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第五章

第135話 天使の乱痴気騒ぎ

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 俺が生まれた頃から世界三大称号は存在していた。
 その一人一人まで知っているわけではないが、その絶大な栄誉を持った英雄を筆頭に、世界の戦争の歴史は作られてきた。
 帝都を襲撃したサイクロプスのラガイアは、三大称号など過去の遺物と言ったが、その栄誉はフォルナの手によって守られた。
 だが、これはどうだろうか? 
 あの、鮫島と同等クラスの力を持っていたのではと思われる七大魔王が、三人の天使にアッサリと捕らえられて牢に閉じ込められた。
 その、地上世界の歴史や誇りをアッサリと打ち砕かれたような現実に、俺たちはしばし呆然としていた。

「光の十勇者のフォルナや、四獅天亜人のイーサムと並ぶ称号の持ち主が、あのザマだからな」
「正に恐るべしだな。世界が知らない怪物が、私たちがいつも見上げている空の上に居たとはな」
「クソ不条理もいいところだ」
「拙者もまだまだ修行が足りませぬ。上には上がいる」
「さすがに~、あれを食べたら食あたりしそうだね~」
「あの姉さん達、怒らせないようにしないとまずいっすね」

 雲の上はパレード状態だった。
 戦勝や贔屓の騎士の活躍を目の当たりにした天空族たちは、凱旋する戦乙女たちに声援を送っていた。

「キャアアアアア! レンザ様ステキ!」
「ロアーラ様、なんて圧倒的なのかしら!」
「抱いてください、エルジェラ様!」

 戦う女たちに愛ある声援を送る女たち。
 一見、百合百合しい光景ではあるが、まあ、それも文化だからあんまりつっこまんどこう。
 それに、もはや百合だなんだは、さっきまでの戦争の光景が衝撃的すぎてどうでもよくなった。


「敵軍の総大将は捕らえた。これで再び我らの領空も穏やかな日々に戻るであろう。みな、大義であった! 今日は国を上げて酒を飲んで語らおう!」

「「「「はいっ!」」」」


 ロアーラの激励の言葉で、一斉に鎧を脱ぎ捨てて兜を空に放り投げる戦乙女たち。
 彼女たちはその喜びを体で表すように、ウェットスーツ一枚、中には全裸になって走り出し、大きな湖に飛び込む者たちもいた。

「やっほーう!」
「きゃあ、も~、やったな~、それー!」
「ああん、もう! えい! えい! えい!」
「えへへ、やったね、私たち」
「当たりまえさ。私たちが力を合わせたんだ。さあ、その顔をもっと私に見せて、その唇を堪能させて」
「あん、ダメ、みんなが見てるよ~」
「ああ~ん、私も恋人欲しい~、彼女欲しい~」

 目の保養……

―――グサッ

「ぐおおお、目が! 目が! ウラ、おま、目潰しはシャレにならん」
「だ、黙れ。お前がまた、私やフォルナ以外に興奮するのは許さん。エッチなことは私がしてやる!」
「わ~、やっぱ女の子しか居ないから開放的なのね~」
「う~む、大胆でござるな」
「うっひょ~、鼻血ブーっす! マジ最高の絵っす! 頭に焼き付けたっす!」
「クソくだらん。あんなのに、七大魔王が負けやがって。地上代表の恥さらしが」

 だが、それでも間違いなく天空王国は強かった。特に、軍を率いた三人の天使は圧倒的だった。
 だからこそ信じられない。あの三人が、間近で接するとこうだとは……

「ヴェルト様! 今、戻りました!」
「お、おお。エルジェ……って、なんで全裸なんだよ!」
「あっ、申し訳ありません。今日は無礼講ですし、戦で甲冑や服が汚れましたので」
「服が汚れたから全裸になればいいじゃないなんて、どこの世界の裸族の発想だ!」

 俺の背中に抱きつくように、エルジェラが飛びついてきた。
 しかも全裸だ。
 ヤバイ……何だか、また……

「ッ、ダメだ、ヴェルトからいい加減に離れろ! 最初は命の恩人として見過ごしていたが、これ以上は……ひゃああ!」

 顔を真っ赤にして、俺からエルジェラを引き剥がそうとしたウラだが、その首根っこを誰かに掴まれた。
 それはレンザだ。

「へ~」
「ッ、何をする!」
「いや、お前、スゲーいい女じゃねえか。地上人にもこんな良い女がいたんだな。好みのタイプだぜ」
「……はっ?」
「今夜、オレの寝所に来な。抱いてやるぜ」
「は? ……ふ、ふざけるなー! 私は同性愛の趣味はない! 私には恋人が居るんだ! って、ヴェルト! お前の女が女に寝取られそうなんだから、助けろ!」

 既に酒飲んで酔っ払ってるのが、レンザがウラにしなだれかかって口説き始めた。
 いつもならぶん殴ってるウラも、生理的にゾッとしているのか、すっかり怯えきっていた。

「きゃーなに、この子、可愛い!」
「わー、お姉さんと一緒にお話しよう」
「あら、可愛いお胸」

 そして、お姉さま方にロックオンされているのは、……

「は、離すでござる~!」

 目をグルグル回してパニクってるムサシだった。
 羽織袴をドンドン脱がされて、されたい放題だった。

「ファルガさん。それでは、先ほどの話に戻ります。是非にチンチンを私に見せていただきたい!」
「あのねー! 冗談としては最高だけど、真顔で言うんだったら許さないからね! 私だって見たことないんだから!」

 おお、意外な修羅場。
 なんか、真剣にスゲーことを頼み込んでいるロアーラに、少しマジになったクレラン。
 
「クソ共が」
「「逃げるな!」」
「ぐおっ!」

 ファルガはド無視してその場を後にしようとしたが、その瞬間、二人の女に首根っこ掴まれてしまう。
 おお、ファルガがうろたえてる姿を初めて見た。

「ドラちゃんすごーい!」
「いけー、とべー、きゃはははは!」
「わたしもわたしものりたいー!」
「わう、そんなに暴れないでくださいっす、順番っすよ~!」

 湖の中では、巨大化したドラが、なんかアスレチック的な役割で、子供たちに大人気。
 小さな天使たちを背中に乗せてハシャイでる。
 俺たちの意思なんか関係なく、既に俺たちは飲み込まれているのかもしれない。

「ツエーな。お前らが俺たちに警戒しなかったのは、俺たちが問題起こしてもすぐに取り押さえられると思ったからか?」
「違います、ヴェルト様。あなた方と、先ほどの地上人の方々では瞳の色が違いました。理屈ではなく、私は直感であなた方は信じられると思いました」

 器のデカさ。
 こいつらにとっては、地上で人類、魔族、亜人で繰り広げる神族大陸での戦いすら、取るに足らないものなのか?
 そう考えると、少しだけ悔しい気持ちもした。
 その戦で、生きるか死ぬかを日々過ごしているフォルナたちを考えると。
 まあ、俺にはそんな資格はないんだけどな。

「ふう、ちょっとどっかの木陰で休んでくる」
「あら、どちらへ? まだまだ料理やお酒、それに聖歌隊や楽団の催しがあるのですよ? 戦勝とあなたたちの歓迎を込めて」
「ああ、そいつはありがたいんだけど、こうも無防備な姉さん達が裸でスキンシップしてくると、ヤバイんでな。地上の嫁さんにぶっ殺される」

 俺の理性もやばそうだし、ちょっと離れておこう。

「ヨメ? ああ、つがいのことですね。聞いたことがあります。地上世界では性別の違う者同士が心を通わせて生涯を共にすると。ヴェルト様にもそのパートナーの方が?」
「まあな。だから、こんな場面を見られたら、浮気だと言われてぶっ殺される」
「うふふふふ、とても幸せそうな話ですね。もしよろしければ、お話を聞かせて頂けませんか? 私のお気に入りで、静かになれる見晴らしの良い領空があるんです。是非、一緒に」
「………おい、移動したら凍え死ぬとかないよな?」
「大丈夫です。少し離れた場所ではありますが、問題ありません」
「は~……まあ、いいぜ。ただし、何か着て来いよ。お前には、礼も言っときたかったしな」
「あら、とても誠実な方なんですね、ヴェルト様は。では、参りましょう」

 こうして「まあいいか」という軽い気持ちでエルジェラの誘いに乗った俺は……




 後の人生を色々と大きく変えてしまう出来事に遭遇してしまう。
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