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第三章

第84話 反撃開始

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「ふわふわ世界《ヴェルト》!」
「おや、なによ弟くん! 属性魔法使えるじゃない」

 四方八方から襲いかかる石と岩。逃げ道は完全に塞いでる。

「でもー、ダメだって。ラバースライムの体になれば、そういうのは効かないんだって」

 分かってるよ、そんなこと。

「ふふふ、何を狙ってるのかな? 何回やってもダメージないよ?」

 でも、それでも攻撃の手は休めねえ。何度も何度もぶつけてやる。
 反撃の隙間すら与えねえ。こうやって相手に攻撃させずに、攻め続ければ何か活路が見出せるはずだ。
 すると、さすがにウザくなったのか、クレランはまた変化した。


「トランスフォーメーション、トルネードフェアリー」


 竜巻がクレランを包み込み、襲いかかる石や岩を全て粉々に砕きやがった。

「か、風の妖精だと!」
「うふふふ~、この子も美味しかったよ。そして今でも、私の血となり肉となり、生き続けているの」

 まずい! 目に写る全ての石や岩が無くなっちまった。 
 今この場に、俺が出来ることが何もない! 

「生き続けているのはこの子達もね。トランスフォーメーション、『ニードルキャット』!」
「げっ、か、髪の毛針!」
「そう。ニードルキャットの能力は、体毛を針に変えて相手に飛ばして攻撃するんだよ」

 やべえ! 目ん玉が父親だった昔の日本のアニメで出てきたキャラと似た技だ。
 防ぎきれねえ!

「いっ、いてええええ、くっ、こんのおおおおお!」

 髪の毛一本一本は小さいが数が多すぎる。無数の針が俺の全身を串刺しにしていく。
 腕や足に刺されば、いとも容易く貫通しやがる。

「くそが。人を穴あきにしやがって」

 やべえ、だんだん感覚がやばくなってきた……この女……強ぇ!

「トランスフォーメーション、ジャイアントフット!」

 腕だけ…………巨人の…………腕に…………

「悪い子には~、ゲンコツ!」
「ふわふわエス――――――――」

 ああ、くそ、あとゼロコンマ数秒反応が早ければ、こんなデケーだけのパンチは避けられた。
 だが、逆にあとゼロコンマ数秒遅ければ、肉体が木っ端微塵だったな。

「げぶぅっ」

 知らなかった。人間の体って勢いよく飛ばされたら、木々も貫通するんだな。
 もう、背中が、殴られた全身が、骨が、内蔵が、頭の中身までもう完全にイカれちまってる。

「にいさああああああああん! ああ、血が、血がー! う、腕も足も変な方向に曲がって、やばいっす! 誰かー、兄さんが死んじまうっすよ!」

 ああ、五月蝿いはずのドラの声すら掠れて聞こえる。
 ウラやファルガたちにはこの状況は? まあ、無理だろうな。
 少し離れたところで地響きとともにスゲエ戦いが繰り広げられてる。
 ドラゴンと戦って、こっちにまで気を回せねえんだろうな。

「うふふふふ、勝負あったね、弟くん」

 這い蹲る俺の傍らには、クレランが微笑んで見下ろしてやがるのだけは確認できた。

「狩るか狩られるか。それがハンターの勝負。でもね、本当は違う。ハンターとモンスターの戦いは、喰うか喰われるかの勝負よ。つまり、そんな世界で生き続ける野生の生物と常に戦い続けてきた私に、弟くんが勝てる道理はないんだからね」

 喰うか喰われるか。
 たとえ鍛錬は続けていても、平和な人間環境の中でヌクヌクと育った俺とは見てきたものが違うってことだ。

「あんまり、野生を舐めちゃいけないよ、弟くん!」

 くそ、イキがってみせても所詮この程度かよ。
 何やってんだよ、俺は。
 本当に、何もかも半端なままで。

「兄さん! 兄さん! 起きるっす! 起きるっすよー!」

 ああ、神乃に会えないまま…………

「ったまるかよ!」
「えっ!」

 会えないまま、良い訳ねえだろうが、クソが!

「そうだろ、先生! 鮫島ァ! 俺が死ねるわけねえだろうが! 神乃と会う前に、死んだらヴェルト・ジーハの人生何も意味がねえじゃねえかよ!」

 神乃と会う。たったそれだけ。それだけのためを生きる目標として、俺は生き方を決めた。
 学校もやめた。決意をした。同期やフォルナが戦場に行く中でも、その背中を見送るだけだった。

「何が野生だ、一度も死んだこともねえやつが、俺に語るんじゃねえ!」
「なっ、お、弟くん、君は!」
「テメエこそ俺を舐めんじゃねえよ、クレラン! ワリーが、朝倉リューマもヴェルト・ジーハも、反逆し続けることが存在証明なんだよ!」
「ば、た、立った! なんで? 両足が砕けているはずなのに?」

 立ってねえよ。浮いてるだけだよ。ただ、心の中では完全に立ち上がってファイティングポーズしているぜ。

「にいさあああああああん!」

 うるせえ、ドラが泣いてんじゃねえよ。黙って見てろよ!

「ッ、でも、立ったからって君に何ができるのかな?」

 知るかよ、そんなもん! 

「なら、こいつでどうだ!」

 石も岩もなけりゃ、テメエが砕いた石と岩でできた、砂ならどうだ!

「くっ、目、目が!」
「どうだ、ふわふわ砂遊びだ!」

 目を保護する能力がなかったのか、それとも咄嗟に能力を使えなかったのかは分からねえが、とにかく目潰しにはなった。
 だが、これで逆転したわけじゃねえ。むしろ、状況は最悪のまま、いつ俺の意識が途切れるかも分からねえ。
 今のうちに何かをするしかねえ。

「お、とうと、くん、やってくれるね。石を操ったり、砂を操ったり、君は土魔法を使えるのね」

 使えねえよ。また下手な勘違いを…………いや…………待てよ? 土?
 なんだ、何かが引っかかる。
 土魔法? 土? どこか引っかかる…………


―――あら? 人間の世界は大地があってこそ存在するのよ? 土の属性とは、正に人間そのものを表している、とても素敵な属性じゃない

「あっ…………」


 思い出した。俺がまだ、学校に通っていた頃だ。
 属性魔法の授業で、俺の属性が土だと分かったとき、担任が俺に言った言葉。
 大事なのは、俺が土属性かどうかじゃない。世界は大地があってこそ存在する。

「……出来る」
「なにをぶつぶつ言ってるのかな? 弟くん! もう、トドメをやっちゃうんだからね! 食べちゃえ! 血のジュース、生肉、内蔵、そしてデザートは脳みそプリン!」

 できるのか? 俺に。
 いや、やるしかねーんだ。
 できるさ。
 逆転のためのメイクミラクル。文字通り、世界をひっくり返してやろうじゃねえか!

「見せてやるよ、人間も野生も、所詮は世界が存在しなけりゃ生きていけないもんだってことをな!」

 浮け。
 浮くのは、俺が今、見えている全ての物…………じゃない!
  

「ふわふわ世界《ヴェルト》革命《レヴォルツィオーン》!」


 浮くのは、俺が今、見えている世界そのもの!
 そのためなら、全ての魔力も、気力も、体力も、なんなら命すら懸けてやるよ!
 その先にあるんだろ? 俺の越えるべき、限界ってやつがよ!

「えっ、な、なに? なに! 地面が、森が揺れて、地震? いえ、ちが、えっ、う、嘘!」
「ちょおおおおおおおお、に、に、にいさああああああああああん、なんすかこれええええ!」

 ああ、その顔だよ。その顔が見たかった。
 マジでビビったその顔を見たかった!

「地面が、森の一部が……だ、大地が浮いている!」
「砂嵐だろうと、地割れだろうと、土石流だろうと、いや、いっそのこと、地の奥底深くからマグマでも浮かせてぶっかけてやろうか?」
「お、おとうとくん……君は……一体……何者!」

 さあ、反撃開始といこうじゃねえか!
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