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第六章

第158話 さるこん

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 サルコンとは、単純に合コンとフットサルを融合させたものらしい。
 フットサルをやるという名目で男女を集め、運動しながら親睦を深めるというコンパの一種らしい。
 いや、合コンをこの世界でイベントとして提供するだけじゃなく、フットサルなんてもんまで持ち込んでんのか?
 備山の発想ではあるんだろうが、その行動力はママンの活躍が大きいだろう。
 改めてこの二人のコンビに戦慄しながらも、何故か俺たちは短パンと背番号付きのブルーのユニフォームを着せられ、ジェーケー都市の中にある、人工芝のフィールドに立たされていた。
 しかし、俺は別に構わないが、短パン半袖など、この世界じゃ珍しいだろう。
 特に女たちは、初めて着る衣装に興味津々だ。
 
「へえ、動きやすいな、この格好。どうだ? ヴェルト、似合ってるか?」
「おー、ウラ。可愛すぎるスポーツ選手として取り上げられるぐらい可愛いぞ」
「ヴェルト様! わ、私は、その……」
「エルジェラ、お前は胸トラップしたら、どれがボールか分からねえな」
「殿ーッ! 拙者は! 拙者は?」
「普通に似合いすぎだ。どこの運動部だよ」

 生まれて初めて着たよ、サムライブルー。
 しっかし、こいつら全員、制服の時にも思ったが、何着ても似合うな。
 だが、まあこいつらのユニフォーム姿に見とれてばかりじゃいられない状況だがな。 

「おいおい、何だ? 人間がいるぞ、人間が!」
「どこの奴隷だよ! 薄汚ねえ人間が!」
「おい、でも魔族が一人居るぞ! けけけ、あんだけ美人なら、俺の愛人にしてやるぜ!」
「ちょっとー、何で亜人と人間がチームになってんのよ、ありえなくなーい?」

 街の中にある、鳥かごのような柵の中に作られたフットサル場。
 コート自体は忠実に再現されているが、注目すべきは、街の中にあるがために通行人や見物客の注目度が半端じゃない。

「つか、何で俺たちが出るんだ? いや、ママンのゴリ押しを断れなかったとはいえ」
「だいたい、私にはヴェルトが居るのだから、ゴーコンというものは必要ないというのに!」
「クソが。めんどくせえ」
「あははは、でもいいじゃない。平和的で。まあ、亜人たちからすれば、人間や魔族の存在に憤りを感じてるみたいだけど」
「しかし、このような罵詈雑言は遺憾でござる!」
「えっと、オイラって種族的にはどうなるんすか?」
「なるほど、地上世界には随分と悲しい種族分けがあるのですね」

 いつもとは違う姿に新鮮さを感じながらも、不満をあらわにして俺たちはストレッチしていた。
 フットサル。そんなものここに居る誰も経験したことがない。ファルガたちは、初めて見る形の丸いボールを珍しそうに蹴ったり触ってりしている。

「ほう、このボールを蹴って、あの枠に入れればいいわけか」
「蹴りか。ならば、私に任せろ」
「シンセン組でも休み時間に遊んでいる者たちも居たでござる」
「球遊びか。なーんか、私も苦手かも」
「ふふ、とっても楽しみですね」
「兄さん、ルールはどうなんすか? 人数は?」

 ルールって言っても、俺もそこまで本格的にやったことねえな。
 まあ、サッカーと似たルールで、五対五ってのは基本だったと思うが。
 
「とりあえずだ、五対五で対決するから、まずはメンバー決めようぜ」

・ゴレイロ:ヴェルト
・フィクソ:ファルガ
・アラ:ムサシ
・アラ:クレラン
・ビヴォ:ウラ
・控え:ドラウエモン、エルジェラ
・マスコット:コスモス

 まあ、こんなとこだろう。
 俺はまさか自分が人にスポーツのルールや仕切りを行うことになるとは思わず、笑ってしまいそうになった。

「それにしても、フットサルね~。そーいや、神野に唆されて学校行き始めの頃、昼休みに暇つぶしで、十郎丸とミルコとやってたかな?」
「ん? どーしたんすか、兄さん?」
「いーや、なんでもね」

 少し昔を思い出して感慨に耽る俺だったが、その時、野太い声とギャルギャルしい声がフィールドに響き渡った。

「さーて! 集まったかしらん? 恋と情熱に飢えた獣共! ちょいーっす!」
「くっだらねえこと騒いでねーでさ、今日は楽しめっつーの!」
「その通り! そして、私がん! この愛と勇気の伝道師! ユーちゃんこと、ママンよ~ん!」
「あたし、黒姫っしょ! マジ、アゲアゲでいくっつーの!」

 多種多様な亜人が様々なユニフォーム姿で俺たちをチラチラ見る中で、主催者として壇上に上がる、ママンと備山が開会の挨拶を始めた。
 するとどうだろうか? 俺たちに不快な視線と言葉を漏らしていた亜人たちが、「んなことどーでもいい」とばかりに、拳を突き上げて熱狂的な拳を突き上げた!


「「「「「ふぉおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 熱狂的ではある。しかし、戦場に赴く兵士たちのかけ声とは全然違う。
 まあ、中には本気で彼女彼氏を探しに来たのか、やけに鼻息荒くして目をギラつかせているやつもいるが、ほとんどが軽いノリだ。


「もちろん、今日はサルコンだけど、中には純粋にフットサルやりたいって子も居るので、あんまりガツガツいかないでねん? でも、ガツガツいかないと弱肉強食の世界は生きられないんわん! あなたたち、ハーレム作りたくないん?」

「「「「「つくりたーい!」」」」」

「ラブラブしたくないん?」

「「「「「したーい!」」」」」

「じゃあ、やるわん! 勝ち進めば勝ち進むだけアピール出来て人気者になれるわん! サルコン兼のフットサル大会の始まりよん!」

「「「「いえええええええええええええい!」」」」


 なんか、色々とスゲーな。
 俺たちは、亜人大陸という獣たちの密林で迷子になったのかと思っていたが、渋谷で迷子になってんのか?
 人間と魔族のわだかまり? そんな真面目な話してねーで、さっさとやろうぜ! という備山の意志が伝わってくる。


「つーわけで、さ、今日はフットサルやるわけだからさ、あんまくだらねーことでイチャモンつけんなよな」

「レディース・ア~~~ンド・ジェントルメン! さあ、注目のオープニングマッチを開始するわん! 注目のオープニングマッチは、大猩猩人族の仲良し五人組、『キングコングス』よん! その圧倒的なパワープレーで、他を圧倒するかしらん?」

「だけど~、そこに立ちはだかるのが、異種族同士の混成チームで初参戦の、『トントゥラメーン』。あらゆるブーイングやバッシングに潰される? それとも蹴散らす? ちゅーもくっしょ! って、トンコトゥ? いや、発音は……とんこつラーメンかよ! ほかにマシなチーム名なかったのか?」


 悪かったな。チーム名なんて咄嗟に思い浮かばなかったんだよ。
 さて、俺は今、どういう状況なんだろうか?
 なんで、ユニフォーム着た筋肉もりもりのゴリラたちと向かい合ってるん? てか、こいつら、亜人じゃなくて、ただの喋るゴリラじゃねえのか? 喋らなければ、ただのゴリラじゃねえのか?
 いや、ただのゴリラじゃねえ。なんか毛を金髪にしたり赤くしたりと、染めてたり、シルバーのアクセサリーの腕輪とかがチラホラ。
 チャレ~

「ぶっつぶす、ウホ」

 しっかし、デケーな。ボールとアンバランス過ぎるんじゃねえのか? つか、こいつらサッカー、つうかフットサルできんのか?

「いけー、キングコングス! 腐れ人間と魔族をぶっつぶせー!」
「ゴリちゃんたちのパワーなら、マジ一発!」
「キャハハハハ!」

 まあ、当然の事ながら嫌われているわけだが、そんなものはどうでもいい。問題は、これをどうやって乗り切るか?

「ウホ、ウホウホウホ!」
「デカイから怖いなんて言われて、彼女も出来なかった俺たちだが」
「ようやくヒーローになるチャンスが来たゴリ!」
「こいつらを圧倒的に倒して、モテモテウホ!」

 うわお。もの凄い不純な理由で俺たちはぶっつぶされそうになってるわけか。
 しかし、これだけガン飛ばされても、仲間たちは一切怯む様子がないのは流石だな。
 まあ俺も、予想以上に落ち着いているけどな。
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