149 / 290
第五章
第145話 旅立ちの準備
しおりを挟むフォルナの昔から変わらない気持ちを確認した次の日に、別の女との間に子供が出来た。
数日の休養と準備を経て、俺たちは天空族の母と子を連れて旅立つことになっちまった。
「ぱー、ぶんぱ! ぶんぱ!」
「はいはい、抱っこしてやってるだろ」
「あう~、きゃおう!」
「あ~、ぺしぺし叩いてんじゃねえよ」
旅立ちの当日。俺らは天空王国ホライエンドの通用口に全員集合。
多くの天空族たちが見送りに来てズラーっと取り囲むように並んでいる中、俺は子供をあやしていた。
「うひゃ~、ちっちゃいっす~、オイラ、めろめろっす~!」
「へ~、すごいね、弟くん。赤ちゃんの扱いに慣れてるなんて、意外~」
「殿、殿! 是非……是非、拙者にコスモス殿を抱っこさせて頂きたくお願い申し上げます!」
目を輝かせているムサシに、コスモスを手渡そうとした。
だが、なんか知らんがいきなりコスモスがぐずりだした。
「うぎゅ~」
「あうわ~、か、かわいいでごじゃる~、ちっちゃいでごじゃる~」
「えう、う、えう」
「って、あ~! 何で泣き出しているでござる! 拙者、決して怪しい者ではないでござる!」
「ほぎゃー! ほぎゃー! ほぎゃー!」
あ~あ、泣いちゃったよ。
「と、との~との~、との~、あうわ、わわわ、はう、どど、どうすれば~! 拙者はどうすれば~!」
「あ~、はいはい、ほら、貸せよ。ほら、ほらほらほーら、泣くな~」
「ほぎゃ、ほ、えう、え、えう。あうー! あう! きゃう!」
パニくって自分がむしろ泣きそうなムサシから再びコスモスを受け取って、ゆっくり持ち上げたり、クルクル回ったりして、泣くタイミングをずらそうとした。
すると、コスモスは泣くのを忘れて、キャッキャと笑い出した。
「お、おおおおお! お見事でござる! まさか、殿がこのような技術を習得されているとは!」
「ふ~ん。まっ、弟くんは扱いがうまいだけじゃなくて、コスモスちゃんも自分に流れる力が弟くんのものだって、分かってるから安心しているのかもね」
「あ~、いいっすね~、オイラ、この子のためなら一生ゆりかごでもいいっす!」
ああ、コスモスは今度は泣いたりはしゃぎすぎて疲れたのか、またウトウトし始めた。何とも疲れるというか、ハナビ以来の懐かしい感覚というか。
しかし、本当にこれからどうすりゃいいんだ?
「おい、愚弟。実際のところ、テメエはどうする気だ?」
「なに? 嫁さんの話?」
「んなもん、愚妹が正妻ならどうでもいい。そのクソガキをマジで同行させる気か?」
だよね。危ないよね。いや、マジで。
こんな、まだまだザ・赤ちゃんみたいな状態で、俺たちの旅に、ましてや神族大陸に行くようなことに巻き込めるはずがないし、俺たちだって守りきれるはずがねえ。
「「「ええええええ!」」」
なのに、ムサシ、クレラン、ドラがガチで反対してくる。
「しかし、殿! 危ないとか危なくないとか、可愛くて可愛くてとか!」
「テメエは何が言いたいんだ?」
「ぶーぶー、いいじゃん! コスモスちゃん連れて行こうよ! 大体、見てよ! 人類最強ハンターに、魔王国の姫に、天才亜人剣士に、モンスターマスターに、伝説のドラゴンに、七大魔王を倒した弟くん! そして天空族皇女。こんな豪華なボディーガードが一緒なら、むしろ世界一安全でしょ!」
「そのワリには、これまでかなりしんどい旅だったぞ?」
「オイラ、オイラ、もっとコスモスちゃんと遊びたいっすー! ウラ姉さん落ち込み気味だし、ムサシ姉さんオバカだし、クレラン姉さん怖いし、ファルガ兄さんムスッとしてるし、癒しが欲しいっす!」
「なんなんだ、そのお前らのよく分からねえ理由は」
大体、なんで天空族もこいつらも、エルジェラとコスモスのセットをアッサリ了承してやがる。
コスモスが俺の子供かどうかは別にして、旅に連れて行くかどうかは別問題だろうが。
つか、俺の方がおかしいのか? 何で、元不良の俺が一番、子供の安否を気遣ってるんだ?
「往生際が悪いですよ、パパさん!」
「家族は一緒が一番なんです、お父さん!」
「我々天空族は父親というものを知りません。ですので、あなたに見せて頂きたい、親父殿!」
「ダディ、ガンバ!」
案の定、天空族たちからもブーイングだ。
こいつらは…………
「ヴェルト様。いや、もはや義弟と呼ばせてもらおう!」
「オレらの妹と姪を頼んだぜ」
ロアーラとレンザまで、親指突き立てて軽いノリだ。
なんだ、その親指は!
本当に勘弁してくれ。どうなっても知らねえぞ?
「まあ、仕方ねえ。テメエらのクソ妹とクソ娘は、こっちでどうにかする」
おい、ファルガ、あんま安請け合いしないでくれよ。
なのに、ファルガは「そんなことより」と別の話題を出した。
「おい、それで、チロタンの配下共はどうする気だ? 何千か居たはずだろ?」
それもそうだ。チロタン自身が死んだというか行方不明になった以上、その配下共はどうするのか分からないままだ。
チロタンの命令とはいえ、天空王国を襲撃した。
それに、世界が認知していない天空王国の情報まで知っている。
もし、何もせずに解放すれば、終わりのない復讐やら、他の欲にまみれた奴らが現れるかも知れない。
だが、ファルガの問いかけに、ロアーラは特に揺れることはなく返した。
「とりあえず、全員を他の主要都市に移動させる。そこで、全皇女と会議して、今後の流れは決める予定だ」
「主用都市か」
「ああ。さすがに我らだけでは決められないからな。まあ、それはあくまでこちらの問題。そなたたちは、こちらのことは気にせず、ただ、エルジェラとコスモスだけを頼む」
「そうか……分かった。とりあえず、俺たちもチロタンを討ったことは、世界が気づくまでは黙っておくことにする」
「色々と面倒をかけるな」
何だか、二人で色々と決めているようだが、ロアーラはどこかファルガに通じるところがあるかもしれない。
普段はクールなツラしてるくせに、家族や国に対する思い入れが強い。まあ、二人とも王族ってところがあるのかもしれないが。ようするに、頼もしいってことなんだが。
「みなさん、お待たせしました」
その時、ようやく旅の準備を終えたエルジェラが現れた。
すると、ウトウトしていたコスモスも、大好きな母親の存在に気づいて目を覚まし、そしてすぐに何かを訴えるように泣いた。
「おぎゃーおぎゃーおぎゃー!」
「あらあら、コスモス、お腹が空いたのね。まっててね…………はい!」
ぐずるコスモスに、エルジェラはいきなり胸元を開いてオッパイをあげ始めた。
「あむ! あむあむあむ」
「ふふ。おいしい?」
「あぶうう。あぶううう」
へぇ、エルジェラもすっかり母親だな……
「って! お前、いきなり目の前でボロンと生乳だしてんじゃねえよ! 俺とかファルガとか男がいるんだぞ! つか、それを絶対に地上世界でやるなよな!」
「えっ、ど、どうされたのです? ヴェルト様」
「あ~、ダメだこの女。男が居ない環境で育ったからか、貞操観念が薄すぎる」
あ~、ビックリした。
そりゃー、俺も既に間近で見たり揉んだり吸っ……とにかく色々と経験させてもらったとはいえ、何の前触れもなくこの形の整った巨乳を出されると、卒倒しちまう。
本当にコレを連れて行っていいのか?
なんか、色々とヤバイような……ってか、俺も……我慢できるだろうか……?
0
お気に入りに追加
684
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる