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第六章

第153話 まぢ

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 あれが噂のペガサス昇天とかいう名の髪型か。
 雑誌やテレビでは見たことあるが、ファンタジー世界で実物を見ることになるとはな。
 しかも、それをやってるのがダークエルフとか、マジで奇跡のコラボだな。


「こんちっす!」

「「「「「こんちっす!」」」」」


 突如、プリクラ目的に集まった若い亜人たちに向けて軽い挨拶をする、黒姫。
 さらに、


「やー、元気してり?」

「「「「「そーですね!」」」」」

「じゃあ、今日もマジ楽しんでくれる?」

「「「「「いいともっしょー!」」」」」


 古い古い古い!
 お前は、どこのお昼休みだよ!
 つか、全部パクリじゃねえかよ!

「おま、元ネタをみんな知らないからってやり過ぎだろうが! つうか、浸透させすぎだろうが! お前、マジで何があった!」
「どうしたのだ、ヴェルト、そんなに取り乱して!」
「と、殿、お、落ち着くでござる」

 いーや、無理だ。ツッコミどころが多すぎる。
 もはや、転生した人生を加賀美以上に満喫してやがる。
 いや、この黒姫様がクラスメートの誰かは分からねえけど。
 つか、人気者過ぎて俺のツッコミなんてかき消えて、むしろこっちにまったく気づいてねえし。

「マジマジ、黒姫様~。プーリクラ、サイコーじゃん!」
「激ハマリ! 激アツ~! キュンでしょ!」
「黒姫様も一緒に取るっしょ!」
「アゲアゲ!」

 もう、こいつら、本当に何なんだよ! 亜人ならもうちょい、ファンタジーらしくしろよ!
 朝倉リューマの時ですら、ここまで典型的な軽い奴らは渋谷にも居なかったぞ? 死語だったと思われる言葉も飛び交ってるし。
 亜人は単細胞が多くて影響されやすいなんて話を聞いたことがあるが、こいつらはその極地じゃねえのか?

「うぃー、どだった? 昨日の合コン?」
「も~、マジ外れ。黒姫様、誰か紹介してっす~。オラオラ系なやつ」
「は~? あたし、合コンは興味ないっツーの」
「そうそう、黒姫様はそこいらの男じゃ満足できねーっしょ」
「そ、そ~だな。あ、あたしにかかれば、落ねえ男はマジいねーし」
「黒姫様~! 今度、俺たちのライブきてくださいっす!」
「は~? お前らのガラガラライブ行きたくねえし。ナンパばっかしてるから、うまくなんねーつうの」

 しっかし、姫なんて呼ばれている割には、かなりの友達感覚だな。
 つか、街の連中も気さくに話しかけてるし、黒姫様も全員の顔と名前を覚えてるのか、挨拶してくる一人ひとりに話題を振ってる。


「スゴイでござる。既に亡国とは言え、王族があそこまで気さくに歩かれるとは」

「そうでもねえだろ。エルファーシア王国にはクソ飲食店で働く元王族のクソ魔族がいる。まあ、あのクソ黒姫が異常な生物だってのは、何となく分かるが」

「いや……私もだいぶエルファーシアでは打ち解けていると思うが、あそこまでは……」

「う~ん、なんだかね~、ノリにまったくついていけないのは、私が人間だからかな? それとも、……私が若者じゃないから……なんてことはないよね?」

「地上世界には色々な方がいるのですね」

「いや、オイラ、ああいうの苦手っす。マジムリポっす!」


 どうだろうか。正直な話、黒姫が異常なのかスゴイのかの判断がつかなすぎる。
 というより、色々と気になりすぎる。

「なあ、ムサシ。なんで、あいつはダークエルフなのに、こんなに慕われてんだ? いくら、新たな文化が受け入れられたからって言ってもよ」

 そう、少しだけ興味がある。
 こんな能天気で軽い世界を作り出した、この女の半生は?
 ダークエルフの元王族。その国は滅んだ。

「私も興味があるな。ある意味、私と同じような境遇だ。だが、私はもしヴェルトが居なければ処刑されていたか、とっくの昔に自害していた。なのに、あの黒姫はどうしてあそこまで慕われ、そして楽しそうなのだ?」

 そう、ウラもまた国が滅び、家族も殺された。
 もし、俺が鮫島と再会していなければ、こいつがどうなっていたかなんて想像もしたくない。
 だが、黒姫は違う。
 世界に憂いを抱いている様子も、過去の薄暗さを抱えているわけでもねえ。
 だからと言って、加賀美のように狂っているわけでもねえ。
 気楽に面白おかしく、一日一日を生きていければそれでいい。
 そんな、雰囲気が漂っている。


「拙者も詳しくは分からぬでござるが、黒姫様、本名は『アルテア・マジェスティック』……ダークエルフの国を滅ぼした、無敵の傭兵戦士にして四獅天亜人の一人、『狂獣怪人《きょうじゅうかいじん》・ユーバメンシュ』様の庇護を受けているとのことでござる」

「「「ぶふうううううう!」」」


 はい、吹いた。
 吹いてないのは、その意味を知らない、ドラとエルジェラとコスモスだけ。


「ユ、ユーバメンシュっておまっ、四獅天亜人のメチャクチャ有名人じゃねえか!」

「また、随分と意外なクソ大物が裏についてやがったか」

「私も聞いたことがある。どの国にも軍にも所属せず、気まぐれに戦場に現れては歴史に名を残すほどの偉業を果たす。ユーバメンシュを取り入れる国があれば、亜人大陸内の勢力図が一気に変わるとされている」

「私も聞いたことあるわ。ある日、魔族大陸で作られたお酒があまりにも美味しすぎて、魔族大陸まで泳いで買いに行ったとか。その時、七大魔王国家の一つが軍を動かしたものの、半壊しかけたとか」


 かなり意外すぎる名前だ。
 特に、イーサムの件があってから、四獅天亜人の名前には関わりたくない気持ちでいっぱいだった。

「あの~、兄さん、たまに出てくるけど、その何とか亜人ってなんすか?」
「それは地上世界でも有名な称号か異名のようなものでしょうか?」
「あぶりゅ?」

 ドラ、エルジェラ、コスモスは知らねえよな。
 俺は少し痛い頭を抑えながら説明……って、なんで俺がファンタジー世界の住人にファンタジー世界の説明をするんだよ。

「この、亜人大陸内で単純に最強の武力を持っている四人に与えられている称号だよ。チロタンがそうだった、七大魔王のようなもんだと思ってくれていい」
「ひゃー! あんなのの、亜人版があるっすかー!」
「なるほど。確かにそれは驚異な存在ですね」
「あぶゆ~」

 そう。更に言っちまえば、魔王や勇者の称号は色々な功績やら血筋やらも重要なポイントとなってくるが、亜人は違う。
 身分だろうと、功績がどうだろうと関係ねえ。
 単純に亜人大陸で最強の四人。
 それが亜人の世界で誰に何の基準で選ばれているかは分からねえが、とにかく単純な戦闘能力で言えば、世界三大称号の中でも郡を抜いていると呼ばれている。


「四獅天亜人。まあ、その一人の『カイザー大将軍』ってのは勇者に五年前に倒されたから一人は空白だけど、残る三人も化物過ぎて人間のガキだって知ってる。『武神イーサム』、『狂獣怪人ユーバメンシュ』、『淫獣女帝エロスヴィッチ』。まあ、この中で現在もマジメに神族大陸の最前線で活躍してるのは、エロスヴィッチだけだけどな」

「お、おお~、なんかも~、ゾッとするっすね」


 そうだ、ゾッとする話だ。
 しかし、だからこそ気になる。

「でだ、ダークエルフの国を滅ぼす際に傭兵として参戦したという四獅天亜人が、どうして黒姫を保護したんだ?」

 そう。なんで、黒姫は国も家族も失って、あんなに笑って生きているのか。
 なんで、黒姫は四獅天亜人に殺されずに保護されたのか。
 なんで、黒姫は国も家族も奪った張本人に保護されているのに、そんな人生でそこまで笑っていられるのか。
 そして何よりも、あいつは本当に俺のクラスメートなのか?
 いつもは興味ねえと言っていた俺も、興味が絶えなかった。


「ん?」


 だが、俺の抱えた疑問の一つは、ソッコーで解決することになった。


「あっ……」


 黒姫と俺たちの目が合った。その瞬間、ヘラヘラ笑ってた黒姫の表情が急に固まった。
 そして、


「あああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺たちを指差して大声を上げた。
 一体何事かと、ジェーケー都市の若い亜人たちが一斉に俺たちに注目する。
 そして、俺たちを指差しながら、震える口調で黒姫は叫んだ。


「あ、あいつら! あいつら、この間、空の映像に映ってた奴らじゃん! 加賀美ぶっとばして捕まえた奴らじゃん!!!!」


 あっ、こいつ、やっぱ間違いなくクラスメートだった……

「クソが……」
「ちっ、なんか注目されているぞ!」
「殿、拙者が必ずお守りするでござる! ですから、手荒な真似は我慢して欲しいでござる!」
「さて、どーなるかな? 食べられちゃう」
「ひゃーーーーーーーーー、やばいっす!」
「コスモスには指一本触れさせません」
「あびゅる~」

 さて、どうなるか分からない事態。
 一瞬で反応して身構えるファルガたちだが、俺はそれを手で制し、ゆっくりと前へ出た。

「おい、愚弟!」
「ヴェルト、下がれ! 危ないぞ!」
「殿!」

 いや、危なくねえと思う。多分だけど……


「あ~、どうも初めまして久しぶりだな。朝倉リューマだ」

「…………………………………はっ?」


 黒姫の目が点になった。俺を指差したまま固まり、数秒後にようやく言葉を発した。


「……まぢ?」
「マジだ」
「……あ、あたしさ……備山なんだけど?」
「ああ、………あ~……あ~、そういえば……そうか、ギャルいたな……」


 ……そして、黒姫ぽかん。


「あ~、スゲーな、お前。なに? 黒姫様とか、神とかカリスマとか、ギャルフとか。なんか調子にのってるな」

「はっ? ッ、の~………あんたこそ……チョーシこいてたじゃん。麦畑で一番凶暴ななんたら? とか、ドヤ顔で。中二かっつーの」

「くっ、ぐっ、あ、あれは…………あ~、くははははははは」

「あは、あははははははは」

 
 ヤバイ。痛いところを突かれた。
 あの時は興奮気味だったけど、あの映像が全世界に流されていたと思うと……今にしてみれば……


「「チョ~恥ずかしい~~~~~~~」」」


 なんか、お互いのチョーシこいてたところを見られた恥ずかしさで、俺たちは同時にうずくまって、しばらく誰の声も届かなかった。


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