【R18】異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと~基礎の【浮遊魔法】をとことん極めてついでに世界征服

アニッキーブラッザー

文字の大きさ
上 下
52 / 290
第二章

第49話 世界はそれでいいんだよ

しおりを挟む
 王都の外れに位置する墓地には、定期的に足を運ぶようにしていた。
 たまに一人で心の中の愚痴を零したりしていたが、今日は少し違う。
 いつも通り、花を添えて手を合わせるが、今日来たのは少しの別れを告げるためだ。
 その墓は俺が居ない間も定期的に掃除されていたり、花を供えられたりと手入れをされていた。
 あれから何年も経っているのに、今でも街の人たちにも思われている二人を、俺は心の中で誇らしく思っていた。

「親父、おふくろ。しばらく留守をするからここには来ねえ。まあ、あの世で無事を祈っていてくれよな」
「ヴェルトのことは私がしっかりと見ておくので、ご心配なく。義父上、義母上」
「おい、いつから二人がテメエの親父とおふくろになった」
「い、イジワル言うな。お二人も、お前一人よりはよっぽど安心されるであろう……お嫁さんが一緒で安心だと……」

 ちゃっかりついてくることになった、ウラ。
 正直出だしから予想外だった。

「ほら、次は私の父上に挨拶だ」

 親父とおふくろの隣にあるのは、この世界のものではない文字が墓標に刻まれている墓。
 そこは、街の人たちにとっては誰の墓かも知らないもの。
 ただ、俺とウラと一部の関係者のみが知る墓。

「父上。ヴェルトと一緒に行って来ます。しばらく来れませんが、お許し下さい」
 
 魔王シャークリュウ。つまり鮫島の墓だ。
 いかにウラの父親とはいえ、さすがに魔王の墓をエルファーシア王国内に作るわけにはいかない。
 そのため、墓標にはシャークリュウの名前を『誰もが分かる文字』で刻むことはしなかった。
 ただ、無名の墓はあまりにも寂しすぎるので、半ば俺が強引に彫った。
だから……

「シャークリュウ・ヴェスパーダ。鮫島遼一の魂と共にここに眠る」

 カタカナと漢字とひらがなで彫った墓標。国王やウラたちは首を傾げたが、俺と先生が強引に押し通してこの文字を書いた。
 俺たち転生者たちだけが分かる文字。
 ぶっちゃけ、俺一人では鮫島の「鮫」の漢字が書けなかったから、先生が居たので本当に良かった。


「鮫島。俺はお前の墓標に刻んだ文字を読むことが出来る奴らを探しに行く。どういうわけかお前の娘も同行することになったが、まあ、許してくれ。手は出さねえから」

「いえ、手を出してもらうというか、必ず一線超えますのでお許しください、父上! 帰ってくる頃には孫の顔も―――」

「いや、お前マジでやめろ! 俺が呪い殺されたらどうすんだ!」


 お前ともしばらくの別れになるが、今度会う時を楽しみにしていてくれ。
 懐かしい話が出きるように努力するからよ。

「挨拶は済んだか?」
「留守の間は私たちがお墓の掃除とかはするから安心してくださいね」
「ひっぐ、にいちゃ~ん、ねえちゃ~ん」

 振り返ると、墓地の入り口には先生、カミさん、ハナビの三人が待っていた。
 俺が頷くと、ずっと泣いてばかりのハナビが俺とウラに飛びついてきた。

「にいちゃん。ね~ちゃん」

 この甘えんぼめ。
 昨日の夜は俺とウラとハナビの三人で一つのベッドで川になって寝て一晩中一緒だったのに、それでも全然足りないらしい。
 まあ、それぐらい俺はこいつを甘やかしてきたわけだが。

「ハナビ、抱っこだ」

 しばらく、この重さともお別れだ。いつもは浮遊で高い高いしてやるが、今日だけは両手で抱えて抱きしめた。

「とーちゃんとかーちゃんと仲良くな」
「うん」
「大丈夫。必ず帰ってくるからよ。約束だ」

 約束か。不良と呼ばれていた時代が随分と懐かしい気がする。
 いつの間にか俺もお兄ちゃんになったものだ。

「さあ、ハナビ、次は姉ちゃんが抱っこだ。お前の行ってらっしゃいのキスもしてくれ」
「ねえちゃん」
「大丈夫。兄ちゃんも言っただろう? 必ず帰ってくるから。お土産もたくさん買ってこよう」
「うう、お土産いらないから早くがえっでぎで!」
「ああ、泣かないでくれ、ハナビ。餞別がお前の涙では、ヴェルトを半殺しにして旅に行けない体にしようとしてしまう」
「やらないくせに! やるならやって!」

 やめてくれ。それはマジでシャレにならん。
 てか、カミさんも「その手があったか」みたいな顔をするのはやめてくれ。

「でも、いつまでも泣いていてはダメだ。今度帰ってきたとき、ひょっとしたらお前には姪か甥が、いや、妹分か弟分が出来ているかもしれないからな」

 だから……いや、もう目がマジだ。
 そんなことになったら、俺が鮫島にぶっ殺されるんだが。

「さて、そろそろか。んで、目的地は決まっているんだな?」
 
 先生が聞いてきた。
 どこを目指すか? 手がかりなど何一つない旅の目的地。
 そこは前から決めていた。

「決まってんだろ。とにかくデケーとこに行って、地道に探すさ」
「デケーところ? というと、一つしかねーな」
「ああ。人類大陸最大の国家。帝国に行く。そう、第一の目的地は『アークライン帝国』 だ」

 そう、そこに行かなきゃ、たぶん何も始まらねえ。

「かーちゃん、てーこくってどこ? 遠い?」
「うん、ちょっと遠いわね。船でも三週間ぐらいかかるかしら?」
「おっきいの?」
「うん、すごく大きいわ。国土や人口はエルファーシア王国の、何倍? 十倍ぐらいね」
「それってすごいの?」
「そうよ。だって、人類大陸最大の国家と言われてるぐらいなんだから」
「じんるいたいりく~?」

 ああ、すごい。まあ、その凄さは俺も良く分かっていないがな
 ハナビの素朴な疑問に、ウラは腰を屈めて、ゆっくりと語りかける。

「よいか、ハナビ。この世界は四つの大陸に分かれている。一つが今、ハナビのように人間たちが生息する、この『人類大陸』、ねーちゃんのような魔族と呼ばれる種族が生息する『魔族大陸』、獣人や竜人などの種族が生息する『亜人大陸』、この三つの大陸が海を挟んで大きな三角形を描くように世界が成り立っている」

 ウラ、もうダメっぽいぞ? ハナビが可愛らしく小首を傾げて、頭から煙が出そうな顔してるぞ?


「そして、その三角形の大陸の真ん中に位置するのが四つ目の大陸。かつては、神々が住んでいたと言われる、『神族大陸』。この世で唯一誰のものでもない大陸だ」

「かみさま?」

「いや、そう言い伝えられているだけであって、実際に住んでいたかどうかは分からない。だがな、その大陸には手の付けられていない巨大な領土や豊富な魔力、貴重な魔宝石などが数多く確認され、その大陸を手中に入れたならば世界の覇権を握るとまで言われているほどのものなのだ。そのため、世界ではそれぞれの種族が他の種族を牽制しながら神族大陸を自分たちの領土にせんと、争いを続けているのだ」


 そう、それが今のこの世界の現状。
 巨大な神族大陸を舞台にして、人類、魔族、亜人がそれぞれ拠点を作って領土を広げながら陣取り合戦を続けている。
 フォルナたちもまた、帝国と神族大陸を行ったり来たりを繰り返して戦争を続けている。


「変なの。みんなで仲良く分ければいいのに」


 ああ、やっぱお前は天使だ、ハナビ。

「ハナビ。そうだな、お前の言うとおりだ。でもな、世界中の人はそれができない困った奴らなんだ」
「なんで? ケンカばっかしてたら、その場所壊れちゃうんじゃないの?」

 そうなんだ。結局元々は手つかずで資源も豊富だった大陸も、戦争の繰り返しで壊れていく。
 何も意味がない。
 
「いや、まあ、そうなんだがな、うん。だが、世界はそう簡単ではないのだ。例えば、既に滅んだがボルバルディエという国が広げていたトンネル計画というのがあってだな――」
「ストップ。もういいよ、ウラ」
「ヴェルト! いや、これは重要なことで、ハナビも覚えた方がいいことだぞ」
「覚える必要なんてねえ。ハナビはそのまま健やかに育つのが兄ちゃんの望みなんでな」
 
 戦争そのものが果たして何年後に、何十年後に、百年後にも終わっているかどうか分からない。
 その時、本当に欲しいものが残っているかどうか、誰にも分からない。
 いや、本当は誰もが分かっている。
 だが、これまでの戦いの憎しみや、失った命を考えると、既に誰も振り上げた拳を引っ込められない状態になっている。
 結局はハナビの言っていることが真理なんだ。
 だから、いいんだ。


「ハナビ、姉ちゃんが言った、魔族とか人間とか、んなもんどーでもいいんだよ。ハナビは兄ちゃんと姉ちゃんが好き。兄ちゃんと姉ちゃんもハナビが好き。世界はそれでいいんだよ」

「うん! それなら、ハナビも分かるよ!」

「そういうことだ、ウラ。俺たちは別に戦争に行くわけじゃねーんだからよ」


 ハナビは何も間違っていない。それを小難しいことで言いくるめる必要なんてまるでない。
 納得したのか、ウラも微笑んで頷いた。

「さて、つーわけだ、先生。まず、俺たちは帝国に行く。そっから先はあんま決めてねーけど、まあ、何とかなるだろ」

 新たな人生の幕開けだ。

「気を付けて行って来い」
「二人とも、ケンカしないでくださいね。手紙もいっぱい書いてくださいね」
「はやぐがえってぎでね!」

 俺とウラはカミさんと、ちょっと照れくさいけどハグ
 俺とウラはハナビとはこれでもかとハグ。
 そして、先生とは、

「またな、ヴェルト」
「ああ、行って来るよ」

 大変お世話になりました……とは、照れくさくて言わないが、その分の気持ちを存分に込めたハイタッチを俺たちは交わした。
 俺たちは背を向け、たまに振り返りながら、家族が見えなくなるまで何度も手を振った。

「おい、ヴェルト、ウラちゃん、二人してそんな大荷物抱えてどっかに旅行かい?」
「おーい、二人とも、どーしたんだ?」

 他の奴らには、俺らがしばらく国を空けることを言わなかった。
 なんか、色々大騒ぎされそうだから、言わない方が気楽だった。
 まあ、多分明日にはスゲー大騒ぎになるんだろうけど、俺たちはテキトーに手を振りながら通り過ぎた。

「おっ」
「ん? なんだ、あいつはあんなところに」

 そして、ようやくたどり着いた王都の門の前にはあいつが居た。
 いつもと同じような格好と、少しだけ大きめの鞄を背中に背負っていた。

「済んだのか?」
「ああ」

 立っていたのは、ファルガ。
 見送りに来てくれたのか?

「ならばいい、それじゃあ、行くぞ」
「ああ」
「うむ」

 王都を背にして、ようやく俺たちの物語が始まる。
 俺と、ウラと、ファルガ、三人の……

 …………えっ?


「「って、お前もついてくるのか!?」」

「俺もそろそろ遠目をぶらつきたいと思っていたところだ」

「「いやいやいやいや!」」」

「それに、テメエらが国を離れることをクソ親父に報告したら、心配だから俺もついていけとよ」


 何故かサラッとファルガが一緒に来ることになった。
 てか、こいつは何を当たり前な顔してついてきてる?
 おお、俺と二人旅だと思っていたウラが、不満そうにファルガを睨んでる。

 兎にも角にも、こうして俺たちの旅が幕開けした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

処理中です...