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第五章
第129話 環境変化
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異形ではあってもやはりオスだ。スケベ親父の顔でウキウキした表情のまま戦乙女たちに連行されていくレッサーデーモン。
本能に忠実で、何ともバカ正直な連中だな。
「このような事態はあまり喜べませんが、血が一滴も流れずに良かったです」
安堵の笑みを浮かべるエルジェラだが、いちいちキラキラし過ぎている。
ま、眩しい。
翼が生えている以外は人間と大して変わらないように見えるが、やっぱり何かが違うんだろうか。
「でも、驚いたな~。エッチな魔族たちのことよりも、天空族って女の子しかいないってことがね」
そういえば、そんなこと言ってたな。クレランのストレートな問いかけに、エルジェラは素直に答えた。
「オンナ? ああ、地上世界での性別分けのことですね。確かに、我々はその基準で言いましたら、女のみの種族です」
「でもさー、そんなのでどうやって繁栄してるの? 女の子しか居ないんだったら、子供なんて産まれないでしょ?」
そりゃそーだ。コウノトリが運んでくる訳じゃ……
「いいえ。天空族はたった一人で子供を産むことができます」
「えっ?」
「確かに、異種族との交配を無理矢理行うことでも、肉体の構造上可能ですが、純正な天空族は一人で子供を産めます」
おいおいおいおい、まさか、卵で産むんじゃねえだろうな?
昔、何かの漫画で、口から卵を吐き出してモンスター作る話があったな。
「ここでは何です。皆様も、我らの国へお連れ致します。我々は地上世界の情報などには非常に疎いので、是非ともお話をお聞かせ下さい」
「おいおいおいおい、いいのか? いいのか? そんな簡単に国へ招いて。さっきの魔族同様に、俺らが得たいの知れない奴らだってのは変わりねえだろうが」
あまりにも無警戒すぎるお姫様に、もう、こっちから言ってやったよ。
すると、どうだ? エルジェラは、「何故です?」みたいに不思議そうな顔で首を傾げたよ。
「あなたはとても正直で優しい方です」
「や、別に優しくねえし。だって、クズとか色々言われるし」
「そうですか? でも、私はあなたたちの言葉を聞きました。あなた方は目的があってきたわけではないと仰いました。だから、私はあなた方の言葉を信じます」
わお。
ヴェルト・ジーハから前世まで遡っても、そんなこと言われたのは初めてだよ。
ダメだ、このお姫様。これはこれで、人を疑うことを知らな過ぎる。
もう、返って俺の方が申し訳なくなってきた。
「では、少し失礼します」
そのとき、俺たちの体に異変が起こった。
「なっ?」
「むっ」
「なんと!」
「ッ!」
「あら」
「うおっす!」
俺たちの体が浮かび上がった。
「これは、レビテーション?」
「いや、ちげえ。俺のレビテーションとは感覚が違う」
「なんと? しかし、殿! それならばこれは何の魔法でござる?」
そう、俺たちは浮いた。でも、これはレビテーションじゃねえ。
なぜなら、生物を浮かすことが出来ないレビテーションは、俺は相手の衣類を浮かせることで、生物を浮かす。
だが、これは違う。
感覚的に、自分が無重力になったかのような感覚だ。
「マホウ? ああ、聞いたことがあります。地上世界で使われる能力の事ですね」
俺たちの反応に、エルジェラはクスクスと笑った。
「あなた方のマホウというものは私たちは良く知りませんが、これが天空族に伝わる能力の一つ。『超天能力《ちょうてんのうりょく》』と呼ばれるものです」
は、はあ?
「ちょ、ちょ、超天? 超能力者か?」
天? ひょっとして、超能力か?
超能力ってあれだよな? スプーンを曲げたり、透視したり、テレポートしたり、物体浮遊させたり……
「聞いたことねえな」
「拙者も同じく」
「弟くんは何か知ってるの?」
「ヴェルトは相変わらずよく分からないことだけは知っているな」
いや、この場合は知っているとは言えないかもしれねえな。
だって、手品は見たことあるが、本物は見たことねえからだ。
まあ、それを言うなら魔法も同じ。
ここまで来れば、もはや何でもアリだな。
「じゃあ、さっきから頭の中に流れる声は、テレパシーかなんかか?」
「あら、博識ですね。その通りです。あれは、我々の世界の能力者が、常に天空世界に網を張って、侵入者を感知します」
なるほどな。
いや、なるほどって、別に理論的に納得した訳じゃねえけど、まあ、何でもありな世界だと考えれば、これもアリかもしれねえなってだけだ。
「私の能力もその一つ。物理法則を無視して物体浮遊や移動、さらには念力による衝撃波など、様々です」
はは、正に俺泣かせな能力だな。五年かけて磨いた俺のふわふわ魔法の上位互換じゃねえかよ。
なんだか、空しいというか、少しだけ悲しくなった。
「では、移動しますね。我々の国は、この雲海の更に上空を越えた先にあります。それでは、参りましょう」
俺の悲しみなんて気づかずに、天使様がツアーコンダクターになって天国へ招待してくれるようだ。
まあ、この悲しみは、極楽浄土で慰めて貰おう。
翼を羽ばたかせて更に上空へと飛んだエルジェラの背を追うように、俺たちも後に続いた。
だが、俺たちはその時、ようやく気づいた。
今、俺たちに置かれている状況だ。
「むっ」
「あら?」
「ぬおおおお、こ、これはまずいでござる!」
「いかん!」
「さ、さみーっす!」
そう、さみーんだよ。
いや、寒いっていうか、この雲海から上昇するたびに……
「あっ、気をつけてください。我らの天空領空は環境操作されていますが、それ以外の場所は能力が及んでいません。ですので、我々も能力の及ばぬ空を飛ぶ場合は、この体温変化が施された衣類を着ています。そして、我らの天空世界は、この下層の雲海から更に上空に存在します。移動までの間、少し寒いですが気をつけてください」
気をつけてくださいってレベルじゃねえよ! つか、お前らはそんな何とかスーツみたいなの着て、こっちは生身だぞ!
「それにしても、先ほど捕虜となった方々もそうでしたが、地上人はすごいですね。温かい体毛や独特の力で環境変化に適応されるのですから」
あっ………その時、ウラが気づいた。
「そうだ。レッサーデーモンは、その体毛などで氷点下の世界でも暮らせる……」
そうか、こいつら天空族にとって、人間とか魔族とか亜人とか、関係ないんだ。全部、『地上人』ってので括られてるんだ。
そして、姿かたちは違えど、レッサーデーモンたち地上人が環境の変化に耐えられたということで、このお姫様の脳内では『地上人=寒いの平気』の図式が成り立ってやがる。
「クソが! 炎の属性は苦手だが……エレメントランス・フレイムトライデント!」
「魔道兵装・暗黒戦乙女《ブラックヴァルキリー》」
「ミヤモトケンドー・心頭滅却寒中やせ我慢!」
「環境変化に強いっていったら、これよね! トランスフォーメーション『ブリザードフロッグ』!」
「うっほー、凍りついても耐えるっすー!」
そして、ぶっちゃけここに居る連中は、その図式に当てはまるほどの能力を持っていた。
魔力を武器を媒体に燃やして耐える、ファルガ。
強靭な肉体を持つ、ウラとムサシ。
環境変化に強いモンスターの体質に変化する、クレラン。
鋼の肉体を持つ、ドラ。
「ちょ、おま、まてええええええ!」
……そう……俺以外が……
「しまっ、愚弟!」
「ぎゃあああ、ヴェルトォ!」
「と、殿ォォォォ!」
「弟くん!」
「にいさああああああああああん!」
みんな気づいたときにはすでに遅い。
幾重の雲を突き抜けた先、高度何万メートルだ?
そこは、氷点下何度の世界だ。
俺に耐えられるわけがねえだろうが。
本能に忠実で、何ともバカ正直な連中だな。
「このような事態はあまり喜べませんが、血が一滴も流れずに良かったです」
安堵の笑みを浮かべるエルジェラだが、いちいちキラキラし過ぎている。
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翼が生えている以外は人間と大して変わらないように見えるが、やっぱり何かが違うんだろうか。
「でも、驚いたな~。エッチな魔族たちのことよりも、天空族って女の子しかいないってことがね」
そういえば、そんなこと言ってたな。クレランのストレートな問いかけに、エルジェラは素直に答えた。
「オンナ? ああ、地上世界での性別分けのことですね。確かに、我々はその基準で言いましたら、女のみの種族です」
「でもさー、そんなのでどうやって繁栄してるの? 女の子しか居ないんだったら、子供なんて産まれないでしょ?」
そりゃそーだ。コウノトリが運んでくる訳じゃ……
「いいえ。天空族はたった一人で子供を産むことができます」
「えっ?」
「確かに、異種族との交配を無理矢理行うことでも、肉体の構造上可能ですが、純正な天空族は一人で子供を産めます」
おいおいおいおい、まさか、卵で産むんじゃねえだろうな?
昔、何かの漫画で、口から卵を吐き出してモンスター作る話があったな。
「ここでは何です。皆様も、我らの国へお連れ致します。我々は地上世界の情報などには非常に疎いので、是非ともお話をお聞かせ下さい」
「おいおいおいおい、いいのか? いいのか? そんな簡単に国へ招いて。さっきの魔族同様に、俺らが得たいの知れない奴らだってのは変わりねえだろうが」
あまりにも無警戒すぎるお姫様に、もう、こっちから言ってやったよ。
すると、どうだ? エルジェラは、「何故です?」みたいに不思議そうな顔で首を傾げたよ。
「あなたはとても正直で優しい方です」
「や、別に優しくねえし。だって、クズとか色々言われるし」
「そうですか? でも、私はあなたたちの言葉を聞きました。あなた方は目的があってきたわけではないと仰いました。だから、私はあなた方の言葉を信じます」
わお。
ヴェルト・ジーハから前世まで遡っても、そんなこと言われたのは初めてだよ。
ダメだ、このお姫様。これはこれで、人を疑うことを知らな過ぎる。
もう、返って俺の方が申し訳なくなってきた。
「では、少し失礼します」
そのとき、俺たちの体に異変が起こった。
「なっ?」
「むっ」
「なんと!」
「ッ!」
「あら」
「うおっす!」
俺たちの体が浮かび上がった。
「これは、レビテーション?」
「いや、ちげえ。俺のレビテーションとは感覚が違う」
「なんと? しかし、殿! それならばこれは何の魔法でござる?」
そう、俺たちは浮いた。でも、これはレビテーションじゃねえ。
なぜなら、生物を浮かすことが出来ないレビテーションは、俺は相手の衣類を浮かせることで、生物を浮かす。
だが、これは違う。
感覚的に、自分が無重力になったかのような感覚だ。
「マホウ? ああ、聞いたことがあります。地上世界で使われる能力の事ですね」
俺たちの反応に、エルジェラはクスクスと笑った。
「あなた方のマホウというものは私たちは良く知りませんが、これが天空族に伝わる能力の一つ。『超天能力《ちょうてんのうりょく》』と呼ばれるものです」
は、はあ?
「ちょ、ちょ、超天? 超能力者か?」
天? ひょっとして、超能力か?
超能力ってあれだよな? スプーンを曲げたり、透視したり、テレポートしたり、物体浮遊させたり……
「聞いたことねえな」
「拙者も同じく」
「弟くんは何か知ってるの?」
「ヴェルトは相変わらずよく分からないことだけは知っているな」
いや、この場合は知っているとは言えないかもしれねえな。
だって、手品は見たことあるが、本物は見たことねえからだ。
まあ、それを言うなら魔法も同じ。
ここまで来れば、もはや何でもアリだな。
「じゃあ、さっきから頭の中に流れる声は、テレパシーかなんかか?」
「あら、博識ですね。その通りです。あれは、我々の世界の能力者が、常に天空世界に網を張って、侵入者を感知します」
なるほどな。
いや、なるほどって、別に理論的に納得した訳じゃねえけど、まあ、何でもありな世界だと考えれば、これもアリかもしれねえなってだけだ。
「私の能力もその一つ。物理法則を無視して物体浮遊や移動、さらには念力による衝撃波など、様々です」
はは、正に俺泣かせな能力だな。五年かけて磨いた俺のふわふわ魔法の上位互換じゃねえかよ。
なんだか、空しいというか、少しだけ悲しくなった。
「では、移動しますね。我々の国は、この雲海の更に上空を越えた先にあります。それでは、参りましょう」
俺の悲しみなんて気づかずに、天使様がツアーコンダクターになって天国へ招待してくれるようだ。
まあ、この悲しみは、極楽浄土で慰めて貰おう。
翼を羽ばたかせて更に上空へと飛んだエルジェラの背を追うように、俺たちも後に続いた。
だが、俺たちはその時、ようやく気づいた。
今、俺たちに置かれている状況だ。
「むっ」
「あら?」
「ぬおおおお、こ、これはまずいでござる!」
「いかん!」
「さ、さみーっす!」
そう、さみーんだよ。
いや、寒いっていうか、この雲海から上昇するたびに……
「あっ、気をつけてください。我らの天空領空は環境操作されていますが、それ以外の場所は能力が及んでいません。ですので、我々も能力の及ばぬ空を飛ぶ場合は、この体温変化が施された衣類を着ています。そして、我らの天空世界は、この下層の雲海から更に上空に存在します。移動までの間、少し寒いですが気をつけてください」
気をつけてくださいってレベルじゃねえよ! つか、お前らはそんな何とかスーツみたいなの着て、こっちは生身だぞ!
「それにしても、先ほど捕虜となった方々もそうでしたが、地上人はすごいですね。温かい体毛や独特の力で環境変化に適応されるのですから」
あっ………その時、ウラが気づいた。
「そうだ。レッサーデーモンは、その体毛などで氷点下の世界でも暮らせる……」
そうか、こいつら天空族にとって、人間とか魔族とか亜人とか、関係ないんだ。全部、『地上人』ってので括られてるんだ。
そして、姿かたちは違えど、レッサーデーモンたち地上人が環境の変化に耐えられたということで、このお姫様の脳内では『地上人=寒いの平気』の図式が成り立ってやがる。
「クソが! 炎の属性は苦手だが……エレメントランス・フレイムトライデント!」
「魔道兵装・暗黒戦乙女《ブラックヴァルキリー》」
「ミヤモトケンドー・心頭滅却寒中やせ我慢!」
「環境変化に強いっていったら、これよね! トランスフォーメーション『ブリザードフロッグ』!」
「うっほー、凍りついても耐えるっすー!」
そして、ぶっちゃけここに居る連中は、その図式に当てはまるほどの能力を持っていた。
魔力を武器を媒体に燃やして耐える、ファルガ。
強靭な肉体を持つ、ウラとムサシ。
環境変化に強いモンスターの体質に変化する、クレラン。
鋼の肉体を持つ、ドラ。
「ちょ、おま、まてええええええ!」
……そう……俺以外が……
「しまっ、愚弟!」
「ぎゃあああ、ヴェルトォ!」
「と、殿ォォォォ!」
「弟くん!」
「にいさああああああああああん!」
みんな気づいたときにはすでに遅い。
幾重の雲を突き抜けた先、高度何万メートルだ?
そこは、氷点下何度の世界だ。
俺に耐えられるわけがねえだろうが。
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