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第三章

第89話 いつか会いたいその人

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 俺が言っていないことが、そんなに気になる事なんだろうか?
 先生はどうだろうな。カミさんは先生の隠していることを知っているんだろうか?
 鮫島はどうだった?
 宮本はどうなんだ?
 加賀美は?
 正直、この世界の連中に話しても仕方ないことだと思っていた。
 そもそも、誰が信じる? 俺は前世の記憶があって、こことは違う世界に居たとかよ。

「なあ、ドラ。お前のご主人様って、どういう奴なんだ?」
「えっ、ご主人様っすか?」

 だからこそ、気になる。

「おい、ヴェルト、話はまだ…………」
「教えろ、ドラ」
「ッ、ヴェルト!」

 知りたい。
 あいつは…………神乃こそどうだったのかと。

「ご主人様は、すっごい魔法使いで頭も良いっす!」

 本当か? 少なくとも俺の知ってる神乃は、追試常連のバカ女だぞ?

「ただ、なんというか、いつも何を考えてるのか分からなかったっす。その、楽しいのか、寂しいのか、幸せなのか、辛いのか、仮面でいつも顔を隠していたからってのもあるっすけど、オイラが何かを聞くと、変な言葉を言ったりして誤魔化してたっす」

 何を考えているのか分からない? 
 どうだろう。昔のあいつは、とにかく何も考えないで楽しいことだけをやっていた気がする。
 いや、だからこそ、分からなかったとも言える。何であいつはあんなに楽しそうに生きることができたのか。
 いつも笑ってばっかりだったから、あいつが本当は何を考えているのかを深く気にしなかったかもしれない。

「そうか。まあ、俺もあいつのことを理解していると言うほど、あいつの心の中に踏み込めたわけでもなかったからな」
 
 あいつの心の声は、俺も分からなかった。
 ただ、それでも俺はあいつが笑ってくれたおかげで、救われたっていうのも事実だ。
 今の神乃がどういう奴なのか、ドラの話では余計に分からなくなった。
 変わっていないのならそれでもいい。
 ただ、もし変わってしまったとしたら?
 かつてのクラスメート、加賀見が変わったという話を宮本に聞いた時を思い出した。
 そう考えると、少しだけ不安が過ぎった。

「ウラ、俺の旅の目的は、ドラのご主人様を探すことだ」
「な…………に?」
「昔、本当に昔だ。俺はその人と会ったことがある。フォルナやファルガと出会うより前に、その人に会って救われたことがある」
「なんだと! そんな話、私は知らないぞ! 一体何者なんだ、そのドラのご主人様とは!」
「分かんねえ。でも、会わなくちゃ俺はいつまでも前には進めねえ。だから会いたいんだ。感謝と…………昔言いたかったことを伝えるためによ」

 あの時、一人だった俺を連れ出してくれてありがとう。
 朝倉リューマは、お前のことが好きだった。
 その二つだけでも伝えたかった。

「兄さんが、ご主人様の知り合い? オイラ、そんなの全然知らなかったっす。ご主人様、オイラたち以外と喋らないし。あっ、オイラたちが留守番でご主人様が出かけている時は知らないっすけど」
「そうか。まあ、そんなもんか。んで、お前は気づいたら攫われたと聞くが、自分の元いた場所がどこなのかわかんねーんだな?」
「うう、わかんないっす? あっ、でもでも、ある程度の距離ならご主人様が近づいたら、オイラ感知できるっす! 逆にご主人様もオイラを感知できるんす」
「なるほどな。テメエが居れば、ニアミスすることはねえってことか。まあ、それだけで大進歩だな」

 大進歩だ。
 だって、神乃が一体どこの何に転生しているのかすら分からなかったから、今までニアミスしていたかどうかすら分からなかったから。

「よし、ドラ。しばらく俺たちと共に行動しろ。意外とお前のご主人様から会いに来てくれるかもしれねーしな」
「おお~、お言葉に甘えるっす。オイラ一人で行動してたら、また何が起こるか分からないっすから」
「つーわけだ。元々それが俺の旅の目的だから、いいよな、ウラ、ファルガ、ムサシ」

 ファルガは構わないという感じで、ムサシも俺が言うならと文句も言わずに頷いた。
 あとは、拗ねているウラだ。

「おい、ヴェルト。そのご主人様とやらは、ひょっとしてお前が昔好きだった女とか言うんじゃないだろうな?」
「…………まあ、間違ってねえな」
「ッ、そ、そうか。で、では、その、なんだ? それは、今でも?」

 朝倉リューマは神乃美奈を好き「だった」。
 だが、今も? と問われたらさすがに答えづらいものがある。

「今も? まあ、好きなんだと思うぞ? ホレたハレたの話をするときは、たいてい頭の中でチラつくから」
「ッ、ううううう~~~~~~」
「でもな、ただ好きだから探したいってだけじゃねーんだよ。あいつはあまりにもあっという間に俺の中を駆け抜けていった。そして、最後に会ったときは…………」

 最後に会ったとき。いや、朝倉リューマの最後の間際で見た光景は、いつも笑顔だったあいつが逝っちまう光景だった。
 あれがどれだけ苦しかったことか。

「言いたいことを言うために会いたい。それは俺の勝手な自己満足だ。そして会ったあとで、もしそいつが何かに苦しんでるなら、今度は俺が助けてやりてえ。こいつは俺の、ケジメみたいなもんだ。それができねえうちは、まだまだヴェルト・ジーハがリア充になるわけにはいかねーってことだな」
「~~~~、お前の言ってることは思わせぶりすぎて支離滅裂だ。いつもは単純明快なくせに、こんな時だけ意味深だ」
「まっ、たまにはそういうのも許してくれよ」

 せめて神乃と会うまでは…………
 答えにはなっていないが、それでもウラも不本意そうな顔のまま頷いた。

 まあ、と言っても、今すぐここから次の旅へ…………というわけにもいかねーんだよな…………俺はこんなんだし。

 しばらくは、休養か。少しぐらいは俺も大人しくなるか。
 そう思い始めた、その時だった。


「おおおおい、坊主たち、居るかーっ!」


 野太いおっさんの声が聞こえた。
 すると、俺たちの部屋の扉が勢いよく開けられ、そこに居たのは、色々と話をしたハンターのおっさんだった。

「おい、坊主…………お前、魔法の力で森の大地を地割れ起こしただろ?」
「ん? あ、ああ。したな」
「しかも、かなり深くまで亀裂を入れただろ!」
「あ、ああ」
 
 そりゃーもう、地割れを起こしてマントルまでクレランを落とそうとしたからな。
 やべえな。森を破壊しまくったのが、やっぱりまずかったか。
 弁償? 何億? 
 自然破壊で逮捕? 懲役何年?
 まるで想像がつかねえ。
 ちょっとだけビビッちまった俺だが、切羽詰ったおっさんの口から出てきた言葉は…………

「お、お、お…………」
「おっ?」
「温泉が掘り当てられたぞ!」

 おっさんの口から出てきた言葉は俺たちの予想斜め上を行き過ぎて…………えっ、マジデ?

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