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第六章

第151話 偽りの都市

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 シロム国に行く過程で別れた、シンセン組の隊士で、ムサシの妹。そして妹分の後輩たち。
 ラブ・アンド・マニーとのひと悶着はつい最近のことなのに、ずいぶん前のことのように思える。

「お姉! お姉え! お姉! 死ぬほど、死ぬほど心配した~! 死ぬほど会いたかった~!」
「ムサシ様。心配だっただよ! 局長は、ムサシ様をクビにしたって話ししかしてなかっただよ!」
「お姉様が人間とともに行動していると聞いて、私たち胸が張り裂けそうだったの!」

 ムサシに力いっぱい抱きつく、三人のチビっ子たち。制服を着ると中学一年生ぐらいにしか見えねえな。

「すまなかった。お前たちに一言も告げることなく立ち去ってしまい。だが、お前たちのことはいつも気にかけていたでござる」

 三人を一人一人頭を撫でて抱きしめるムサシ。
 そういうキリッとした大人の顔つきは、俺たちもあんまり見たことのないものだった。

「へ~、ムサシちゃんの妹。か~わ~い~ね~」
「まあ、ムサシさんに妹さんがいらっしゃったとは」
「ふ~ん、オイラ達と会う前に色々あったっんすね~」
「あぶう」

 俺は所々ハショって、簡単にこいつらとの経緯を教えてやった。
 人攫い、奴隷商人、そしてシロムでの何やかんや。
 よくよく考えれば、こいつら姉妹は別れも言う間もなく別れたんだ。
 気が気じゃなくても不思議じゃねえな。

「ギッ! くそ、人間め! お前が、お前さえいなければお姉は!」
「そうだよ! あの時、あの時、あなたたちがシロムに行かなければ、こんなことにならなかっただよ!」
「お姉さまだって、シンセン組をクビになったりしなかったの!」

 感動の再会から、いきなり目つきを鋭くして俺を睨んでくる三人。
 まあ、原因は確かに俺だけどな。

「こら、三人とも、やめるでござる。殿に失礼でござる」
「ッ、お姉も! なんでこんな奴を殿なっていってるんだよ! こいつが、お姉から誇りを奪ったんじゃないか!」
「ジュウベイ、分かって欲しいでござる。殿は、拙者らの知る人間とは違うでござる。乱暴で、粗暴で、口も性格もイジワルなところもあるでござるが、……イイところも……おろ?」
「いいとこ全然ないじゃん!」
「あ、えと、とにかく! 拙者はもう、と、殿なしでは生きていけなくなったでござる!」

 おい、ムサシ! 少しぐらいはフォロー入れろよな。

「こ、こいつなしで生きていけなく……ッ! 人間! おまえ、お前、まさか! お姉とセックスしたな!」
「してねえよボケ女! つか、少しは謹んで言葉を濁せよボケ!」
「ああ! やっぱ、こいつ最低だよ! 死ね死ね死ね! 千回死ね! いっぱい死ね! お姉は騙されてるんだ! それか脅されているんだ! こいつに死ぬほど酷いことされてるんだ!」
「ああ? なんで俺がムサシに酷いことすんだよ! むしろ、可愛がってる! ムサシ~、ちょっと来い」

 俺はムサシを手招きして、その顎をくすぐるように撫でてやった。

「と、殿! そ、ん、それ、んわ、ふにゃああ~~~~」
 
 顔を赤くして力なくしてへなへなと崩れ落ちるムサシ。
 おお、すげーな。

「なっ? 可愛がってるだろ?」
「お姉ええええええええええ! こ、こんなのお姉じゃないやい! 死ね! よくも、良くもお姉を!」
「あ゛? やんのか? コラ。俺はもう、ツエーぞ?」
「うるさい、死ね死ね死ね!」

 ちょいとカチンと来たな。少し泣かせてやるか? 
 そう思いかけたとき、俺たちの首根っこをファルガが掴んで放り投げた。

「ぐおっ」
「つ~、何する、人間、死ねェ!」

 何をするんだと見上げると、絶対零度の冷たさで見下ろすファルガが腕組んで仁王立ちしていた。


「クソ黙れ」

「「………………は、はい、ごめんなさい」」


 その迫力に、俺とジュウベイは思わず正座して頷いてしまった。

「あっはっはっは、それにしても、驚いたわね。噂のシンセン組の隊士が案内してくれるなんてね。しかも、それがムサシちゃんの妹ちゃんなんてね」
「あ、は、はいだよ。ここは年々亜人大陸でも重要な商業都市になっているだよ。でも、都市内の警備は若者じゃないとヤダって黒姫様の要望で仕方なく」
「えと、そう、そうなの。それで、私たちが警備に」

 とりあえず、いつまでもここで時間を潰していても仕方ない。

「あの、その、とりあえず案内するだよ」
「はい、ここから先は私たちが、黒姫様のところまで案内するの」

 俺とジュウベイは互いにアッカンベーしながらにらみ合っているが、とりあえず俺たちは門をくぐり、ジェーケー都市に入った。
 そして、俺はそこで見た。
 ジュウベイなんかどうでも良くなるぐらい、異常でどこかデジャブを感じさせるような街の光景に。

「こ、これが! これがジェーケー都市!」
「クソごっちゃりしてやがる」

 そこには、あまりにも大勢の人が行き交っていた。
 誰もが制服を当たり前のように来て、その制服は様々。
 中には、俺たちの貸衣装というよりも、自分専用にカスタマイズされているのもある。
 そして何よりも、

「エー、マジマジ?」
「そうそう。この間さ~、ダチの紹介でシンセン組と合コンしたんだけどさ~、どいつもこいつも草食系でさ~、マジヘタレ」
「私はクラブでマジ成功! てか、性交?」
「うぇーい! マジ、ひわい~、キャハハハ!」

 街中で、端の店の壁に寄りかかったり堂々と座ったりして、ミニスカートなのに堂々とヤンキー座りしたり、胡座で座ったりする亜人。

「見て見て~、このネイル、チョ~可愛くね?」
「あ、マジマジ、ヤバス! てか、どこで?」
「今、『イチサンキュウ』の二階でやってんよ? このコンパクトもデコってもらったし」

 なんか、ごっちゃり派手な爪を見せびらかしてる亜人。

「へ~い、へいへいへい! ディフェンスディフェンス。どう? 今、暇? 暇じゃなけりゃ俺のディフェンスを抜いていきな。暇なら俺がホールド!」
「今度さ、そこのクラブでパーティーやるんだけど、来ない? 姉ちゃん達、マジ可愛いから特別価格」

 なんか、チャれえ、亜人。
 ハッキリ言おう。俺はここを異種族の大陸というより、異世界だと感じてしまった。

「こ、これがジェーケー都市でござるか」
「なんか、亜人なのに亜人ぽくないわね。別の生物に見えるわ」
「あ、あれ、可愛いつもりなのか? なんで、あんなにもっさり装備する必要がある? 意味あるのか?」
「これも地上世界の文化なのでしょうか?」
「お、オイラには、可愛いというより、ケバいとしか」

 制服姿のミニスカ女たちが、少し不自然に脱色した髪を、ロールさせたり、もっさり盛ったり、つけまつ毛してたり、つけ爪したり、中には褐色肌のヤマンバスタイルもいる。
 男子は男子で、ボタン全開だっり、シャツを出してたり、ピアスだったり、髪型がモヒカンなんてパンクなやつもいる。
 そして一番面白いのは、そんな奴らが全員、猫耳だったり、犬耳だったり、獣人だったりするところだ。


「これが黒姫様が作った都市なの。これまで亜人にはなかった『ファッション』という名の文化を呼び起こし、それが多くの若い亜人たちの支持を得たの」

「亜人は種族間同士で仲が悪く、大人たちは当然いがみ合っているけど、今の若い世代たちは、こういう文化を通して互いに分かり合っているだよ」


 そう、聞いたことがある。亜人は、亜人大陸内でも戦争が起こると。
 シンセン組とは、ある意味でその大陸内での治安を維持するための部隊でもある。
 だがここに、まったく別の意味で亜人たちの戦争を止め、相互理解に寄与している力があった。

「ねえねえ、今日さ、黒姫様がハチコウ前で、新作発表するってさ」
「マジでマジで! さっすが、黒姫様、マジカリスマ! マジ、神だし!」
「どんな新作?」
「転写の魔法と技術を使った、『プーリクラ』ってやつだってさ」

 盛り上がって仲良さそうに見える亜人たち。しかし、種族はバラバラだ。
 猫人族と鼠人族という、天敵同士。
 犬人族と猿人族という、犬猿の仲で楽しそうに談笑してる。
 まるで、渋谷の女子高生だ。あっ、だから、ジェーケー……JK都市ってか?


「プリクラか。面白そうだ。俺たちも撮ってみるか」


 俺は自然と笑を浮かべていた。

「ヴェルト? ……あっ! その顔! その顔はあれだ! 父上やムサシの祖父やマッキーラビットやアルーシャ姫を見つけたときの顔だ! 私の大嫌いな顔だ!」
「殿、何か、心当たりがあるでござるか!」

 さすがにここまで来たら仲間にもモロバレだ。
 俺は素直に頷いた。


「ああ。何者かは知らねえけど、会えば意外に知ってる奴かもな。黒姫様……。敵か味方になるかは、まったく分からねえけどな」


 俺は、黒姫様の元へと走り出す連中の後を、ニヤつく顔を抑えきれずに続いた。
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