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第六章

第148話 空白の数日間

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「我らは、この辺りの海域を警備する、警備隊! 貴様ら、人間や魔族が一体どういう組み合わせだ! 何の目的でここに来た!」

 恐らく、この警備隊のリーダーらしき、サメの背びれと口裂け女のように口角の鋭い半魚人が俺たちに問いかけてきた。
 さて、どう答えるか? その問いに対して、亜人に対してもっとも有効なムサシが叫んだ。

「驚かせて済まなぬ! だが、拙者らがここに来たのは本当に偶然でござる! 決して、そなたらに迷惑をかけるようなことはしないと約束するでござる! 拙者、ミヤモトケンドーの剣士、ムサシ・ガッバーナと申す!」

 すると、その名に半魚人たちがざわつきだした。

「お、おい! あの女……ミヤモトケンドーの剣士か!」
「それに、ガッバーナって、あの剣獣・バルナンド・ガッバーナ氏の一族か!」
「あの英雄・バルナンド様の!?」

 おお、驚いたな。ムサシがものすごく輝いて見える。
 どうやら、宮本の作り出したものは、この亜人大陸では相当なVIPのようだ。

「これは、失礼した! まさか、ミヤモトケンドーの方とは露知らず」
「いや、そなたらは間違ったことはしておらぬ。気にしていないでござるよ」

 おまけに、全員がビシッと気をつけをして敬礼し始めた。
 おいおい、ムサシ……いつもオロオロしたり、俺が頭を撫でてやるとフニャフニャになってるお前だが、やっぱ本当はすごかったんだな。
 だが、反応はそれだけではない。

「ぬっ! おい、よく見ろ! そこの目つきの悪い男!」

 それって俺のことか?

「数日前、空に写った映像で、人類大連合軍とサイクロプスの戦で参戦し、ラブ・アンド・マニーのボスを倒した男だ!」
「なに、それじゃあ、あの男が例の! 麦畑で一番なんとかとか言ってた!」
「あの光の十勇者、金色の彗星の恋人かと噂されている男だ!」

 やべえ、俺って意外に知れ渡っちまっている。
 悪い気はしないが、あんまり恥ずかしい方面では知られて欲しくねえが、これも加賀美の所為だ。

「まあ、ヴェルト様はとっても有名なのですね。その恋人の方ともいずれご挨拶させていただきたいですね」
「きゃうー! まう、あぶ!」
「いや、私が言うのもなんだが……多分、何の説明もなくお前たちとフォルナが会ったら、気絶するかもしれんぞ?」
「どうしてです? ウラさん」
「いや……だって……」

 後ろの方で、少しのんきなエルジェラとウラとの会話を耳で聞きながら、半魚人たちは少しだけ目力を強めた。

「ガッバーナの名を持つ剣士を疑うわけではない。しかし、最近では裏切り者の亜人が人類大連合軍やラブ・アンド・マニーに加担をして、亜人に多大な損害をもたらすことも多い。失礼だが、そなたたちが何の目的もなく偶然ここにたどり着いたという証拠はないか?」

 証拠? 何かあったっけ? と思ったら、珍しく頼もしいムサシが、また叫んだ。


「目に見える証拠はござらん! しかし、拙者がこの方たちと同行するのは、拙者の意思! そして、シンセン組新局長にして、四獅天亜人のイーサム様の命であると理解していただきたい!」

「「「「「イ、イーサム様ッ!!!!」」」」」

「証拠はござらんが、シンセン組本部に確認を取ってもらってかまわぬ。確認できるまで拘束するというのであれば従おう!」


 目に見えて半魚人たちに動揺が走り出した。
 どうやら、あの絶倫ハイパージジイは、四獅天亜人なだけあって、その影響力は凄まじそうだ。
 最初は俺たちに警戒心を強めていた連中も、次第に「やっべー」とかいう顔つきになり、徐々に申し訳なさそうな顔になってきた。
 宮本とイーサムの名前は、もはや水戸黄門の印籠みたいなもんのようだな。

「そ、それは、それは失礼しました。まさか、亜人族の天下の大勇者、イーサム様公認とは知らず」
「いや、そなたたちは職務を全うしているだけでござる。気にしてはござらん。拙者らの事情も特殊ゆえに混乱させてすまぬ」

 どうやら、話はまとまりそうだ。
 静かな海辺も傾らかな砂浜も、一切荒れることなく解決したみたいだ。

「ムサシ、よくやった。お利口さん」
「はうわああ! と、殿~~~~!」

 コスモスも居るし、あんま面倒で手荒いことにならなくて幸いだった。
 労うように頭を撫でてやったら、キリッとした顔つきがふにゃふにゃになりだして、それはそれで可愛くて面白かった。

「でも、驚いたな~、亜人族ならではだね。海の中や砂の中から近辺を監視したり警護したり」
「確かにな。ここら辺は、何か守るものでもあるのか?」

 俺たちのやり取りの脇で、クレランとファルガが剣を収めた半魚人たちに何気なく訪ねた。
 すると、既に警戒心を解いた半魚人たちは素直に回答した。

「はい。ここらの海域は、人類大陸や魔族大陸では見られない、美しい珊瑚礁や真珠、最近では海底資源というものが豊富なようで、たまに他の大陸からの密航船が相次いでいるために」
「なるほどな、金に目がくらんだハンターや、ラブ・アンド・マニーか。ボスが捕まっても忙しい連中だぜ」

 全くだ。加賀美が捕まって、機能しなくなったんじゃねえのか?
 だが、半魚人たちはその言葉に意外そうな顔をした。

「おや、まだ拝見していないのですか? 今朝の新聞を」
「新聞?」
 
 なんのことだ?
 

「先日のアークライン帝国での戦争に終止符が討たれたのです。まず、サイクロプスのマーカイ魔王国とアークライン帝国が休戦協定。マーカイ魔王国がこれまで捕虜にしていた人類大連合軍の軍幹部や大物含めた捕虜返還に伴い、ラガイア王子とその他の捕虜の交換」

「なに?」

「それと、そっちがメインであまり大きく取り上げられていませんが……ラブ・アンド・マニーのボス、マッキーラビットは死刑判決にはならず、光の十勇者アルーシャ姫の権限により帝国軍大監獄に移送。しかし、移送の際に当該社の副社長でもあった、マニーラビットが脱走。マニーラビットは以降行方不明とのことです」


 それは、俺たちがほんの数日天国へ行っている間に起こった、世界的なニュースであった。
 サイクロプスのこと……それは政治的な問題もあるだろうし、俺が口を出すことでもねえ。
 加賀美のことも、綾瀬が考えたことだ。俺がどうこう言う権利はねえ。

 問題なのは、マニーラビットの存在。あの戦争でも結局最後までベールを脱ぐことはなかった。
 捕らえられてからも、加賀美のことばかりを気にして、素顔も知らないままだ。
 だから気にしてはいなかった。


 マニーちゃんなんて言われていた存在が、また面倒事を起こすとは俺たちは知らずに。
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