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第六章

第169話 真実(?)

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 俺は思わず、屋根の上に立ち上がって叫んでしまった。

「あらん?」
「あっ………あ~~~! ヴェルトくんだ~!」
「ッ、ヴェ、ヴェルト! なぜここに! なぜ君が、亜人大陸に!」

 しまった、モロバレちまった。せっかく隠れてたのによ。
 仕方ねえ。
 俺は観念して屋根から飛び降りて、堂々と連中の前まで行ってやることにした。

「チッ、クソが」
「殿、拙者も!」
「ギャハハハハハ、朝倉だって! マジウケって……ちょっ、あたし置いてくなっつーの!」

 それに釣られて、ファルガ、ムサシ、備山も諦めて俺に続くように姿を現した。
 ムサシと備山の出現に、ママンやソルシたちが呆れる一方で、タイラーは俺とファルガの姿を見て目を見開いた。

「ヴェルト……それに、ファルガ王子まで!」
「よう、タイラー。あまりにもクソ展開過ぎて、俺の脳みそがついていけねえ。どういうことだ?」

 ファルガの虚偽を許さない厳しい目に、タイラーは少し複雑そうな表情を浮かべている。
 どこか、観念している様で、それでも知られたくなかった。そんな感情を見て取れた。
 一方で、タイラーが引き連れてきたラブ・アンド・マニーのチンピラたちも、穏やかじゃない。

「副社長! この男……それにヴェルト・ジーハって確か……」
「そうだ、帝国で社長を捕まえたやつだ!」
「冗談じゃねえ、こんなクソガキが俺たちの新たなトップだと? ざけんじゃねえ!」

 ああ、まったくそのとおりだよ。
 加賀美の野郎、何考えてやがる。


「静まれッ!」


 その時、大地が揺れるほどのタイラーの声が響いた。
 チンピラたちもゾッとした顔で黙り込んだ。


「無礼を働くな。このお方は、ファルガ・エルファーシア様。エルファーシア王国の第一王子である。そして、お前たちも知るこのヴェルトという青年は、我がエルファーシア王国の姫君であるフォルナ・エルファーシア様の婚約者でもあり、次期国王候補でもある」


 おい、その設定はまだ生きてんのかよ! と、いつもなら言っていたんだろけどな……

「くはははは……ガキの頃から真顔でそんなこと言って……ほんと、変わんねーな、あんたは」
「……あんたじゃないだろ……タイラーおじさんと呼びなさい、ヴェルト」
「ッ……くっ、は、はは、すまねえな……ほんと、いつも生意気なクソガキでよ……」

 今日は無理だ……

「ほんと、信じらんねーよ、タイラー将軍」
「ヴェルト……」
「なんでだよ。なんであんたが、ラブ・アンド・マニーなんかの関係者なんだよ。そいつらが何やってんのか知ってんだろうが!」
「ああ、知っている」
「ッ、ムサシの故郷を滅茶苦茶にしたのも、帝国を襲ったのも……その戦いで、何百人も死んだ……ガウも……シーも死んだんだぞ!」
「ああ。分かっている」
「……シャウトはこのことを、知ってんのかよ?」
「いや、知らない」

 知らなかった。
 怒りってやつは……通り過ぎると、怒り狂うより、悲しくなっちまうってことを……

「なんで……だよ……なんで、あんたが……」

 それは、俺自身も気付かなかった。
 何年ぶりだろうか? 俺が人前で、涙を流したのは。

「あんたは、俺がちっちぇ頃からずっと……親父もおふくろもあんたのことを……二人が死んでからも、仕事に行く前は毎朝墓参りして……」

 言いたいことが思いつかねえ。
 代わりに、別のことばかり思い浮かぶ。
 ガキの頃、街でイタズラしてとっ捕まって、肩車されながら連行されたこと。
 国を代表する大将軍のクセに、親父とおふくろが死んでからはずっと俺を気にかけて……

「落ち着け、愚弟」
「ファルガ……」
「こいつは狂ったわけでもねえ。だからって、何かが変わってるわけでもねえ」

 そう言って、ファルガが俺の頭を抑えた。
 強く、抱き寄せ、俺にしっかりしろと伝えているかのように。

「そうだ。お前の目は何も変わってねえ、タイラー。ただ、俺たちにも知らないことがあった。それだけだ」
「王子………」
「曲がりなりにも、俺も愚弟も世界を見てきた。そりゃ、混乱はしてるが……それでも話は聞かなきゃならねえことは分かってる。だから、全部話せ」

 隠すことなく、すべての真実を話せ。
 ファルガのその命令にも似た言葉に、タイラーは頷いた。

「まず、私の思惑は女王様は存じておりませんが、国王様はご承知です。私が人類大連合軍として派遣されないのも、これが原因であります」
「だろうな。テメエは隠す気なんてなさそうだった。ただ単に……俺が気づいてなかっただけか」
「いえ、王子。私は隠すつもりはありませんでしたが、大々的に公表する気もありませんでした。ラブ・アンド・マニーの悪名が上がりすぎると、さすがにエルファーシア王国が睨まれますからね」
「いつからだ? テメエが絡んでたのは」
「五年前です」
「五年前だと?」

 五年前。
 五年前に何があった?
 あの時は、俺の人生でも色々と分岐点となることがあり過ぎた。

「四獅天亜人のカイザー大将軍、七大魔王のシャークリュウが倒れた時から、私はこの事態を想定していました。近い将来、何百年と続いた戦乱の世が終わり……全てが消え去ってしまう事態になることを」

 そう、それだよ。
 その、極端でぶっ飛んだ展開は、一体どういうストーリーのもとで繰り広げられるのか。
 俺たちが知りたいのはそこだった。

「王子。そもそも、神族大陸はかつて神々が住んでいたと言い伝えられているというのはご存知ですね? そして、その大陸こそが豊富な資源や魔鉱石など溢れる豊かな大地であり、その大陸の領土を争って、三種の種族が争っているということを」

 ああ、世界の常識だ。
 子供の頃から、学校で教えられることだ。

「ですが、真実は……言い伝えではなく、本当に神々が住んでいたのです」

 そう来たか……思わずツッコミを入れることすら出来なくなっちまった。


「しかし、地上に人間、魔族、亜人という種族が繁殖し、知恵を持ち、文明を持ち始め、その脅威はやがて神々も恐れるようになりました。当時の神族は三種族に友好を持ちかけ、三種族もそれに従いました。しかし、異なる種族としての畏怖や繁殖のスピードにより、与えられた領土や資源のみでは賄いきれず、やがて種族同士が争いを始めることになりました」

「まさか、そんな神話みてーなクソ大昔のおとぎ話みてえなのが、今も続いてるって言いてえのか?」

「その通りです。そして、当時より神族は恐れていました。争いと繁殖ばかりを繰り返し、世界の資源を食い荒らす三種族はいずれ、世界もろとも滅ぼすと。だからこそ、神族は決断しました。三種族を地上世界から滅亡させることを。一度世界をゼロにすることを」

 
 一度世界をゼロにする。正に神様気取りな発想だな。
 だが、どうやって滅ぼすつもりだ?


「神族は軍を持っていましたが、軍を起こして三種族を滅ぼすには犠牲が大きくなると考えました。そこで、長期的な目線で三種族を滅ぼすこととしました。それが……」

「自分たちの存在を地上から消し、三種族で勝手に争わせて、滅びたところでまた地上に戻る。そういうことか?」


 ファルガのその言葉に間違いがないと、タイラーは小さく頷いた。
 おいおいおいおい、何でそんな真顔で、そんなピンと来なさすぎる話をするんだよ。


「神族は全て、自らの存在を封印しました。その封印の守護をするものが、神族の末裔とも言われる『天空族』、『地底族』、『深海族』、そして『幻獣人族』です」

「なるほどな。天空族は本当に天使だったわけか。おまけに、幻獣人族………どういう経緯で亜人大陸に生息してたかは知らねえが、ラブ・アンド・マニーがハイエルフの国を滅ぼしたのは、ただの金儲けのためだけじゃなく、神族の封印を解く要素を減らしておくためでもあったのか」

「…………否定はしません。一部の幹部が強行で行いました。天空世界や地底世界、深海世界などは、どうしても発見できませんでしたからね」


 その時、俺は頭の中で何かの引っ掛かりがあった。
 チロタンが天空世界に現れて支配しようとしたのは、本当に乗っ取りだけが理由だったのかどうか。
 もっとも、今ではそれを確かめようがねえけどな。


「まったく、ファンタジー過ぎて段々ついていけなくなりそうだな。つか、言い方には気をつけろよ。それじゃあ、ムサシの家族が殺されたのは………まるで、ついでみてーな言い方に聞こえるからよ」

「ヴェルト……」

「まあ、それはそれとして、疑問に思うのは二つだな。そんな神話みてーな話を、どうしてあんたが知ってるのか。そして、結局それとラブ・アンド・マニーが何の関係があんのかってことだ」


 そう、重要なのはその二つだ。
 そもそも、そんな学校でも教えてくれない昔話を、どうしてタイラーが知ってるのか。
 そして、それが全部本当だとして、それとラブ・アンド・マニーが何の関係があるのか。


「まず、どうして私がその話を知っているか? それが、人類大陸の六人の聖騎士と、我々が仕える王にのみ伝えられることだからです。光の十勇者のように、世界の大戦に身を投じない者にのみ、『聖王』より世界の真実を告げられます」


 せーおう? やべ、それは誰か知らねえや。
 一応、学校の教科書で出てきたような記憶はなくもねーけどさ……


「そして、もう一つの質問。ラブ・アンド・マニーについて。先程も言ったように、世界の軍事バランスが壊れぬように新興勢力を作ること。しかし、正道を歩む者たちは、皆が神族大陸の争うに身を投じる。だからこそ、人材を募るのには、海賊や山賊、さらには傭兵やハンターなどの表舞台に立たない者たちを集めるしかなかったのです。もっとも、そういう輩を集めたために、時折暴走するものも現れ、管理やコントロールできなかったことで、取り返しのつかないことも起こってしまいましたが」

「……ああ、その通りだよ。お前らが、社長をつけあがらせたんだ」

「本当は亜人や魔族を組織に加入させるのはもう少し時間をかける予定でした。亜人の文化や特産品を交易することで、亜人側にも利益を生んで信頼を作るなど……まあ、その交渉はうまくいっていなかったようですが」


 あ…………。
 そこで、俺と備山の目があった。
 ひょっとして、加賀美が備山にファッションとかの交易の話を持ちかけたのは、それが理由か?
 そして、そうやって時間をかけて信頼を得ていくはずが、今回のように強硬手段でタイラーがこうしてここに来たのは、そうやってる時間がなくなったから。
 それが、最初の話に戻るわけか。
 まあ、最初の戻ったところで、何回聞いても意味不明な話だぜ。

「朝倉………なんか、ファンタジーメンドクセーな。つか、イミフなんだけど」
「黒ギャルビッチと意見が合うとは思わなかった。俺もマジイミフ」
「ビッチ言うな。つか、加賀美風に言うと……パネえな」
「ああ、パナいな」

 てか、俺がリーダーとか、ゼッテー加賀美の嫌がらせだ。
 あいつが牢屋の中で爆笑している姿が目に浮かぶぜ。
 今すぐあの整形ヅラをグシャグシャにしてやりたいぜ。
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