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第六章

第157話 オカマバー

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――拝啓、先生、カミさん、ハナビ、元気か? 俺とウラは元気だ。なんか、帝国での一件以来、有名人になっちまったり、旅の同行者が増えたりと大変だが、それなりに楽しんでいる。亜人やハンターやドラゴンや天使の仲間まで増えて、けっこうおもしれーから、今度紹介する。

――拝啓、メルマさん、ララーナさん、ハナビ、お元気ですか? こちらは変わりありません。当初の旅の予定から紆余曲折波瀾万丈の中で、毎日刺激が絶えない状況ですが、ヴェルトと共に様々なことを共有する日々に、とても生き甲斐を感じています。今ではファルガを始め、多くの仲間と世界を渡っています。人間、魔族、亜人、戦争、どれも重く世界にのしかかっている状況ですが、彼らと共に居ると、何でも出来る。何にでもなれると思わせてくれます。


 俺たちは今日、備山の家に泊めて貰うことになった
 一階は、レストランになっているが、二階は備山とママンの部屋や客室があり、俺たちはそこに泊めてもらった。
 先生たちに手紙を書こうと、俺はウラと机に向かい合い、これまでの旅や出会いについてを綴った。
 四獅天亜人やら七大魔王については心配されるから、書かなかったが、出会った仲間についてを書くだけで便箋がいっぱいになる。

「よし、あとはこれを貼ろう!」

 手紙を書き終えたウラが、プリクラを取り出した。
 それは、俺とのツーショットではなく、もう一度プリクラをわざわざ撮りに行って撮った写真だ。

「全員の集合プリクラか。ファルガ~、もっと笑えよな~」
「だが、楽しそうだ」
「ふん、くそくだらねえ」
「拙者にも良い思い出でござる」
「姉さん、オイラも欲しいから、オイラの背中にでも貼ってくださいっす!」
「私にとっても宝物です」
「あびゅああ!」

 最初は恥ずかしかったが、完成した実物を見ると、何だか感慨深いものがある。
 王子も、魔族も亜人もドラゴンもモンスターマスターも、そして天使も、普通に生きていれば一人にも会うことはない。
 なのに、ちょっと国を出てこれだけの珍しい奴らと出会うのも、本当に貴重な経験だ。
 俺たちはそれぞれで分けたプリクラを見ながら、何だか自然と微笑んでいた。

「それではヴェルト、出してこよう」
「いや、ちょっと待ってくれ、ウラ。俺、もうちょい書くことがある」

 そう、ヴェルト・ジーハとして書くことは終わった。
 だが、朝倉リューマとして書くべき事が残っている。
 俺は、俺とウラの手紙を入れた便箋に、もう一枚、先生宛の手紙を入れた。


――先生、クラスメートのことについて追記する。正直、中にはキツイこともあるけど、隠し事をしないのが約束だったから、正直に書く。まず、シロムという国を亜人が襲撃したというニュースを聞いたと思う。その時、俺は亜人を率いる宮本と再会した。宮本は、『バルナンド・ガッバーナ』という名前で、亜人大陸に名を馳せた剣士になっていた。シロムで異種族に対して行われている奴隷行為、陵辱、蹂躙は、亜人にとっては許されるものじゃなかった。それは、人間と亜人の間で揺れ動いているあいつも同じだった。特に、あいつは自分の子供が人間に殺されたみたいで、人間の醜さ的なものに苦しんでいた。結果的に俺たちの介入で、それはうやむやになったが、あいつは長年苦しみ続けていたことが痛いぐらい分かった。

――次に、加賀美と再会した。あいつは、ラブ・アンド・マニーっていう組織を設立し、この間の帝国での戦争の黒幕だった。俺がぶっとばした着ぐるみ野郎が、加賀美だ。あいつは前世に未練タラタラで、むしろ今のこの世界を現実として見ようとしていなかった。

――次に綾瀬と再会したが、あいつはまた、凄いことに…………


 気づけば、俺はヴェルト・ジーハとして書く手紙より多くの枚数を費やしていた。だが、それでも足りなかった。書くべき事、報告すべき事が山ほどあったからだ。
 『手紙は後で出しておく』と言いながら、下の階でメシ食ったり騒いだりしている仲間たちの声を聞きながら、俺は部屋に一人でまだ、書き続けていた。

「朝倉、お前、いつまでやってんだ? もう、メシだぞ?」
「備山」
「なんか、手紙書いてるとか聞いたけど、お前ってそんなマメな奴だったか?」

 いつまでも降りてこない備山が俺を呼びに来て、部屋に入った。
 そして何気なく俺が書いている途中の手紙を取り上げて、流し読みをし始め、そして急に表情が固まった。

「なあ、朝倉。あんた、誰に手紙書いてんだよ」
「……小早川先生だ」
「……わりい、誰だっけ?」
「担任だよ。それぐらい、覚えておけ!」
「あ~、ちょっと待て待て、あ~、ひょっとして、あの熱血教師か?」
「ああ、そうだ」
「……ああ、そうだって……あんた、再会してたのか?」
「まあな。俺さ、十歳の頃に亜人の強盗に両親を殺されて、それ以来ずっと先生の家に居候してたんだ。ウラと一緒にな」
「ッ、へ、へ~。なんだよ。あんたも随分と重い人生を過ごしてんじゃん」
「別に、重くもねえよ。俺は正直何もしてなかったからな」
「………………………………」
「なんだよ」
「いや、あんた…………随分と丸くなったなって。あれか? 子供出来たり、女が出来るとそうなるのか?」
「別に。いつまでも痛い高二病を患うのも、かっこわりーからな」

 俺は、筆を放り投げて、椅子の背もたれに体重を預けて、天井を見上げた。

「なあ、備山、お前はこれからどうすんだ? これからも、ずっとここでこうして生きていくのか?」
「ん? たりまえじゃん。今、スゲー楽しいのに、どうするもこうするもねえじゃん。なんで?」
「いや、なんか、お前だけ他の連中と違ったからよ。それこそ、大義だ信念だもなければ、狂ってるわけでもねえ。こんな世の中なのに、一番人生を楽しんでるように見えるからよ」
「は~~~~、くっだらな」

 俺が聞いた質問に、いきなりため息。何でだ? 俺、今そんなに変なこと聞いたか。

「朝倉。あんたさ、いつからそんなムズカしーこと考えるようになったんだ?」
「はっ?」
「人生は楽しんだもん勝ちなんだから、どーでもよくね? つか、シンセン組とか軍人じゃねえのに、あたしに関係なくね?」
「……まあ、そーなんだけどさ」
「つーわけで、さっさと降りてきな。ママンの手料理、ヤバイうまいってーの」

 そうなんだよな。俺だって、ずっとそうだった。好き勝手生きてきた。戦争にも参加する気なんてなかった。
 世界が戦争やろうとどうでも良かった。
 でも、それでも色々と考えさせるような出会いやシチュエーションを繰り返してきたからなのか、こいつの言うように、俺も難しいことを考え出したのかもな。


「そーよん。シャーちゃんは、本当に熱かったわん。もう、その情熱的で真っ直ぐな目を見ると、例え魔族でも抱かれてもいいと思ったわん!」

「よ、良かった……父上が、父上がそっちの趣味がなくて……」

「ファンちゃんは、これがとてつもないサディスティック戦法でね~ん、ジワジワジワジワ罠でいたぶって、相手を恐怖に陥れて戦意喪失させるのよん。あ~ん、怖かった。こんなか弱い私が汚い奴らに犯されてしまわないか、怖くて怖くて」

「クソおふくろは同じようにあんたを恐れていたと思うがな」


 備山と階段を下りると、なんだか宴会というかパーティーになっていた。
 エプロン姿のママンが走り回りながら、会話を決して途切れさせずに盛り上げて、場に笑いが絶えなかった。


「ミヤモトケンドー一日体験とかいうのがあったけど、私は正座がダメでねん、すぐに逃げちゃった」

「なんと! ママン殿もかつて道場にいた事が?」

「あなた、モンスターマスターなのん? す・て・き! 私もいい男を食べて一緒になりたいわ~ん」

「そうなんだよね~、私も~、食べたい男の人は~、そばにいるんだけど隙がなくて~」

「ドラちゃんって、これ食べられる? 娘が考えたお菓子なんだけど、ドラ焼きっていうのよん」

「おーーーーーメッチャうまいっす! オイラ、オイラ、これメチャハマリっす!」

「ちょーーーーーーーっと、エルジェラちゃん、あなたこのサラサラの髪、どうやってるのん? 伝説の天空族ってみんなこうなのん? 羨ますぎよん!」

「そんな。天空族の方は美しい方ばかりで、私なんかとても……でも、ヴェルト様は、そんな私を助けてくださって! 出産の時も、命をかけてくださって……ポッ」

「べ~~~~ろべろばあああああああああああああああああ!」

「ほぎゃああああああああああああああ!」


 すげえな。いや、若干一名大号泣してるけどさ。
 つか、ホストか? オカマバーか? 接客とトークがすごすぎだろ、このママンは!

「ヴェ~ルちゃん、早くあんたもこっちに座んなさい!」

 こんな奴に、備山は何年も育てられたわけか。
 確かに、こんな奴に育てられたら、色々なことがどうでも良くなっちまうかもな。

「すげーだろ、あたしのママン」
「ああ」
 
 備山はどこか誇らしげだった。
 それだけで分かった。
 ああ、こいつは、あいつを親だと認めて、尊敬して、本当に大好きだと思ってんだなって。
 つか、備山とママンが組めばある意味最強じゃねえか?
 その破壊力に、俺は思わず吹き出して笑いそうになった。

「さ~て、今日は寝かさないわよ~ん。ズバリ! 恋バナよ! ま~ずは、はい! この中でもうエッチしたことある人!」

―――し~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん

「うそ! あなたたちん、それで大丈夫なのん? ウラちゃんもエルジェラちゃんも、ヴェルちゃんとヤリまくりじゃないのん?」
「わ、私だって! 私だって本当はいつでも、いつだって……でも、ヴェルトがイジワルだから……最後までは……たまにチュッチュッてしたり……ぺ、ぺってぃ……ぐ、ぐらいだな……あ、あと、アレをちょっと、ぺ、ペロってしたり……」
「私だってもっと……で、でも、この間の朝、ヴェルト様のチンチンを私とウラさんで……ポッ♥ それに、ヴェルト様ったら私とウラさんを交互に……ポッ♥」
「おとーとくんは私が誘ってもノラなかったしね。まあ、私には~、ファルガがいるし~」
「ぷしゅうううううううううううううううう」
「わああああ、ムサシ姉さんがのぼせちまった!」
「きゃっきゃ!」

 つか、こいつら……

「かわいそうに、ウラちゃん。そうなの、五年も一緒に住んでるのに……なんて酷いヴェルちゃん! さあ、ママンの胸で泣きなさい!」
「うう、うわあああああああああん、ヴェルトぉ~、そろそろ私もキスとお口より先に進みたいのにぃ! 私も子供欲しいんだぞぉ!」
「お~、よしよし。こうなったら、ウラちゃん、私に任せなさい!」
「うぐっ、ママン?」
「必ずこの私が、ヴェルちゃんとあなたを膣内《なか》良しにしてあげるわん!」

 お、お前ら打ち解けすぎだろうが! 
 ある意味で恐ろしいやつだ。この宴会だけで、バッチリハートを掴んでやがる。
 気づけば、ママンの空気に全員が巻き込まれ、自然と心の距離が近づいていた。
 それに呼応してか、周りの客や従業員たちも、俺たちが人間とか魔族とか関係なく、一緒に乾杯の音頭を取ったりと、時間を忘れるほど盛り上がっていた。
 そして……


「よ~し、分かったわん。あなたたちに足りないのは、ラブねん! そういうことなら、あるときはメイドレストラン店長、あるときはクラブマスター、そしてあるときは『街コン』主催者でもあるママンが楽しませてあげるん!」


 バレーダンサーのように急にクルクル回転し出すママンは、俺たちに向けて提案する。


「数日後、この街で『サルコン』という名目で、『フットサル大会』をやるのよん。あなたたちもん、チームを組んで参加しなさいな!」


 それは、これまでの旅が全て夢だったのかと思えてしまうぐらい、あまりにも平和すぎる企画の招待だった。
 てか、フットサルはわかるけど、マチコン? サルコン? 何だ? その用語、俺が知らないだけか?

「つか……朝倉……あの銀髪の子、サメジマだっけ? の娘っしょ?」
「……ああ」
「……く、クラスメートの実の娘にチンコ舐めさせたん?」
「……ち、違う、舐めさせたことなんか一度もねぇ……よ?」
「何で目ぇ逸らすし!」
「だ、だって、あ、あいつが俺の寝込みを……」
「は? 女の所為にする? やっぱあんたサイテーじゃん!」
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