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第六章

第172話 チートVSふわふわ

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 海の上の決闘。
 波風に乗った塩の匂いを感じながら、俺はかつての世界で一番有名だったキャラクターのボーイフレンドのパクリ女と向かい合っていた。

「いくぞ、コラァ!」
「やんやんや~ん、こわいじょ~!」

 魔法無効化と瞬間移動。他にはどんな反則技を持っている?
 こいつはクレラン並にたくさんの能力を持っていると考えた方がいいな。
 それと、コイツ自身に俺のふわふわ技は通用しねえ。
 まあ、そんなもんやり方を変えるだけだけどな。

「ふわふわ空気弾!」

 空気を固めた見えない弾丸。
 目に見えない透明な空気を極限まで固めて厚くした。

「おお、できた。やりゃーできるもんだな」

 天空世界にフットサルと続き、世界の掴み方が極端に良くなった感じだ。
 まあ、目に見えないからって言っても、まったく分からないわけじゃない。
 何重にも空気を固めると、その塊の部分だけどうしても空気が揺らいで見えたりするわけだから、勘のいいやつにはよけられる。 
 それに、こいつには通用しねえだろうしな。

「無駄だよ~。魔法で飛ばしてるんだったら、私は簡単に無効化できちゃんだからね?」

 ああ、だろうな。別にこれで倒せるなんて思っちゃいねえ。

「別に、ただ確かめるだけさ」

 以前俺はこいつに直接魔法をかけても簡単に解除された。
 気になったのは、こいつに『触れられた』魔法は全て消えるのか?
 それとも、こいつが『消そうと思った』魔法は全て消えるのか?
 どっちなのかをハッキリさせとかねえとな。

「えーい! 消えろ!」

 手を前に出しただけで、俺の放った空気弾がアッサリ消えた。
 そして重要なのは、こいつ自身は自分に飛行の魔法を使っているのに、その魔法が消えてねえ。

「なるほど、そっちのパターンか」

 なら、話は簡単だ。こいつは自分にかかる魔法を自動で解除するわけじゃねえ。
 自分が消そうと思った魔法を自分の意思で消すわけだ。
 つまり、こいつが消そうと思わない……消そうと思う暇がない……消す間もなく繰り出された攻撃は消すことができねえ。

「どうしたの? ブツブツ言っちゃって。おでれーたの?」

 それともう一つ分かったことがある。
 消せるのは魔法だけだ。空気そのものを消すことができねえ。
 魔法で固めた空気の弾丸を飛ばしても、魔法を消すだけで、固まった空気は元に戻るだけ。

「なら、一気に片をつけてやるぜ!」
「んん?」
「不良の俺が基本的な講義をしてやるよ。水って一リットルでどれぐらいの重さがあると思う?」
「?」
「答えは一キロだ。じゃあ……これで何キロだ?」

 クレランとの戦いでは、大地を掴んだ。
 チロタンとの戦いでは、空気を掴んだ。
 今の俺なら出来るはずだ。
 出来ない気がまるでしねえ。

「ッ、なんなの? なんなのら~! 海が、揺れてる? 海が地震?」

 その着ぐるみの下が本当に驚いているかどうか、見てみたい気もするけどな。


「ふわふわ世界《ヴェルト》!」


 当たり一面の海の水を俺は上空へ上げた。
 巨大な水しぶきと水柱がいくつも天高くへと突き進み、やがて俺たちの上空にはドーム状の大量の海水の固まり。
 さらには、人工的に作り上げた海の壁。全てがマニーを取り囲んだ。

「ありゃあああああ? あっれえええええ? なんなのこれえええ!」
「さあ、魔法を解除したら、上下左右テメエを取り囲んだ海水が一斉に押し寄せるぞ? 何キロ? 何トン? テメエはその水圧に耐えられるか?」

 押し寄せる津波。鉄砲水のように襲いかかる水柱。
 上空からプレスする海水天井。

「ウラァ! ふわふわ津波! ふわふわ水鉄砲! ふわふわ天井崩し!」

 しかし、マニーのワザとらしい驚き方は相変わらず。
 これじゃあ、まだまだ逆に驚かねえってことだろうな。


「マニーを閉じ込められないよ! だってマニーは……テレポートできるもん!」


 俺の包囲網からアッサリと脱出。
 なるほどな。特に大掛かりな仕掛けや呪文は一切なしで、こいつは自由自在に瞬間移動できるわけか。
 でもな……

「ふわふわ衝撃波!」
「あぶるらっ!」

 マニーが瞬間移動で出現した瞬間、マニーの懐にあった空気を固めて一気に弾く。
 それが、簡易的ではあるが空気の爆弾が破裂して生み出した衝撃波が空間を揺さぶり、マニーは魔法無効化する時間もなく吹っ飛ばされた。

「あう、いたい、いたいよおお~~。なんで? なんで、マニーが現れるの分かったの?」
「おいおいおい、俺は空気を掴めるんだぜ? 逆に言えば、空気を読むことができる。ある程度の距離であれば、いきなり空気が揺れたり何かが現れたりしたらすぐに分かるさ」

 ああ、調子がいい。ソルシとトウシとのフットサルで掴んだ感じだ。
 まるで、この空間全てに俺の神経が行き渡ったかのような感じ。
 触れれば、すぐに反応できる!

「そんなこと………できるわけないガブハッ!?」
「っと、言いつつ瞬間移動で俺の真後ろに……能力はチートでも、やることはセコイな」
「あいたたたたた、女の子蹴るの最低ッ! さいていへんていへんだ!」

 何もない空間に向かって蹴った俺の足が、マニーの分厚い着ぐるみの胴体を蹴り飛ばした。
 こういう時に、着ぐるみ被られてると、かえって都合がいい。
 女だからって遠慮する気にならねえからな。

「不良が路上で喧嘩するときに身の回りにあるものを全て武器に使うのと同じ。この世界丸ごと俺の武器だ」

 そう、ようやく掴んだぜ。いや、たどり着いたと言うべきかな? 
 なんか境地みてーなものに立った興奮が、俺のテンションを大きくした瞬間だった。


「…………」

「どうした? マニーちゃん。ついにだんまりか?」

「ん~~~~」


 さっきまでハシャイでいたのに、珍しく黙ったマニーは、ただ無言で俺を見るだけだ。
 その反応、ずっと待っていた。
 ようやく、こいつの心の揺らぎみてーなものに触れられたかな?

「……どうして?」
「あっ?」
「どうして、戦っちゃってるのかな~、マニーたち。みんなで仲良くできればいいのに~」

 急にどうした? これも何かのおちょくりか?

「どうしてもこうしてもねえだろうが。テメェらの思惑なんか知るかよ。タイラーは、いずれ自分で自分のケジメは取るんだろうが、テメエは違う。だから俺がここでケジメつけんのさ」
「なんだ~? なんで、君にそんな資格があるぞな? 言ってみたまえ~」
「資格もクソもあるか。テメェと加賀美のくだらねえ道楽の所為で、こっちは幼馴染が死んでんだ。それとも、命が惜しくなったのか?」
「ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」

 空気の流れが変わった?
 コイツ自身になんの変化も感じねえが、どこか雰囲気が少し変わった気がする。
 この空気はなんだ? 

「ヴェルトくんは……」
「あん?」
「本当に目の前のことしか見ないんだね……同じおバカさんでも、そこが……お姉ちゃんと違うかな……」

 ああ、この感じはアレだ。
 人を愚かしいと思って見下している感じだ。

「それの何が悪い。俺は目の前のことで精一杯なんだよ。広い視野だ、世界のためだ、人類のためだなんてのは、もうちょいお人好しなやつか、人生に余裕のあるやつに言えよ。俺には興味ねーよ」
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