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第三章

第82話 名を名乗る

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 朝倉リューマの時代に腐る程ケンカを売って来て、買われた相手がナイフやスタンガンを出したことはあった。
 でもまさか、ドラゴン出してくる奴が居るとは、さすがはファンタジー。
 ファルガでなくても言いたくなるぜ、クソッタレってな!

「この女、なんちゅうもんを出しやがって!」

 鬼が出るか蛇が出るか? もっと恐ろしいものが出てきやがった。
 船並みにデカイ胴体に、羽ばたかれるだけで突風で飛ばされそうになるほど巨大な翼。
 恐ろしい牙や爪で撫でられただけで、簡単に紙くずのように裂かれるだろうな。
 それが、三体もか!


「ごめんね。恨むなら、世間知らずな弟くんを恨むんだよ? さあ、私の可愛い子供達、やっちゃえー!」


 クレランの指示に呼応するかのように、三頭の竜が迫ってくる。
 どうすりゃいい?
 だが、こっちが対応を考える前に、ドラゴンたちはその巨大な口を開けて、体内から膨大なエネルギーを放出する。


―――灼熱の息吹

 全身赤い皮膚に覆われた炎竜の生み出す炎の息吹は森林を焼き払い

―――絶対零度の息吹

 全身透明感のある皮膚に覆われた氷竜が世界を凍らせ

―――颶風の息吹

 白い皮膚に覆われた風竜が全てをなぎ払う風を巻き起こした。

 常識を超えた非常識の存在。世界の終わりを感じさせる、人智を遥かに超えた圧倒的な力だ。
 だが、俺は不思議と思ってしまった。
 なんか、人智を超えた力ばっかに出会ってたから、もはや反応に困ると。

 そして、何よりも、俺と一緒にいる奴らも十分人智を超えている。


「光の女神の微笑みは、天地を生み出す創造の光。時に闇を消し去る護符となり、時に闇を穿つ刃となる。エレメントランス・アウローラトライデント!」


 禍々しかった槍が、三叉の矛へと変化し、オーロラのような神秘的な光を放ち炎を包み込み


「終わりへの終わり。世界を眠らす暗黒の闇は、希望も届かぬ深淵と知れ! 魔道兵装・暗黒戦乙女《ブラックヴァルキリー》」


 その瞬間、魔王の娘が纏っていた衣服は全て砕け散り、砕けた衣服の破片が渦巻く黒い霧となって、世界を、そして迫り来る氷にまとわりつく。


「空を道とし、道を空とみる。掲げし刃の矛先が、天下無双へと通ずるなり! ミヤモトケンドー・二天一流剣!」


 木刀の刀身が砕け散り、中から真の伝家の宝刀が顔を出した。吹き荒れる暴風を切り裂く天下無敵の斬撃が、全てを沈黙へと変えた。

「何だお前ら、そんなことまで出来たのかよ」
「うおおおお、すげえっす! 兄さんの仲間、マジすげえっす!」

 光り輝く三叉の矛へと武器を進化させた、ファルガ。
 闇の魔力で生み出された黒く光る金属の鎧を纏った、ウラ。
 木刀が砕けたと思ったら中から抜きみの刃が顔を出した、ムサシ。

「あらあら、すごーい。これじゃあ、弟くんが調子に乗るのも、わかるかな~」

 俺でも初めて見る、まさに三人の奥の手だろう。
 つーか、そんなのが使えるんだったら、イーサムの時に使えよ。

「クソが。これを使うのは六年ぶりだ。俺は魔法が苦手なうえにスグにクソバテるから、あんまり使いたくねーんだがな」

 己の魔力と大気や自然の中に存在する風や炎の力を借りて放出するのが属性魔法なら、自身の武器を媒介にして戦うのが『精霊兵器《エレメンタル・アームズ》』という、上位魔法闘技。
 昔、シャウトもやってたが、極めて優秀な奴しか習得できない技術だ。


「私は出来るようになったのはつい最近だ。たまに失敗するのでとてもまだ実践では使いこなせぬと思ったが、今回はうまくいったな………ヴェルト、その………あまり見るな。いや、二人の時なら見て良いが」


 そして、『精霊兵器』よりも更に進化させた、『魔道兵装』。自身の武器を媒介にするのではなく、自分自身を媒介にして戦う最高位魔法闘技。
 昔、フォルナもやっていたが、選ばれた天才にしか習得できず、むしろ使い手も少ないためにその方法すらあまり解明されていない技術だ。
 ただ一つ、今のウラに言うことがあるとすれば、闇の鎧を纏って凄そうなのはいいんだが、鎧も胸や尻など僅かに覆う卑猥な鎧で、ヘソや腿など完全に露出している。

「うおおお、兄さん、兄さんの彼女さん、エロいっす! エロ美人っす! やばいっす! なんかオイラの下半身が固くなってきたっす! ビンビンっす!」
「お前は全身固いだろうが。てか、そんなギャグも言えるのか? カラクリドラゴンは」

 さらに、結構きつめに肉体を締め付けているのか、胸が盛り上がってるというか、つまりかなりエロい。


「拙者は元服後、拙者が真に使えるべき殿と出会うまではと封印しておりましたゆえに」


 木刀であれだけ強かったムサシが真剣を握った。それだけでゾッとする。
 触れるものなら世界すら切り裂きそうだ。
 どいつもこいつも、何とも頼もしい限りだ。


「ふふふ、うふふふふふ、その昔、ドラゴン一匹の力で、何千人もの騎士が犠牲になったという話があるわ。しかし、ある日、そのドラゴンがたった一人の人間によって滅ぼされた。ゆえに、『ドラゴンスレイヤー』という称号はハンターにとっての最高位の称号。それに匹敵する力がファルガ以外にも居たなんて驚きよ」


 もはや、笑うしかないとばかりに、素直に賛辞を送るクレラン。
 そして、三人に問う。

「改めて、私は『モンスターマスター・クレラン』よ。あなたたちの名前は?」

 これはもはや、喧嘩を超えた神聖なものだと感じたのか。
 ただの食いしん坊だった女が、真剣な目で自身の名を告げた。
 だからこそ、三人も答える。


「俺は、『緋色の竜殺し・ファルガ』だ」

「私は、『銀の魔閃光・ウラ』だ」

「拙者は『双剣獣虎のムサシ』でござる」


 おお、何かカッコイイ。と同時に、何か俺は嫌な予感が過ぎった。
 念のため、俺は黙っていた。
 しかし、すぐに三人が、そしてクレランまでもが、「早くお前も名乗れと俺を見てきた」

「えっ………………俺も?」

 ちょっと待て。俺も名乗るのか? お前らみたいにスゲー中二病丸出しなあだ名だけど、ここまで堂々と名乗られたらむしろかっこよくさえ思っちまう名乗りの後に、俺も名乗るのか?


「兄さん、兄さんの番っすよ」


 目を輝かせたドラが、俺の番だと小声で諭してくる。
 嫌だ、言いたくねえ。
 あれを?

「弟くん?」
「愚弟」
「ヴェルト」
「殿」

 なんで、何で言わなくちゃいけねーんだよ、畜生が!
 くそ、言いたくねえのに、言いたくねえのに、言いたくねえのに!


「お、俺は、リ、『リモコンのヴェルト』………だ………」


 畜生、ダセエ! 今ほど、今ほど俺にあだ名を付けたやつをぶっ殺したいと思ったことはねえ。
 

「そう。覚えておくね、その名前を」


 せめて、笑われなかっただけでも救いだった。
 クレランが微笑みながら、手を天に掲げる。

「ハンター同士の戦いは狩りで決める。そうだよね、ファルガ」
「そうだ。これは、狩るか狩られるかの戦いだ。クソ女、テメエが愚弟とクソチビドラゴンを見逃すなら、俺たちも引き下がってやるが?」
「冗談だよね? 未知への浪漫を忘れずに突き進むのが、ハンターなんだから」
「そうか。じゃあ、それでいいんだな?」
「ええ、もちろんだよ。それに、弟くんも、もう待った無しだからね」

 ああ、もう止まらないわけか。
 俺も中々の罪な男だぜ。こんなチビドラを生かすために、仲間も命懸けの戦いに巻き込むわけだから。
 まあ、それを謝ったら、馬鹿野郎と殴られそうだから、絶対に俺は謝んねえけど。

「それじゃあ」
「ああ」

 そして、森に静寂が走り、ドラゴンたちもその合図を心待ちにし、ついに

「いくわよ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアア!」
「クソが!」
「ヴェルトの敵は、私が滅ぼす!」
「拙者の刃の錆にしてくれよう!」
「俺をぶっ殺してみろよコラアアアアアアアアアアアア!」

 モンスターマスター一人とドラゴン三匹。
 人間のハンターと不良と魔族と亜人。
 随分とバラエティに富んだ種族が………

「うっほほーーい! フレッフレッ、兄さん! 姉さん、ガンバルンバッす! ファイトっす!」

 こんな奴のために生死をかけて戦うわけか。
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