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第六章
第164話 変わる世界と終わる夢
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悠然と歩くファルガに、亜人たちが言葉を失う中、ママンだけは口を動かした。
「ファルガ・エルファーシア。その名は世界に轟き、光の十勇者クラスの実力者と言われても、『金色の彗星』と呼ばれている妹ちゃんほど、実はその実力の評価は明確に定まっていないわん。それはやはり、神族大陸での戦の経験がないからん」
そう、実のところ、ファルガの名は有名でも、その実力がどれほどのものかは、軍関係者でも実は良く知られていない。
理由としては、今、ママンが言ったことがそのまま当てはまる。
だからこそ、その実力の片鱗を今目の当たりにしたことで、ソルシやトウシの目つきが変わった。
「面白いね。やはり、そうこなくては。休暇で遊びに来ただけなのに、これほど血が騒ぐとはね」
「失望させぬよう、全身全霊を持って相手しよう」
もはや、真剣ではない。まるで、殺し合いをするかのように、ソルシとトウシから殺気を感じた。
「あ~あ、大丈夫か? ファルガ」
「そうね。ちょ~っと、私じゃ相手にならないかな」
「拙者は……勝てるでござるか? 殿を、守りきれるでござるか?」
「なんとも突き刺さるような殺気。これほどとは思いませんでした」
ソルシたちが、眠れる竜を起こしたように、ファルガもまた相手を起こしてしまったかもしれないな。
果たして、ファルガ以外の俺たちは、この二人の怪物を相手できるかどうか……
「愚弟」
「おう」
「一つ、分かったことがある」
「なに?」
「テメェの能力についてだ」
それは、十年以上も一緒に居て、初めてファルガが俺に助言することだった。
「天空世界でテメエが調子に乗って語っていた能力。それから察するに、テメエはもう、相手の動きを目で追うな。感じろ。このレベルになると、目で追ってから反応してたらクソ手遅れだ」
「は? どういうことだよ。目で追わずに感じろとか」
「てめえならできるはずだ。体に伝わる空気の流れ、それが雄弁に全てを語っているはずだ」
目で追わずに感じる? 感じるのは、何を? それは空気だと?
「テメェの目も反応速度も、俺らからすればクソ常人に毛が生えた程度だ。それじゃ遅い。だが、空気を伝って相手の呼吸や筋肉の軋み、そして流れなどを感じ取ることができれば、この世界でテメエは誰よりも早く動き出すことができるはずだ」
それは、あまりにも漫画脳的な発想すぎて、俺には思いつくことすらできない方法だった。
確かに、天空世界での戦い以来、俺は空気の流れを敏感に感じ取ることができるようになった気がする。
それを、感じ取れだと? KYな俺に、誰よりも空気を読めってか?
笑えてくる。
だが、笑える理由はもう一つ。
「珍しいじゃねえか、ファルガ。お前もフォルナも、俺が強くなることは前向きじゃなかった。才能ねえ俺は戦う必要なんてねえ。俺のことは自分たちが守るって、ガキの頃から二人で息巻いてたじゃねえかよ」
ガキの頃からそうだった。フォルナに関して言えば、俺が進級するためや日常生活を過ごす上での魔法を叩き込もうとしたが、戦って強くしようとはしなかった。
この兄妹は、頼もしすぎて、「愚弟は俺が守る」「ヴェルトはワタクシが守りますわ」と言ってたからな。
だが、そのファルガが、俺をもう一つ高い所へ上げるために、初めて助言した。
なんだかそれが、おかしかった。
「ふん、テメエが帝国で表彰され、サシで七大魔王を倒した時点で状況が変わった」
「なに?」
「愚弟。テメエが半端なままテメェの力に自惚れて神族大陸へ向かうぐらいなら、まだまだテメェ自身の力も先があることを教えておいたほうがいいと思っただけだ」
確かにな。
俺自身がチョコチョコ強くなるよりも、ここらで本格的に強くなったほうがいいのかもしれねえ。
じゃねえと、七大魔王として俺と対峙したチロタンにも悪いしな……あいつの肩書まで軽くなっちまう。
「なるほどな。じゃあ、それを証明するのには、あの組長と副長はうってつけってわけか」
「ああ。ただ力の限り暴れていたチロタンとは違え。気の遠くなるほどの鍛錬を積み重ねて完成された、亜人だ。気を引き締めろ」
たかがフットサル? 随分と、真剣にやらざるをえない状況になってきたもんだな。
俺は、両手で顔を叩き、もう一歩も引かねえことを誓って前を向いた。
「ふふ、面白い! なら僕も、心剣で相手をさせてもらおう!」
「来い、クソなよ男が」
攻め上がる、ソルシ。今度はソルシ自身も引かない。
対峙する二人は、第三者からは分からないが、空想上の世界でどうやら深い斬り合い突き合いを繰り広げ……
「っ!」
「ほう、さすがにクソやるな」
俺たちは絶句した。
何もしていないで、にらみ合っていただけの二人の頬が僅かに切れて、血が滲み出たからだ。
「ちょっ、嘘だろ!」
「そ、想像上の斬り合いだけで、ダメージまで体に浮かび上がらせた?」
どこまで化けもんなんだよ、この二人は。
「ああ……、すごいでござる」
ゴール前で呆然としていたムサシが声を漏らした。
「あんな、あんな世界があったとは……これが、頂上の世界の住人たちでござるか……」
ムサシ……今日は何もしてねえし、下手だし、さすがにへこんでいるな。
あまりの桁外れの世界に、ショックを隠しきれてねえ。
「拙者には、拙者ごときでは……決してあそこまでは……」
折れるのか? 心が、完全に。
だが、そう思ったとき……
「ふっ、ふふふふ……」
ムサシが不敵な笑みを浮かべた。
「拙者は、何を恐れているでござる。拙者は、ムサシ。殿の懐刀にして右腕でござる」
一度、どん底まで落ちた気持ち。だが、それは勢いよく落ちたのか、どん底で強くバウンドして跳ね上がってくる。
「殿の奥方様が何人居ようと、右腕は一本でござる! その唯一無二の一本として、拙者が動かずしてどうするでござる!」
ムサシが前を向いた。鋭く力強い眼光とともに、対峙するファルガとソルシの間にあるボールを見据える。
そして、飛び込んだ。
「いくでござる!」
「なっ?」
「ムサシ!」
それは、真剣勝負中に突如割り込んできた虎。
だが、その虎が超人二人の反応を上回る速度で駆け抜け、ボールを奪い取った。
「お、お姉!」
「い、今のスピードは……」
「亜速!」
開き直って、完全にカラが破れやがった。
ムサシ!
「な~~~んと! 運痴のムサシちゃんが、ボールをカット! これは予想してなかったわん! 見事な亜速で、ボールをゲットン!」
「っ、チャンスよ、ムサシちゃん、回して!!」
「負けていられませんね、私たちも!」
笑みを浮かべて、即座にクレランとエルジェラも動く。
「トランスフォーメーション、ミストバード」
「ヴェルト様の模倣ですが……超天能力・ランダムシュートです!」
ムサシは取ったボールを丁寧に転がす。空振りしなかったのはついている。
クレランがその場で霧を発生させて、ボールを覆う。その中で、エルジェラが俺と似た物体浮遊の力でボールの軌道を操作しながら、シュートを放った。
「見事よん! これは、野生の世界にはない技! 異なる能力どうしの合わせ技、合体シュートよん!」
「つか、やべえ! みんな、マジ覚醒じゃん!」
ボールを霧で覆い隠し、その上で軌道を変化させて相手のゴールに叩き込む。
これなら、どうだ?
だが、忘れてはならないのは、相手チームのゴレイロがトウシであるということだ。
「見事。だが、自分も負けるわけにはいかない」
見切った!
「止めたわーーーーーーーん! なんと、トウシちゃん、パンチングで防いだわん!」
「つか、どうやったの? あれ、マジでシンガンとかいうやつ?」
あれだよ。ファルガが俺に求めたのは。
見るんじゃなくて、感じる。
「わ、私たちだって、死んでも負けられないもん!」
「シンセン組の名にかけてだよ!」
「組長と副長ばかりに頼っていられないの!」
こぼれ球を拾った三人娘の、ゴールデントリオパスワークが再び。
さあて、今度は俺が魅せる番だ。
「さあ、打って変わって、カウンターよん!」
「朝倉! あんたこれ、止めなきゃまずくね?」
心配すんな、備山。止めるよ、俺は。
「来な、チビジャリ共が」
感じろ。ボールの流れを、空気の流れを、このフットサル場全体に流れる空気を。
一つ一つの呼吸から、筋肉のきしみ一つを見逃すな。
するとどうだろうか?
俺の頭の中に、まるで予知能力のように、イメージが浮かび上がってきた。
電気がまるで全身に駆け抜けていくような閃き。
俺が考える前に、体が勝手に動いて……
「「「三位一体・トリプルシュート!」」」
「ああ……なんか、分かったかも」
俺はシュートを打たれる前からシュートコースに入り込んで、弾くこともせず、衝撃を完全に殺して片手でキャッチしていた。
「くはははは、ロリっ子ども。どうだ?」
「「「う、うそっ!?」」」
またひとつだけ、階段を上れた気がして、俺は心が踊った。
「こ、これも止めたわん! なんと、次々と飛び交うスーパープレーの応酬! 点差はあっても、ここに来て白熱の好ゲームが繰り広げられているわん!」
「やば! つか、もうフットサルじゃねえじゃん、これ! なんかもう色々スゲーしか言えないっつーの!」
そしてどうだろうか?
一人一人が目覚めてきたゲームの中、会場にも変化が訪れた。
「お、おお、す、スゲー」
「あ、ああ」
「なんか、すごいよね、……どっちも……」
次々と漏れる素直な言葉とともに、やがて……
―――――パチパチパチパチ
試合中だというのに、次第に両チームを褒め称える拍手が沸き起こった。
「あ゛? なんだこれ」
「あはははは、やっぱり、すごいね、君たちは」
「な、なんだよ、どういうことだよ」
「局長や参謀が、君たちに賭けてみようと思ったのが、少しだけ分かった気がするよ」
さすがに俺たちも困惑するが、その光景を見て、ソルシが笑った。
「悔しいけど、亜人っていうのは、人間や魔族に比べて、体が強い割には単細胞なんだ。だから、単純なことで相手を嫌うこともあるし、信じ込むこともあるし、争いを起こすこともある。でもね、だからこそなんだ。だからこそ、素直にすごいと思ったことには、素直にすごいと思う。それが例え、人間や魔族が相手でもね」
俺には正直、その意味は深く理解していなかった。
だが、この場にいた数名には、違う印象を抱いていたようだ。
「予感ねん、これは」
「どうしたの、ママン?」
「世界が、どうやらあなたたちの世代から、変わり始めているのかもしれないわねん」
世界が変わる予感がした。
そう、思っている者たちも居たようだ。
それを、嬉しそうに、しかし、どこか切なそうに語るママン。
だが……
「でも、だからこそ許せないわねん。こんな素晴らしい時間を邪魔しようとする輩わん」
「ママン?」
何事か?
その時、ママンが俯いた。
「ご報告申し上げますッッッッッッッ!!!!」
それは、俺たちをこの街に連れてきた警備隊の半魚人だった。
この街に入るには制服に着替えるというルールを無視してまで、慌てふためいた様子で、なんの前触れもなく現れてその声を張った。
「た、たった今、海上の警備隊の包囲や警告を無視して侵入してきた軍艦が複数あり! 例の、ラブ・アンド・マニーという組織です!」
それは、夢のような平和な時間が終わった瞬間でもあった。
「ファルガ・エルファーシア。その名は世界に轟き、光の十勇者クラスの実力者と言われても、『金色の彗星』と呼ばれている妹ちゃんほど、実はその実力の評価は明確に定まっていないわん。それはやはり、神族大陸での戦の経験がないからん」
そう、実のところ、ファルガの名は有名でも、その実力がどれほどのものかは、軍関係者でも実は良く知られていない。
理由としては、今、ママンが言ったことがそのまま当てはまる。
だからこそ、その実力の片鱗を今目の当たりにしたことで、ソルシやトウシの目つきが変わった。
「面白いね。やはり、そうこなくては。休暇で遊びに来ただけなのに、これほど血が騒ぐとはね」
「失望させぬよう、全身全霊を持って相手しよう」
もはや、真剣ではない。まるで、殺し合いをするかのように、ソルシとトウシから殺気を感じた。
「あ~あ、大丈夫か? ファルガ」
「そうね。ちょ~っと、私じゃ相手にならないかな」
「拙者は……勝てるでござるか? 殿を、守りきれるでござるか?」
「なんとも突き刺さるような殺気。これほどとは思いませんでした」
ソルシたちが、眠れる竜を起こしたように、ファルガもまた相手を起こしてしまったかもしれないな。
果たして、ファルガ以外の俺たちは、この二人の怪物を相手できるかどうか……
「愚弟」
「おう」
「一つ、分かったことがある」
「なに?」
「テメェの能力についてだ」
それは、十年以上も一緒に居て、初めてファルガが俺に助言することだった。
「天空世界でテメエが調子に乗って語っていた能力。それから察するに、テメエはもう、相手の動きを目で追うな。感じろ。このレベルになると、目で追ってから反応してたらクソ手遅れだ」
「は? どういうことだよ。目で追わずに感じろとか」
「てめえならできるはずだ。体に伝わる空気の流れ、それが雄弁に全てを語っているはずだ」
目で追わずに感じる? 感じるのは、何を? それは空気だと?
「テメェの目も反応速度も、俺らからすればクソ常人に毛が生えた程度だ。それじゃ遅い。だが、空気を伝って相手の呼吸や筋肉の軋み、そして流れなどを感じ取ることができれば、この世界でテメエは誰よりも早く動き出すことができるはずだ」
それは、あまりにも漫画脳的な発想すぎて、俺には思いつくことすらできない方法だった。
確かに、天空世界での戦い以来、俺は空気の流れを敏感に感じ取ることができるようになった気がする。
それを、感じ取れだと? KYな俺に、誰よりも空気を読めってか?
笑えてくる。
だが、笑える理由はもう一つ。
「珍しいじゃねえか、ファルガ。お前もフォルナも、俺が強くなることは前向きじゃなかった。才能ねえ俺は戦う必要なんてねえ。俺のことは自分たちが守るって、ガキの頃から二人で息巻いてたじゃねえかよ」
ガキの頃からそうだった。フォルナに関して言えば、俺が進級するためや日常生活を過ごす上での魔法を叩き込もうとしたが、戦って強くしようとはしなかった。
この兄妹は、頼もしすぎて、「愚弟は俺が守る」「ヴェルトはワタクシが守りますわ」と言ってたからな。
だが、そのファルガが、俺をもう一つ高い所へ上げるために、初めて助言した。
なんだかそれが、おかしかった。
「ふん、テメエが帝国で表彰され、サシで七大魔王を倒した時点で状況が変わった」
「なに?」
「愚弟。テメエが半端なままテメェの力に自惚れて神族大陸へ向かうぐらいなら、まだまだテメェ自身の力も先があることを教えておいたほうがいいと思っただけだ」
確かにな。
俺自身がチョコチョコ強くなるよりも、ここらで本格的に強くなったほうがいいのかもしれねえ。
じゃねえと、七大魔王として俺と対峙したチロタンにも悪いしな……あいつの肩書まで軽くなっちまう。
「なるほどな。じゃあ、それを証明するのには、あの組長と副長はうってつけってわけか」
「ああ。ただ力の限り暴れていたチロタンとは違え。気の遠くなるほどの鍛錬を積み重ねて完成された、亜人だ。気を引き締めろ」
たかがフットサル? 随分と、真剣にやらざるをえない状況になってきたもんだな。
俺は、両手で顔を叩き、もう一歩も引かねえことを誓って前を向いた。
「ふふ、面白い! なら僕も、心剣で相手をさせてもらおう!」
「来い、クソなよ男が」
攻め上がる、ソルシ。今度はソルシ自身も引かない。
対峙する二人は、第三者からは分からないが、空想上の世界でどうやら深い斬り合い突き合いを繰り広げ……
「っ!」
「ほう、さすがにクソやるな」
俺たちは絶句した。
何もしていないで、にらみ合っていただけの二人の頬が僅かに切れて、血が滲み出たからだ。
「ちょっ、嘘だろ!」
「そ、想像上の斬り合いだけで、ダメージまで体に浮かび上がらせた?」
どこまで化けもんなんだよ、この二人は。
「ああ……、すごいでござる」
ゴール前で呆然としていたムサシが声を漏らした。
「あんな、あんな世界があったとは……これが、頂上の世界の住人たちでござるか……」
ムサシ……今日は何もしてねえし、下手だし、さすがにへこんでいるな。
あまりの桁外れの世界に、ショックを隠しきれてねえ。
「拙者には、拙者ごときでは……決してあそこまでは……」
折れるのか? 心が、完全に。
だが、そう思ったとき……
「ふっ、ふふふふ……」
ムサシが不敵な笑みを浮かべた。
「拙者は、何を恐れているでござる。拙者は、ムサシ。殿の懐刀にして右腕でござる」
一度、どん底まで落ちた気持ち。だが、それは勢いよく落ちたのか、どん底で強くバウンドして跳ね上がってくる。
「殿の奥方様が何人居ようと、右腕は一本でござる! その唯一無二の一本として、拙者が動かずしてどうするでござる!」
ムサシが前を向いた。鋭く力強い眼光とともに、対峙するファルガとソルシの間にあるボールを見据える。
そして、飛び込んだ。
「いくでござる!」
「なっ?」
「ムサシ!」
それは、真剣勝負中に突如割り込んできた虎。
だが、その虎が超人二人の反応を上回る速度で駆け抜け、ボールを奪い取った。
「お、お姉!」
「い、今のスピードは……」
「亜速!」
開き直って、完全にカラが破れやがった。
ムサシ!
「な~~~んと! 運痴のムサシちゃんが、ボールをカット! これは予想してなかったわん! 見事な亜速で、ボールをゲットン!」
「っ、チャンスよ、ムサシちゃん、回して!!」
「負けていられませんね、私たちも!」
笑みを浮かべて、即座にクレランとエルジェラも動く。
「トランスフォーメーション、ミストバード」
「ヴェルト様の模倣ですが……超天能力・ランダムシュートです!」
ムサシは取ったボールを丁寧に転がす。空振りしなかったのはついている。
クレランがその場で霧を発生させて、ボールを覆う。その中で、エルジェラが俺と似た物体浮遊の力でボールの軌道を操作しながら、シュートを放った。
「見事よん! これは、野生の世界にはない技! 異なる能力どうしの合わせ技、合体シュートよん!」
「つか、やべえ! みんな、マジ覚醒じゃん!」
ボールを霧で覆い隠し、その上で軌道を変化させて相手のゴールに叩き込む。
これなら、どうだ?
だが、忘れてはならないのは、相手チームのゴレイロがトウシであるということだ。
「見事。だが、自分も負けるわけにはいかない」
見切った!
「止めたわーーーーーーーん! なんと、トウシちゃん、パンチングで防いだわん!」
「つか、どうやったの? あれ、マジでシンガンとかいうやつ?」
あれだよ。ファルガが俺に求めたのは。
見るんじゃなくて、感じる。
「わ、私たちだって、死んでも負けられないもん!」
「シンセン組の名にかけてだよ!」
「組長と副長ばかりに頼っていられないの!」
こぼれ球を拾った三人娘の、ゴールデントリオパスワークが再び。
さあて、今度は俺が魅せる番だ。
「さあ、打って変わって、カウンターよん!」
「朝倉! あんたこれ、止めなきゃまずくね?」
心配すんな、備山。止めるよ、俺は。
「来な、チビジャリ共が」
感じろ。ボールの流れを、空気の流れを、このフットサル場全体に流れる空気を。
一つ一つの呼吸から、筋肉のきしみ一つを見逃すな。
するとどうだろうか?
俺の頭の中に、まるで予知能力のように、イメージが浮かび上がってきた。
電気がまるで全身に駆け抜けていくような閃き。
俺が考える前に、体が勝手に動いて……
「「「三位一体・トリプルシュート!」」」
「ああ……なんか、分かったかも」
俺はシュートを打たれる前からシュートコースに入り込んで、弾くこともせず、衝撃を完全に殺して片手でキャッチしていた。
「くはははは、ロリっ子ども。どうだ?」
「「「う、うそっ!?」」」
またひとつだけ、階段を上れた気がして、俺は心が踊った。
「こ、これも止めたわん! なんと、次々と飛び交うスーパープレーの応酬! 点差はあっても、ここに来て白熱の好ゲームが繰り広げられているわん!」
「やば! つか、もうフットサルじゃねえじゃん、これ! なんかもう色々スゲーしか言えないっつーの!」
そしてどうだろうか?
一人一人が目覚めてきたゲームの中、会場にも変化が訪れた。
「お、おお、す、スゲー」
「あ、ああ」
「なんか、すごいよね、……どっちも……」
次々と漏れる素直な言葉とともに、やがて……
―――――パチパチパチパチ
試合中だというのに、次第に両チームを褒め称える拍手が沸き起こった。
「あ゛? なんだこれ」
「あはははは、やっぱり、すごいね、君たちは」
「な、なんだよ、どういうことだよ」
「局長や参謀が、君たちに賭けてみようと思ったのが、少しだけ分かった気がするよ」
さすがに俺たちも困惑するが、その光景を見て、ソルシが笑った。
「悔しいけど、亜人っていうのは、人間や魔族に比べて、体が強い割には単細胞なんだ。だから、単純なことで相手を嫌うこともあるし、信じ込むこともあるし、争いを起こすこともある。でもね、だからこそなんだ。だからこそ、素直にすごいと思ったことには、素直にすごいと思う。それが例え、人間や魔族が相手でもね」
俺には正直、その意味は深く理解していなかった。
だが、この場にいた数名には、違う印象を抱いていたようだ。
「予感ねん、これは」
「どうしたの、ママン?」
「世界が、どうやらあなたたちの世代から、変わり始めているのかもしれないわねん」
世界が変わる予感がした。
そう、思っている者たちも居たようだ。
それを、嬉しそうに、しかし、どこか切なそうに語るママン。
だが……
「でも、だからこそ許せないわねん。こんな素晴らしい時間を邪魔しようとする輩わん」
「ママン?」
何事か?
その時、ママンが俯いた。
「ご報告申し上げますッッッッッッッ!!!!」
それは、俺たちをこの街に連れてきた警備隊の半魚人だった。
この街に入るには制服に着替えるというルールを無視してまで、慌てふためいた様子で、なんの前触れもなく現れてその声を張った。
「た、たった今、海上の警備隊の包囲や警告を無視して侵入してきた軍艦が複数あり! 例の、ラブ・アンド・マニーという組織です!」
それは、夢のような平和な時間が終わった瞬間でもあった。
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