち着いて、ウラ姫! あれは、彼が事故みたいな形で温泉に現れて……その、やましいことは………な、なかったのではないかしら?」
「うわ~~、何だよ、人のことをビッチ呼ばわりして、真面目なあんたの方がよっぽど卑猥じゃん。てか、ウラウラもさ~、あいつのこと好きなのは分かったけど、話を聞く限り一番進展してないのはあんたなんじゃない?」

 ウラと綾瀬と備山が話をしているが、何でそんな挑発的なことを?

「そ、そんなことないぞ! 私だってヴェルトと色々……」
「だって、エルジェラと綾瀬とあの嫁さんはさ、全裸で色々ナニをアレしてんだろ? 聞いた話によると、あんたは子供の頃にキスしたぐらいだろ?」
「うっ……ち、違う、わ、私だって……ヴェルトといっぱいあるぞ! ヴぇ、ヴェルトのアレに口で……それに、この間だって! この間だってフットサル大会の時に、ヴェルトにアソコを触ってもらって、いっぱい気持ちよくしてもらったんだからな!」

 この日、フォルナの最強技が完成したようだ…………

「――――――――――――覇ッ!!!!」

 そして、この日を境にある検討がされるようになった。
 フォルナのメンタルを保つには、俺が傍にいると最高になるそうだ。
 しかし、フォルナを強くして新たな力を覚醒させるには、俺が浮気した方が良いのでは? という検討がされたとかされていないとか……
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