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第六章
第198話 集結
しおりを挟む「姫様!」
「ヴェルトくん!」
友の泣き叫ぶ声に振り返らず、俺とフォルナは誰よりも早く……
「……兄さん………こっちは任せたわよ」
「アルーシャ! 何をする気だ!」
「何を? それは彼に対する私のセリフだわ」
「……アルーシャ?」
「ふふ……ああ、そうなの、ふ~ん……君たちは、この事態でもそんなイチャイチャするわけね……ジョートーじゃない………もう、クラスメートと殺し合うなんてこりごりよ! 達観して見過ごすのもゴメンよ! 私を、甘く見ないことね!」
誰よりも駆け抜けていたはずの俺とフォルナの横に、誰かが……
「止めるわよ、朝倉くん。何があってもね」
綾瀬だった。
「アルーシャ、あなた!」
「綾瀬……」
何一つ迷いのない、どこか吹っ切れた顔の綾瀬が、俺の隣を走り、気づけば空いていた片方の俺の手を繋いできた。
そして、少しだけイタズラ混じりの表情で、笑った。
「ちょっ、おま!」
「というわけで、フォルナ。あとは、私と朝倉くんに任せってもらって結構よ。そう、私と朝倉くんと村田くん。私たちにしか分からない私たちだけの絆に」
「ああああ! もう、ヴェルトはヴェルトなんですの! アサクラリューマではありませんわ! あなたこそ、その手を離しなさい!」
こいつら……こんな時に……でも、なんだろうな、この気持ち。
「やべえな」
「ふふ、どうしてでしょう。絶体絶命のこんな危機なのに……」
「ええ、不思議ね。何とかできる気がしてくるわ!」
気持ちがどこまでも高ぶって、俺たちは人類大連合軍から飛び出して、両軍のど真ん中にポツンと立つママンの下へと降り立った。
「あらん? これはこれは、可愛い援軍ね~ん」
「ママン! 無茶すんなよな! ママンに何かあったら、備山に顔向けできねえ!」
「ユーバメンシュ、事情は聞かないわ。でもこの場は………って、待ちなさい、朝倉くん。何故そこで備山さんが出てくるのかしら?」
「ああああああ! またですわ! また、アサクラリューマの会話、もういい加減になさい!」
しかし、のんきに話している場合じゃねえ。
こっちは四人。
左右には万を超える人類大連合軍。そしてジーゴク魔王国軍。
「「「「「「「「「「突撃だああああ!!!!」」」」」」」」」」
そして、ついに両軍がそれぞれの大将の決定や命令を無視して、憤りと身を守るために突撃を始めた。
止まれと必死に叫んでも、もう俺たちの声はかき消される。
両軍共に、一部の者たちにしか俺たち四人の姿は見えてねえ。
なら、どうする?
来たはいいけど、マジでどうする?
だが、その時った。
「大丈夫よん、ヴェルちゃん。あなたは本当に……何かを持ってるわん!」
ママンの言葉を聞き返そうとした次の瞬間!
「なっ、なんだ!」
突如、俺たち四人の立っていた地点が、青く輝き、天まで届くほどの光の円柱が出現した。
これは、魔法陣?
「な、こ、これは!」
「一体、どういうことですの!」
世界に拡散するほどの光を見て、さすがに猛った両軍もわけが分からず動きを止めた。
するとその光の中から…………
「ふっ、私もマニーほどではないが、空間転移を使える…………さすがに、この人数だと、大幅な魔力消費と、膨大な詠唱時間を要するが……」
その男は片膝付き、かなり消耗した姿で俺たちの前に現れた。
「あなたは……な、なぜ!」
「ちょっ、おい!」
その姿に、俺とフォルナは驚愕した。
「間に合って良かった。ヴェルト………フォルナ姫」
「「タイラーッ!?」」
タイラーだった。
魔力の発光とともに姿を現したのは、タイラーだった。
いや、それだけじゃない。
「状況がつかめねえ。これはどういうクソ展開だ? なあ? 愚弟。愚妹」
「ファルガ!」
「に、兄様!」
ファルガが……
「ヴェルトオオオオオオオオ! うわああああああん!」
「殿オオオオオオオオオ! 殿オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ウラ! ムサシ!」
「ウラ、あなたまで!」
大号泣しながら俺に飛びついてきた、ウラ、そしてムサシ。
「私たちに心配させて、いけない弟くん♪」
「にいさああああああああん、オイラ、心配して全然ゴハンが入らなかったっすよーーー!」
「クレラン! ドラ!」
「どういうことですの! 何故、タイラーとあなたたちが!」
俺を小突いてきた、クレラン。
戦場にその巨体な姿で泣き叫ぶ、ドラ。戦場に突如現れた巨大竜に、両軍の動きが完全に止まった。
「うわ~、つか、マジありえね~、何であたし来てんのさ? よ~、ママン、朝倉~、なんか連れて来られた」
「あら、あんたまで来たのん?」
「って、備山!」
「はっ……ヴェルト、誰ですのこの方! しかもダークエルフ!」
「って、えっ、朝倉くん! い、今、備山って言った?」
何故か、備山も………
「うわ~、僕たちまで何でかな?」
「局長の許可は取った。ならば問題はない。ムサシも心配だしな」
「なんで私たちまで!」
「しかもピンチだよ!」
「とばっちりなの!」
って、シンセン組のソルシとトウシに、三人娘まで!
そして……
「ヴェルト様! 良かったご無事で……」
「うお、おおお、エルジェラ!」
「ヴェルト様にもしものことがあったら……私は……私たちは……」
「お、おお、す、すまん……」
「いいえ、許しません♪」
エルジェラまで。そして、こんな危ないところにまで連れてきやがって。
ちゃんと預けてこいよ……
そんな風に思いながら、俺に身を寄せてくっついてくるエルジェラを俺は受け止めて……
「……ヴェルト……その方……誰ですの?」
「……朝倉くん、どういうことかしら?」
そんな中でエルジェラは俺に抱きかかえているものをつきだす。それは、赤ちゃん。そして、むくれている赤ちゃんが俺の頬を引っ張ってくる。
「ほら、コスモス。あなたもマーマと一緒に、パーパに「めっ」をしなさい」
「だああ! ぶんぱ! ぱああああ!」
「ったく、あぶねえだろうが、連れてくんなよな。あっ、こら、コスモス、引っ張るな」
コスモスまで。
「…………あ゛? マーマ? ……パーパ?」
「…………はっ? マーマ? ……パーパ?」
まったく、ほんの僅かな別れなのに、どこか頼もしすぎる再会に感じた。
わずか数人。しかし、巨大な光の発光と、更に巨大なドラ、そして現れたファルガたちを見れば、さすがに両軍共に目を丸くして、ただただ叫んだ。
「「「「「な………………な、なんだあいつらはっ!!!!」」」」」
鬼と人間の声が一斉に揃った。
不思議なもんだ。
たった数人増えただけだというのに、もう今では何も恐怖を感じなくなった。
何も怖いと思わなくなった。
「まったく、どいつもこいつも狙いすましたかのように現れやがって」
こいつらが居れば、恐れるものは何もない。
それでもあえて、恐いものを上げるとしたら…………
「パーパ? ……う゛ぇると? ………ねえ? ドウイウコトデスノ?」
「……あさくらくん? ねえ、ねえ、ねえ………私も幻覚と幻聴にやられるなんて、未熟ね……そのお人形……とても精巧で可愛らしいわね♪」
なんかスゲー病んだ目で俺を射殺すように見てくるプリンセス二人。
つか、コスモスは人形じゃねえし、リアルベビーだし。
さあ、どうやって乗り切ろう
「あら? ヴェルト様、そちらのお二人は……ヴェルト様のお友達ですか?」
「いや、お、お友達というよりかは……そ、その……」
「でしたら、ご挨拶させてください」
だけど、こんな状況下、状況をよく分かっていないエルジェラはただ天使の微笑みを見せて……
「初めまして。私は先日、ヴェルト様の奥さまになりました、エルジェラと申します。そしてこの子は、私とヴェルト様の子供のコスモスです」
「「…………ゑ????」」
鬼より恐い地獄に俺を叩き落としやがった……
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