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第三章

第86話 スゲえ女ばかり

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 出し尽くした。もう、欠片も何も残っちゃいねえ。
 お互いにな。

「ま、あ、魔力、切れ、空になっちゃった」

 終わった。

「ふう、ようやく倒れやがって。つーか、ファルガたちの足止めにドラゴン三匹も生んでんだから、先にバテんのも当然か」

 荒野と化した大地に倒れこむクレラン。
 俺は、倒れないまでも座り込み、もう立ち上がることも出来なかった。

「あ……ダメ……もう動けないや……ほんと、君ってば、屈服しないんだね~」

 よくよく考えれば、俺と戦う前に弩級のドラゴン三匹も魔力を使って生んでいるため、かなりの魔力を消耗しているはず。
 俺たちの戦いは結局互いに決定打を浴びせることはなく、最後はクレランの魔力切れで幕となった。
 とは言うものの、俺も大量の血を失い、骨も無数に砕けて、ぶっちゃけ意識がヤバイ。
 本当は俺も気持ちよく倒れ込みたかったが、勝敗を明らかにするためにも、クレランが倒れている以上、俺が倒れるわけにはいかなかった。

「で、どうするの、弟くん。私を喰べる?」

 既に敗北を受け入れてスッキリとした表情を見せる、クレラン。
 その表情は、今から何が起きようとも覚悟している表情だ。
 身を差し出している。
 
「どうせ喰べられるなら、ファルガに喰べてもらいたかったけど、弟くんの勝ちなんだから、仕方ないよね」

 破れたトーガや、少しだけ股を開いて肌を出しいている艶かしい太ももや、その先にあるものをチラつかせながら、俺を誘うように微笑んでいる。
 その魅力的な誘いを前にして、俺も思わず唾を飲み込んでしまった。

「くはは、魅力的なお誘いだな。首とか伸びなきゃ、あんたは良い女なんだ。筆下ろしの相手をしてくれんなら、最高だね」
「そっ……うん……いいよ……もう、何でもしていいよ。はい、召し上がれ。お腹いっぱいになるまで、どーぞ」

 本当に潔すぎる、男前な女だな。
 危うく本気で野外で初体験と行きたくなった。
 だが、不良でありながらも俺の中にまだ残ってる理性が、それを止めた。

「残念だよ。俺の旅は、ある一人の女を探すための旅だ。その女が見つかる前に浮気しちまったら、俺のこれまでの人生無駄になっちまうからな」
「……いいの?」
「ああ。据え膳は喰わずに、テメエとヤリ合った過程だけ喰らって前へ進むさ」
「ぷっ、くくく、あはははははは、なにそれー! もったいないな~、私、けっこー美味しいと思うんだけどな~」
「ああ。それにまー、すぐ近くに、こんなクソ野郎が初恋だなんて言ってくれる可愛い女が居るもんでな」
「ふ~ん、まっ、そーいうことにしておこうかな? 弟くんって、一途なの? それともヘタレ?」

 傷も痛みも超越して、この戦いでは得るものは多かった。
 出来ないと思っていたことが出来ることだとわかったことだ。
 そしてなによりも、俺自身でも初めてだった。
 本物の命をすり減らす戦いで、一対一の戦いで勝ったことは。

「うおおおおお、にいさああああああああああん、さいっこうす!」
「へぶあおあ!」

 ドラ……おま……今の俺は僅かな衝撃でダウンするんだから、マジで飛びつくんじゃねえよ。
 いきなり飛びついてきたドラに、俺の全身は痺れが伝わり、結局俺はそのまま倒れ込んじまった。

「にいさあああん、だだ、大丈夫っすか!」
「いや、おま、ああ、も、もう、マジで、神乃を見つけたあとにぶっ殺す」

 本当につくづくだよ。そもそもが、こんな奴を助けるために始まった戦いで、俺は森林を破壊しまくったわけだからな。
 てか、ああ、やべえ……マジで……意識が……

「しっかりしろ、坊主! 今、回復薬を飲ませてやっからな」
「……あ?」

 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
 それは、今朝、麓の村で出会ったハンターたち。

「おい、クレランの方も手当しとけ」
「え~、こいつは、私たちがファルガに擦り寄ったとき~、すごい殺気飛ばしたんだよ~? やだな~」
「坊や~、すっごいかっこよかったよ~、おね~さん~、濡れちゃった~、ねえ、触って~」

 朝、俺たちに色々教えてくれたり仲間に誘ってくれた、おっさんたちから、ビキニアーマーのエロい姉さんたち、さらに他の連中と組んだり誘われたりしていたハンター達もみんな集まっていた。
 どうしてだ?

「あんたら、どうして?」
「まあ、こんだけ森の中で大暴れしたら、そりゃー集まるさ」

 ああ、そりゃそーだ。

「実はな、俺たち、お前らが喧嘩始まる頃から見てたんだ」
「そーそー、みんな隙を見て、カラクリドラゴンを奪って逃げようとしてたんだよ~?」

 あっ、そうだったんだ。全然気付かなかった。
 でも、何故だ? それなら俺たちは隙なんていっぱいあったし、今こそ千載一遇のチャンスじゃねえか。
 俺たち放置してカラクリドラゴン持って逃げれば、子孫の代まで遊んで暮らせるってのに。

「あ~、坊や~、私たちを~、バカにしてるでしょ~金の亡者~とか思ってるんでしょ!」
「ほんとだぜ、坊主。俺たちはよ~、ハンターなんだ。そんな誇りもねえやり方はしねえよ」
「ああ。今回のクエスト達成者は君こそふさわしい」

 何だか、照れくさくなった。声を出せない代わりに自然と顔が熱くなった。
 ひょっとして、俺って今、褒められてんのか?

「しっかしな~、坊主は面白いやつではあるが、ハンター失格だな」
「………………はっ?」
「自然と野生と人間の調和を守るのがハンターの仕事でもあるんだぜ? こんな取り返しのつかないほど自然を破壊しまくるとはよ」

 いや、そもそも俺はハンターじゃねえし。
 つか、ほとんど暴走状態で暴れまくったから、確かにこの森はどうする?
 この、滅茶苦茶になった自然は、まるで天変地異が通ったあとに見えるな。
 朝倉リューマの世界なら、叩かれまくってたかもしれねえな。

「まあ、俺に興味はねえよ。テメエがいかに環境にとって害悪なのかは良く分かってるからな」
「おいおいおいおい、開き直ったよ、この坊主は」
「俺はただ、敵をぶっ倒せりゃそれでいいんだから、それ以外のことに興味ねえよ」

 むしろ、ここまでやらなければ、俺が喰われていたからな。

「でも、そのおかげで兄さんが勝てたんすから、いいじゃないっすか!」

 で、なんかスゲー馴れ馴れしくなったけど、こいつ大丈夫か?

「お~、これがカラクリドラゴンか~、近くで見るとやっぱ不思議な身体してやがるな~」
「しかも、流暢に喋ってるし」
「どういう構造なんだ?」
「ねー、固いし~、てか、固いね~、固くて~熱くて~、バッキバキ!」
「これが~、何十億? やったね~坊や、もうお金持ち~」

 奪い取ろうとはしないものの、ハンターとして非常に興味深そうにカラクリドラゴンのドラを覗き込んだり触ったりするハンターたち。
 ドラもビクビクしているものの、こいつらがクレランよりは怖くないとは分かっているのか、最初の頃みたいに騒いだりしない。
 というより、危ないのはむしろ俺だったりする。

「ね~、坊や~これで~、君は~、もう、大金持ちで~、何でもやりたいことやり放題~」
「おっきい家に住んでさ、毎日美味しいもの食べてさ、欲しいもの買って、そんで好きな女の子も~、にひひひひ」

 なんか、エロコンビ姉さんが寝ている俺を挟み込むようにしなだれて来た。
 微妙にビキニアーマーがギリギリまでズレて、露出している肌がピトリと左右から俺に触れて体温が伝わってくる。
 って、まずい! さっき、クレランにモヤモヤした誘惑された直後だから、まずい!

「うおっ、坊主~、羨ましいぞ~! あとでおっちゃんたちに感想聞かせろよな!」
「くっ~、俺もカラクリドラゴン捕まえてたら、マジで天国だったな!」

 いや、止めろよお前ら! いや、俺もなんかやばい気持ちになってくるけども!
 だが、エロハンターのクリとリスの二人は、やらしい笑みを浮かべてペロリと唇を舐め、なんだかクレランとは別の捕食者に見えた。

「ちょっと、そこの二人! 弟くんにエッチなことしたら、そのユルいお股を引き裂くからね!」
「はあ? 私たちが股ユルかどうかなんて、あんたに分かんの? モンスター食いまくってるけど、人間の男を食ったことのないあんたがさ」
「黙って~、見てなって~、坊やは~、私たちが~、食べちゃうからさ~」

 手つきが何かスゴイ手馴れてやがる。俺の下半身を絶妙な力加減でさすったり、俺の耳たぶを両方向から舐めたり息を吹きかけたり!

「ねえ、坊や~、私たちを坊やの愛人にしてよ~」
「そうそう。テクニックは保証するよ~? ぜーったい飽きさせないから、毎日いつでもどこでも好きにしていいからさ~」

 あっ、やべえ、何だか元々遠のきかけていた意識が余計に遠くなりかけて、何だかも~どうでもよくなるような…………


「魔極神空手・水平線五連突き!」


 その時、ちょうど俺たちの真上を巨大なドラゴンがぶっ飛ばされていた。


「ガ、ブアア、ブワアアアア」


 ちょっと待て、ぶっ飛ばされたドラゴンの顔面や胴体が変形するほど殴られた跡があるんだけど、どうなってんだよ! 
 つうか、ドラゴンがスゲエ怯えてるんだけど。


「ふう、ふう、ふう、…………強かったぞ、氷竜。ここで引き下がるのであれば、これ以上はしないぞ?」


 森の奥から荒野と化したこの場に現れたのは、ウラ。
 闇の衣が何箇所か欠け、片腕が氷に包まれていたり、頬に切った血の跡がある。
 その姿を見ただけで、激戦を予想させる。

「お、おい、あの嬢ちゃん、な、ドラゴンと一人で戦ってたのかよ!」
「うそ、とっくにやられたと思ってたのに!」

 人間の何倍もの図体のあるドラゴンが、女のか細い腕で殴られたり、死闘を繰り広げたりしていたら、そりゃープロのハンターでもビビるか。
 そして俺も、ウラの才能は凄いことは知ってたのに、やっぱ驚いた。

「ブワアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 最後っ屁のつもりか? 傷ついた氷竜の口から猛吹雪が放たれる。
 だが、ウラはそれに対して避けようともせず、真正面から迎え撃つ。
 そして、

「魔極神空手・廻し受け!」

 吹雪がウラを避ける。いや、ウラの闇を纏った掌が美しい舞を見せ、それが絶対的な防御を作り出す。
 そして、そのまま氷竜に徐々に近づいていき、懐に入り込んだ瞬間、強烈な拳を天まで突いた。

「魔極神空手・昇龍亜牙突き!」

 闇が渦巻いて、巨大な氷竜が天高らかに舞い上がる。
 空を一瞬闇で覆ってしまうほどの膨大なエネルギー。
 完全に力を失った氷竜は、そのまま受身も着地もせずに、その体重と勢いをモロに乗せて落下した。
 地面が激しく揺れるほどの衝撃。
 誰もが言葉を失った。

「ウ、ウラ……」

 思わず俺がそう呟くと、拳を突き上げたまま固まっていたウラが振り返り、必死の形相で俺まで駆けつけた。

「ヴェルトォ、無事であったか~…………ヴェルト! ッ、その、その傷は!」

 あっ、いつの間にかクリとリスが下がって、「何もしていませんよ~」的な顔で口笛吹いてやがる。
 早い。だが、同時に身の危険を感じたんだろう。

「ヴェルト、何という傷だ……あの女にやられたのか!」
「あ、ああ、まあ、勝ったけどな」
「くっ、許せ、ヴェルト! 私が、私がドラゴンごときに手を焼かなければすぐに駆けつけられたものを! 幼い頃、私がお前の代わりに戦って、お前の敵は全て私が滅ぼすと誓ったのに、すまない!」

 ドラゴンごとき…………チラッとハンターのおっさんたちを見ると、ゾッとした顔で首を横に振っていた。
 そう、「ごとき」ってお前。
 とにかく、今のでハッキリした。もし、クリとリスとヤバイことしてる現場を見られたら、俺たちがあのドラゴンと同じようになっていた。
 ウラの近くで他の女とふざけるのはやめよう。
 あっ、そういう女がもう一人いた。


「ミヤモトケンドー・二天一流・十字斬り!」

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!」

 
 なんだろ、この世界では女がメチャクチャ強いのは珍しくないのか?
 何で、俺の周りにはタイマンでドラゴンと戦える女が集まってるんだよ。
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