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第二章
第65話 誠の旗
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俺はこの国を救いに来たわけじゃねえ。
だからこそ、真っ直ぐ進んで途中の光景には目もくれなかった。
ただ、目の前に群がる亜人をどかせるだけ。
美しかったと思われる街並みが火の海に包まれる中、俺は走った。
「なんだ、こいつら!」
「やっちまえ! シンセン組五番隊の力を見せてくれる!」
「縛につけ! そして、斬首の刑だ!」
狼、犬、馬、羊、人間の体に動物の特徴的な部位を持った獣人たちは抜刀して、俺たちに刃を振るう。
だが、不思議なものだった。
戦場の戦士相手でも、俺はこいつらには勝てると思えた。
「ふわふわ没収!」
ふわふわ没収。相手の武器を強制的に浮かせて手放させる技。
「な、なんだ? か、刀が、刀が急に!」
「す、スゲー力で上に引っ張られて、ぐおおお」
剣のない侍なんか、無力なものだ。
あとはよろしく!
「まったく、ヴェルトのアシストはいつも的確だな」
「ふん、あのムサシとかいうクソ亜人は、お前らの中でも上位の実力者だったようだな。クソ脆い」
まあ、こいつらレベルだったら刀ありでもウラとファルガに勝てるとは思えねーけどな。
「しっかし、このシンセン組って奴らはもっと固まっていると思ったけど、そうでもねえのか?」
「街中に散らばっているってことだ。だが、ある意味好都合だ。ばらけている分、壁がクソ温い」
「それぞれ部隊が金品の盗みや虐殺行為を行うため、他の隊と被らないようにしているのだろう。城下町は既に制圧されているということか」
皮肉なもんだ。抵抗の跡がないほど一方的にやられて既に制圧されていたことが、逆に俺たちにとっては都合がいいとはな。
「くそが、せっかく楽しんでる所に邪魔してんじゃねえ! この四番隊組長の俺様がぶっ殺す!」
しばらく走ると、また別の奴らと遭遇する。
「あー、くそ。また邪魔な奴が」
思わずため息が出る。
「おっ、女が居る! 女も居るぞ! ぐはははは、よーし、男は斬首、女は犯す! これだから戦争はたまんねえ!」
「ッ、このゲスが! 私を犯すだと? 愚か者共がァ!」
そして、ウラにまでゲスな目を向けやがる
斬りかかってくる、隊長らしき男。
正直、もう黙れと言ってやりたかった。
だが、
「ミヤモトケンドー・爛々乱斬り!」
俺たちを追い越して駆け抜けたムサシが、襲いかかってきた亜人を粉砕した。
「この、シンセン組の恥さらしめが!」
怒りと涙で入り交じった表情で、同胞で同じ組織に属する亜人を倒した。
「く、組長が!」
「おい、待てよ、あいつはムサシだ!」
「なに! あの、バルナンド参謀の孫娘のか?」
「ちょっと待て、何故味方を斬る! 参謀の孫娘といえど、重罪だぞ!」
「しかも、何で人間と一緒にいやがる!」
ムサシの行為は、仲間たちから痛烈な批判が上がる。
お前は何をトチ狂っているんだと、誰もが声を揃える。
だが、ムサシは怒りが収まらない。
「ふざけるな! 既にこの戦の勝敗は決しているでござる! これ以上の蹂躙行為は明らかに隊律違反! 即刻やめるでござる!」
するとどうだ? ムサシの言葉を聞いたシンセン組の連中は一瞬惚けたかと思えば、明らかに不愉快そうな顔を浮かべた。
あの顔は知っている。
あれは、「お前、空気読めよ」と思ってしらけている顔だ。
「ざけんな、小娘! それは、亜人同士の内乱に適用される規律で、人間相手なら適用外に決まってんだろうが!」
暴論。そう言う気はねえ。人間も亜人を物扱いしているわけだしな。
「ッ、もう、よい。口を閉じよ」
この女、以外はな。
「ブシドーを忘れた愚か者めが!」
「ッ!」
「ミヤモトケンドー・乱剣乱舞!」
俺たちが壁をどかすまでもなく、耐えきれなくなったムサシの怒りの乱剣が、蹂躙行為を止めないシンセン組たちを宙に舞わせる。
「いいのか、テメエは。仲間だったんだろう?」
「ふー、ふー! ふー!」
「ふん、まあ、俺には興味ねえし、関係ねーけどな」
複雑な気持ちなんだろうな。このマジメな熱血女にとって、侍やシンセン組とやらは誇りなんだろう。その誇りが目の前で汚されていく。そういうものに耐えられない女なんだな、こいつは。
「何故だ! これは囚われた同胞を解放するための聖戦ではなかったのか! なぜ、なぜ拙者はこんな光景を見なければならぬでござる!」
戦争だから仕方ない、などというにはこの光景は度を超えていた。
今のムサシの感覚こそが正常なんだ。俺だって耐えられない。
だからこそ思う。聞きたかった。宮本はどんな気持ちでこの惨状を見ているのかと。
「一刻も早く止めねば。大ジジに! そして局長にこの事実を伝えねばならぬ!」
俺たちの思いはそれぞれ違うが、目的地は同じだった。
今はただ、俺たちはそれぞれの種族を忘れて同じ場所へと向かって走った。
そして、俺たちは見た。
街の中心地と思われる広場。中央には剣を天に掲げていたと思われる、壊れた銅像の下に、巨大な天幕と、その周りを囲む二十人程度のシンセン組。
「あっ……」
そして、天幕のそばの椅子に座りながら、寝ているのか、それとも銅像なのかと思われるぐらいピクリとも動かない、着物というより、紺色のおしゃれジンベイのようなものを着た老いた亜人。
手足が枯れ枝のように細く、瞳も閉じたままで、頭髪
どう見ても、ただのくたびれたジジイの亜人。
だけど、俺は直感的した。
奴が、「あいつだ」と。
「おい、あれは、ムサシ?」
「ほんとだ! なにやってんだムサシ! お前はジューベイの救助に向かったはずでは?」
ムサシの姿を見て、広場に居たシンセン組の視線が俺たちに向けられる。
だが、この連中はここに来るまで出会ったシンセン組とはどこか違う気がした。
落ち着いている。そんな印象を受けた。
「ムサシ。どうしたんだい? そんな血相を変えて」
一人の亜人が近づいてきた。
若い。そして中世的な顔つきで、声を聞くまでは一瞬女かと思った。
優しそうな微笑み、サラサラの黒髪。物腰はゆったりとしていて、威圧感や迫力は感じない。
だが、その亜人が近づいてきた途端、ムサシは片膝着いて頭を下げた。
「ソルシ・オウキ組長! ジューベイ、及び捕らえられた漁師は皆無事で、ウシワカ、ベンケイと共に本国に帰還しております!」
「ほほう。さすが、ムサシだね。妹さんも無事で良かったね」
組長? そして、俺はハッとなった。
この広場に居るシンセン組の連中の旗には、紋章と数字が描かれていた。
数字にはこの世界の文字で「一」。それは、この場に居る連中はムサシと同じ一番隊ということだ。
そして、この、ソルシという優男が一番隊の組長ということだ。
「おや? 人間? 驚いたな。生き残りの人間を、ムサシが保護したのかい?」
「あっ、それは、こちらの方々とある事情で………」
俺は、思わず笑っていた。
「くくくく、くはははははは」
俺に気づいたソルシが首を傾げているが、正直俺はそんなこと気にならなかった。
俺はただ、シンセン組の旗に書かれていた文字を見て、笑わずにはいられなかったからだ。
「くははははは、『誠』の旗に集まった、武士ってわけか。全員、その意味を本当に分かってんのか?」
その瞬間、この場に居た全ての種族が驚愕していた。
「おい、愚弟。どういうことだ?」
「ヴェルト、お前、あの旗に書いてある模様のようなものが分かるのか?」
「ヴェルト殿、何故、あの旗の意味を知っているでござる!」
何故分かるか? 分かるんじゃねえよ、読めるんだよ。
だって、「誠」って、「漢字」で書いてあるんだから。
「お前がデザインしたのか? 丸パクリじゃねえかよ、大ジジのバルナンド・ガッバーナさん? いや、それとも、宮本って呼んだ方がいいか?」
「…………ッ!?」
その時、これまで俺たちが現れてもまるで関心を示さずに置物のように座っていた老人が、目を見開いて俺を見た。
だからこそ、真っ直ぐ進んで途中の光景には目もくれなかった。
ただ、目の前に群がる亜人をどかせるだけ。
美しかったと思われる街並みが火の海に包まれる中、俺は走った。
「なんだ、こいつら!」
「やっちまえ! シンセン組五番隊の力を見せてくれる!」
「縛につけ! そして、斬首の刑だ!」
狼、犬、馬、羊、人間の体に動物の特徴的な部位を持った獣人たちは抜刀して、俺たちに刃を振るう。
だが、不思議なものだった。
戦場の戦士相手でも、俺はこいつらには勝てると思えた。
「ふわふわ没収!」
ふわふわ没収。相手の武器を強制的に浮かせて手放させる技。
「な、なんだ? か、刀が、刀が急に!」
「す、スゲー力で上に引っ張られて、ぐおおお」
剣のない侍なんか、無力なものだ。
あとはよろしく!
「まったく、ヴェルトのアシストはいつも的確だな」
「ふん、あのムサシとかいうクソ亜人は、お前らの中でも上位の実力者だったようだな。クソ脆い」
まあ、こいつらレベルだったら刀ありでもウラとファルガに勝てるとは思えねーけどな。
「しっかし、このシンセン組って奴らはもっと固まっていると思ったけど、そうでもねえのか?」
「街中に散らばっているってことだ。だが、ある意味好都合だ。ばらけている分、壁がクソ温い」
「それぞれ部隊が金品の盗みや虐殺行為を行うため、他の隊と被らないようにしているのだろう。城下町は既に制圧されているということか」
皮肉なもんだ。抵抗の跡がないほど一方的にやられて既に制圧されていたことが、逆に俺たちにとっては都合がいいとはな。
「くそが、せっかく楽しんでる所に邪魔してんじゃねえ! この四番隊組長の俺様がぶっ殺す!」
しばらく走ると、また別の奴らと遭遇する。
「あー、くそ。また邪魔な奴が」
思わずため息が出る。
「おっ、女が居る! 女も居るぞ! ぐはははは、よーし、男は斬首、女は犯す! これだから戦争はたまんねえ!」
「ッ、このゲスが! 私を犯すだと? 愚か者共がァ!」
そして、ウラにまでゲスな目を向けやがる
斬りかかってくる、隊長らしき男。
正直、もう黙れと言ってやりたかった。
だが、
「ミヤモトケンドー・爛々乱斬り!」
俺たちを追い越して駆け抜けたムサシが、襲いかかってきた亜人を粉砕した。
「この、シンセン組の恥さらしめが!」
怒りと涙で入り交じった表情で、同胞で同じ組織に属する亜人を倒した。
「く、組長が!」
「おい、待てよ、あいつはムサシだ!」
「なに! あの、バルナンド参謀の孫娘のか?」
「ちょっと待て、何故味方を斬る! 参謀の孫娘といえど、重罪だぞ!」
「しかも、何で人間と一緒にいやがる!」
ムサシの行為は、仲間たちから痛烈な批判が上がる。
お前は何をトチ狂っているんだと、誰もが声を揃える。
だが、ムサシは怒りが収まらない。
「ふざけるな! 既にこの戦の勝敗は決しているでござる! これ以上の蹂躙行為は明らかに隊律違反! 即刻やめるでござる!」
するとどうだ? ムサシの言葉を聞いたシンセン組の連中は一瞬惚けたかと思えば、明らかに不愉快そうな顔を浮かべた。
あの顔は知っている。
あれは、「お前、空気読めよ」と思ってしらけている顔だ。
「ざけんな、小娘! それは、亜人同士の内乱に適用される規律で、人間相手なら適用外に決まってんだろうが!」
暴論。そう言う気はねえ。人間も亜人を物扱いしているわけだしな。
「ッ、もう、よい。口を閉じよ」
この女、以外はな。
「ブシドーを忘れた愚か者めが!」
「ッ!」
「ミヤモトケンドー・乱剣乱舞!」
俺たちが壁をどかすまでもなく、耐えきれなくなったムサシの怒りの乱剣が、蹂躙行為を止めないシンセン組たちを宙に舞わせる。
「いいのか、テメエは。仲間だったんだろう?」
「ふー、ふー! ふー!」
「ふん、まあ、俺には興味ねえし、関係ねーけどな」
複雑な気持ちなんだろうな。このマジメな熱血女にとって、侍やシンセン組とやらは誇りなんだろう。その誇りが目の前で汚されていく。そういうものに耐えられない女なんだな、こいつは。
「何故だ! これは囚われた同胞を解放するための聖戦ではなかったのか! なぜ、なぜ拙者はこんな光景を見なければならぬでござる!」
戦争だから仕方ない、などというにはこの光景は度を超えていた。
今のムサシの感覚こそが正常なんだ。俺だって耐えられない。
だからこそ思う。聞きたかった。宮本はどんな気持ちでこの惨状を見ているのかと。
「一刻も早く止めねば。大ジジに! そして局長にこの事実を伝えねばならぬ!」
俺たちの思いはそれぞれ違うが、目的地は同じだった。
今はただ、俺たちはそれぞれの種族を忘れて同じ場所へと向かって走った。
そして、俺たちは見た。
街の中心地と思われる広場。中央には剣を天に掲げていたと思われる、壊れた銅像の下に、巨大な天幕と、その周りを囲む二十人程度のシンセン組。
「あっ……」
そして、天幕のそばの椅子に座りながら、寝ているのか、それとも銅像なのかと思われるぐらいピクリとも動かない、着物というより、紺色のおしゃれジンベイのようなものを着た老いた亜人。
手足が枯れ枝のように細く、瞳も閉じたままで、頭髪
どう見ても、ただのくたびれたジジイの亜人。
だけど、俺は直感的した。
奴が、「あいつだ」と。
「おい、あれは、ムサシ?」
「ほんとだ! なにやってんだムサシ! お前はジューベイの救助に向かったはずでは?」
ムサシの姿を見て、広場に居たシンセン組の視線が俺たちに向けられる。
だが、この連中はここに来るまで出会ったシンセン組とはどこか違う気がした。
落ち着いている。そんな印象を受けた。
「ムサシ。どうしたんだい? そんな血相を変えて」
一人の亜人が近づいてきた。
若い。そして中世的な顔つきで、声を聞くまでは一瞬女かと思った。
優しそうな微笑み、サラサラの黒髪。物腰はゆったりとしていて、威圧感や迫力は感じない。
だが、その亜人が近づいてきた途端、ムサシは片膝着いて頭を下げた。
「ソルシ・オウキ組長! ジューベイ、及び捕らえられた漁師は皆無事で、ウシワカ、ベンケイと共に本国に帰還しております!」
「ほほう。さすが、ムサシだね。妹さんも無事で良かったね」
組長? そして、俺はハッとなった。
この広場に居るシンセン組の連中の旗には、紋章と数字が描かれていた。
数字にはこの世界の文字で「一」。それは、この場に居る連中はムサシと同じ一番隊ということだ。
そして、この、ソルシという優男が一番隊の組長ということだ。
「おや? 人間? 驚いたな。生き残りの人間を、ムサシが保護したのかい?」
「あっ、それは、こちらの方々とある事情で………」
俺は、思わず笑っていた。
「くくくく、くはははははは」
俺に気づいたソルシが首を傾げているが、正直俺はそんなこと気にならなかった。
俺はただ、シンセン組の旗に書かれていた文字を見て、笑わずにはいられなかったからだ。
「くははははは、『誠』の旗に集まった、武士ってわけか。全員、その意味を本当に分かってんのか?」
その瞬間、この場に居た全ての種族が驚愕していた。
「おい、愚弟。どういうことだ?」
「ヴェルト、お前、あの旗に書いてある模様のようなものが分かるのか?」
「ヴェルト殿、何故、あの旗の意味を知っているでござる!」
何故分かるか? 分かるんじゃねえよ、読めるんだよ。
だって、「誠」って、「漢字」で書いてあるんだから。
「お前がデザインしたのか? 丸パクリじゃねえかよ、大ジジのバルナンド・ガッバーナさん? いや、それとも、宮本って呼んだ方がいいか?」
「…………ッ!?」
その時、これまで俺たちが現れてもまるで関心を示さずに置物のように座っていた老人が、目を見開いて俺を見た。
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