53 / 290
第二章
第50話 始まりの港町
しおりを挟む
王都を出て、三日。
王都からはもうかなり離れたが、このメンツでうろついてると誰かに気づかれて騒ぎになるかもしれない。
特にファルガは王子だし、ウラは魔族だからな。
ファルガはフードのついたマントを頭まで被り、ウラはふちの広い帽子を深くかぶる。
だが、それほど気にすることもなかった。
草原を歩き、森林を抜けて、高原を越える。
その間、賊や獣に襲われることもなかった。
ファルガ曰く退屈らしいが、俺としてはメンドクセーことさえなければそれに越したことがない。
そしてやってきたのが、周りを山と森に囲まれた麓の入り組んだ海岸線。そこには小規模ではあるが港町があった。
「『港町スタト』。あそこは定期的にクソ帝国行きの船が出ている。いくつも国を経由するからクソ時間はかかるがな」
「あ~、ついたついた。どーでもいいけど、さっさとメシ食おうぜ。やっぱ、俺は野宿はダメだ。落ち着いて食いてーよ」
「私も幼い頃の戦争以来の経験だったが、やはり食事と湯浴みは死活問題であった」
港町に見える建物の数は少ない。人口もおよそ数百人程度だろう。
また、建物の作りや町並自体はそれほど煌びやかなものではない。
王都という巨大な街で過ごしていた俺たちにとっては、のどかさを感じられ、これはこれで悪くないという気分になった。
だが、感傷に浸る前に、まずはメシを。
かなり静かで営業中なのか最初は分からなかったが、テキトーに酒場らしき店に入った。
店内は案の定、客は数人しかいない。
俺たちはとりあえず、隅で丸いテーブルを囲みながら乾杯した。
「つーわけで、これからが本当の旅立ちだな」
「しかし、ファルガよ。よくぞ、国王がお前の旅を許したな」
「ふん、クソ軟弱なクソ都会暮らしにも飽きていたところだ」
いや、これから故郷よりも更に大都会の帝国行くんだけど? と聞くのは、野暮だろうか。
「大体一度も国の外に出たこともねえ愚弟と、クソ魔族が王都の外をうろついてみろ。クソ気が気じゃねえ」
うん、やっぱツッコミ入れないどこう。
こいつはかなり面倒な性格だが、ようするに俺たちが心配でついてきてくれたってことだろう。
まあ、腕は確かだし、国王も何だかんだで俺たち三人の方がファルガも一人で行動しないし都合がいいと思ってるんだろうな。
「それに、旅といってもクソ神族大陸や他種族の大陸に行くわけでもねえ。クソ親父が折れるのも早かった」
「ああ、それはそうかもしれぬな。私やヴェルトの旅が許されたのはそれが大き……って、どうしたのだ、ヴェルト。あさっての方向を見て」
「やっ、別に……」
さて、ここで当たり前のようにポテトと肉を頬張っている二人に言うべきだろうか。
別に俺は帝国だけを目指しているわけではない。
「おい、愚弟。テメエはまさか良からぬことを考えてねえだろうな」
「そうだな。それに、お前の探しているものとやらも気になる。一向に教えてくれんしな」
「あ~、その、なんだ~、まあ、そのうちな」
いや、うん、良からぬことを考えてたよ。
だって、俺がどうするかなんて、帝国行って手がかりがあるかないか次第だからだ、
「避けられれば、それに越したことはねえが、どうなるかは分からねえよ。あっ、でも、そうだな、俺も行きたくねえ場所は一つだけあるな」
正直な話、神乃の手がかりが魔族大陸や神族大陸にあるのなら、行くのもやぶさかじゃない。
当然、戦争とかだけは絶対に嫌だが。
だが、それはそれとして、俺自身もできれば避けたい場所だけはあった。
「俺は、亜人大陸だけは行きたくねーなー」
亜人の大陸。いや、亜人そのものが俺にとってはトラウマとも言えた。
「まあ、テメエはガキのころの事件を考えればそうだろうな。と言っても、このメンツならクソ亜人大陸に行けば全てを敵に回すことになるがな」
「いかにもな。人間の国の王子と、滅んだとはいえ魔族の姫。亜人の神経を逆なでするのは間違いない」
そうだ、俺にとっては亜人というのは昔の事件を思い出させる。
親父とおふくろが殺されたあの事件。
あの事件以来、亜人には会った事がない。
異種族という点ではウラも同じだが、亜人と名のつくものにはどうしても抵抗を感じた。
「まあいい、とにかく帝国だ。まずは人類大陸最大の場所に行って、俺の探しているものやヒントがあるかないか、それ次第だ」
帝国を目指すのはあくまで手がかりを探すための第一歩に過ぎない。
大体、鮫島が魔族として転生していた以上、他の連中だってどうなのか分からない。
だからこそ、最悪の場合は俺も腹をくくる覚悟は出来ている。
だが、それを今の時点でこいつらに話すと、強制的に王都に連れ帰らされそうだから、それは避けておこう。
俺は、少しの秘密をグラスに注がれた水と共に飲み込むことにした。
すると、その時だった。
「なんだ、兄ちゃんたち、この街に来たのは帝国行きの船が目的だったのかい?」
それは、地元の住民らしき中年の男がカウンターから俺たちの会話に入ってきた。
「ん~、そうだけど、なんか用か?」
「いや、そいつはツイてねーと思ってな」
「ツイてねー? それはどういうことだ?」
「今日明日はこの港から定期船はでねーぞ」
おい、
「なんだと?」
「なんと!」
「はっ?」
ちょっと待て、何を人の決意にいきなり水をかけてやがる。
「ちょっ、どういうことだよ、おっさん! 別に嵐が起こったとか、近くで海戦があったって話もねえ。なのに、何でここから船が出ねーんだよ! ここは、港町だろ!」
「どうもこうもねーさ。外国のとある商業船が、どこで仕入れたのか大量の積み荷を運ぶことになったらしくてよ。何せ小さな町だからな、船なんざどれも小ぶりだ。それで、唯一まともなでかさの定期船を、連中が貸切ることになってな」
「なにい?」
「今、港で荷運びと船の準備をしている。あの船も帝国には行かずに、手前の『シロム国』に向かうってよ」
「シロム? どこだよ、それは。全然聞いたこともねえよ。ってか、マジかよ」
駅で電車が出ない。空港で飛行機が飛ばない。いきなりそう言われたようなものだ。
そして、朝倉リューマの世界と違って最も厄介なのは、他に交通手段が何もないということだ。
んなもん、理由も聞かずに納得できるわけがねえ。
のっけからつまづいた感がした。すると、ファルガが口をはさんだ。
「シロムか。クソみたいな噂しか聞かねえな」
「ファルガ、知ってんのか?」
「ああ。表向きは紳士的でスマートな商業国家だ。あくまで表向きは、だがな。中心部から外れた裏通りじゃ闇取引や奴隷市場、違法な歓楽街を取り仕切ってる。まあ、他国の上層部も隠れて利用しているから、それを潰すこともできねえらしいがな」
うわ~、噂でしかそういうのは聞いたことないが、やっぱりそういうのは実際にあるわけね。
まあ、極力関わりたくねえもんだ。
「ふむ、しかしそれは予想外だな。どうする、ヴェルト? 陸地から行くか?」
「おいおいおい、何ヶ月以上かかると思ってんだよ。それに、陸地からだと、たくさん国境を越える必要がある。それがメンドクセーから船にしようと思ったのによ」
「確かにな。どうだろう、その商船の者に交渉してみるか? 途中まで乗せてもらうなど」
「はあ? ファルガの話を聞く限り、その商船もなんか危なそーだろ。何かあったらどうすんだ?」
そんな危ない国を目的地としている連中だ。
あんまり堅気とは言い難い。
はぁ、困った……
「しかし、そうなると……ふむ……この海の見えるのどかな港町で数日宿泊か……ふむ……」
「ウラ?」
「うむ……いや、それはそれで……」
だが、そんな俺とは違い、ウラは何やら企みの表情を浮かべ、そしてどこかソワソワしだした。
「よし、ヴェルト! いいではないか、のんびり数日ここで宿泊しよう! 宿も取ろうではないか!」
「えぇ? ……いや……まぁ……それが妥当か……」
ウラの提案通り、確かに数日待って定期船に乗るのが確実かもしれねぇな。
でも、ウラは何でそんなにウキウキして……
「でだ、ファルガ。部屋代がもったいないから部屋は二つだけにしよう。ファルガ、お前は一人部屋だ」
「……あ?」
「そ、そして、わ、私はヴェルトと同じ部屋で……その、な……」
「……」
ああ、そういうことね。
こいつの狙いが分かった。
そしてウラは後ろを向いてボソボソと……
「よ、よし。これはある意味でビッグチャンス到来だ。旅に出て数日……ファルガが邪魔だし野宿だしでどうにもできなかったが……父上、母上、メルマさん、ララーナさん、ハナビ……私は今宵、女になる日が来たのだ。宿でまずは体を入念に洗い、そしていつの日か使う日を信じて買ったあの勝負下着……」
いや、漏れてるぞ……ウラ……お前のたくらみが全部。
まずいな。
今のウラと部屋で二人きりになったら……
「落ち着けぇ、大丈夫。友たちに一緒に選んでもらったあの勝負の紐パンでヴェルトもきっと……」
そもそも、十五というこの世界では成人ということや、ちょうど思春期な年ごろということもあり、最近のウラは危うい。
「うぅ、今日こそヴェルトと……ち、契りを……」
最近では店の常連の若いお姉さん系の客たちとも仲良くなったようで、経験豊富なお姉さん方は無垢なウラに雑談で色々と教えたり、買い物に連れ出したりして、ウラは色々と俺の知らないところで知識を得ている。
若干、耳年増になっている。
とはいえ、家では先生もカミさんもハナビもいたから……でも、それが今では……うん……まずいな……このままじゃ俺の貞操が……
「いや、あの、ウラ……それなんだけど、それなら俺とファルガが同じ部屋―――」
「ヴェルトは!」
「ッ……」
「ヴェルトは……その……まだ、私をただの子ども扱いか? それとも……単純に眼中に無いのか?」
「ウラ……」
「その、わ、私とて、私がそこまでお前の好みの女でないと言われたならば……もっと己を磨くよう努めるしかないが……しかし……」
そして、ハッキリ言ってウラが出会った日からずっと俺以外に眼中に無いことも分かってる。だからこそ……
「それとも……父上への義理か? 前にも言ったが、父上だってヴェルトが相手なら認めるに決まっている」
「いや、そうじゃなくてだな……いや、別にお前が眼中に無いとかそういうのでもなくて……その……俺たちもまだそんな焦って関係変えるんじゃなくてだな……」
「それとも、今は亡きフォルナのことが心に引っかかったりしているのか?」
だからこそ、俺もどう接すればいいのか悩む。
「おい、人の愚妹を勝手に殺すな。まだ生きてるぞ」
「うるさい、ファルガは黙ってろ! 私のヴェルトの話だ!」
「……ったく」
鼻息荒くして少々暴走気味のウラ。
これは誤魔化そうとしたら殴られそうだ。
そして、俺も別にもうウラを子ども扱いしている気はなかった。
家族的な感覚……だけど……ハナビのような妹というわけでもない。
そもそも、ウラとのじゃれ合いがシャレにならなくなりだしたのは……あれは――
王都からはもうかなり離れたが、このメンツでうろついてると誰かに気づかれて騒ぎになるかもしれない。
特にファルガは王子だし、ウラは魔族だからな。
ファルガはフードのついたマントを頭まで被り、ウラはふちの広い帽子を深くかぶる。
だが、それほど気にすることもなかった。
草原を歩き、森林を抜けて、高原を越える。
その間、賊や獣に襲われることもなかった。
ファルガ曰く退屈らしいが、俺としてはメンドクセーことさえなければそれに越したことがない。
そしてやってきたのが、周りを山と森に囲まれた麓の入り組んだ海岸線。そこには小規模ではあるが港町があった。
「『港町スタト』。あそこは定期的にクソ帝国行きの船が出ている。いくつも国を経由するからクソ時間はかかるがな」
「あ~、ついたついた。どーでもいいけど、さっさとメシ食おうぜ。やっぱ、俺は野宿はダメだ。落ち着いて食いてーよ」
「私も幼い頃の戦争以来の経験だったが、やはり食事と湯浴みは死活問題であった」
港町に見える建物の数は少ない。人口もおよそ数百人程度だろう。
また、建物の作りや町並自体はそれほど煌びやかなものではない。
王都という巨大な街で過ごしていた俺たちにとっては、のどかさを感じられ、これはこれで悪くないという気分になった。
だが、感傷に浸る前に、まずはメシを。
かなり静かで営業中なのか最初は分からなかったが、テキトーに酒場らしき店に入った。
店内は案の定、客は数人しかいない。
俺たちはとりあえず、隅で丸いテーブルを囲みながら乾杯した。
「つーわけで、これからが本当の旅立ちだな」
「しかし、ファルガよ。よくぞ、国王がお前の旅を許したな」
「ふん、クソ軟弱なクソ都会暮らしにも飽きていたところだ」
いや、これから故郷よりも更に大都会の帝国行くんだけど? と聞くのは、野暮だろうか。
「大体一度も国の外に出たこともねえ愚弟と、クソ魔族が王都の外をうろついてみろ。クソ気が気じゃねえ」
うん、やっぱツッコミ入れないどこう。
こいつはかなり面倒な性格だが、ようするに俺たちが心配でついてきてくれたってことだろう。
まあ、腕は確かだし、国王も何だかんだで俺たち三人の方がファルガも一人で行動しないし都合がいいと思ってるんだろうな。
「それに、旅といってもクソ神族大陸や他種族の大陸に行くわけでもねえ。クソ親父が折れるのも早かった」
「ああ、それはそうかもしれぬな。私やヴェルトの旅が許されたのはそれが大き……って、どうしたのだ、ヴェルト。あさっての方向を見て」
「やっ、別に……」
さて、ここで当たり前のようにポテトと肉を頬張っている二人に言うべきだろうか。
別に俺は帝国だけを目指しているわけではない。
「おい、愚弟。テメエはまさか良からぬことを考えてねえだろうな」
「そうだな。それに、お前の探しているものとやらも気になる。一向に教えてくれんしな」
「あ~、その、なんだ~、まあ、そのうちな」
いや、うん、良からぬことを考えてたよ。
だって、俺がどうするかなんて、帝国行って手がかりがあるかないか次第だからだ、
「避けられれば、それに越したことはねえが、どうなるかは分からねえよ。あっ、でも、そうだな、俺も行きたくねえ場所は一つだけあるな」
正直な話、神乃の手がかりが魔族大陸や神族大陸にあるのなら、行くのもやぶさかじゃない。
当然、戦争とかだけは絶対に嫌だが。
だが、それはそれとして、俺自身もできれば避けたい場所だけはあった。
「俺は、亜人大陸だけは行きたくねーなー」
亜人の大陸。いや、亜人そのものが俺にとってはトラウマとも言えた。
「まあ、テメエはガキのころの事件を考えればそうだろうな。と言っても、このメンツならクソ亜人大陸に行けば全てを敵に回すことになるがな」
「いかにもな。人間の国の王子と、滅んだとはいえ魔族の姫。亜人の神経を逆なでするのは間違いない」
そうだ、俺にとっては亜人というのは昔の事件を思い出させる。
親父とおふくろが殺されたあの事件。
あの事件以来、亜人には会った事がない。
異種族という点ではウラも同じだが、亜人と名のつくものにはどうしても抵抗を感じた。
「まあいい、とにかく帝国だ。まずは人類大陸最大の場所に行って、俺の探しているものやヒントがあるかないか、それ次第だ」
帝国を目指すのはあくまで手がかりを探すための第一歩に過ぎない。
大体、鮫島が魔族として転生していた以上、他の連中だってどうなのか分からない。
だからこそ、最悪の場合は俺も腹をくくる覚悟は出来ている。
だが、それを今の時点でこいつらに話すと、強制的に王都に連れ帰らされそうだから、それは避けておこう。
俺は、少しの秘密をグラスに注がれた水と共に飲み込むことにした。
すると、その時だった。
「なんだ、兄ちゃんたち、この街に来たのは帝国行きの船が目的だったのかい?」
それは、地元の住民らしき中年の男がカウンターから俺たちの会話に入ってきた。
「ん~、そうだけど、なんか用か?」
「いや、そいつはツイてねーと思ってな」
「ツイてねー? それはどういうことだ?」
「今日明日はこの港から定期船はでねーぞ」
おい、
「なんだと?」
「なんと!」
「はっ?」
ちょっと待て、何を人の決意にいきなり水をかけてやがる。
「ちょっ、どういうことだよ、おっさん! 別に嵐が起こったとか、近くで海戦があったって話もねえ。なのに、何でここから船が出ねーんだよ! ここは、港町だろ!」
「どうもこうもねーさ。外国のとある商業船が、どこで仕入れたのか大量の積み荷を運ぶことになったらしくてよ。何せ小さな町だからな、船なんざどれも小ぶりだ。それで、唯一まともなでかさの定期船を、連中が貸切ることになってな」
「なにい?」
「今、港で荷運びと船の準備をしている。あの船も帝国には行かずに、手前の『シロム国』に向かうってよ」
「シロム? どこだよ、それは。全然聞いたこともねえよ。ってか、マジかよ」
駅で電車が出ない。空港で飛行機が飛ばない。いきなりそう言われたようなものだ。
そして、朝倉リューマの世界と違って最も厄介なのは、他に交通手段が何もないということだ。
んなもん、理由も聞かずに納得できるわけがねえ。
のっけからつまづいた感がした。すると、ファルガが口をはさんだ。
「シロムか。クソみたいな噂しか聞かねえな」
「ファルガ、知ってんのか?」
「ああ。表向きは紳士的でスマートな商業国家だ。あくまで表向きは、だがな。中心部から外れた裏通りじゃ闇取引や奴隷市場、違法な歓楽街を取り仕切ってる。まあ、他国の上層部も隠れて利用しているから、それを潰すこともできねえらしいがな」
うわ~、噂でしかそういうのは聞いたことないが、やっぱりそういうのは実際にあるわけね。
まあ、極力関わりたくねえもんだ。
「ふむ、しかしそれは予想外だな。どうする、ヴェルト? 陸地から行くか?」
「おいおいおい、何ヶ月以上かかると思ってんだよ。それに、陸地からだと、たくさん国境を越える必要がある。それがメンドクセーから船にしようと思ったのによ」
「確かにな。どうだろう、その商船の者に交渉してみるか? 途中まで乗せてもらうなど」
「はあ? ファルガの話を聞く限り、その商船もなんか危なそーだろ。何かあったらどうすんだ?」
そんな危ない国を目的地としている連中だ。
あんまり堅気とは言い難い。
はぁ、困った……
「しかし、そうなると……ふむ……この海の見えるのどかな港町で数日宿泊か……ふむ……」
「ウラ?」
「うむ……いや、それはそれで……」
だが、そんな俺とは違い、ウラは何やら企みの表情を浮かべ、そしてどこかソワソワしだした。
「よし、ヴェルト! いいではないか、のんびり数日ここで宿泊しよう! 宿も取ろうではないか!」
「えぇ? ……いや……まぁ……それが妥当か……」
ウラの提案通り、確かに数日待って定期船に乗るのが確実かもしれねぇな。
でも、ウラは何でそんなにウキウキして……
「でだ、ファルガ。部屋代がもったいないから部屋は二つだけにしよう。ファルガ、お前は一人部屋だ」
「……あ?」
「そ、そして、わ、私はヴェルトと同じ部屋で……その、な……」
「……」
ああ、そういうことね。
こいつの狙いが分かった。
そしてウラは後ろを向いてボソボソと……
「よ、よし。これはある意味でビッグチャンス到来だ。旅に出て数日……ファルガが邪魔だし野宿だしでどうにもできなかったが……父上、母上、メルマさん、ララーナさん、ハナビ……私は今宵、女になる日が来たのだ。宿でまずは体を入念に洗い、そしていつの日か使う日を信じて買ったあの勝負下着……」
いや、漏れてるぞ……ウラ……お前のたくらみが全部。
まずいな。
今のウラと部屋で二人きりになったら……
「落ち着けぇ、大丈夫。友たちに一緒に選んでもらったあの勝負の紐パンでヴェルトもきっと……」
そもそも、十五というこの世界では成人ということや、ちょうど思春期な年ごろということもあり、最近のウラは危うい。
「うぅ、今日こそヴェルトと……ち、契りを……」
最近では店の常連の若いお姉さん系の客たちとも仲良くなったようで、経験豊富なお姉さん方は無垢なウラに雑談で色々と教えたり、買い物に連れ出したりして、ウラは色々と俺の知らないところで知識を得ている。
若干、耳年増になっている。
とはいえ、家では先生もカミさんもハナビもいたから……でも、それが今では……うん……まずいな……このままじゃ俺の貞操が……
「いや、あの、ウラ……それなんだけど、それなら俺とファルガが同じ部屋―――」
「ヴェルトは!」
「ッ……」
「ヴェルトは……その……まだ、私をただの子ども扱いか? それとも……単純に眼中に無いのか?」
「ウラ……」
「その、わ、私とて、私がそこまでお前の好みの女でないと言われたならば……もっと己を磨くよう努めるしかないが……しかし……」
そして、ハッキリ言ってウラが出会った日からずっと俺以外に眼中に無いことも分かってる。だからこそ……
「それとも……父上への義理か? 前にも言ったが、父上だってヴェルトが相手なら認めるに決まっている」
「いや、そうじゃなくてだな……いや、別にお前が眼中に無いとかそういうのでもなくて……その……俺たちもまだそんな焦って関係変えるんじゃなくてだな……」
「それとも、今は亡きフォルナのことが心に引っかかったりしているのか?」
だからこそ、俺もどう接すればいいのか悩む。
「おい、人の愚妹を勝手に殺すな。まだ生きてるぞ」
「うるさい、ファルガは黙ってろ! 私のヴェルトの話だ!」
「……ったく」
鼻息荒くして少々暴走気味のウラ。
これは誤魔化そうとしたら殴られそうだ。
そして、俺も別にもうウラを子ども扱いしている気はなかった。
家族的な感覚……だけど……ハナビのような妹というわけでもない。
そもそも、ウラとのじゃれ合いがシャレにならなくなりだしたのは……あれは――
0
お気に入りに追加
685
あなたにおすすめの小説
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
転生したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる