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第六章

第168話 リーダー

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「今こそ、我らが実現できなかった夢を実現するとき。全世界は無理かもしれないが、人間、亜人、魔族が分け隔てなく平等で、そしてこの世界を滅ぼさぬための有志を募い、第四の勢力を作る時だ! ユーバメンシュ、お前にはその勢力をまとめあげる幹部になって欲しい!」

「ま~た、とんでもない、夢想を言うわねん。よりにもよって、亜人に多大な被害を与えている、ラブ・アンド・マニーを引き連れて、そんな交渉をするん?」

「百も承知だ。しかし、それは無駄ではない。その犠牲のうえ、汚名を被り続けた結果、組織そのものは間違いなく巨大化した。組織を巨大化させるためにマッキーを自由にさせ過ぎて、水面下で交渉中だったサイクロプスの一部勢力を連れて帝国を襲撃するなどという暴走を抑えきれなかったのは、こちらの落ち度だがな」

 
 それにしても、話が色々とこんがらがるが、とにかく分かるのはタイラーがマッキーと繋がりがあり、ならばあの帝国で起こったことにも無関係じゃないと……なんてこった……


「でも、いきなりそんなことを言われてもね~ん。だいたい、いきなり砲撃するような連中と手を組めなんて……」

「言ったはずだ。時間がないと! 人類大連合軍との戦で勝利したジーゴク魔王国が次に動き出したら、それが世界崩壊へのカウントダウンだ。自尊心の高い鬼魔族共は、我々の話を聞いても鼻にもかけない。実力で奴らの脅威となる勢力がすぐにでも必要だ!」

「ちなみに断ったら、どうなるのん? って、軍艦引き連れて砲撃までしてる時点で分かり切ってることねん。そんなんで、よくも三種族が分け隔てない組織なんて言えるものねん」

「既にサイクロプスの国であるマーカイ魔王国は、我らの話に乗り気だ。あとは、亜人だけだ! 我らに協力しろ、ユーバメンシュ! この世界を守るために!」


 ただ、マッキーのことはひとまず置いておくとして、タイラーは焦っているみたいだ。
 本当に時間がない。もはや力づくでも、形だけでも、体裁を整える必要があると、威圧的に出ている。
 そして、これを暴走と呼ぶべきなのか、それともタイラーが正しいのか、そんなもの俺に分かるはずもねえ。
 だいたい、何でタイラーが、あのフザけたクソ野郎集団の、ラブ・アンド・マニーの関係者なのかも理解できねえ。
 もう、どうなってんのか……全然わかんねーよ……。
 そして、このことはファルガも知らねえ。
 なら、フォルナは?
 国王や女王は、タイラーの意思を知ってるのか?
 そして、タイラーと幼馴染だった……親父とおふくろは、知ってたのか?
 もう、わけが分かんねーよ。

「うふふふふふふふふふふふふふ、どうやら、相当焦っているようねん、タイラー。それだけあなたにとって、この間の人類大連合軍の敗戦が予想外だったことと、被害が予想以上だったことを物語っているわん」

 この中で、唯一タイラーの話の内容を理解している、ママン。
 だが、ママンはタイラーを嘲笑うかのように、肩を竦めた。

「でも、らしくないわね、タイラー。だって、あなたのその計画には、致命的な欠陥があるわん。というか、無理なのよん。」
「ッ………」
「第四の勢力。種族の壁なき組織を作り上げるには、絶対的に欠かせない存在が必要よん……それができないから神族大陸の戦争は変わらないのよん?」

 ママンの指摘。それは、タイラーにも何なのか分かっているのか、苦虫を潰したような表情を見せた。
 致命的な欠陥? 
 それは一体……

「それは、三つの種族から絶大な信頼を得ている、リーダーの存在よん。組織を運営する社長ではなく、我々が身を捧げて付き従い、そして導く正真正銘のリーダー。そして、それは私にも務まらないわん」

 リーダー……ああ、そっか。それもそうだな。

「自身が種族の壁や歴史に囚われることなく、それでいて、人間、魔族、亜人、全ての種族から信頼と信用を得ている者がリーダーにならない限り、それは不可能よ。そんな人物を探し出すのなんて、光の十勇者、四獅天亜人、七大魔王を仲間にするよりも遥かに難しいことよん」

 そんな奴……この世に居るわけねーじゃん。
 タイラーも、それを言われることは分かっていたようだが、何も返せなかった。

「それと、もう一つ気になることがあるわん。ジーゴク魔王国のキシンはふざけた振る舞いはしていても、決してバカではないわん。彼も神族に関する話は承知しているはずなのに、今回人類に甚大な損害を与えた……バランスが大幅に崩れて面倒になるということを承知で……それが一体どういう――」

 そして、ママンは何かもう一つ気になることがあると、何かを話そうとしたが、その時だった。
 ママンが全てを口にする前に……


「リーダーについては~~~~~、マッキーの~~~~、伝言があるよ~!」


 それは、この緊迫した雰囲気をぶち壊すようなフザけた口調と、ナリだった。

「あ、あいつは!」
「ちょっ、あはははは、何アレ! 夢の国のパクリじゃん? 加賀美のバカ!」
「あの、くそ女」
「やはり来ていたでござるか!」

 脱走したという話だけを聞いていたが、やっぱ出てきたか。
 ラブ・アンド・マニー副社長、マニーラビット。
 かつて居た世界で最も有名だったキャラクター、マッキーラビットのガールフレンド。
 着ぐるみ姿で現れたあのバカキャラクターは、ボーイフレンドが投獄されても変わりなかった。


「あら、マニーちゃん。久しぶりねん。それにしても、マッキーの伝言ってどういうことん」

「マニーよ。どういうことだ? マッキーの伝言など、私は聞いていないぞ?」

「うん。あのね~、マッキがさ~、……リーダー問題になったらみんなに教えろって言ってたの。『リーダー見つけといた』ってさ。私は、それをみんなに教えるために、えんやこーら逃げて来ちゃったの♪」


 その言葉に、タイラーも、ママンも、この場にいた全員に衝撃が走った。
 そして、このタイラーとママンの会話のほとんどを理解できない俺だけども、なぜかこの瞬間メチャクチャ嫌な予感と、加賀美がニタニタ笑っている姿が頭の中に過った。

「マニーよ。リーダーが居る? それは本当か!」
「もっちろんだよ、タイラー! あのね、マッキーが、彼にしたらおもしろい……じゃなかった、彼しかいない! って太鼓判押してるんだから♪」

 タイラーたちが立ち上げようとしている、第四勢力。
 人間、魔族、亜人の三種族を従えて導くリーダー? そんな意味分かんねーやつが、この世界に存在するってのか?

「あのね、その人はね、人類大陸の大国家のお姫様の恋人で、魔族大陸の魔王国家の元お姫様とも恋人で、亜人大陸の最大最高の剣術道場の跡取りを右腕にしてるんだって♪」

 マジかよ。そんな都合のいい、反則みてえな奴がいんのかよ。
 つか、サラッと恋人が複数いるとか……どこのくそやろうなんだろーなー? ん?……まさか……ないないないない! そんなことあるはずが……だが、もしそうだとしたら……
 か、加賀美いいいいい!!

「……おい、愚弟……まさか……」
「朝倉……なあ……」
「と、殿?」
「あっ? なんだよ、お前ら……俺のことジッと見て……」

 あっ、俺だけじゃないようだ。
 ファルガも、備山も、そして少しおバカなムサシですら顔を引きつらせて俺を見てやがる。
 みんなも俺と同じように「まさか」を……第四勢力のリーダー候補とやらが何者かが……


「はっぴょーーーーーーします! ドゥルルルルルルルルルルル、ジャジャン! ヴェルト・ジーハくんです!」

「って、なんでやねん! っと待てコラァァァァァァァァッ!」
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