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第六章

第171話 マニーの化けの皮を剥がしてみせる

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「とにかくだ、俺はそんなリーダーなんて願い下げだし、関わりたくもねえ! 他を当たってくれよ。めんどくせー」
「ヴェルト。少しぐらいは考えてくれないだろうか? マッキーの意思がどうであれ、私も君が最適ではないかと思ったところだ」
「そうねん。まあ、アルテアの件は冗談にしておいても、イーサムやバルちゃんが認めてるんだったら、亜人としては問題ないんじゃないん?」

 やめてくれ。タイラーとママンの重鎮二人に言われると、冗談じゃ済まなくなるからよ。
 そもそも、なんで俺がこんなことで頭を悩ませてるんだ?
 ああ、全部こいつのせいだ。

「ヴェルトくん、やらないの~?」
「ああ、やらねーな。興味ねーよ」

 そう、マニーラビット。この変な奴だ。

「つーか、テメエは一体何なんだ? テメエのボーイフレンドをボコボコにした野郎をリーダーにするとか、ハラワタ煮えくりかえってんじゃねえのか?」
「ならないの~? ならないよ~。だって、マッキー元気だし」
「牢屋の中だろうが!」
「えっとね、引っ越ししてると思えば大丈夫ブイブイって、マッキーが言ってたの」

 帝国ではあんま相手にしなかったが、改めて接すると、これはまた、奇妙な女だな。
 着ぐるみというのもそうだが、まるで掴みどころがねえ。
 反応も、笑いも、全部上辺だけの薄っぺらな気がして、まったくこいつの奥底に触れられる気がしねえ。
 そんな、変な印象だ。

「つーか、そもそもテメエも加賀美と一緒に帝国でハシャいだ張本人だ」
「なの?」
「何を、へらへら当たり前のように俺の前に現れてんだよ! まずは顔を見せな!」

 まず、その素顔を見てやる。

「やんだよんなのね」
「なら、剥いでやるよ!」

 俺は、ふわふわ魔法でマニーの頭部の着ぐるみを剥がしてやろうとした。

「無駄だよ~ん。なぜならば……」
「魔法無効化能力者? だからどうしたよ」
「?」

 別に、魔法で直接奪おうなんて思ってねえよ。
 俺自身を魔法で浮かせて、高速で背後に回り込む。
 そして、そのデカイ頭を蹴り上げる。

「オラア!」

 この女。能力自体は反則なんだろうが、ニブイ。
 軽々と俺はマニーの頭の着ぐるみをけり上げた。
 だが……

「ふっふっふっふ、着ぐるみの下には……マニー、もう一個着ぐるみをつけていたのでした!」

 もう一個、一回り小さいサイズの着ぐるみをかぶってやがった。

「速い……ヴェルト、随分と腕を上げたな」
「いや、そんなことよりも、二段構え? あのクソ女!」
「まさか、殿がこのような行動を起こすと想定して?」
「じゃあ、朝倉がやんなきゃ、ただの被り損じゃねえか!」

 いや、そこは別に驚くことじゃねえだろうが。
 しかし、してやったりな感じを動作で表しているマニーを見ると、完全におちょくられている気がしてならねえ。

「も~、ボーリョクハンターイ! 暴力反対なーのだ!」

 つくづく、よくわかんねーな、この女。
 だが、同時に何か引っかかりだした。


「なあ、マニー。テメエは一体何者なんだ? つか、何を考えて加賀美やタイラーと行動してんだ? この世を壊そうが、救おうが、なんかお前はどっちでもいいって思ってるように見えるんだが」

「おろ?」

「人が死にまくってる戦場でフザけながらハシャいで。テメエのボーイフレンドを破滅させた男を迎え入れ、良くも悪くも人の人生を狂わせようとしてるくせに、テメエの目的が何も分からねえ」


 この女からは何も伝わってこねえ。
 普段なら、興味を持つこともねーんだが、何か少し気になった。
 正義もねえ。悪意もねえ。どっちかってーと、純粋? 天然? 天真爛漫?
 何かが引っかかった。


「いや~、マニーは何者って聞かれても、マニー困るよ~。マニーは、マッキーに買ってもらって、一緒に遊んでるだけだも~ん」

「っ、タイラー! あんたは、本当にこんな奴と行動して何とも思わねえのかよ! こんなバカ女の口車に乗せられて、俺をリーダーにしようとか、全然納得できねーよ!」


 そう、何でだ? 確かに能力はレアかもしんねーけど、こいつ事態はバカ女だ。
 加賀美の遊び相手ってだけならまだ分かる。
 なんで、タイラーたちまで、こんなアホ女が副社長とか重要な役職してることに納得してんだよ。

「む~、む~、む~む~むむむ~」

 その時、着ぐるみの下でむくれているかのような声が、マニーから聞こえた。

「なんかさっきから、ひどいよ~、人をバカバカアホアホって~」
「あ? 事実だろうが。それとも、三味線弾いてアホのフリでもしてんのか?」
「むっか~だよ~!」

 それならそれで、こいつの何かが掴めるかもしれねえな。
 俺は、ワザと挑発してこいつの底を知ってみようと思った。
 なんか、意味が分からねえけど、興味が湧いたからだ。

「しかたな~いな。もう、悪い子にはおしおきしていいって、マッキー言ってたもん」
「あ? やる気か? おもしれえ、テメエの化けの皮を剥いでやるよ」

 しかし、

「っ、マニー! やめろ!」

 タイラーの叫びとともに、マニーが手を俺に向けた。
 すると、次の瞬間だった。

「転移魔法《テレポーテーション》♪」
「ッ!」

 俺の映る視界が歪んだ。
 まるでスローモーションのように景色が変わり、必死に俺に手を伸ばそうとする、ファルガ、ムサシ、備山。
 だが…………


「えっ?」


 歪んだ世界が変わり、一面青い世界へと変わった。
 この青さは、空じゃない。

「えっ、な、う、……海ッ!」

 そう、海だ。
 前後左右見渡しても、どこまでも続く海。
 陸すら見えないほどの海の果てのど真ん中。

「なっ、な、なんだこりゃ!」

 危うく落下して海に落ちそうになったが、俺は咄嗟に浮遊で自分を支えた。
 だが、これはどういうことだ?

「テレポ~~~~~ト、だよん」
「なに?」
「私はね、人や場所をイメージするだけで、思った通りの場所に行けるし、一緒に誰かと跳ぶこともできるの~」

 マニー! なんで……


「ッ、バカな! テメエは魔法無効化能力者だったんじゃねえのかよ! ここはどこだ? 俺はどうしてここに居る!」

「も~、慌てんぼちゃん。私が魔法無効化能力者だからって、私が転移魔法使えないってことにはならないのだよ~」


 バカな! うそだろ? 確か、転移魔法なんて超上級の魔法だぞ?
 近距離で物体を移動させることも難しいはずだ。
 それを、人間丸ごと陸も見えないほど遥か遠くに、しかも俺ごとだと?

「飛行《フライ》」

 おまけに、飛行することもできるのか?
 この女…………

「すごいでしょ? 帝国に捕まっても、アッサ~リ逃げちゃったの。マッキーもね、私がいつでも逃がすことができるから、余裕なの~。今は、初めての経験だから牢屋の中の生活を味わってみたいって、言ってたの」

 この女の底が分からない? 訂正だな。底知れねえ。

「なるほど、随分としっかりした化けものだな」
「マニー化けものじゃないもん! 私の『お姉ちゃん』とかもっとすごいし~」
「お姉ちゃん? ったく、次から次へと……誰だか知らねーが、もう訳分からねえ。んで、俺をこんなところに連れてきてどうするつもりだ? 仲良く海水浴でもする気か?」

 転移魔法。厄介だな。形勢が悪くなれば、アッサリ逃げられる。
 それに、おれのふわふわ時間みてーに、色々と応用力がありそうだ。
 そして、もっとも気にしなきゃならねーのは、多分こいつは他にも能力を持っているだろうってことだ。

「油断はしねえ。こんなんやられたって、変わらねえ。テメエの化けの皮を剥いでやるよ」
「む~、つまんな~い。つまんないつまんない、ちゅ~まんない! マッキーはもっと驚いたのに!」

 いや、驚いている。でも、もう今度からは俺もそればっかりじゃいられねえ。
 これまで相手を見下して、見余って、いくらでも痛い目を見て来た。
 もう、あんなヘマはしねえためにも、俺は油断はしねえと誓った。
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