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第四章
第97話 ヴェルト・ジーハの答え
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何で今日なんだよ!
俺は、五年前にお前らと完全に違う道を行った。
二度と会えないかもしれない。それでもお前らは俺には理解できねえ、正義や大義を抱いて旅立った。
なのに、何でそこで完全に道の別れた俺に助けを求めるんだよ。
「くそくそくそ! ふざけんじゃねえぞ、こんちくしょう!」
手当たり次第に何でも良かった。物でも壁でも、宴会の残骸のゴミでも、俺は何でも蹴り飛ばした。
発散できないイラつきをぶつけるかのように、何度も何度も何度もだ。
「だいたい、俺が行って何ができるってんだ! 魔法学校中退だぞ! 十歳で魔法を覚えることを辞めた落ちこぼれに、何でテメェらエリートがすがるんだよ!」
フォルナは、お前らは人類の希望だったんじゃねえのかよ。
俺なんかじゃ既に及ばない、領域の住人なんじゃねえのかよ!
何で、街の喧嘩に巻き込まれたから助けて的なノリで言ってんだよ!
「ヴェ……ヴェルトくんが来てくれたら、きっと俺たちの士気は上がる! いま、精鋭部隊や先輩たちもほとんどが出ていて、たまたま帰還したばかりのシャウトやバーツを中心に抵抗してるけど、みんなの士気だっていつまでも保てない! でも、ヴェルトくんがいれば! ヴェルトくんがいれば、みんなも、何より姫様だってどこまでも戦える!」
「ざけんじゃねえよ! ガキの頃みたいなノリがいつまでも通用すると思ってんのか!」
戦争はずっと遠ざけたかった。関わりたくなかった。
だからこそ、偶然関わったシロムでの光景を見て、その気持ちがより一層強くなった。
「五年も前から言ってんだろ! 俺は行かねえって! 戦争になんか興味ねえってずっと言ってただろうが!」
なのに、何でなんだよ。
「畜生、なのに、何でそんなこと言うんだよ! 何で、俺に言うんだよ! …………このままじゃ、フォルナが死ぬとか……そういう言い方は反則だろうが……」
「ヴェルト……くん……」
「このままじゃ、あいつがヤバイなんて聞いたらよ……答えなんて決まってるじゃねぇか」
畜生、ムカつく! 行きたくねえ! 関わりたくねえ! 死にたくねえ!
「クソ、クソ、クソ! フォルナのアホクソバカやろう! 人類最高峰の英雄なら、ちゃっちゃとぶっ倒せって話だよ!」
俺は、神乃を探しに行きたいんだぞ?
それこそが、俺の人生の目標はそれなんだ。
神乃を探す。それが、朝倉リューマの譲れない想いだ。
そのヒントが既に俺の手の中にあって、今すぐにでも俺は行かなくちゃいけねーんだぞ!
そのために、俺がどれだけの時間を費やしたと思ってんだよ。
この五年、新聞の戦死者の欄をどんだけビビリながら読んだと思ってやがる!
この五年、お前らの名前が戦死者の欄に名前が無かったことで、どれだけホッとしてやったと思ってやがる!
「愚弟………こいつは、お前の今後の人生をクソ大きく狂わせる。喧嘩とはわけが違う。フォルナのことは、俺に任せてくれてかまわねえぜ?」
「うるせえよ、ファルガ。どうせ、俺が何て言うか分かりきってるくせに、そんな確認してんじゃねえよ」
「ふん……労するな」
「ほんとだよ。人類のため? 世界のため? そんなもんじゃ俺の心は動きはしねえ。でもな……」
それが、朝倉リューマではなく……
「フォルナがヤバイって聞いて引き下がれるかよ!」
ヴェルト・ジーハの決して譲れないものだからだ。
「くくくく、ははははははははははははは!」
あっ……すげえ珍しい。
「うそ、あのファルガが…………笑った?」
ファルガがツボにハマったのか、途端に爆笑しだした。
いつもギラっとした鋭い目つきで相手を威嚇している不器用兄貴が、何とも嬉しそうだ。
「くくくく、それでこそ、俺の愚弟だ。そのメンドクセーけど単純な考えこそ、お前らしいぜ」
「な、なんだよ、バカにしてんのか?」
「いいや。クソ気分がいいってことだ」
単純か。まあ、そうかもしれねえな。
ウラやムサシのように、過去のトラウマがどうとかそんなもんに難しく悩むのは俺らしくねえ。
こういうふうに、あいつがヤベエから助けるしかねえ。
そんな単純なことの方が俺らしい。
だから、なんか俺もスゲエイラついてるけど、少しだけスッキリした。
「もっとも、二人でどうにかなるとも思えねえ。焼け石に水ってところだ」
「関係ねえ。愚弟以外で愚妹に手を出す奴は皆殺しだ」
ああ、どうなるかなんて知ったことか。
行ってやるよ。行きゃーいいんだろうが!
二人でも、あいつを絶対に死なせねえ。
「二人? 私も見くびられたものだな」
「殿。懐刀を置いて、戦場に何しに行かれるのです?」
その時、今すぐにでも飛び出そうとしていた俺たちの背後に、笑みを浮かべて立っている、ウラとムサシが居た。
「お前ら、いや……ちょっと待て。お前らはまずいんじゃねえの?」
そう、何故ならこれはいつもとは少し様子が違うからだ。
しかし、
「ウラ、相手は魔族だぞ?」
「だからなんだ? 人間同士だって殺し合いをしている世の中だぞ? それに、いい機会だ。あの女が生きている内に、どれだけこの五年で私がヴェルトと絆が深まったか見せつけてやる」
「ムサシ。イーサムに、俺が戦争とかに参加したらぶっ殺せって言われてなかったっけ?」
「何をおっしゃいます。局長が拙者におっしゃられたのは、『殿が変わってしまわれたら』の話です。しかし、今でも殿は殿のままです。ならば、どんな死地でもお供いたします」
わーお、頼もしい女たちだこと。
「まっかせーなさい、弟くん、ファルガ。お姉ちゃんがいくらでも手を貸してあげるから」
「って、あんたまで来んのかよ! クレラン!」
「とーぜん。それに~、ここら辺で~、ファルガの妹ちゃんにポイント稼いでおかないとね」
そして、ドサクサに紛れて…………
「うわあああん、兄さん、置いていかないでぐださいっすよー! 兄さん達が居ないと、オイラはご主人様のもとに帰れないんっすからー!」
そう、ドサクサに紛れて、クレラン、ドラまで俺に飛びついてきた。
「ったく、どいつもこいつも命知らずのアホどもが。ほんと、最高だぜ」
ノリさえ合えば、命すら懸けるか。まあ、いいんじゃねえの?
下手に正義や大義を語るより、よっぽど分かりやすくて。
「行くのかい、兄ちゃん達」
「あのさ~、その、私らはさ~、その、悪いけど~」
そこに、何だか申し訳なさそうな顔で俺たちに謝るハンターの連中たち。
だが、謝られる筋合いなんて微塵もない。
なぜなら、俺だって、そこにフォルナたちが居ないんだったら行かなかったかもしれねえ。
だから、そんなことぐらいで謝るんじゃねえよ。
「温泉、しっかりやっとけよ」
「クソ汚れたら、入りに来る」
「ちゃんと、女子と男子を分けるのだぞ!」
「戻ったら必ずでござる」
「私も入ってないんだから~」
「オイラだって、体が錆びてもいいから入るっす!」
俺たちのその言葉に、ハンターたちは何故か目を潤ませながらも、力強く全員胸を叩いた。
「「「「おう、任せておけ!!」」」」
ああ、任せたぜ。俺たちもそう言って、背中を向けた。
「うう~、ヴェ、ヴェルトくん……ヴェルトくん、ありがとう…………ありがとう……やっぱり君は、変わってないよ」
「あのな~、チェット。それは何も成長してないとも言えるんだぜ?」
「ううん。君は、いつだって君だ。だから、嬉しくて」
「おいおい、泣くならみんな無事になってからにしろ。そんで、五年間も元彼を放置していたあのお姫様に、恨み言の一つでも言ってやるからよ」
「元彼って、ひどいじゃないか! あのね、君は本当に勘違いしているけど、フォルナ姫はも~、今でも君のことをすっごい想ってるんだから」
「はいはい」
「あー、信じてないね!」
正直、人類大陸最大国家である、『アークライン帝国』を襲撃する魔王軍が相手だ。
俺たち五人と一匹が駆けつけたところで何ができる?
だが、不思議と俺たちは誰もそのことを口にしなかった。
何故か、このメンバーが揃った瞬間、「なんかイケルかも?」なんて思ったからだ。
「よっしゃ、行くぞ! 人間でも魔族でも亜人でも、立ちはだかるなら敵はどんな種族でも俺たちでぶっ飛ばす!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」
それは、戦争をナメてるとかそういうことじゃない。
きっと俺たちなら何とかできるかもしれない?
いや、何とか出来るはずだと、確信に近い何かを俺たちは共有していたからだ。
俺は、五年前にお前らと完全に違う道を行った。
二度と会えないかもしれない。それでもお前らは俺には理解できねえ、正義や大義を抱いて旅立った。
なのに、何でそこで完全に道の別れた俺に助けを求めるんだよ。
「くそくそくそ! ふざけんじゃねえぞ、こんちくしょう!」
手当たり次第に何でも良かった。物でも壁でも、宴会の残骸のゴミでも、俺は何でも蹴り飛ばした。
発散できないイラつきをぶつけるかのように、何度も何度も何度もだ。
「だいたい、俺が行って何ができるってんだ! 魔法学校中退だぞ! 十歳で魔法を覚えることを辞めた落ちこぼれに、何でテメェらエリートがすがるんだよ!」
フォルナは、お前らは人類の希望だったんじゃねえのかよ。
俺なんかじゃ既に及ばない、領域の住人なんじゃねえのかよ!
何で、街の喧嘩に巻き込まれたから助けて的なノリで言ってんだよ!
「ヴェ……ヴェルトくんが来てくれたら、きっと俺たちの士気は上がる! いま、精鋭部隊や先輩たちもほとんどが出ていて、たまたま帰還したばかりのシャウトやバーツを中心に抵抗してるけど、みんなの士気だっていつまでも保てない! でも、ヴェルトくんがいれば! ヴェルトくんがいれば、みんなも、何より姫様だってどこまでも戦える!」
「ざけんじゃねえよ! ガキの頃みたいなノリがいつまでも通用すると思ってんのか!」
戦争はずっと遠ざけたかった。関わりたくなかった。
だからこそ、偶然関わったシロムでの光景を見て、その気持ちがより一層強くなった。
「五年も前から言ってんだろ! 俺は行かねえって! 戦争になんか興味ねえってずっと言ってただろうが!」
なのに、何でなんだよ。
「畜生、なのに、何でそんなこと言うんだよ! 何で、俺に言うんだよ! …………このままじゃ、フォルナが死ぬとか……そういう言い方は反則だろうが……」
「ヴェルト……くん……」
「このままじゃ、あいつがヤバイなんて聞いたらよ……答えなんて決まってるじゃねぇか」
畜生、ムカつく! 行きたくねえ! 関わりたくねえ! 死にたくねえ!
「クソ、クソ、クソ! フォルナのアホクソバカやろう! 人類最高峰の英雄なら、ちゃっちゃとぶっ倒せって話だよ!」
俺は、神乃を探しに行きたいんだぞ?
それこそが、俺の人生の目標はそれなんだ。
神乃を探す。それが、朝倉リューマの譲れない想いだ。
そのヒントが既に俺の手の中にあって、今すぐにでも俺は行かなくちゃいけねーんだぞ!
そのために、俺がどれだけの時間を費やしたと思ってんだよ。
この五年、新聞の戦死者の欄をどんだけビビリながら読んだと思ってやがる!
この五年、お前らの名前が戦死者の欄に名前が無かったことで、どれだけホッとしてやったと思ってやがる!
「愚弟………こいつは、お前の今後の人生をクソ大きく狂わせる。喧嘩とはわけが違う。フォルナのことは、俺に任せてくれてかまわねえぜ?」
「うるせえよ、ファルガ。どうせ、俺が何て言うか分かりきってるくせに、そんな確認してんじゃねえよ」
「ふん……労するな」
「ほんとだよ。人類のため? 世界のため? そんなもんじゃ俺の心は動きはしねえ。でもな……」
それが、朝倉リューマではなく……
「フォルナがヤバイって聞いて引き下がれるかよ!」
ヴェルト・ジーハの決して譲れないものだからだ。
「くくくく、ははははははははははははは!」
あっ……すげえ珍しい。
「うそ、あのファルガが…………笑った?」
ファルガがツボにハマったのか、途端に爆笑しだした。
いつもギラっとした鋭い目つきで相手を威嚇している不器用兄貴が、何とも嬉しそうだ。
「くくくく、それでこそ、俺の愚弟だ。そのメンドクセーけど単純な考えこそ、お前らしいぜ」
「な、なんだよ、バカにしてんのか?」
「いいや。クソ気分がいいってことだ」
単純か。まあ、そうかもしれねえな。
ウラやムサシのように、過去のトラウマがどうとかそんなもんに難しく悩むのは俺らしくねえ。
こういうふうに、あいつがヤベエから助けるしかねえ。
そんな単純なことの方が俺らしい。
だから、なんか俺もスゲエイラついてるけど、少しだけスッキリした。
「もっとも、二人でどうにかなるとも思えねえ。焼け石に水ってところだ」
「関係ねえ。愚弟以外で愚妹に手を出す奴は皆殺しだ」
ああ、どうなるかなんて知ったことか。
行ってやるよ。行きゃーいいんだろうが!
二人でも、あいつを絶対に死なせねえ。
「二人? 私も見くびられたものだな」
「殿。懐刀を置いて、戦場に何しに行かれるのです?」
その時、今すぐにでも飛び出そうとしていた俺たちの背後に、笑みを浮かべて立っている、ウラとムサシが居た。
「お前ら、いや……ちょっと待て。お前らはまずいんじゃねえの?」
そう、何故ならこれはいつもとは少し様子が違うからだ。
しかし、
「ウラ、相手は魔族だぞ?」
「だからなんだ? 人間同士だって殺し合いをしている世の中だぞ? それに、いい機会だ。あの女が生きている内に、どれだけこの五年で私がヴェルトと絆が深まったか見せつけてやる」
「ムサシ。イーサムに、俺が戦争とかに参加したらぶっ殺せって言われてなかったっけ?」
「何をおっしゃいます。局長が拙者におっしゃられたのは、『殿が変わってしまわれたら』の話です。しかし、今でも殿は殿のままです。ならば、どんな死地でもお供いたします」
わーお、頼もしい女たちだこと。
「まっかせーなさい、弟くん、ファルガ。お姉ちゃんがいくらでも手を貸してあげるから」
「って、あんたまで来んのかよ! クレラン!」
「とーぜん。それに~、ここら辺で~、ファルガの妹ちゃんにポイント稼いでおかないとね」
そして、ドサクサに紛れて…………
「うわあああん、兄さん、置いていかないでぐださいっすよー! 兄さん達が居ないと、オイラはご主人様のもとに帰れないんっすからー!」
そう、ドサクサに紛れて、クレラン、ドラまで俺に飛びついてきた。
「ったく、どいつもこいつも命知らずのアホどもが。ほんと、最高だぜ」
ノリさえ合えば、命すら懸けるか。まあ、いいんじゃねえの?
下手に正義や大義を語るより、よっぽど分かりやすくて。
「行くのかい、兄ちゃん達」
「あのさ~、その、私らはさ~、その、悪いけど~」
そこに、何だか申し訳なさそうな顔で俺たちに謝るハンターの連中たち。
だが、謝られる筋合いなんて微塵もない。
なぜなら、俺だって、そこにフォルナたちが居ないんだったら行かなかったかもしれねえ。
だから、そんなことぐらいで謝るんじゃねえよ。
「温泉、しっかりやっとけよ」
「クソ汚れたら、入りに来る」
「ちゃんと、女子と男子を分けるのだぞ!」
「戻ったら必ずでござる」
「私も入ってないんだから~」
「オイラだって、体が錆びてもいいから入るっす!」
俺たちのその言葉に、ハンターたちは何故か目を潤ませながらも、力強く全員胸を叩いた。
「「「「おう、任せておけ!!」」」」
ああ、任せたぜ。俺たちもそう言って、背中を向けた。
「うう~、ヴェ、ヴェルトくん……ヴェルトくん、ありがとう…………ありがとう……やっぱり君は、変わってないよ」
「あのな~、チェット。それは何も成長してないとも言えるんだぜ?」
「ううん。君は、いつだって君だ。だから、嬉しくて」
「おいおい、泣くならみんな無事になってからにしろ。そんで、五年間も元彼を放置していたあのお姫様に、恨み言の一つでも言ってやるからよ」
「元彼って、ひどいじゃないか! あのね、君は本当に勘違いしているけど、フォルナ姫はも~、今でも君のことをすっごい想ってるんだから」
「はいはい」
「あー、信じてないね!」
正直、人類大陸最大国家である、『アークライン帝国』を襲撃する魔王軍が相手だ。
俺たち五人と一匹が駆けつけたところで何ができる?
だが、不思議と俺たちは誰もそのことを口にしなかった。
何故か、このメンバーが揃った瞬間、「なんかイケルかも?」なんて思ったからだ。
「よっしゃ、行くぞ! 人間でも魔族でも亜人でも、立ちはだかるなら敵はどんな種族でも俺たちでぶっ飛ばす!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」
それは、戦争をナメてるとかそういうことじゃない。
きっと俺たちなら何とかできるかもしれない?
いや、何とか出来るはずだと、確信に近い何かを俺たちは共有していたからだ。
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