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第六章
第189話 意味のない話
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ゼツキは自分の身に起こった出来事と、自分を襲った会心の二撃に戸惑っていた。
戦闘中に気を奪われることはプロ意識にかける? しかし、なんの前触れもなく自分の股間が大爆発して、自分の渾身の金棒が何故か自分に襲いかかった。
その二つの出来事は簡単に消化できるものじゃねえ。
爆煙に包まれて固まるゼツキに俺は警棒抜いて全力で振り抜いた。
「ふわふわ乱警棒!」
二本の警棒の先端に気流を魔法で渦を巻かせて、威力を上げる。
俺は殴った。動かねえゼツキを一発、二発、三発、四発。
「ッ、かって……」
想像以上に硬すぎる鬼の肉体。
だが、相手も無傷じゃねえ。俺の攻撃力でも十分に傷つけられる。
飛び散った青い血がそれを物語っている。
それにこのぐらいの硬さなら、シロムの街で四獅天亜人だったり、天空世界で七大魔王だったりと戦って経験しているから問題ねえ!
「うおりゃあああああ!」
「ッぐ、いう、おおお!」
手に残る鈍い感触。痺れ。
力を出し切るかのように振り抜いた一撃一撃は、俺に不快な思いしかさせねえ。
この感覚、そしてこいつから漏れる苦悶の声が、俺の心を締め付ける。
「くそ、うら、うおおおおおおおお!」
ああ、そうか、俺は喧嘩をしてんじゃねえ。
マジで殺す気で殴ってる。
だから、余計に気分が下向きに……
「ッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
その時だった。
鬼が咆吼した。
「うおっ!」
それは、ゼツキを壊しにかかっていた俺の勢いまるごと吹き飛ばすような激しさで、気合の開放? 的な衝撃波が、俺を何メートルもぶっ飛ばした。
「ヴェルト様!」
「ヴェルトォ!」
仲間たちの声が辛うじて聞こえたが、俺の意識はあくまでゼツキにしか向かなかった。
激しく転がって打ち付けた体を起こしながら、俺は顔を上げる。
「ッ、こ、この、テメェ!」
くははははは、すっげ。
俺は何を自惚れていた?
相手は、最強だぞ?
「若造………貴様、今、一瞬躊躇ったな!」
そして、この鬼は怒っている。
しかも、その怒っているポイントがズレすぎていて、余計に笑える。
「世界を懸け、命を懸け、全てを懸けて臨んだ男同士の一騎打ちに、貴様は余計な思いに気を取られて、我輩を『殺す』ことを躊躇って、心がブレおったな!」
自分をここまで傷つけたことじゃねえ。
俺の半端な心構えに憤りを感じてやがる。
怒るとこ、そこかよ?
「あまり吾輩をナメるなよ、若造!」
ああ、イーサムと同じ。イーサムに似ている。
こいつも、正にアレと同じ世界を舞台に戦い、同じ世界を見ている奴だ。
だからこそ、つくづく思う。
なんで俺、こんなやつと戦ってんだ?
「ふん、そんな戦場の心構え、俺には興味ねえよ」
「なにい?」
だからこそ、俺は開き直って答えるしかなかった。
「一度も死んだこともねえ奴が、俺に命を語るんじゃねえよ」
そう、少なくとも俺はこの場にいる誰よりも、「死ぬ」ことについて分かっている。
何故なら、一回体験したことがあるからな。
「面白いことを言う。だが、さすがの吾輩も面食らったぞ。どういうタネがあるかは知らんが……確かに致命傷を負った」
小さく笑みを浮かべるゼツキ。
その足元には止めどなく流れ出た血が、大きな血だまりを作っていた。
ああ、間違いなく致命傷だな。
「それでも戦うって言うんだから、最強だけど、バカだよな、テメェらは……」
「言ったはずだ、我輩をナメるなとな。この程度の苦境、既に若かりし頃に何度も乗り越えたわ! 今は、昔を思い出して余計に猛っているだけのこと!」
ああ、そうなんだろうな。
テメエくらいになると、一晩じゃ語り尽くせねえほどの武勇伝から修羅場があっただろうな。
だが、俺が言ってるのはそれじゃねえ。
「そこまで極めて、そこまで高みに居て……間違いなく本物だ。俺には理解できねえ世界だが、種族が違うだけでお前らも勇者やフォルナたちと大差ねえ偉大なもんなんだろう」
「んん? どうした。急に褒めおって」
「褒めてんじゃねえよ。だから分からねえだけだ。どいつもこいつも、なんで、意地になって神様とやらを有利にするようなことするんだ? それとも、テメエが死んでも、神様に勝てるのか?」
その言葉に、ゼツキの表情が固まった。
素直に驚いているようだ。
「若造………お前も、『それ』を知っているのか」
ああ、やっぱりこいつは知っている側の奴だったか。
タイラーが告げた、世界の真実。
世界の種族のバランスが崩れ、最後には弱体化して世界を神族が根絶やしにするという破滅のストーリー。
まあ、俺自身、確認の意味を込めて告げただけに、この反応を返されるとタイラーの言葉はやはり真実だったと思わされるから、地味にショックだけどな。
「ヴェルト様?」
「神様? おい、ヴェルト、てめえ、何言ってんだ?」
「どうされたのだ? ヴェルト殿は」
「……ハウ、どうしたの? そんな怖い顔をして……」
「……ヴェルト、なんであんたがそれを……」
この場に、コイツ以外にそのことを知ってる奴がどれだけ居るかは分からねえ。
だが、知っている立場のコイツですら、こんな調子だから、タイラーたちが頭を抱えるのも無理はねえな。
「勿論、お前らの戦ってきたもんが全部無意味だなんて言うつもりはねえ。だが、どうなるかが分かってるなら……世界を懸けてだ、仲間の命を懸けてだを言ってるわりには、全然先のこと考えてねえじゃねえかよ。血が騒ぐとか言ってんじゃねえよ。俺みたいな半端もんの不良でなく、マジで国を動かして世界の行く末を左右できるやつが、致命傷負って血をダラダラ流して、命知らずに叫んでんじゃねえよ」
すると、俺の言葉にゼツキが手に持っていた金棒をドスンと地面に突き刺した。
「……かもしれんな。だからこそ、イーサムは神族大陸での争いから身を引き、そしてシンセン組の役職につき、大陸内の治安維持に努めておる。人類大陸のシロム襲撃は別問題だがな。だが、吾輩たちは違う」
何が違う? ゼツキは語った。
「無論、何も考えていないわけではない。人類を我々が滅ぼせば、この魔族大陸の七大魔王国家は全て我が国の支配下と……いや、全ては無理か? いずれにせよ、結集した魔族連合の力は、想像を遥かに絶するだろう」
「だが、それでも亜人同士が徒党を組んだ総力戦になれば、タダじゃすまねえ。そこを神族が叩く。もし神族の話がガチだったら、お前らはマジでどうすんだよ」
「負けんさ、吾輩たちは……まぁ、魔王キシン様は吾輩よりも更に深い何かを考えておられるようだが……いずれにせよ、吾輩はキシン様を信じ、あのお方の決定に従い、共に戦うだけだ」
確かに違った。すっとんきょんな答えだった。
だからこそ、これ以上は意味のねえ話だった。
タイラーの言うとおりだった。
聞く耳持たねえというよりは、そこまではもう考えられないって感じだ。
こいつらが、いつ「その話」を知ったのかは分からない。
だが、こいつらはそれこそ今の戦いに自分と仲間の人生全部を懸けて生きてきた。
それを訳のわからない「神様」の存在を言われたところで、これまでの戦いを水に流すことができない。
だから、メンドクセーんだよな。
こいつらだけじゃねえ。世界が全てそういう流れだから。
「ったく……酒飲めば、異種族相手でも友達作れる奴らなのに、偉くなるとどいつもこいつも大変だな。自分の意思でどうこうできねえから」
「ふっ、我輩を哀れむな、若造が!」
もういいや。
そもそも、話し合ってどうにかなる問題じゃないんだから。
ましてや、今の何者でもない、何も背負ってもない、好き勝って生きる無責任野郎な俺の言葉なんかじゃ何の意味もねえ。
だから、
「だったら……もう、負けて往生しやがれ! ふわふわ乱気ック!」
「そうだ、言葉は不要! 来い! 肉弾戦で相手してやろう!」
また、何が起こるか分からない金棒を捨てたゼツキは素手で俺に拳を振るってきた。
だが、今の致命傷を負ったこいつの拳は、俺の攻撃で真っ向からぶつけ合えるほど衰えていた。
「ふわふわ乱打!」
「く、くくく、重いではないか! その細い腕からどれほどの? 魔力強化とは少し違うようだな!」
戦闘中に気を奪われることはプロ意識にかける? しかし、なんの前触れもなく自分の股間が大爆発して、自分の渾身の金棒が何故か自分に襲いかかった。
その二つの出来事は簡単に消化できるものじゃねえ。
爆煙に包まれて固まるゼツキに俺は警棒抜いて全力で振り抜いた。
「ふわふわ乱警棒!」
二本の警棒の先端に気流を魔法で渦を巻かせて、威力を上げる。
俺は殴った。動かねえゼツキを一発、二発、三発、四発。
「ッ、かって……」
想像以上に硬すぎる鬼の肉体。
だが、相手も無傷じゃねえ。俺の攻撃力でも十分に傷つけられる。
飛び散った青い血がそれを物語っている。
それにこのぐらいの硬さなら、シロムの街で四獅天亜人だったり、天空世界で七大魔王だったりと戦って経験しているから問題ねえ!
「うおりゃあああああ!」
「ッぐ、いう、おおお!」
手に残る鈍い感触。痺れ。
力を出し切るかのように振り抜いた一撃一撃は、俺に不快な思いしかさせねえ。
この感覚、そしてこいつから漏れる苦悶の声が、俺の心を締め付ける。
「くそ、うら、うおおおおおおおお!」
ああ、そうか、俺は喧嘩をしてんじゃねえ。
マジで殺す気で殴ってる。
だから、余計に気分が下向きに……
「ッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
その時だった。
鬼が咆吼した。
「うおっ!」
それは、ゼツキを壊しにかかっていた俺の勢いまるごと吹き飛ばすような激しさで、気合の開放? 的な衝撃波が、俺を何メートルもぶっ飛ばした。
「ヴェルト様!」
「ヴェルトォ!」
仲間たちの声が辛うじて聞こえたが、俺の意識はあくまでゼツキにしか向かなかった。
激しく転がって打ち付けた体を起こしながら、俺は顔を上げる。
「ッ、こ、この、テメェ!」
くははははは、すっげ。
俺は何を自惚れていた?
相手は、最強だぞ?
「若造………貴様、今、一瞬躊躇ったな!」
そして、この鬼は怒っている。
しかも、その怒っているポイントがズレすぎていて、余計に笑える。
「世界を懸け、命を懸け、全てを懸けて臨んだ男同士の一騎打ちに、貴様は余計な思いに気を取られて、我輩を『殺す』ことを躊躇って、心がブレおったな!」
自分をここまで傷つけたことじゃねえ。
俺の半端な心構えに憤りを感じてやがる。
怒るとこ、そこかよ?
「あまり吾輩をナメるなよ、若造!」
ああ、イーサムと同じ。イーサムに似ている。
こいつも、正にアレと同じ世界を舞台に戦い、同じ世界を見ている奴だ。
だからこそ、つくづく思う。
なんで俺、こんなやつと戦ってんだ?
「ふん、そんな戦場の心構え、俺には興味ねえよ」
「なにい?」
だからこそ、俺は開き直って答えるしかなかった。
「一度も死んだこともねえ奴が、俺に命を語るんじゃねえよ」
そう、少なくとも俺はこの場にいる誰よりも、「死ぬ」ことについて分かっている。
何故なら、一回体験したことがあるからな。
「面白いことを言う。だが、さすがの吾輩も面食らったぞ。どういうタネがあるかは知らんが……確かに致命傷を負った」
小さく笑みを浮かべるゼツキ。
その足元には止めどなく流れ出た血が、大きな血だまりを作っていた。
ああ、間違いなく致命傷だな。
「それでも戦うって言うんだから、最強だけど、バカだよな、テメェらは……」
「言ったはずだ、我輩をナメるなとな。この程度の苦境、既に若かりし頃に何度も乗り越えたわ! 今は、昔を思い出して余計に猛っているだけのこと!」
ああ、そうなんだろうな。
テメエくらいになると、一晩じゃ語り尽くせねえほどの武勇伝から修羅場があっただろうな。
だが、俺が言ってるのはそれじゃねえ。
「そこまで極めて、そこまで高みに居て……間違いなく本物だ。俺には理解できねえ世界だが、種族が違うだけでお前らも勇者やフォルナたちと大差ねえ偉大なもんなんだろう」
「んん? どうした。急に褒めおって」
「褒めてんじゃねえよ。だから分からねえだけだ。どいつもこいつも、なんで、意地になって神様とやらを有利にするようなことするんだ? それとも、テメエが死んでも、神様に勝てるのか?」
その言葉に、ゼツキの表情が固まった。
素直に驚いているようだ。
「若造………お前も、『それ』を知っているのか」
ああ、やっぱりこいつは知っている側の奴だったか。
タイラーが告げた、世界の真実。
世界の種族のバランスが崩れ、最後には弱体化して世界を神族が根絶やしにするという破滅のストーリー。
まあ、俺自身、確認の意味を込めて告げただけに、この反応を返されるとタイラーの言葉はやはり真実だったと思わされるから、地味にショックだけどな。
「ヴェルト様?」
「神様? おい、ヴェルト、てめえ、何言ってんだ?」
「どうされたのだ? ヴェルト殿は」
「……ハウ、どうしたの? そんな怖い顔をして……」
「……ヴェルト、なんであんたがそれを……」
この場に、コイツ以外にそのことを知ってる奴がどれだけ居るかは分からねえ。
だが、知っている立場のコイツですら、こんな調子だから、タイラーたちが頭を抱えるのも無理はねえな。
「勿論、お前らの戦ってきたもんが全部無意味だなんて言うつもりはねえ。だが、どうなるかが分かってるなら……世界を懸けてだ、仲間の命を懸けてだを言ってるわりには、全然先のこと考えてねえじゃねえかよ。血が騒ぐとか言ってんじゃねえよ。俺みたいな半端もんの不良でなく、マジで国を動かして世界の行く末を左右できるやつが、致命傷負って血をダラダラ流して、命知らずに叫んでんじゃねえよ」
すると、俺の言葉にゼツキが手に持っていた金棒をドスンと地面に突き刺した。
「……かもしれんな。だからこそ、イーサムは神族大陸での争いから身を引き、そしてシンセン組の役職につき、大陸内の治安維持に努めておる。人類大陸のシロム襲撃は別問題だがな。だが、吾輩たちは違う」
何が違う? ゼツキは語った。
「無論、何も考えていないわけではない。人類を我々が滅ぼせば、この魔族大陸の七大魔王国家は全て我が国の支配下と……いや、全ては無理か? いずれにせよ、結集した魔族連合の力は、想像を遥かに絶するだろう」
「だが、それでも亜人同士が徒党を組んだ総力戦になれば、タダじゃすまねえ。そこを神族が叩く。もし神族の話がガチだったら、お前らはマジでどうすんだよ」
「負けんさ、吾輩たちは……まぁ、魔王キシン様は吾輩よりも更に深い何かを考えておられるようだが……いずれにせよ、吾輩はキシン様を信じ、あのお方の決定に従い、共に戦うだけだ」
確かに違った。すっとんきょんな答えだった。
だからこそ、これ以上は意味のねえ話だった。
タイラーの言うとおりだった。
聞く耳持たねえというよりは、そこまではもう考えられないって感じだ。
こいつらが、いつ「その話」を知ったのかは分からない。
だが、こいつらはそれこそ今の戦いに自分と仲間の人生全部を懸けて生きてきた。
それを訳のわからない「神様」の存在を言われたところで、これまでの戦いを水に流すことができない。
だから、メンドクセーんだよな。
こいつらだけじゃねえ。世界が全てそういう流れだから。
「ったく……酒飲めば、異種族相手でも友達作れる奴らなのに、偉くなるとどいつもこいつも大変だな。自分の意思でどうこうできねえから」
「ふっ、我輩を哀れむな、若造が!」
もういいや。
そもそも、話し合ってどうにかなる問題じゃないんだから。
ましてや、今の何者でもない、何も背負ってもない、好き勝って生きる無責任野郎な俺の言葉なんかじゃ何の意味もねえ。
だから、
「だったら……もう、負けて往生しやがれ! ふわふわ乱気ック!」
「そうだ、言葉は不要! 来い! 肉弾戦で相手してやろう!」
また、何が起こるか分からない金棒を捨てたゼツキは素手で俺に拳を振るってきた。
だが、今の致命傷を負ったこいつの拳は、俺の攻撃で真っ向からぶつけ合えるほど衰えていた。
「ふわふわ乱打!」
「く、くくく、重いではないか! その細い腕からどれほどの? 魔力強化とは少し違うようだな!」
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