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第四章
第99話 人類の抵抗
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俺にはスゲーアホらしく見えても、この世界からすれば恐怖にしか見えないんだろう。
突然、変な着ぐるみを着た二人組が世界の破滅を告げているんだ。
今俺の目の前にいる連中も表情が緊迫している。
だが、俺からすれば、どうしてもマッキーとマニーのただの漫才にしか見えない。
『ねえ、ところでマッキー。どうして帝国を滅ぼさないといけないの?』
『パナ良い質問じゃん、マニー。てか、さすがじゃね? マニー可愛すぎ』
『だめ~、チュッチュは後で。子供も見てるんだよ~』
『え~、そっか~、じゃあマジ仕方ねえじゃん。俺が君に教えたるじゃん? 帝国を滅ぼすのは~、この世から戦争を無くすためだよ~!』
何やってんだ、あのバカは。しかし、戦争を無くす? それはどういう意味だ?
いや、そういうふうに意味を考えた時点で、俺は既に奴のペースに乗せられてるのかもしれねえ。
『簡単じゃ~ん。だってさ~、戦争ってさ~、兵隊持ってる国が戦争するんだよ~? だったら、兵隊持ってる国滅ぼせばよくなくね~?』
『マッキー天才! 痺れる~憧れる~!』
『だよね。やっべ、俺ってマジ天才じゃん? 革命的! 日本に居た時に何で思いつかなかったんだ?』
おい、本気で言ってねえよな? あのバカは。
いや、本気だろうと嘘だろうと、多分どうでもいいんだよ、あいつは。
つか、日本て……
何となくわかってきたぞ、あの野郎の今が。
「くははははは、あいつ、楽しめりゃそれでいいんだな」
そうだ。あいつには正義も大義も、恨みも復讐も何もない。
ただ、ゲームを楽しんでいるような感覚なんだろ。
言ってみれば、俺たちと違って、この世界を現実として受け入れてねえ。
だからこそ、何をやっても別に心が痛むこともないんだ。
「な、なんなのだ、あいつは」
「狂っているでござる」
「クソが、反吐が出る」
「全然、彼の心が読めないね」
「ちょっ、なんなんすかー、あいつは!」
「あんな奴に! あんな奴に世界の平和を! 希望を! 何で壊す資格があるんだ!」
そう、ウラやムサシのように、この世界を現実としてマジメに生きてる奴らからしたら理解不能。
マッキーラビットというキャラクターが何を考えているか、理解しようとしても無理な話。
でも、何となくだが、俺はマッキーラビットというキャラクターを理解できた気がした。
「戦争とか、魔法とか、ファンタジーとか…………馬鹿らしいんだろ、ただ単に。特に、前世でも軽く生きて、そこそこリア充だったあの男にとって、こんな中二病的な世界で魂を燃やすってのが、アホらしいだけなんだろ。だから、面白おかしく、ちょっとためしにぶっ壊してみる。そんなところだろ」
あの着ぐるみの下の素顔が、どんな顔をしているのか分からないが、少なくとも俺はそう思う。
世界を壊すことに深い理由も意味もないってことを。
「おい、ヴェルト、さっきからどうしたんだ? お前は、あの男のことを何か知っているのか?」
知っている? ぶっちゃけ、それほど知らないな。
だが、あいつを深く理解しようとしないで、ただのチャラ男と考えれば、意外とあいつの考えが分かってくる。
『ねえ、いつまでふざけているんだい? くだらないことをしていないで、僕はさっさと行くよ』
その時、今まで聞いたことのない第三者の声が聞こえた。
「あ、あいつは!」
その姿が映し出されたとき、ウラは真っ先に身を乗り出した。
小柄の若い白髪の少年。かなり若いぞ。年齢は十三? 十二ぐらいか?
真っ赤なバラの装飾が施された鎧とマントというかなり派手な格好。
中性的な容姿に、眼帯をしている。
「マーカイ魔王国第六王子。『独眼魔童のラガイア』!」
ウラの知り合いか? まあ、魔族なら知り合いでもおかしくねーか。
「知ってんのか?」
「ああ。サイクロプス族の王子だ。小さい頃に、何度か会ったことがある。歳は私たちの三つほど下だ」
「ふ~ん…………ガキだな。しかも、スゲー白けきった顔をしてやがる」
「………そうだ……昔と変わらない。いつも、あんなふうに世界を下らないと見下した表情をしていた」
そうか……顔見知りか……いや、なんかそれだけには見えない。
なんだか、懐かしい弟分の姿を見て、複雑な思いに駆られているように見える。
「あれ? でも、サイクロプスってさ~、一つ目巨人のことだろ? あいつ、普通の魔人に見えるけど?」
「そうだ。あいつは、サイクロプスの王にして七大魔王と人間の奴隷の間に生まれた呪われし子。同族の中でも、家族の中でも忌み嫌われていたのを覚えている」
「あ~、なるほど、そういうタイプね。もういいぜ、ウラ。それ以上は聞きたくねえ。ったく、祝福できねえならガキなんか作るんじゃねえってんだ」
世界を下らなく思うか。その半生を聞けば、多分悲劇の小説を何冊か書けるんだろうが、俺には興味なかった。
いや、興味が沸かなかった。
『おお~、ラガイア王子はせっかちだね~。そうだ、みんなに紹介するじぇ~、彼がマーカイ魔王国の王子にして、今出陣中のマーカイ魔王国軍の総大将! ラガイア様だぜ、覚えておけ~い』
『パフパフパフパフ~♪』
空気をぶっ壊すようにおちゃらける、マッキーとマニー。
すると、ラガイアがガキのくせに鋭い目で二人を睨みつけた。
『あまり調子に乗らないことだ。君たちを生かしているのは、利用価値があるからだ。僕の気分を害せば、君たちも殺す。いいね?』
『わ~お、マッキ~ピ~ンチ、怖いよ~』
なるほどな。マッキーは……あのガキを利用したわけか。
「ラガイア、なんということを。ヴェルト、気をつけろ。ラガイアは魔界からも忌み嫌われた存在ではあるが、その天賦の才は、底が知れぬ。奴が、前線に出るのであれば、この戦は相当厳しいものになるぞ?」
普通はそう思うだろう。魔界の中でも天才少年。不幸な過去を持つダークヒーロー。
まあ、主人公にピッタリなんじゃねえの。
「ふん、くだらねえな。興味ねえよ」
「ヴェルト!」
「あのガキは、少し思い違いをしてやがる。あいつはマッキーを利用してるんじゃねえ。マッキーに、遊ばれてんだよ」
「遊ばれ? いや、何を言って…………」
「とにかく! 誰が相手でも関係ねえよ。マッキーだろうと、ラガなんとかでも、フォルナに手を出すならぶっとばす。シンプルでいいじゃねえか」
そして、あわよくば、ムカつくマッキーこと加賀美をぶん殴って、奴の素顔を拝んでやるぜ。
最初はスゲー、行きたくなかったが、少しだけ胸が高鳴ってきた。
喧嘩前の震えだ。
早く野郎をぶっとばしてやりてえ。その想いばかりに囚われて、未だ見えない帝国を、ずっと目を凝らして前を見ていた。
だが、俺たちが到着しなくても、奴らも待ってはくれない。
既に戦争は始まっているからだ。
『さあ、みんな! 俺は今、綺麗な花畑と緑が美しい帝国噴水公園にある空中螺旋階段を登った、帝国空中庭園に来ていまーす、ここからなら、帝国が一望できる名スポットでーす!』
『ここに~、彼女と来れば、プロポーズ成功
間違いなしだよ!』
『さあさあ、ほんじゃ、ハンパねえ市街地の様子をちょっと覗いてみましょう!』
帝国の街。即ち帝都。
その広大さはエルファーシア王国を遥かに凌ぐ。
四角い石が隙間なく埋め込まれて完全に整備されている道や、建造物、家、店、そして人の数も違う。
だが、帝都の入口でもある港街を制圧されていたことからも、既に戦争の火の手は帝都にまで届いていた。
太陽に映し出される映像には、シロムで見た光景をフラッシュバックさせるような傷つき燃えていく帝都の様子が映し出されていた。
そしてそこには、人間の何倍もある巨体と、特徴的な一つ目の魔族が、巨大な剣や斧に棍棒などを装備して、帝都の中をウジャウジャうろついていた。
しかし、シロムと唯一違うところもあった。
それは…………
『魔導砲一斉射出ー!』
鳴り響く豪音と共に繰り出される人類の抵抗がまだ見られていることだ。
『いいか! 既に帝都の十分の二まで侵攻されている! これ以上奴らの進軍を許すな! 人類のため、世界のため、我ら人類大連合軍の誇りにかけて、奴らを食い止めよ!』
『『『『『『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』』』』』』』
帝国はまだ堕ちてはいなかった。
その何倍もの体格差すらまったく臆せずに、チェットと同じ軍服姿にマントを着た若い兵士たち。
杖や剣や弓矢や、それぞれ多種多様な武器を構えて、屋根をつたい、地上の路地裏を走り、時には正面から大砲を構えてサイクロプスを迎え撃っている。
その中には、懐かしい顔ぶれが居た。
「ああ、お前ら……」
五年ぶりなのに、一目でわかった。
かつて、エルファーシア王国での旧友たちだ。
『いいか、オメーら! チェットが必ず援軍を連れて帰ってくる! それまでは俺たちで戦うんだ!』
『死なない。死んでたまるか! 絶対に死ぬもんか!』
かつて、成績十位:シップ・トンロー。大工の親父を持つ平民の息子。
かつて、成績九位:ガウ・スクンビット。城の衛兵の父を持つ平民の息子。
「うう~、チェット~、早く帰ってきて~」
かつて、成績八位:ペット・アソーク。公爵家の娘のお嬢様。
「何を怯えてるの。私たちは、今日みたいな日を生き残り、勝利を掴んで帰るために頑張ってきたんじゃない!」
「やるしか……ないね……」
かつて、成績六位:ホーク・ナナ。戦争孤児で教会育ちの娘。
かつて、成績五位:ハウ・プルンチット。騎士団所属の父を持つ娘。
「そうだ。世界のため、人類のため、そして我らの姫様のために!」
「うん、絶対に負けないんだから!」
かつて、成績四位:シー・チウロム。国王相談役の孫
かつて、成績三位:サンヌ・エカマイ。王都の商会トップの娘。
みんな、十歳のクソガキだったくせに、いっちょまえにデカくなりやがって。
それに…………
『うおおおおおおおおおお、ファイヤーフラッシュインパクト!』
それは、戦場の業火ではなく、人類の反撃の炎。
『ずりゃあああああ、負けねーんだよ、一つ目魔族ども! 俺たちがいる限り、ゼッテー帝都は落とさせねえ!』
斬りまくる。粉砕しまくる。滅ぼしまくる。
たった一人で群がるサイクロプスを次々と撃破していく男。
それは昔、俺がからかってばかりいた、熱血正義野郎が、そのまま成長した姿。
『今だ! 第三歩兵部隊はバーツに続いて突撃! 魔法弓擊部隊は援護に! そこの歩兵部隊は裏通りを回って、第四部隊と挟撃を!』
そして、昔は俺に半べそ欠かされた、なよっちいおぼっちゃまが、随分と野性的な将の姿を見せている。
『おーっと! こいつはまいったぜ! パネエよパネエ! 人類大連合軍の若武者コンビ! 炎轟バーツに、風閃のシャウト! 今をときめく英雄候補だぜ! 人類もアゲアゲー!』
バーツとシャウト。
同期の中でも軍を抜いた天才コンビ。
その八面六臂に戦場を駆け抜ける姿は、かつての旧友として、胸が高鳴るどころか熱くなった。
だが、最も胸を熱くしたのは…………
『わ~お、かっこいい! でもカワイソス~。彼らのほとんどは今年卒業したばかりの新兵だよ~。でも、帝国のつよーい連中はみーんな神族大陸いっちゃったから、彼らで戦うしかないのら~! 乙!』
『ふん、精鋭部隊なしでもあのレベルでは相手にならないか。これだから純正なサイクロプスはパワーだけの脳筋なんだ』
『おやおや、キビシス! パネエ厳しいよー、ラガイア王子~! これってピンチじゃーん』
『なに。所詮は軍勢が違う。それに、いつまでもチョロチョロうるさいようなら、僕が直接始末するよ』
最も胸を熱くしたのは、この激戦を余裕で高みの見物をしているこいつらの傍に…………
『あら、ワタクシたちも随分と甘く見られたものですわね』
威風堂々とあいつが現れたことだ。
『おやおやおや、これはこれは~』
『へえ、まさか直接来るとはね、大将自ら来るなんて、無用心じゃないかい?』
キリッとした表情、輝くような金色の髪に、膝上ほどのスカートの下から見える汚れのない真っ白い肌に、スラッとした細身の体。
白い軍服の胸元にはいくつもの勲章が飾られ、その存在感をより際立たせている。
『無意味にサークルミラーで本陣の場所を映し出すあなた方こそ無用心では?』
新聞の写真では見ていたが、声を聞くのは久しぶりだな。
『人類を、甘く見ないでくださいます?』
人類大連合軍、光の十勇者の一人。
フォルナ・エルファーシア。
随分と良い女になったじゃねえか。
突然、変な着ぐるみを着た二人組が世界の破滅を告げているんだ。
今俺の目の前にいる連中も表情が緊迫している。
だが、俺からすれば、どうしてもマッキーとマニーのただの漫才にしか見えない。
『ねえ、ところでマッキー。どうして帝国を滅ぼさないといけないの?』
『パナ良い質問じゃん、マニー。てか、さすがじゃね? マニー可愛すぎ』
『だめ~、チュッチュは後で。子供も見てるんだよ~』
『え~、そっか~、じゃあマジ仕方ねえじゃん。俺が君に教えたるじゃん? 帝国を滅ぼすのは~、この世から戦争を無くすためだよ~!』
何やってんだ、あのバカは。しかし、戦争を無くす? それはどういう意味だ?
いや、そういうふうに意味を考えた時点で、俺は既に奴のペースに乗せられてるのかもしれねえ。
『簡単じゃ~ん。だってさ~、戦争ってさ~、兵隊持ってる国が戦争するんだよ~? だったら、兵隊持ってる国滅ぼせばよくなくね~?』
『マッキー天才! 痺れる~憧れる~!』
『だよね。やっべ、俺ってマジ天才じゃん? 革命的! 日本に居た時に何で思いつかなかったんだ?』
おい、本気で言ってねえよな? あのバカは。
いや、本気だろうと嘘だろうと、多分どうでもいいんだよ、あいつは。
つか、日本て……
何となくわかってきたぞ、あの野郎の今が。
「くははははは、あいつ、楽しめりゃそれでいいんだな」
そうだ。あいつには正義も大義も、恨みも復讐も何もない。
ただ、ゲームを楽しんでいるような感覚なんだろ。
言ってみれば、俺たちと違って、この世界を現実として受け入れてねえ。
だからこそ、何をやっても別に心が痛むこともないんだ。
「な、なんなのだ、あいつは」
「狂っているでござる」
「クソが、反吐が出る」
「全然、彼の心が読めないね」
「ちょっ、なんなんすかー、あいつは!」
「あんな奴に! あんな奴に世界の平和を! 希望を! 何で壊す資格があるんだ!」
そう、ウラやムサシのように、この世界を現実としてマジメに生きてる奴らからしたら理解不能。
マッキーラビットというキャラクターが何を考えているか、理解しようとしても無理な話。
でも、何となくだが、俺はマッキーラビットというキャラクターを理解できた気がした。
「戦争とか、魔法とか、ファンタジーとか…………馬鹿らしいんだろ、ただ単に。特に、前世でも軽く生きて、そこそこリア充だったあの男にとって、こんな中二病的な世界で魂を燃やすってのが、アホらしいだけなんだろ。だから、面白おかしく、ちょっとためしにぶっ壊してみる。そんなところだろ」
あの着ぐるみの下の素顔が、どんな顔をしているのか分からないが、少なくとも俺はそう思う。
世界を壊すことに深い理由も意味もないってことを。
「おい、ヴェルト、さっきからどうしたんだ? お前は、あの男のことを何か知っているのか?」
知っている? ぶっちゃけ、それほど知らないな。
だが、あいつを深く理解しようとしないで、ただのチャラ男と考えれば、意外とあいつの考えが分かってくる。
『ねえ、いつまでふざけているんだい? くだらないことをしていないで、僕はさっさと行くよ』
その時、今まで聞いたことのない第三者の声が聞こえた。
「あ、あいつは!」
その姿が映し出されたとき、ウラは真っ先に身を乗り出した。
小柄の若い白髪の少年。かなり若いぞ。年齢は十三? 十二ぐらいか?
真っ赤なバラの装飾が施された鎧とマントというかなり派手な格好。
中性的な容姿に、眼帯をしている。
「マーカイ魔王国第六王子。『独眼魔童のラガイア』!」
ウラの知り合いか? まあ、魔族なら知り合いでもおかしくねーか。
「知ってんのか?」
「ああ。サイクロプス族の王子だ。小さい頃に、何度か会ったことがある。歳は私たちの三つほど下だ」
「ふ~ん…………ガキだな。しかも、スゲー白けきった顔をしてやがる」
「………そうだ……昔と変わらない。いつも、あんなふうに世界を下らないと見下した表情をしていた」
そうか……顔見知りか……いや、なんかそれだけには見えない。
なんだか、懐かしい弟分の姿を見て、複雑な思いに駆られているように見える。
「あれ? でも、サイクロプスってさ~、一つ目巨人のことだろ? あいつ、普通の魔人に見えるけど?」
「そうだ。あいつは、サイクロプスの王にして七大魔王と人間の奴隷の間に生まれた呪われし子。同族の中でも、家族の中でも忌み嫌われていたのを覚えている」
「あ~、なるほど、そういうタイプね。もういいぜ、ウラ。それ以上は聞きたくねえ。ったく、祝福できねえならガキなんか作るんじゃねえってんだ」
世界を下らなく思うか。その半生を聞けば、多分悲劇の小説を何冊か書けるんだろうが、俺には興味なかった。
いや、興味が沸かなかった。
『おお~、ラガイア王子はせっかちだね~。そうだ、みんなに紹介するじぇ~、彼がマーカイ魔王国の王子にして、今出陣中のマーカイ魔王国軍の総大将! ラガイア様だぜ、覚えておけ~い』
『パフパフパフパフ~♪』
空気をぶっ壊すようにおちゃらける、マッキーとマニー。
すると、ラガイアがガキのくせに鋭い目で二人を睨みつけた。
『あまり調子に乗らないことだ。君たちを生かしているのは、利用価値があるからだ。僕の気分を害せば、君たちも殺す。いいね?』
『わ~お、マッキ~ピ~ンチ、怖いよ~』
なるほどな。マッキーは……あのガキを利用したわけか。
「ラガイア、なんということを。ヴェルト、気をつけろ。ラガイアは魔界からも忌み嫌われた存在ではあるが、その天賦の才は、底が知れぬ。奴が、前線に出るのであれば、この戦は相当厳しいものになるぞ?」
普通はそう思うだろう。魔界の中でも天才少年。不幸な過去を持つダークヒーロー。
まあ、主人公にピッタリなんじゃねえの。
「ふん、くだらねえな。興味ねえよ」
「ヴェルト!」
「あのガキは、少し思い違いをしてやがる。あいつはマッキーを利用してるんじゃねえ。マッキーに、遊ばれてんだよ」
「遊ばれ? いや、何を言って…………」
「とにかく! 誰が相手でも関係ねえよ。マッキーだろうと、ラガなんとかでも、フォルナに手を出すならぶっとばす。シンプルでいいじゃねえか」
そして、あわよくば、ムカつくマッキーこと加賀美をぶん殴って、奴の素顔を拝んでやるぜ。
最初はスゲー、行きたくなかったが、少しだけ胸が高鳴ってきた。
喧嘩前の震えだ。
早く野郎をぶっとばしてやりてえ。その想いばかりに囚われて、未だ見えない帝国を、ずっと目を凝らして前を見ていた。
だが、俺たちが到着しなくても、奴らも待ってはくれない。
既に戦争は始まっているからだ。
『さあ、みんな! 俺は今、綺麗な花畑と緑が美しい帝国噴水公園にある空中螺旋階段を登った、帝国空中庭園に来ていまーす、ここからなら、帝国が一望できる名スポットでーす!』
『ここに~、彼女と来れば、プロポーズ成功
間違いなしだよ!』
『さあさあ、ほんじゃ、ハンパねえ市街地の様子をちょっと覗いてみましょう!』
帝国の街。即ち帝都。
その広大さはエルファーシア王国を遥かに凌ぐ。
四角い石が隙間なく埋め込まれて完全に整備されている道や、建造物、家、店、そして人の数も違う。
だが、帝都の入口でもある港街を制圧されていたことからも、既に戦争の火の手は帝都にまで届いていた。
太陽に映し出される映像には、シロムで見た光景をフラッシュバックさせるような傷つき燃えていく帝都の様子が映し出されていた。
そしてそこには、人間の何倍もある巨体と、特徴的な一つ目の魔族が、巨大な剣や斧に棍棒などを装備して、帝都の中をウジャウジャうろついていた。
しかし、シロムと唯一違うところもあった。
それは…………
『魔導砲一斉射出ー!』
鳴り響く豪音と共に繰り出される人類の抵抗がまだ見られていることだ。
『いいか! 既に帝都の十分の二まで侵攻されている! これ以上奴らの進軍を許すな! 人類のため、世界のため、我ら人類大連合軍の誇りにかけて、奴らを食い止めよ!』
『『『『『『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』』』』』』』』
帝国はまだ堕ちてはいなかった。
その何倍もの体格差すらまったく臆せずに、チェットと同じ軍服姿にマントを着た若い兵士たち。
杖や剣や弓矢や、それぞれ多種多様な武器を構えて、屋根をつたい、地上の路地裏を走り、時には正面から大砲を構えてサイクロプスを迎え撃っている。
その中には、懐かしい顔ぶれが居た。
「ああ、お前ら……」
五年ぶりなのに、一目でわかった。
かつて、エルファーシア王国での旧友たちだ。
『いいか、オメーら! チェットが必ず援軍を連れて帰ってくる! それまでは俺たちで戦うんだ!』
『死なない。死んでたまるか! 絶対に死ぬもんか!』
かつて、成績十位:シップ・トンロー。大工の親父を持つ平民の息子。
かつて、成績九位:ガウ・スクンビット。城の衛兵の父を持つ平民の息子。
「うう~、チェット~、早く帰ってきて~」
かつて、成績八位:ペット・アソーク。公爵家の娘のお嬢様。
「何を怯えてるの。私たちは、今日みたいな日を生き残り、勝利を掴んで帰るために頑張ってきたんじゃない!」
「やるしか……ないね……」
かつて、成績六位:ホーク・ナナ。戦争孤児で教会育ちの娘。
かつて、成績五位:ハウ・プルンチット。騎士団所属の父を持つ娘。
「そうだ。世界のため、人類のため、そして我らの姫様のために!」
「うん、絶対に負けないんだから!」
かつて、成績四位:シー・チウロム。国王相談役の孫
かつて、成績三位:サンヌ・エカマイ。王都の商会トップの娘。
みんな、十歳のクソガキだったくせに、いっちょまえにデカくなりやがって。
それに…………
『うおおおおおおおおおお、ファイヤーフラッシュインパクト!』
それは、戦場の業火ではなく、人類の反撃の炎。
『ずりゃあああああ、負けねーんだよ、一つ目魔族ども! 俺たちがいる限り、ゼッテー帝都は落とさせねえ!』
斬りまくる。粉砕しまくる。滅ぼしまくる。
たった一人で群がるサイクロプスを次々と撃破していく男。
それは昔、俺がからかってばかりいた、熱血正義野郎が、そのまま成長した姿。
『今だ! 第三歩兵部隊はバーツに続いて突撃! 魔法弓擊部隊は援護に! そこの歩兵部隊は裏通りを回って、第四部隊と挟撃を!』
そして、昔は俺に半べそ欠かされた、なよっちいおぼっちゃまが、随分と野性的な将の姿を見せている。
『おーっと! こいつはまいったぜ! パネエよパネエ! 人類大連合軍の若武者コンビ! 炎轟バーツに、風閃のシャウト! 今をときめく英雄候補だぜ! 人類もアゲアゲー!』
バーツとシャウト。
同期の中でも軍を抜いた天才コンビ。
その八面六臂に戦場を駆け抜ける姿は、かつての旧友として、胸が高鳴るどころか熱くなった。
だが、最も胸を熱くしたのは…………
『わ~お、かっこいい! でもカワイソス~。彼らのほとんどは今年卒業したばかりの新兵だよ~。でも、帝国のつよーい連中はみーんな神族大陸いっちゃったから、彼らで戦うしかないのら~! 乙!』
『ふん、精鋭部隊なしでもあのレベルでは相手にならないか。これだから純正なサイクロプスはパワーだけの脳筋なんだ』
『おやおや、キビシス! パネエ厳しいよー、ラガイア王子~! これってピンチじゃーん』
『なに。所詮は軍勢が違う。それに、いつまでもチョロチョロうるさいようなら、僕が直接始末するよ』
最も胸を熱くしたのは、この激戦を余裕で高みの見物をしているこいつらの傍に…………
『あら、ワタクシたちも随分と甘く見られたものですわね』
威風堂々とあいつが現れたことだ。
『おやおやおや、これはこれは~』
『へえ、まさか直接来るとはね、大将自ら来るなんて、無用心じゃないかい?』
キリッとした表情、輝くような金色の髪に、膝上ほどのスカートの下から見える汚れのない真っ白い肌に、スラッとした細身の体。
白い軍服の胸元にはいくつもの勲章が飾られ、その存在感をより際立たせている。
『無意味にサークルミラーで本陣の場所を映し出すあなた方こそ無用心では?』
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『人類を、甘く見ないでくださいます?』
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フォルナ・エルファーシア。
随分と良い女になったじゃねえか。
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