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第六章

第175話 前世関連話し

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「バーツやシャウトたちは無事ですわ。でも、あれから……あなたにとっては知らない人ではありますが、ワタクシたちにとってはかけがえのない戦友……そして、偉大なる先人たちも亡くしましたわ」
「ああ、らしいな。光の十勇者が数人空席になったって、大騒ぎだ」

 まあ、それが原因でタイラーが訳のわからんことを言い出したわけだが。

「でも、それでも戦わないわけにはいきませんの。逃げるわけにはいきませんの」
「おお」
「もし、ワタクシたちが負けて、人類が蹂躙されて……国が、みんなが、ヴェルトが……そう思うとどうしても……」
「ああ、分かってるよ」

 本当は、もう十分なんじゃねえのか? と言ってやりたいところだった。
 もう、フォルナは十分戦った。だから、もう身を引いてもいいんじゃねえかと言ってやりたい気持ちもあった。
 多分、俺がそれを言ったら、こいつは完全に心が折れるかもしれねえ。
 もう二度と戦えなくなって、俺の誘惑に負けて、そしていつか絶対に後悔し続けるんだろうな。
 ただ、それでも俺はこいつに死んで欲しくはねえ。
 でも、こいつは俺のそんな言葉を望んでねえ。ただ、後押しの言葉だけが欲しいって顔をしている。
 たまにこうしてこいつを抱きしめて、それでこいつをもう一度奮い立たせること。
 こいつが俺に望んでいるのはそれなんだろうな。

「フォルナ……お前と一緒に戦ってやれなくて、悪かったな」

 俺がもっと立派な人間で、そして強ければ、きっとこいつがこんなにしんどい思いをする必要もなかったんだろうな。
 俺にとってはそれだけがずっと心の痛いものだった。

「だったら、今からでも一緒に戦ってくれればいいのにね」
「ざけんな、綾瀬。つか、軍士官学校にすら行ってない俺にこんなところで勧誘するなよ」
「細かいことを言うのね、そういうことだけは」

 少しずつ落ち着いてきたフォルナを抱きしめながら、俺はゆっくりと腰を下ろして、膝から、腰から、そして肩まで湯に浸かっていった。
 ああ、落ち着くもんだな……

「このまま……時が止まってしまえばいいのに……と、思ってしまうことも、いけないのですね、ワタクシは」

 そうなんだろうな。
 だが、俺は否定はしないで、ただ、フォルナのしたいようにさせてやった。
 お湯に使っていても肌を触れれば伝わるフォルナの感触や体温に体重を預けられながら、俺もまったりとした気分になった。


「ワタクシたちは色々とありましたが、ヴェルトもこの短い間で何かありました?」

「ふぇ?」


 息がかかるぐらい互いに密着した状態から問われた質問に、俺は一瞬ビクッと反応してしまった。


「ヴェルト?」


 それが、モロに伝わってしまって、フォルナが少し首を傾げながらも怪訝な顔をした。
 俺に何があった?
 天空世界を見つけた? ダメだ、嘘だと思われる。
 爆乳天使に全裸で迫られ、おっぱい祭り。ダメだ、ぶっ殺される。
 子供ができました? ダメだ、半狂乱される。
 七大魔王を倒した? ダメだ、卒倒される。
 フットサルやってた? ダメだ、のんきだと鼻で笑われる。
 四獅子天亜人と会った? ダメだ、めっちゃ心配される。
 タイラーたちのこと? ダメだ、余計な負担をかけちまう。

「あ~~、その?」
「……ヴェルト、あなた何かありましたの?」

 ジト目で見上げてくるフォルナ。
 さて、何て言うか? とりあえず、今考えた中で消去法でいくと……

「前世のクラスメートと一人再会できた」
「えっ、そうだったんですの?」
「朝倉くん、それ本当? って、ちょっと待って……何で、フォルナが? ……って、そっか、そういえば帝国で……君はフォルナに旅立つ前に話したのね……」

 そう……俺は前世のことをフォルナに教えていた。


「ああ、フォルナには全部話した。俺やお前のこと。加賀美や鮫島とかのこともな」

「フォルナ、あなた……その話を信じたの?」

「ええ、信じましたわ。ヴェルトが嘘を言ってるかどうかなんて、目を見れば……いいえ、そばに居るだけで分かりますもの……そういえば、聞きましたわ、アルーシャ。あなたが前世でヴェルトのことを……でも、現世ではあげませんけどね」


 綾瀬は苦笑。
 まあ、俺もフォルナがアッサリ信じたのは驚いたが、素直に嬉しいという気持ちもあったけどな。

「再会したのは、備山ってやつだ。亜人の、ダークエルフって種族に生まれ変わってた」
「まあ、ダークエルフですの?」
「えっ、備山さん? 君、備山さんと再会したの? しかも、ダークエルフ?」

 あれ? 綾瀬は知らなかったのか?

「なんだよ、加賀美はとっくに備山と再会してたみたいだけど、お前は聞いてなかったのか?」
「え、ええ。知らなかったわ。そうなの……彼女が……」
「そっか。でもまー、スゲエ元気だったぞ? つか、多分一番幸せに、そして真っ当に生きてるよ、あいつは」
「そうなの?」
「ああ、亜人の若者のカリスマ的な存在だ。ギャルグッズ流行らせて、街中制服姿の若者で溢れて、プリクラ撮ったりもしたな」
「ふふふ、何それ? もう、相変わらず逞しいのね、彼女は」

 遠くを見るような目で、懐かしそうな表情を浮かべる綾瀬。
 まあ、綾瀬と備山は特に仲が良さそうだったという印象はないが、それでもこういう人生を送っていると、昔馴染みの話を聞くと、何だか安心するんだろうな。

「ちょっと、ヴェルト、二人でずるいですわ! ワタクシにも教えなさい。そのビヤマという方はどういう方ですの?」
 
 俺と綾瀬二人だけしかわからない会話にヤキモチ焼いたのか、少しむくれたフォルナが俺に頭をグリグリと押し付けてきた。
 はは、かわいいな……
 すると、微笑ましそうに綾瀬が代わりに答えた。


「ふふ、備山さんってね、私たちのクラスメートだったんだけど、まあ、派手な格好ばかりを好んで、テキトーで、少し品がなくて、でも、どこか純粋な気持ちもあって、そのギャップが可愛らしい人だったわ」

「ああ、お前らの印象はそうだったんだ。俺は昔からあいつはただのビッチだと思ってたけどな」

「酷いこと言うわね~、彼女はそんなのじゃなかったわ。それに、だいたいあの子だって昔は君のこと……を……あっ……」


 おい、何を思い出したか分かるが、それをフォルナの前で言うんじゃねえぞ?
 と思ったら、なんか綾瀬がジト目で見てきた。


「朝倉くん、備山さんとは本当に何もなかったのかしら?」

「……ねえよ、ゆっくり話す前にマニーのバカに連れてこられたんだから」

「………ふ~~~~~ん」


 そして、綾瀬の様子から勘づいたフォルナ。

「まさか、そのビヤマという方も、前世ではヴェルトのことを?」

 まあ、そんなような話だったみたいだが、もう本人も時効って言ってるし……

「だったらしいけど、今はも~、全然だ」
「………それは、嘘ですわね」
「うそね」

 って、何で信じねえ!

「ヴェルトを一度好きになった女性が、時間と共に気持ちが冷めるなんてことありえませんわ!」
「彼女、服装や容姿は派手だったけど、意外と一途だったしね……」
「だから、んなことねーって! だいたい、危うく結婚させられそうになったけど、二人で全力で拒否ったし!」

 まあ、あいつはまんざらでもねー的な顔してたけ………ど……あ……


「ヴェルト……どういうことですの?」

「ねえ、何で備山さんと再会しただけで、結婚なんて話になるのかしら? どうしてなの? 君、そこまでクズだったのかしら?」


 左右から、ニッコリとした表情で俺の肩を二人して押さえつけるこいつらから、なんか瘴気的なものが見えて、微妙に鳥肌が……
 何でだ? 全裸の美人に迫られてるのに、悪寒しかしねえのは……
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