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第六章
第173話 湯煙の再会
しおりを挟む手の届く範囲が俺の世界で、目の前に立ちふさがるやつだけが俺の敵。
そんなこと、分かりきってることなのにな。
「タイラーは……」
「あ゛?」
「それでもヴェルトくんをリーダーにしようとするよ? 世界のために、ヴェルトくんの人生を犠牲にしても」
「ふん、くだらねえな。俺自身がその気にならなけりゃ、意味ねーだろうが」
「ああ、そっか、そういうことか……」
「なに?」
「ようやく分かっちゃった。マッキーの言ってた意味」
その時、少しトーンの下がったマニーが俺に言った。
そのトーンに少し驚きながらも、俺は平静を保って返した。
「あのバカが言ってたこと?」
「うん、マッキーが言ってたもん。リーダーには二種類居る。ヴェルトくんはその一人にすればいいって」
「はっ? 二種類?」
「うん、一つは自分が率先して動き、みんなを的確に指示する人」
「まあ、真っ当なリーダーだな。俺には向いてねえけど」
「それでね、もう一つなんだけど、マッキーが言ってたのは……何もしない人……全部部下がやっちゃう、お飾りのリーダー」
一番楽できて、一番部下に嫌われる、一番ダメなパターンのリーダーだな。
「って、まさか、俺にそれをしろってのか?」
「うん! やる気ないヴェルトくんはお飾りのリーダーで、あとはみんなが頑張るの。そう、ヴェルトくんは名前だけ貸してくれればいーんだよん」
こいつ、少しは失礼とかそういうのはねえのか? 俺が言うのも何だが……
「あのなあ、お飾りで楽できようが、そんなもんに名前を貸すのも嫌なんだよ」
それじゃあ、俺は何もやらねえのに、勝手に名前だけ広まるようでいい気がしねえ。
力で名前が売れるのは悪い気はしねえが、そういう売れ方だけは勘弁だ。
だが、マニーは急に肩を竦めた。
「おやおや~、チッチッチのッチッだよ? ヴェルトくん。名前だけを君が貸してくれたら、君本人は居なくていい……というより、余計な口出しや手出しできないように、むしろ居ない方がいい。君の名前と君のお嫁さんたちの名前さえ出しておけば、亜人と魔族は簡単に信用するんじゃないかな~?」
随分と、ゾクッとすることをサラッと言う。
それじゃあまるで、俺をこの場で殺しとくみたいな言い方じゃねえか。
「俺を殺す気か? それこそできんのかよ? 俺をリーダーにするよか難しいかもよ?」
「も~、ヴェルトくんはせっかちさん! そんなことしなくても、もっと簡単な方法があるもん。ようするに……君がすぐに私たちの所までたどり着けないぐらい遠いところに行っちゃえばいいんだよん!」
ッ! マニーが瞬間移動で俺の背後に?
「って、させるかよ!」
「いたっ! でも、ダメだよ」
「あ……」
カウンターでこいつを一撃。
だが、こいつは俺を攻撃するために接近したわけじゃねえ。
俺に触れるか触れられるため……
「転移魔法《テレポーテーション》」
「ちっ!」
巻き込まれた。やられた。今度はどこに飛ぶ気だ?
いや、というより、こいつの目的は……
「俺をこのまま遠ざけるつもりか! 俺をみんなとはぐれさせて!」
「うふふふふ、今度ヴェルトくんと会う頃には……世界一有名なリーダーになってるよん!」
その言葉とともに、歪んだ空間が正常に戻った。
今度はどこに?
「なっ、ゆ、湯気?」
これは、湯気? 周りは……森?
空は……夜?
「夜? まさか、俺は世界の反対側まで?」
あの一瞬で、まさかそれ程長距離を移動したってのか?
いや、待て、こいつが反則的な奴だってのは認識した上で戦ってた。今更驚くんじゃねえ。
問題なのは、ここがどこかってことだが……
「ん、池?」
俺は真下を見る。そこにあったのは、先ほどの海とは打って変わって、森と岩だらけに囲まれた池の上。
いや、池っていうより、この湯気から察するに……
「お、温泉?」
温泉。それで真っ先に思い浮かんだのは、俺が掘り当てた温泉のことだ。
まさか、亜人大陸から人類大陸へ俺は一瞬で飛ばされたのか?
「ちっ、メンドクセーことを! テメェ、ウラやムサシにバレたらぶっ殺されるぞ?」
もし、ここが人類大陸だとしたら、途方もない距離だ。
不意に、何も言わずにこれだけ離されて、はぐれた仲間たちの顔が思い浮かぶ。
そして、ここでこいつを逃して瞬間移動されたら、俺は本格的に仲間とはぐれたことになっちまう。
それだけはゼッテー避けねえとな。
だが、俺は次の瞬間、マニーの言葉に体を硬直させてしまった。
「ここはね……………神族大陸だよ」
「…………………………………………はっ?」
…………………………………………………………………えっ?
「神族大陸の、東部に位置する、『ヘラクレス大森林』だね♪」
いや、だね♪ じゃねえよ。
「って、こ、ここが! ここが神族大陸だと!」
俺の旅の目的地。ずっと行こうと思って、それが紆余曲折してなかなかたどり着けなかった大陸に、こうもアッサリと?
「ヴェルトくんは、しばらくここから帰れませ~ん」
ッ、ヤベエ、一瞬だけ俺も迷っちまった。
俺の目的は神乃を探すこと。そのために神族大陸に来ようとした。
だが、すぐに頭を振った。
「なめんなよな。俺はもう一人の身じゃねーんだよ。可愛い魔族の家族や、シスコンブラコンの義兄や、可愛い虎猫や、ちょいと怖い姉さんや、騒がしい舎弟、爆乳奥さんに、まだパパとも呼んでくれねえ娘が居ねーことには、始まらねーんだよ」
そうだ。もう今の俺は、『別に仲間なんていらねえ』なんて口が裂けても言えねえぐらい、あいつらと繋がっちまっている。
あいつらほったらかしにして、何も言わずにこんな別れ方して、自分だけこの大陸で女を探そうなんて真似は絶対にできねえ。
「逃がさねーぞ? マニー。意地でもテメエにしがみついてでも、帰ってやるよ」
こいつを見逃すな。一挙手一投足、全身の神経むき出しにして、こいつを逃がさねえ。
「そうかな? ヴェルトくん……意外とここから帰れない……というより、ある人の手によって、絶対に帰らせてもらえないかもよ?」
「ふん、くだらねえ動揺させる気か? んなもんに、ノらねーよ」
こいつを逃がした時点で、俺は絶望になる。完全に仲間とはぐれて、帰れなくなる。
そんな真似は絶対にさせねえ。
そう、誓ったばかりだったのに…………
「ふふ、こんな森の奥に秘湯があるなんて、素敵ですわね」
「色々と苦しい状況だけど、少しはリフレッシュして癒されないとね」
なんか、つい最近に聞いた、ものすご~~~~~~~~~~い、聞き覚えのある声が聞こえた。
「それよりも、の、覗かれる心配はありませんわね?」
「あら、恥ずかしいの?」
「当たり前ですわ。もし、殿方に覗かれてしまったらと思うとゾッとしますわ。この体を好きにできる殿方は世界で一人だけですのに」
「あ~はいはい、ごちそーさまね」
近づいてくる二人の人影……女は……ぶっちゃけ、手ぬぐい一枚だけで、あとは生まれたままの姿の……
「あら? って、ちょっと、アルーシャ! 誰かいますわよ! っ………え゛」
「フォルナ、本当? まさか、先約が……い……あ゛れ゛?」
生まれたままの姿の、幼馴染と、前世のクラスメートが居た。
「それじゃ、バイバーーーーーーーーーーーーーーーイ!」
「ん? ああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そして、俺が完全に固まっている間に、マニーは消えてしまった。
完全にその姿を消して僅かな痕跡すら残さず。
俺は、こうして完全に仲間とはぐれてしまい……
「ヤベエ……やべえええええええええ、逃がしたあああああああああ! か、帰れねえええええええええええ! クソ! ウラ! ファルガ! ムサシ! ドラ! クレラン! エルジェラ! コスモス!」
ヤベエヤベエヤネベエヤベエヤベエヤベエヤベエ!
ど、どうすりゃいいんだあああああ!
「ヴェ………ヴェルト? う………そ……」
「あ、あさくらくん……朝倉くん……」
で、なんかもー、ドラマもクソもねえ、意外と早い再会になっちまったけど、マジでどーしよ、これ。
「……とりあえず……よう! んで、俺、もう行くわ……んじゃ、また!」
「「ええ……って、行っちゃダメええええええええ!!」」
裸の女二人に捕まった。
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