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第六章

第170話 黒嫁

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 俺が加賀美にキレているのと同じように、ファルガだって憤りがあるはずだ。
 これまで全幅の信頼を置いていた将軍の真実に、イラついた舌打ちが聞こえた。

「王子、怒っていますか?」
「当たり前だ。お前らがそうやって、ラブ・アンド・マニーを残し続けたせいで、どれだけの悲劇が起こったと思ってやがる。たとえこの世の裁判が、ラブ・アンド・マニーが生み出した利益や功績を考慮しても、俺たちはそんなもん一切考慮しねえ」

 タイラー自身も、言い訳する気はないようだ。
 あたりめえだ。加賀美が勝手に暴走したとはいえ、その危険性を知りながらも野放しにして、管理しきれていなかったからだ。

「この事実が知られれば、テメエは政治的には分からねえが、民衆には叩かれるぞ? それは分かってんだろうな?」
「もとより、私は名声を得ようと思ったことなどありませんので。ケジメの取り方はいずれ。しかし、今はこれしか方法がありません」

 ああ、そういう顔つきだよ。
 なんつうか、この世の汚名や罵倒がどれだけ飛ぼうとも、たとえ腹を切ることになってでもやらなくちゃならねえ。
 地獄ぐらい、何度でも落ちてやろうって覚悟だ。
 俺からすれば、高尚すぎる覚悟だけどな。

「もう、いいよ」
「ヴェルト…………」
「世界を色々見てきた気にはなっていたが、やっぱ俺には分かんねえ」

 鮫島の時と同じだ。
 理解できねえからこそ、批判も諭すこともできねえ。
 しかもこの問題ばかりは、逃げずにどうのこうのという気にもなれねえ。
 だって、壮大すぎて未だにピンとこねえ話だからだ。

「タイラー。俺が、あんたに言えることなんてねえ。ママンと話がしたけりゃそのまますりゃーいいさ。でもな、思い通りにいかねえから滅ぼすとかになると、俺も黙ってねえ。亜人が何人死のうが、この街に関してだけは俺のダチの居場所でもあるからよ」

 そう、俺に言えるのはこれぐらいだ。
 この街は、備山にとってかけがえのないもの。
 それを奪おうなんて真似はするんじゃねえってことだ。


「……ああ……君の言う通りだよ」


 切なそうな声をタイラーが洩らしながらも、頷いた。

「俺はもう行くよ。後は勝手に話し合ってろ。行こうぜ」
「愚弟……」
「朝倉。そうだな……」
「殿……承知しました」

 後は勝手にやってくれ。話し合いだけをとことんとな。
 そう言って、俺はその場を立ち去ろうとした…………


「「「「「って、ちょっとまてえええええええええええ!!」」」」」


 サラッと帰ろうとしたが、首根っこ捕まえられた。
 ってか、バレたか。

「待て待て、ヴェルト。だから、その勢力のリーダーに君をという話じゃないか!」
「何をサラっと逃げようとしているのかしらん?」

 だああああ、クソ! せっかく、そのまま帰れそうだったのに、こいつらは!

「だから、無理に決まってんだろうが! なんで、俺が加賀美の……あのマッキーのアホのウケ狙いで人生棒にふんなきゃいけねーんだよ!」

 当たり前だ。お断りだ。できるわけがねえ。
 大体、なんで社長をぶっとばした俺が、新たにリーダーなんかになんなきゃいけねーんだよ。
 ぜってー、加賀美は嫌がらせで指名したに決まってやがる。

「いや、あながち的外れな人選でもないかもしれないぞ、ヴェルト」
「おいおい、タイラー!」
「だって、そうだろう? 君は、フォルナ姫とウラ姫の寵愛を受けている。まあ、亜人の剣士を従えているのは驚いたが」

 いや、何を頷いてんだよ。
 しかも、そんなときに意外なところから後押しがあった。

「確かに……彼のことはムサシだけではない。ミヤモトケンドー開祖でもある、バルナンド様も彼を友と呼び、あの四獅天亜人のイーサム局長も一目置いているからね」

 なんか、シンセン組のソルシも口挟んできた。

「な……なにっ!? イ、イーサムだと!? ちょ、本当かヴェルト!?」
「ふふふ、すごいわねん。まっ、彼の好きそうな男の子だもんね~」

 さらに…………

「ふふ、おまけに、彼には他にはない唯一無二の付加価値があるわん」

 何やらニタニタした笑みを浮かべだす、ママン。何を言う気だ?

「タイラー。あなたは、エルジェラちゃんって知ってるん?」
「エルジェラ? 誰だ、その者は」
「ヴェルちゃんの、奥さんよん。正確には、五百年ぶりに天地友好者となったヴェルちゃんに付き従う、天空族の子よん」

 あっ、お前、それ言っちゃうの?

「なっ……天空族だと! ヴェルト、それは本当かい?」
「おっ、おお……」
「それならば状況が大きく変わるぞ! ヴェルトが天地友好者であれば、今後天空族と交渉することも可能だ!」

 やべえ、すげえ鼻息荒くして、なんか段々周りの奴らもざわつき出した。

「おまけに~、ファルガちゃんとクレランちゃんが裏でガッチリガード」
「っ! クレランだと? モンスターマスターのクレランまでもがヴェルトと王子と関りが? 王子とクレランの名を出せば、ハンターギルドに多大な影響力を及ぼす!」

 ま、待て、待ってくれ! なんか、いつの間にか周りが俺を囲んで、迫ってきてるんだが?

「ねえ、ヴェルちゃん。あなたってば、フォルナちゃんとウラちゃんがお嫁さんなのよねん? あと、エルジェラちゃん?」
「あ? なんだよ。それがなんか関係あんのか?」
「あなた、亜人のお姫様にお嫁さんは居ないのん?」
「居るわけねーだろうが! 俺をなんだと思ってやがるんだ!」
「だって、不公平じゃない。人間、魔族、天空族にお姫様なお嫁さんがいるのに、亜人にはいないなんてねん」

 こ、こいつ、なんでそんなくだらねえことを言い出すんだよ。
 あっ? つか、なんで俺の嫁が三人も居ることになってんだ?
 俺ってフォルナと結婚するだけじゃねえの?
 てか、俺って、神乃を探す旅をしているのであって…………

「仕方ないわねん。アルテア、あんた、ヴェルちゃんのお嫁ちゃんになってあげなさいん」
「はっ?」

 いや、マジで、はっ?

「アルテアは本来であればダークエルフのお姫様よん? ほら、これでバランスよく出来たわねん」
「って、何言ってんだよ、ママン! なんで、あたしが朝倉と!」
「ざけんじゃねえ! なんで俺がこんな妖怪みてーなガングロ女と結婚すんだよ!」

 いや、元クラスメートだよ。分かるか? 元クラスメートだよ!
 さすがにテキトーな備山もパニくるよ。

「つか、マジでやめてって、ママン! マジありえねーし」

 おう、そうだ。もっと言ってやれ。

「あたしと、こいつが結婚? はっ、バッカじゃねえの? 自分の娘を政治利用すんなよな!」
「そうかしらん? でも、意外とお似合いだと思うわよん?」
「じょーだんじゃねえっての。だってそうだろ? あたしとこいつが結婚するってことはさ……つまり……あれだ……」

 つまり?

「あたし、こいつとチューするってことだろうが!」

 まあ、結婚するんだったら……するなぁ……


「それで……それで……エッチだって……こいつとシちゃうなんて、恥ずかしいつか、ありえ……ねえし」


 まあ、ありえねーよな。

「そういうのは、ほら……結婚する相手とじゃねえと、シたくねえし……って、あ、だから結婚すんのか……そか……あ~、朝倉と? あ~、ねえねえ、やっぱありえねえ?」

 ああ、ありえねえよ。だから、何を急に顔真っ赤にして照れ出してんだよ。

「ほら、クラスの奴に笑われて……あっ、でも、加賀美は牢……いやいや、そんなのマジ、まぢで、……ねえし」

 おい…………

「テメエは! 断るならさっさと断れ! ガングロビッチが照れてんじゃねえよ!」
「なっ、ビッチじゃねーし! ビッチ言うなっつーの! あたしはまだ未使用だよ!」
「うるせえ、ビッチ完全体みてーなナリしやがって!」
「はっ? 完全体ってなんだし! つか、やっぱありえねーし。昔はテメエかっこよかったけど、今のヤリチンになったテメエなんか願い下げだっつーの!」
「誰がヤリチンだ、コラア! 俺はまだヤッたことねーし!」
「はっ? マジ? うわ~、男が十五で童貞とかマジありえねーし」
「ざけんな! テメエだって、ヤッたことねーって言っただろうが!」
「は? あんた馬鹿? 誰も唾付けたり箸つけたりしてねえ料理と、一回も料理したことねえコック、どっちが価値あると思ってんだっつーの」
「料理が価値あるとはかぎんねーぞ? マズそうで、誰も手が伸びてなかったかもしれねえからな」
「はっ? 何言ってんの? あたしマジおいしいし! 五つ星のレストランビックリだし! あたしビッチじゃねえけど、体はエロエロだし!」
「レストランは三ツ星までだよ! 既にインチキくせえよ」

 ほらな? 俺たちはこんなに仲がワリい。だから無理なんだよ。

「ほら、息もピッタリ。遠慮をしない関係ってすばらしいわん」
「これは……早急に国王に側室の人数を報告すべきか……」

 ハッ倒すぞ、このヤロウめ!
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